羅刹の希求   作:蒼林檎

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第二十五話『厄介払い』

「ラセツ。お前に話があって来た」

 

「だろうね。……なぁに?」

 

「あっさりと話を聞くんだな」

 

「……気分」

 

「そうか。ならラセツの気分が変わらないうちに本題に入ろう」

 

 

 ラセツは興味深げに紫紺の瞳を細め、頬杖をつく。対してイタチはラセツに向かい合うように腰を下ろし、背筋をを伸ばした。

 

 

「単刀直入に言わせてもらう。お前にはオレの所属する組織『暁』に入って欲しい」

 

「はい説明」

 

 

 うちはイタチはSランクに分類される大罪人だ。そんな犯罪者が所属する組織にいきなり加入しろだなんて説明なしにはとても頷けない。 もちろん、イタチもそのことを理解しており、頷いて口を開いた。

 

 『暁』とは高い戦闘能力を誇るS級犯罪者が集まった組織であり、禁術や各国の尾獣を収集し、尾獣を使って『暁』は戦争を請け負う組織として各国の戦争に介入して、世界の軍事バランスを握ることにより、世界征服をする。

 そして全ての尾獣を集めて、里を一瞬で滅ぼせるほど驚異的な尾獣兵器を作り、圧倒的な恐怖による支配の下、世界に安定と平和をもたらすという目的を持っていた。

 

 続けてイタチは、うちは一族についての話を始める。

 

 十六年前に起きた九尾の妖孤襲来の際、九尾を操る瞳力を待つうちは一族は疑いをかけられ、里はうちは一族を、里の片隅へ追いやり、暗部による厳重な監視をつけた。 一族の里への不満は一向に溜まり、遂にうちは一族はクーデターを計画した。

 

高い戦力を持つうちは一族が里に対してクーデターを起こし、内戦を始めれば木ノ葉隠れの里は大きく揺らぎ、弱る。そこを他国は見逃したりはしない。 そしていつしか戦争が始まり、第四次忍界対戦の引き金にもなりかねない事態となってしまう可能性がある。

 

 そこで上層部はうちはの瞳術に対抗する為、同じうちはであるイタチにうちは一族の抹殺という極秘任務を与えた。

 

 

「……そして、あの夜に繋がる」

 

 

 木ノ葉の平和の為、世界の平和の為に、うちはイタチは苦渋の選択の末に一族の歴史に幕を下ろし、うちは一族を抹殺した犯罪者としての汚名を背負って抜け忍となり、危険な組織である『暁』を監視するために潜入し、今に至るという。

 そしてこの事実は極秘扱いとなっており、これを知るのは木ノ葉上層部の三代目火影、ダンゾウ、御意見番のホムラとコハルの4人だけだという。

 

 

「…ーー待って、」

 

 

 話に区切りがついたところでラセツは待ったをかけ、ラセツはイタチから目を逸らすようにテーブルに頭を突っ伏した。

 

 うちは一族抹殺の夜。ラセツは現場にいて、イタチとも言葉を交わした。

 その夜、イタチがラセツに真実を口にしたわけではない。 しかしラセツはイタチが誰よりも平和を愛し、争いを嫌う男だという事を知っていた。

 故にうちは一族抹殺は、木ノ葉の平和の為に心を痛めて下した選択だった事は、後日三代目火影に呼び出され、うちは一族抹殺事件について、ラセツに有無言わせず口外を禁じられたことから確信を持って気付いていた。 

 

 気付いていたからこそ、うちはの話がイタチの口から出た時に覚悟をした。しかしうちはの真実は想像を絶する内容であり、ラセツは思わず身体を震わせ、唇を噛み締められる。

 イタチはテーブルに突っ伏すラセツの頭を子供をあやすように優しく撫でる。 暖かな温もりにつられるように、頭は次第に冷静を取り戻し、強張った身体と噛み締められた唇から力が抜ける。

 

 

「…ごめん、もう平気」

 

「そうか」

 

 

 ゆっくりと顔を上げたラセツは顎に手を当て、冷静になった頭でイタチに話された膨大な量の情報を整理し、ひとつ大きな息を吐いた。

 

 

「……イタチの立場も、『暁』が歪んだ平和を掲げる危険な組織だって事もわかった。……でも、世界征服の絶対条件にある尾獣って、なに?」

 

 

 『暁』についての説明を受けた際に何度かキーワードとして出てきた『尾獣』という知らない単語に、ラセツは首を傾げる。

 

