羅刹の希求   作:蒼林檎

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第二十四話『犯罪者たち』

 イタチは紅い雲模様が入った黒い外套を見に纏い、S級犯罪者が集まった組織である『暁』にて、ツーマンセルを組んでいる鬼鮫と共に、懐かしい木ノ葉の里を見下ろしていた。

 

 

「それにしても、あなたが『空』の候補者探しに手を挙げるのは意外でした」

 

「……他の奴らに任せると、正直人選が不安だからな」

 

「クク…それは、否定ができませんね」

 

 

 S級犯罪者の集団だけあって、1人ひとりの性格はかなり個性的で、ろくな奴を連れてこないだろう事は容易に予想ができる。

 

 

「イタチさん、当てでもおありなんですか?」

 

「……そうだな、当てはある」

 

「おや、これは予想とは違う返答ですね。では、その方が頷いてくれる事を願いましょう」

 

「…それはおそらく問題ないだろう」

 

「ほう、それは何故か。聞いてもよろしいですか?」

 

「アイツは…オレと同類だからな」

 

「クク…なら、勧誘は楽そうだ。……そろそろ行きましょうか」

 

「そうだな」

 

 

 

✳︎✳︎✳︎

 

 

 ラセツは日課の朝修行を終えた後、いつもの甘味処へ足を運んだ。

 

 

「おばさん!いつもの!!」

 

「はーいよ!」

 

 

 どこに腰をかけようかと店内を見渡すと、三色団子を食べている紅雲模様が入った黒い外套に笠を深く被る2人組が目に入った。

 

 

「お隣、いい?」

 

「あぁ、どうぞ」

 

 

 許可を貰い、ラセツは運ばれてきた栗饅頭とお茶のセットに紫紺の瞳を輝かせ、お気に入りの栗饅頭をひとくち食べて「美味しい」と頬を手で押さえた。

 

 

「栗饅頭が好きなんだな」

 

「うん、大好き!」

 

 

 甘味で少し乾いた唇をお茶で湿らせ、ラセツは流し目に団子を頬張る男を見て、うっすらと微笑みを浮かべた。

 

 

「……イタチも相変わらず団子が好きなんだね」

 

 

 その瞬間、鬼鮫がクナイに手を伸ばそうとし、イタチはその手を掴んで止める。 それは空気が動いただけと感じるほど静かで一瞬の出来事だった。

 とんでもない超人2人に声をかけてしまったと少し後悔しつつも、ラセツは栗饅頭に手を伸ばした。

 

 

「…よく、分かったな」

 

「まぁ、数年一緒に食べてたし?なんとなくだけど食べ方は覚えてるよ」

 

「そうか」

 

 

 栗饅頭をゆっくりと楽しんで食べ終えた後、ラセツは頬杖をついてイタチに視線を向ける。

 

 

「で…なにしに来たの??ただお団子を食べに来たわけではないでしょう?」

 

 

 ラセツの質問に答える前に、イタチは甘味処の前に居るカカシ、アスマ、紅に視線を向けて、席から立ち上がった。

 

 

「……すまないがここまでのようだ」

 

「…ラセツが逃すとおもう??」

 

「悪いが、ラセツの反応よりオレ達の方が速い」

 

 

 額に少し強めの衝撃が走り、ラセツは思わず目を瞑る。 ラセツが目を開けた頃にはイタチと鬼鮫の姿はもう無かった。

 

 

「…っ逃げられた!!」

 

 

 外に上忍3名が居たことから、イタチと鬼鮫は里に侵入した事がバレていると気づいているだろう。なら、あの2人が向かう場所は何処か。 

 それは人目につかず、人気のない、里から出やすい場所に絞られるだろう。場所を里を散策するのが趣味であり、修行であるラセツに場所を特定するのは朝飯前だ。

 

 ラセツは《空間転移》を駆使して、条件に沿った場所に転移しては確認する事を繰り返し、カカシと鬼鮫の水遁の術がぶつかり合う瞬間を目の前で見た。

 

 

「ラセツ!?」

 

「あ、アスマさん。はい、ラセツです」

 

「どうして此処に!?」

 

「あの2人追っかけようとして…ハイ」

 

 

 

 最初は姿を隠せられる場所に転移していたが、中々見つからず、途中から人を巻き込まないようにだけ注意して適当に転移をしたツケがまわってきたらしい。 戦闘を繰り広げているど真ん中に転移してしまった。

 

 

「…ーーこの娘はさっきの…いったい何処から現れたんです」

 

 

