羅刹の希求   作:蒼林檎

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第二十六話『ーーぃー』

 

 鼓膜を直接叩くような音が鳴り、ラセツの意識は眠りから浮上した。

 目覚めてはだらしない仕草で伸びをし、まだ半覚醒な状態で見慣れた室内を見回して、ある一点に視線を奪われる。

 

 ラセツの視線の先にあるのは、なんの変哲もない、何処にでも売っている質素なカレンダーで、今日からあと片手の指で数えられるほど先の日付にひとつ小さく星の印がある。

 

 

「あれからもう、4週間か…」

 

 

 イタチの帰郷。そして『暁』への極秘潜入任務の話をされてからもう、約4週間が過ぎていた。

 

 

✳︎✳︎✳︎

 

 

 この4週間、ラセツはサクラと共にサスケとカカシの見舞いに行ったり、『暁』に遭遇しても多少の対処は出来るよう、ガイや紅、アスマを中心とした上忍との修行の毎日を過ごしていた。

 そして今日、ナルトの帰還を聞いたラセツは、午前の分の修行を午後に回してもらい、ナルトを出迎えに行く。 里の正門から続く大通りを歩いていると、前方にナルトと自来也の姿が見え、駆け出した。

 

 

「ナルトおっかえりぃーー!!!自来也様も!」

 

「ただいまだってばよーー!!ラセツ!」

 

 

 助走をつけて勢いよくナルトに抱きつき、隣にいた自来也に髪をもみくちゃに撫でられた。

 

 

「ちょっと、自来也様!!」

 

「すまんのォ、つい!!」

 

 

 今日は日課である朝修行以外やっていないので、折角髪型が崩れていなかったというのに崩されてしまい、ラセツは頬を膨らませて地団駄を踏み、癇癪を起こした。 すると、乱れた藍色の髪に誰かが優しく触れた。

 

 

「あぁもう自来也。女の髪になんてことをしてるんだ」

 

「ぁ、…え?」

 

「直してやるから動くんじゃないよ」

 

 

 振り返ると、淡黄蘗の長髪を2つに結い、胸元の開いた女性らしい起伏に富んだ肢体がはっきりとわかる衣服を身につけた美しい女性がそこにいた。 女はぐしゃぐしゃになっているラセツの髪紐を解いて手櫛で整え、三つ編みを丁寧に編んでいく。

 

 

「…お前がラセツか」

 

「は、はい、ラセツです!はじめまして!」

 

「私は5代目火影に就任する綱手だ」

 

「私は綱手様の付き人、シズネです」

 

「ご、五代目火影様…!?」

 

「あぁ、これからよろしく頼むよ。……ほら、出来た」

 

「わぁ!ありがとうござます!!こちらこそよろしくお願いします!」

 

 

 手で確認すると、乱れがひとつない髪型に仕上がっていることが分かり、ラセツはご満悦だ。 するとナルトがヒョッコリと視界に入ってきた。

 

 

「あのさ、あのさ!綱手のばーちゃんってばスッゲーの!!これでサスケもカカシ先生もゲジマユも、みーんな大丈夫だってばよ!!」

 

 

 蒼穹を閉じ込めたような双眸がキラキラと輝き、自慢げに胸を張るナルトに、大輪の花を咲かせるような笑みを満面に浮かべ、ナルトにつられるように紫紺の瞳を輝かせた。

 

 

「綱手様すごい!連れて来てくれたナルトもすごい!」

 

「スッゲー事と言えば!!オレってばスッゲー術を会得したんだってばよ!」

 

「え、すごい!!どんなのどんなの!?」

 

「見せてやる!演習場行くってばよ!!」

 

「うん!!自来也様、綱手様、シズネさん!失礼します!!」

 

 

 ラセツはひとつ頭を下げた後、小走りでナルトの後を追いかける。

 

 

「全く…今帰って来たばかりだというのに元気だのォ…」

 

 

 綱手を里に連れ戻す為に、いつもとは比べ物にならないほどの困難をいくつも掻い潜った大人達はクタクタで、離れていく背中をゆったりと見送る。

 

 

「……聞いてた通りの子だね。ラセツは」

 

 

 ナルトが頻繁に話題に上げるので、ラセツの人間性はなんとなく知ってはいた。 そして直接会ってみてナルトが話していたラセツと実際のラセツは齟齬が無く、ナルトと同じでどこか惹かれる魅力を持った少女だと綱手は感じた。

 

 