 

「尾獣は数列順に増える尾と莫大なチャクラを持つ、全九体の魔獣だ」

 

 

 それぞれが莫大なチャクラの塊であり、あまりにも驚異的な存在だ。 故に、過去の大戦終了後に開かれた五影会談において、各国の力の均衡と平定を保つという理念のため、尾獣が各国に分配された出来事があるほど、尾獣とは国の力を左右する存在だという。

 

 

「『暁』が尾獣を狙っている事は、さっき言ったな」

 

「うん」

 

「……お前の英雄…うずまきナルトは尾獣・九尾の人柱力だ」

 

「ん?…ジンチューリキ??」

 

 

 またもやキーワードらしいが、聞いたことのない単語に首を捻る。

 

 

「知らなくても無理はない。人柱力に関しての情報についてこの里は極秘扱いだからな」

 

 

 そう言って、説明を始めるイタチにラセツは耳を傾けた。

 

 『人柱力』とは封印術によって、尾獣を体内に封じられた人間を指しており、体内の尾獣と共鳴することによって強力な力を引き出すことが出来るが、かなりの可能性で暴走の危険性をも孕んでいるという。

 つまり、尾獣・九尾の人柱力であるナルトは『暁』のターゲットだ。

 

 

「『暁』は強力な組織だ。ナルト君が『暁』に捕らえられてしまう可能性は十分にある。その時1番に動き、対処し、助けられるのは何処だ」

 

「……『暁』内部…」

 

「そうだ」

 

 

 『暁』潜入の必要性を理解し、ふむふむと何度も頷く。

 ラセツは腕を組み、黙り込んで今までの話を反芻させ、頭の中に刻みこんで、ふと、気づく。

 

 

「ねぇ、もし…」

 

 

 膨大な情報量を纏めるために、僅かに伏せらせていた顔をゆっくりと上げられ、窺うような紫紺の瞳と目があった。

 

 

「もし、『暁』潜入を拒否したら、どうなるの?」

 

 

 『暁』に入って欲しい、と頼み事をするように話を切り込んだものの、イタチの話した内容には里の最高機密も含まれており、全てラセツが『暁』に潜入する前提で話されている。

 

 

「ラセツに、選択肢なんて用意されてるの?」

 

 

 忍の世界で最も重要視されるのは情報。里の最高機密を知ってしまったラセツを里が放っておくはずがない。

 イタチは僅かに目を伏せ、唇を震わせた。 それだけでラセツは、続くと思っていた今までの日常が未来から消えた事を理解してしまい、息を呑んだ。

 

 

「……あるにはあるが、ラセツが望むような選択肢は存在しない」

 

 

 どうやらラセツの予想は大体当たってしまったらしい。 

 

 ラセツは元々この里の者ではない上に、強力な血継限界を有しており、木ノ葉隠れの暗部養成部門『根』の創設者でありリーダーでもあるタンゾウの目に留まり、『根』に引き入れようと考えるには十分すぎる要素を持っていた。 

 無垢で幼い子供を血生臭い裏の道に進めること疎んだ三代目がなんとか阻止したものの、ラセツはうちは一族抹殺の現場に居合わせてしまい、うちはの真実に勘づいているのも上層部は勿論把握していた。

 イタチの説明に拳を握りしめ、唇を噛み、細い声を絞り出す。

 

 

「…つまりラセツは上層部にとって厄介な存在だってことだね」

 

 

 イタチは何も答えない。 それは無言の肯定を示していた。

 生まれに血継限界そして、偶然にもうちはの真実に辿り着いてしまったラセツに、今度こそタンゾウは動いた。

 

 

「…だかオレは、オレと同じ夢を語ったお前に、名と感情を捨てた忍や、タンゾウの作る血継限界部隊を築くための礎にはなってほしくなかった」

 

 

 ダンゾウの行動を否定するイタチの言葉通り、うちは一族抹殺事件から数年が経過しているが、ラセツは『根』に配属されてはいないし、ダンゾウとの接触もない。それは何故か。

 その疑問の答えは、すぐ目の前の男が持っていた。

 

 

「だからオレはダンゾウを上層部を脅し、三代目にサスケとお前が一人前となって、ダンゾウに取り込まれないようになるまで護るよう嘆願し、三代目は受託してくれた」

 

「……ぁ、」

 

 