 鬼鮫はかなりの実力者だ。ラセツのような下忍の気配を感知するのは呼吸をするのと同じくらい容易な事だ。 しかし、気づかなかった。

 唐突に現れたという表現が適切に思うほど突然姿を見せたラセツに鬼鮫は首を傾げる。

 

 

「ラセツは空間を交換して転移する時空間忍術を扱える」

 

「時空間忍術…成程そういう事ですか」

 

「…転移する空間と転移しないの境界に配置されると断裂される上に、境界はラセツが指定が可能だ。……厄介だが…境界は視線である程度予測できる」

 

「予測できるとはいえ、厄介には変わりありませんね」

 

 

 空間を自由に交換する時空間忍術というだけでも厄介なのに、副次的効果に『断裂』まだ着いてくると同等の忍と戦うよりずっと厄介な相手だ。

 

 

「ちょっとイタチ!!ネタバラシしないでよ!!」

 

 

 自分が使える唯一の忍術であり、十八番である《空間転移》をバラされたラセツは頬を膨らまして地団駄を踏む。

 味方に敵の術の情報を持っていたら伝えるのは当たり前だというのに、怒りを見せるラセツに、鬼鮫は気が抜けたように少し肩を落とした。

 

 

「……この娘阿保ですね」

 

「かなりな」

 

「よーしお前ら覚悟しろよ。とっ捕まえて栗饅頭いっぱい奢らせてやるんだから」

 

「……鬼鮫、ラセツと遊んでやれ」

 

「承りました」

 

 

 鬼鮫はラセツの前に移動し、息つく暇も与えずに大刀・鮫肌を容赦なく振り翳す。 カカシとアスマはターゲットにされたラセツの下に走るが、イタチが前に回り込んで2人を水面に蹴り飛ばした。

 

 

「…邪魔はさせない。ラセツと組まれたら厄介だからな」

 

 

 イタチの妨害もあり、羅刹と鬼鮫、鬼の名を持つ者同士の戦いが始まる。

 命を刈り取るべく振り下ろされる鮫肌を寸前のところで踊るように身を翻して回避し、体格差を利用して懐に入り込む。

 

 鬼鮫はこの時、下忍の子供だとラセツを完全に舐めていた。

 確かにラセツの戦闘能力は中忍上位程度だ。上忍レベルである鬼鮫には敵わない。しかし、ラセツは戦いの神に愛された少女だ。 下忍の攻撃だと舐めて受けたら胴の肉を抉る攻撃が飛んでくる。

 

 

「ーーッが」

 

 

 細く華奢な足から想像もつかないような破壊力が、鬼鮫の鍛え上げられた強靭な肉体を襲い、鮫肌を杖にして激痛を訴える部位を押さえる。 

 

 

「…ッかなりいい蹴りをするじゃないですか…!」

 

「鬼鮫。ラセツは鬼族だ。気をつけろ」

 

「成程鬼族ですか…怪力に時空間忍術……厄介を通り越して面白いです、ね!!」

 

 

 実力差が明確であるが故に、少しの気の緩みでさえもラセツは付け込む。《空間転移》にて鬼鮫の死角に潜り込み、手裏剣を上に投げ、鬼鮫の視線を手裏剣に持っていかせている間に足を払う。

 

 鬼鮫の体勢が崩れ、隙が生じたところでラセツは素早く座標を安定させて、鮫肌を持っている方の腕に境界を合わせ、《空間転移》をする。 しかし、鬼鮫はラセツの視線で思考を予想し、鮫肌で地面を押して間一髪のところで境界を回避した。

 

 

「もう!!避けないでよ!」

 

「刻まれるのに、避けないわけないでしょう」

 

 

 間髪入れずに叩き込まれる鋼の拳撃を横へ流し、鮫肌でラセツを抉りにかかるが、神がかり的な体幹で最小限に身を回して避け、勢いを乗せた足と鮫肌が激突する。

 大木をも砕くラセツの蹴りだが鮫肌を折ることは叶わない。又、忍刀七人衆が持つ特異な力を持った大刀・鮫肌でもラセツの強靭な足を削ることは叶わない。

 

 その時、バシャンと水の音がラセツの鼓膜を震わし、視線だけその方向へ向けると、カカシが膝をついているのが見えた。

 

 

「余所見はいけませんね」

 

 

 戦闘で鬼鮫は一瞬の停滞を見逃さない。

 余所見を罪とし、命で罰を受けさせようと、ここぞとばかりに踏み込んで力を込める。

 

 

「…ーー誰が余所見だって??」

 

 