「だろう。…きっとあの子はナルトと一緒で大物になる」

 

「奇遇だね、自来也。私もそう思う…木ノ葉の未来は安泰だ」

 

 

 綱手は未来の木ノ葉隠れの里を思い浮かべる。そこには英雄となり、皆に愛され望まれて火影となったナルトと、ナルトの右腕として隣に立つラセツの姿があった。

 綱手は視線を上げ、木ノ葉隠れの里の中枢である建物を見遣り、拳を堅く握った。

 

 

「だからこそ……自来也」

 

「わかっておる」

 

 

 自来也は『暁』がナルトに接触を図り、惜しくも逃してしまった後、木ノ葉から暗号化された文書で『暁』がラセツの能力を買い、勧誘をしたと知った。

 ナルトに態々分からないよう、丁寧に暗号化された文書で送ってきたのは『暁』がラセツを狙っていると知れば、ナルトは後先考えずに行動を起こすと判断したからだろう。 それほどナルトにとってラセツという存在は大きい。

 その後、五代目火影となる綱手とその付き人シズネにだけ情報を共有し、現在に至る。

 

 

「ナルトはもちろん、ラセツも『暁』なんかには絶対やらん」

 

 

 未来の火影と、その隣に立つ若葉を失わせたりなんかしない。 木ノ葉を導く忍達はそう心に誓った。

 

 

✳︎✳︎✳︎

 

 

「すごい…!」

 

 

 掌の上でチャクラが超高速で乱回転しつつも綺麗な球状に圧縮されており、絶大な威力が秘められているだろう《螺旋丸》に、ラセツは詠嘆を零した。

 

 

「へへっ!そうだろ!!」

 

「うん…!本当にすごい!!」

 

 

 普段扱う忍術と違って印を結ぶ必要がなく、勉強嫌いで印などを覚えるのが苦手なナルトには持ってこいの技なのだろうが、ここまでチャクラの形態変化を極限まで極めた技の習得難易度は相当なものだっただろう。

 

 自慢げに踏ん反り返るナルトに「でも」と、人差し指だけを立てた右手を突き出し、片目を閉じて悪戯っぽく微笑む。

 

 

「成長してるのはナルトだけじゃないよ」

 

「え?」

 

「見てて」

 

 

 目を閉じて額に意識を集中させ、次第に額は熱を持ち始め、まるで別の身体になったような感覚にゆっくりと瞼を開くと、蒼い瞳をまんまると見開き、指を指すナルトの姿が見えた。

 

 

「!!…それって」

 

「そう《鬼化》」

 

 

 《鬼化》は、扱う周囲のエネルギーと体内のエネルギーが莫大過ぎて、使える時間は良くて3秒な上に使用後に必ず戦闘不能になるという、今のラセツには手に余る能力だった筈だ。 しかし、今のラセツは《鬼化》しても平然としている。

 

 

「…ん?あれェ?……」

 

 

 ナルトは《鬼化》しているラセツに違和感を覚え、首を傾げる。 ナルトがラセツの《鬼化》を見たのは波の国で再不斬と戦った時の1度だけであり、一瞬だ。

 しかし、あの時の光景は今でもナルトの瞼に焼き付いており、ラセツの右額から突き出している純白に輝く1本の角に違和感を覚えた。

 

 

「あーー!!角が1本減ってる!」

 

「そう、正解!」

 

 

 見事正解したナルトに賞賛の言葉と拍手を送る。

 角1本の場合はもちろん角2本の時より肉体や身体能力の強化は半減するものの、能力が飛躍して上がっているのは間違いなく、何より、ラセツがしっかり扱えている。

 

 

「色んな人に修行に付き合ってもらってすっごく頑張ったんだから!!」

 

「スッゲー!!さすがラセツ!!」

 

「えへへ〜!」

 

 

 褒められて照れ臭げに頭の後ろに手をやり、頬を染め、眉尻を下げてふにゃりと笑う。

 その後、ナルトは4週間の旅を擬音だらけで説明し、ラセツは有名な英雄譚を聞くように瞳を輝かせて、最後まで耳を傾けた。

 ナルトは満足げに話し終えると、思い出したようにポンと手を叩いた。

 

 

「あ!!そうだ!!忘れてたってばよ!!」

 

「え?」

 

「綱手のばーちゃんにサスケとカカシ先生を診てもらわねーと!!」

 

「あ、なら…」

 

 