 ラセツは三代目火影が死ぬ間際言っていた約束を思い出す。

 約束の正体とはダンゾウが行動に移す前に、行動を予測して事前に手を打って日常を守ってくれた事なのだと理解した。 しかし、イタチはすぐに「だが…」と続ける。

 

 

「三代目が亡くなった今、お前を守るものは何もない」

 

 

 ぎゅ、と息が詰まり呼吸が止まった。

 今までラセツが平和に生きられたのは、イタチと三代目の間に交わされた約束のおかげだった。 しかし、三代目火影の死によってその約束は破棄され、ダンゾウがラセツに伸ばす手を止められる者はない。

 

 ここでラセツは気づく。

 もう、里の最高機密を知っている知っていない関係なく、ラセツの『今まで』は崩れて消える事が決まっていたのだ。

 

 

「ラセツ。お前に残されている選択肢は4つある」

 

 

 イタチは指を4本立て、ラセツに残された選択肢を示した。

 1つ目は自分の運命を呪って死ぬ事。2つ目はダンゾウによって回収され、血継限界を繁殖させる母胎となる事。 3つ目は今までの関係、名前、感情を全て捨てて『根』の忍として里の道具となる事。4つ目はイタチと共に『暁』へ侵入して情報を集め、木ノ葉に流し、ナルトが捕らえられた時の対策になる事。

 イタチが示した選択肢の中に、火影となったナルトの隣に立ち、平和の為に尽力するという選択肢は存在しなかった。

 

 

「お前がオレに語った夢が叶うことは、もうない」

 

「ーー…そっか」

 

 

 希望であり、生きる糧となっていた夢はもう潰えてしまった事を断言され、僅かに息を呑んでから泣きそうな声で自分の運命を受け入れ、縋るような瞳で強く握る拳を見つめた。

 

 

「……でも、ナルトを守れる選択肢、ひとつあるね」

 

「あぁ」

 

「……そして、最後にナルトを英雄にする道も」

 

 

 木ノ葉を裏切り、『暁』に身を置いて、世界に喧嘩を売り、大罪を犯し、大罪人の犯罪者に身を染めるラセツに出来ること。 それは世界を脅威に陥れる犯罪者としてナルトに殺され、自分の英雄から世界の英雄にすること。

 

 

「お前は、本当に」

 

 

 イタチの息を呑む音が聞こえて言葉が詰まって途切れて、ラセツは弾かれるように顔を上げて唖然とした。

 うちは一族抹殺事件の時や再会の時でさえ、感情を殺して無表情を突き通していたというのに、今のイタチは感情を押し殺そうと無表情を保とうと唇が震えていて、普段は静かな黒曜石の瞳に感情の波が走る。

 そして数秒後、胸が潰れてしまいそうなくらい。涙が溢れてしまいそうなくらい、儚く微笑みを零した。

 

 

「……本当に、オレとお揃いだな」

 

「あぁ、やっぱり一緒なんだ」

 

「残念なことにな」

 

 

 初めて言葉を交わした日からイタチとラセツを繋ぐ特別な関係。それは今回も重なり、イタチは少し眉を下げた。

 思わず口が開いてしまうほど柔らかく表情が変化するイタチだが、柔らかな時間はそう長くは続かず、すぐに普段を取り戻した。

 

 

「……ラセツの今後に対する返答だが…もちろん、今すぐにとは言わない」

 

 

 イタチは懐を探り、ラセツが普段使っているものとは違い、華美な装飾が施されている巻物を差し出した。 許可を取ってから中身をそっと覗くと、そこには逆口寄せの術式が刻まれていた。

 

 

「…これは……?」

 

「その巻物は来月の今日、深夜0時に上層部の方々が居る部屋に繋がる。そこでお前の答えを出せ」

 

「わかった」

 

「…ラセツ」

 

「なぁに?」

 

「…もし、お前がオレと共に行く選択を取るのなら。裏では木ノ葉の忍でも、表向きは里抜けをし、犯罪組織『暁』メンバーとなる…。そうなれば生死を問わず追われ続け、人々に蔑視されて生きてく事になる」

 

「うん」

 

「それだけじゃない。殺し合いが日常になる。場合によっては木ノ葉の忍に手を掛けることもある」

 

 

 他の選択肢と決定的に違うのは、場合によっては同胞に手を掛けることもあり得るという点だ。 

 

 

「わかってる。…守りたい存在を見失う事はしない。ラセツの新しい夢も諦めるつもりはない」

 

「そうか」

 

 