 視界の中心をカカシに移しただけで、鬼鮫から注意を逸らしたわけでは決してない。 ラセツは込められる力に対して力を抜き、前のめりになった鬼鮫のガラ空きな下顎に拳をぶち込み、高々と吹っ飛ばされるーー筈だった。

 

 

「これはこれは、失礼しました」

 

「ーーぐ、」

 

 

 鮫肌を盾にしてラセツの拳を受け止め、逆立つ鮫肌の刃がラセツの拳に突き刺さる。 激痛を訴える拳に苦痛の声を洩らす。

 しかし現時点での攻撃はラセツで、防御は鬼鮫だ。 この攻防がひっくり返らないうちに間髪入れずにもう片方の手にも拳を作る。

 

 

「ーーーおりゃ!!」

 

 

 気が抜ける掛け声だが、起きた出来事は欠片も腑抜けてなどいない。

 声と同時に、ラセツは足で地面を砕き、鬼鮫の足場を不安定にさせてから、作った拳で鮫肌で傷つくのも躊躇わず、鬼鮫を殴り飛ばした。

 

 

「カカシ先生!!」

 

 

 ラセツは鬼鮫との戦いに背を向け、膝をつき、苦しげに荒い息を繰り返すカカシの側に《空間転移》をする。 

 

 

「ラセツ、イタチの目を見るな…!」

 

 

 カカシの背後に立つ2人も目を閉じており、写輪眼の攻撃を遮断しているのだと予想がつき、背を向けたまま身を固めた。

 鬼鮫は少し息を荒げるイタチのそばに移動し、警告する余裕のあるカカシを見て口角を上げる。

 

 

「あの術を喰らって精神崩壊を起こさないとは…しかし、その『眼』を使うのは貴方にとっても危険…」

 

「わかっている。それよりラセツはどうだった」

 

「面白いを通り越して、恐ろしいと感じるほどの能力に素質でしたよ」

 

 

 そう、口にする鬼鮫の呼吸音は乱れておらず、静かなものだった。その事から、イタチの指示通り『遊んでいた』ことが垣間見え、鬼鮫の底知れない強さにラセツはうげぇっ、と顔を顰めた。

 

 

「…そこで、イタチさん」

 

「なんだ」

 

「アテが居ると言った貴方には悪いですが…私は彼女を『空』の候補者に推薦させていただきます」

 

 

 彼女、とはラセツを指しているのは明確で、思わず振り向いてしまった際、バチリ、と鬼鮫と視線が合った。 しかし、ラセツの視界はカカシの背によって覆われ、守るように隠された。

 

 

「…いや、異論はない」

 

「まさかイタチさんが言っていた、当て、とはこの娘だったりします?」

 

「あぁ、そうだ」

 

「それはすごい偶然だ」

 

「……そうだな」

 

 

 鬼鮫とイタチの姿が見えずとも、2人の意識がラセツに向いた事がわかり、ラセツの背筋に冷たいものが走る。

 

 

「そんな必死になって隠さなくても、無理に連れ去ったりはしませんよ。……仲間となる人にそれは逆効果ですからねェ」

 

「ラセツは…渡さないよ」

 

「クク…それはどうでしょうねェ」

 

「あぁ、どうだろうな」

 

「いいや、お前ら『暁』にラセツは絶対にやらない」

 

 

 『暁』

 

 その単語にアスマと紅は首を傾げるが、イタチと鬼鮫はわかりやすく反応を見せる。 

 

 

「…鬼鮫、カカシさんは連れて行く。ラセツ以外には消えてもらおう」

 

 

 直後、鬼鮫は鮫肌を構えて水面を蹴る。 写輪眼を遮断するために視界を閉じているアスマと紅は隙だらけで格好の餌食だ。

 後一歩で人体を容易く削る鮫肌の刃が届く、その瞬間。 派手に水飛沫を上げて、凄まじい破壊力を持った1撃を鬼鮫に喰らわせたのはマイト・ガイだった。

 

 

「木ノ葉の気高き碧い猛獣…マイト・ガイが来たからにはもう大丈夫だ!!」

 

「…何て格好だ…珍獣の間違いでは?」

 

 

 かなり的確で否定出来ない表現をする鬼鮫に、思わず吹き出しそうになったその時。ラセツの視界を覆っていた背中が視界から消えた。

 

 

「ーーカカシ先生!!」

 

 

 意識を保つ事もままならなくなったカカシが倒れ、水に沈んでいく。 ラセツは慌ててカカシを引っ張り上げ、持ち前の怪力でカカシを軽々と抱き上げた。

 

 

「ガイ!!イタチと目を合わせるな!術にかけられるぞ!!」

 