 ラセツの方が多分速いよ、というより早く、ナルトは手を振りながら、ラセツにサスケの様子を一足先に見といてくれと頼み、綱手がいるだろう里の中枢である建物に向かって走っていってしまった。

 

 残されたラセツは、まぁいっか、と段々小さくなっていく背中を見送り、病院へ向かった。 面会の許可を取ってサスケの病室に訪れると、白一色の病室を彩る桜色の短髪が目に入った。

 

 

「あ、サクラ。来てたんだ」

 

「…うん。……サスケ君、まだ目覚めないの」

 

 

 俯き、両膝の上で拳を握るサクラの肩に手を乗せる。するとサクラは顔を上げ、薄く頬を染めて微笑んでいるラセツに若葉色の瞳を見開いた。

 

 

「ナルトがすっごい人連れて来てくれたの」

 

「ガイ先生が言ってた…あの人?」

 

「そうそう、だから大丈夫。サスケは目覚めるよ」

 

「…うん!」

 

 

 サクラは安堵と歓喜から瞳の端に溜まる涙を堪えながら笑い、ラセツも微笑みを返した。

 

 

「入るよ」

 

 

 時計の針が動く音だけが響く静寂な病室に、扉を開ける音を混ぜながら、思わず見惚れてしまうほど、見るものの背筋を自然と正させるような凛然とした雰囲気を持つ美しい女性が入室する。

 

 

「綱手様!」

 

「おぉ、ラセツ。さっきぶりだね」

 

 

 パッと紫紺の瞳を輝かせて喜色を露わにするラセツに、綱手は軽く手をあげて返事をする。その後ろからひょっこりと金髪が覗き、ナルトがニットした笑みとピースサインをラセツに向ける。

 ラセツもピースサインを返し、ナルトは満足げに頷いた後「サクラちゃん、サクラちゃん!!」と、飛び跳ねるようにサクラに駆け寄った。

 

 

「もう大丈夫だってばよ!すげー人連れてきたからよ!!」

 

「ナルト…うん…!」

 

 

 そう、胸を張るナルトにサクラは綻ぶように笑い、腰を掛けていた椅子から立ち上がって、綱手に深々と頭を下げる。

 

 

「…ガイ先生からお話は聞いてます。サスケ君を助けてあげてください」

 

「お願いします」

 

 

 願うように、縋るように頭を下げるサクラに並び、ラセツも一緒に頭を下げる。 そんな2人に綱手は髪型が崩れないように配慮しながらもくしゃりと撫でた。

 

 

「あぁ!任せときな!」

 

 

 成功を疑わせないような力を持つ綱手の言葉に、2人は顔を上げた。  

 綱手はサスケを見て、集中していると肌で感じるほどの集中力を身体に宿し、淡い色のチャクラを纏った手をサスケの額に当てる。

 

 

「……っ、」

 

 

 今まで死んだように眠っていたサスケの瞼が動き、懐かしい漆黒の瞳が覗いた。

 

 

「サスケくん…!」

 

 

 大切な第七班のメンバーであるサスケの目覚めに3人が歓喜の声を上げる。綱手とシズネは安堵したように肩の力を抜き、ナルトとラセツは嬉しそうハイタッチをし、サクラは涙を流してサスケに抱きついた。

 

 和やかな光景を目の前に、ふと気づく。 自分はこの班に亀裂を入れる存在であり、ここにいる全員の敵となる存在だという事を。 それを今更自覚して自分の中に落とし込み、とても居た堪れない気持ちになる。

 

 

「よっしゃ、ばーちゃん!次!」

 

「ナルト!!分かってるから、慌てるな」

 

「ラセツ!行くぞ!!」

 

 

 ああ、どうしよう。と頭の中が支配される。

 今はどうしてもナルトのそばに居たくなかった。こんな感覚は初めてでラセツは酷く混乱する。 逃げるように視線を巡らすと、昼を越えそうな時計が目に入り、今日はナルトを出迎える為に午前の修行を午後に回してもらった事を思い出す。

 ラセツは唇が震えそうになるのを懸命に堪えながら、初めて嫌な嘘をついた。

 

 

「…同行したいんだけど、ラセツこれから修行なの」

 

「そっか…なら、あとはオレに任せるってばよ!!ちゃーんとばーちゃんを案内するからさ!!」

 

「うん!お願いします!」

 

「おう!」

 

「綱手様、カカシ先生とリーさんの事、お願いします!」

 

「あぁ、任せな」

 

 

 ひとつ礼をした後、ラセツはその場から早足で逃げ出した。 午後の修行は思考が出来なくなるほど没頭した。

 