 どうせ自分は少し特別な力を持って産まれただけの凡人で小物で利己主義者だ。 そんな自分でもナルトを脅威から守れるというなら。ナルトを世界の英雄にする事ができるというなら。 ラセツはそれを願い、その為に戦い、その為に生きようと、白地のキャンパスに未来予想図を描いた。

 

 

「…オレと来る選択をしたならば上層部の方々に話した後、正門前に来い。迎えに行く。……オレからの話は以上だ」

 

「はい、質問あります!」

 

「なんだ」

 

「最初はさ、ラセツを『暁』潜入に選んだの、鬼鮫って人に推薦されたからだと思ってたんだけど…今の話を聞くに、イタチは最初からラセツを選ぶ気だったよね??」

 

「そうだな」

 

「そこでなんだけど…鬼鮫って人、木ノ葉側のイタチと協力関係あったりするの?」

 

「いいや、鬼鮫は正真正銘『暁』のメンバーだ」

 

「でもラセツ、あの人から勧誘されたよ??……あれは偶然?」

 

「いや…鬼鮫がラセツと戦えば、鬼鮫は必ずラセツを気にいると思っていた」

 

「思ってたって…まさか、全部仕込んでたりする?」

 

「あぁ、そのまさかだな」

 

 

 木ノ葉に訪れ、ラセツの出現率が高い甘味処にて以前と変わらない食べ方で団子を食し、思惑通りラセツと接触した。 その後ラセツの能力を鬼鮫に示す為に場所を移してワザと足止めされ、戦闘しなければならない状況を作り出してラセツを待った。

 またまた思惑通りに動いてくれたラセツの能力や《鬼族》と言う事をバラし、鬼鮫に少なからず興味を持たせた後に戦わせ、その戦いを邪魔されないようカカシ達を妨害した。

 

 

「うげぇ…」

 

 

 イタチの頭脳はとても優秀なことは、まだイタチが里に居た時から知っていた。 だが、人形遊びをする様に掌の上で色々な人間を意のままに踊らせるイタチに、ラセツは頬を引き攣らせて引いた。

 

 

「…そんなに回りくどいする必要あったの??」

 

「オレからの推薦だと疑われるかもしれないからな」

 

「……同じ木ノ葉出身者」

 

「そうだ。おそらく心配はないだろうが…念には念を入れて鬼鮫に推薦させた方がいいと思った」

 

 

 だからって人形遊びをする様に思考と行動を計算し、自分の思う通りに人を動かせるイタチに、ラセツは尊敬を通り越して再度引いた後、気を取り直すように咳払いをする。

 

 

「あと、最後に。…サスケについて話があるの」

 

 

 ピリ、と周囲の空気が軽く張り詰めるのを感じる。 ラセツは目を瞑り、ゆっくりと呼吸をして、脳に酸素と過去の記憶が巡るのを感じながら、サスケが大蛇丸につけられた呪印について話した。

 ラセツの話を一切遮ることなく聞き終えたイタチは、ゆっくりと息を吐き出して頭を抑えた。

 

 

「そうか…あのアザは大蛇丸の呪印だったか」

 

「…!!…サスケと会ったの?」

 

「まぁ、あの後少しな」

 

「そっか……ほんっとにごめんね…任されてたのに」

 

「いや、これは相手が悪すぎる。ラセツが居ても居なくても結果は変わらなかった」

 

「ぐぅ…すっごく複雑…悔しい…」

 

「仮にも伝説の三忍だからな。真っ向勝負をすればオレだって厳しい」

 

「真っ向勝負じゃなかったら?」

 

「不意打ちはオレの得意分野だから、オレが勝つな」

 

「イタチ強すぎ」

 

「そんなことないさ」

 

「知ってる?謙遜もやりすぎると暴言なんだよ?」

 

「それは悪かった」

 

 

 悪かった、と謝罪を口にしながらも全く詫びる様子のないイタチにラセツは笑いを零し、イタチも微笑を浮かべた。

 

 

「話戻すね。…サスケは、どうするの?」

 

「……仮にも伝説の三忍だ。大蛇丸はサスケの成長に利用できる。…もしもの時はオレがなんとかしよう」

 

「…大丈夫?」

 

「あぁ」

 

「そっか。…はい、これでラセツの話ももう終わり」

 

「なら、オレはもう行く」

 

「うん、またね」

 

「あぁ、またな」

 

 

 遠くない再会を約束してイタチはラセツの前から姿を消した。

 

 

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