「そんなものは分かっている。…2人とも、目を開けろ!!写輪眼と闘う場合は目と目を合わせなければ問題ない!!常に相手の足だけを見て動きを洞察し、対処するんだ!」

 

「たしかに…言われてみればそうかもしれないけど…」

 

「そんな事が出来んのは…お前だけだぞ」

 

「まぁな……足だけで相手の動きを全て把握するにはコツがいる。だが…この急場にそう言うことも言ってられん。とにかく今すぐ慣れろ!!」

 

 

 アスマと紅は瞼を上げ、写輪眼を視界に入れないよう、足元だけを視界に入れる。ガイはイタチと鬼鮫から視線を外さないまま、里の中枢部を親指で指さした。

 

 

「ラセツはカカシを医療班のところへ。アスマと紅はオレの援護だ。…直にオレが手配した暗部の増援部隊が来る……それまでお前らの相手をしてやる」

 

「面白い。いい度胸ですね」

 

「鬼鮫、やめだ」

 

 

 瞳を爛々と輝かせ、好戦的に鮫肌を構える鬼鮫をイタチは静止した。 鬼鮫の顔が不機嫌に染まるのを流し目で見ながら続けた。

 

 

「オレ達は戦争しに来たんじゃない。残念だがこれ以上はナンセンスだ……帰るぞ」

 

「折角、疼いて来たのに仕方ないですねェ。……ではまた、ラセツさん」

 

 

 鬼鮫は大人しく鮫肌を仕舞い、イタチと共に一切の音なくその場を去った。 現れた強敵に手も足も出なかった悔しさに唇を噛んだ後、カカシを軽々と横抱きにして不安を表情に滲ませるラセツに視線をやる。

 

 

「…これからラセツに暗部をつけた方が良さそうだな」

 

「そうね……」

 

 

 紅はアスマの案に賛成をし、ラセツと視線を合わせるように腰を折り、両肩に手を置いた。

 

 

「ラセツ。もしまたアイツらが来たとしても決して耳を傾けちゃダメよ」

 

「うん」

 

「いい?絶対よ??」

 

「は、はい!」

 

 

 

 その後、カカシを木ノ葉病院へ連れて行き、待ち時間の間、別室にて紅とアスマとガイにこれでもかと言うほど『イタチと鬼鮫には絶対に関わってはいけない』と言う話を正座で聞かされた。 上忍3人から解放された時には、ラセツに暗部が手配されたらしいが、さすがは暗部。全く気配が探れない。

 

 そのままいつもの里内散策にて、人気が少なく日当たりの良い場所に座っていると、鬼鮫との戦闘での疲れが出たのか、気づいたら昼の陽気に包まれて眠ってしまい、目を覚ました時は夕方だった。 少し肌寒くなった風から逃げるように足をはやめて家に帰り、玄関のドアを開けた。

 

 

「たっだいまぁ…」

 

「おかえり」

 

 

 ラセツは1人暮らしだ。ただいまの返答が返ってくることはない。

 なんだ誰だと部屋に目を走らせると、紅い雲模様が入った黒い外套を見に纏ったうちはイタチがそこに居た。

 

 

「ごめん、おうち間違えちゃったみたい」

 

 

 上忍3人から叩き込まれた『イタチと鬼鮫には絶対に関わってはいけない』が頭の中を反芻し、扉を閉めようとするが、その手を優しく包まれ、止められる。

 

 

「待て、間違えていない」

 

 

 日が高い時に会った時の何処か冷たい低音とは違い、優しく心地の良い低音に扉を閉じることをやめてしまう。

 それだけだったらまだ良かったものの、淡く夕陽の色を写し込む黒曜石の瞳に、もう燻ってしまった筈の花は、止まることなく息を吹き返し始める。

 

 

(ーーほんっとやめてほしい)

 

 

 花の更生を自覚してしまえば、止まることはない。じわじわと色が鮮やかになる花は本当に厄介で恨めしい。 上忍3人にあれだけ叩き込まれた言葉も意味を成さなくなり、ラセツの口からは絞り出すように問いが出た。

 

 

「………暗部の人は…?」

 

「今、幻術を見てもらっている」

 

「うわぁ…」

 

「取り敢えず、中に入れ」

 

「あれ?ここラセツのおうちだよね?」

 

 

 イタチの異様な馴染みように、身を硬くしていた緊張感は霧散し、全身が脱力した。 ラセツは盛大な溜息をつきながらストンと座布団の上に腰を下ろした。

 

 

「…で、なんのよう?」

 

「ラセツ。お前に話があって来た」

 

 

 

 

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