 

「…今日はここまでだ」

 

 

 思考を掻き消すような荒々しさは当然ながら悪目立ちし、今日これ以上修行をやっても意味はないと言い渡されてしまい、修行は終わってしまった。 予期せず暇な時間が出来てしまったラセツは、特に目的も無く里の中を歩き回る。

 木ノ葉崩しの被害以外は見慣れた風景で、唯一違ったと言えば、病院の屋上に設置されてある給水タンクが内側から破られるように破壊されていたことくらいだろうか。 しかし、ラセツは気に留めなかった。それほど頭の中を空っぽにして歩いていたーーーそんな時。

 

 

「どうした。浮かない顔だのォ」

 

 

 ふと、声を掛けられ、声のした方向に視線を向ければ、色の抜け落ちたような白い長髪を適当にひとつで纏められており、額には『油』と書かれた額当てを付けて、背には大きな巻物を背負う大柄の男が壁に寄りかかり、片目を瞑ってラセツを見つめていた。

 

 

「……自来也様…」

 

「お前さんが何に悩んでるかは知らん。だが、『暁』には絶対行くなよ」

 

「……知ってたんだね」

 

「ワシの情報網を甘く見るなよ。…ラセツ、1つ言っておくことがある」

 

「なぁに?」

 

「もし、お前さんが『暁』に行けば……ワシはお前を殺すからな」

 

 

 自来也がラセツを見下ろす瞳は熱くて鋭い。しかし、竦み上がることはなかった。 

 確かにラセツは『暁』となる事を選択したが、心まで染まる事はない。木ノ葉の為、ナルトの為、そして何より自分の新たな目標の為に『暁』へ加入する。

 だから『裏切り』を前提として話す自来也に、ラセツは静かに紫紺の瞳を向ける。

 

 

「…自来也様。ラセツは、どんな時でもナルトを裏切らないよ。危なっかしいナルトが安心して生きれるように、ラセツがいるんだから」

 

 

 生きる意味を告げるラセツの紫紺の瞳は何処までも静かで、偽りがないことは自来也ほどの忍となれば明瞭であり、表情を緩めて藍色の髪の毛を撫でた。

 

 

「……ま、ナルト至上主義と名高いラセツのことだ。あまり心配はしてなかったが…悪かったのォ」

 

 

 ラセツは軽く首を横に振った後、悪戯っぽく片目を閉じて、人差し指だけを立てた右手を突き出した。

 

 

「あとねラセツ、殺して欲しい人は決まってるから。自来也様は…却下ね?」

 

「贅沢言うのォ!!」

 

 

 殺してもらう人を選ぶなんて強欲なことを言うラセツに、自来也はカラカラと笑い飛ばし、ラセツは自来也に別れを告げて帰路につく。 

 道すがらにリーの足が危険な手術でしか治らない事と、綱手がその手術の成功確率を1%でもあげようと医療書を1文字1文字舐めるように読んでいる事を知った。

 

 三代目の『火の意思』が継がれている木ノ葉はとても眩しく美しい。ラセツは眩しさから目を逸らして暗くなり始めた方の空に視線を移して、イタチに指定された日が着々と近づいていることを実感していると、ふと、視線が奪われた。

 

 

「………」

 

 

 奪われた視線の先にあったのは真っ赤な輝きを放つ、柘榴石の耳飾りだ。 暫く柘榴石を見つめた後、ラセツは財布の中身を確認し、その柘榴石の耳飾りを手に持って会計に向かっていた。

 

 家に帰って、姿見の前に立ち、冷やしもせずに針で耳たぶを突き刺す。滴る鮮血と同じ色を輝かせる宝石を身につけて、そんな自分に鏡越しに手のひらを当てる。

 

 

「………本当に馬鹿だな」

 

 

 自嘲する様に嗤い、パキン、という硬質音が鳴って姿見は砕け散って、誰の姿も映さない、ただの銀色の欠片となる。 

 

 

「ーーぃー欲しい、なんて」

 

 

 何処までもチグハグで矛盾だらけの自分は、本当に醜くて酷く滑稽だった。

 

 

✳︎✳︎✳︎

 

 

 気分転換として風に当たろうと外に出る。 もうすっかり日の暮れた木ノ葉の里で静かな場所を探していると、自然と正門の前にある通りに来ていた。 この時間は里を出入りする者も居ない為、髪が風に揺れる音すらも大きく感じる。

 風に前髪をくすぐられながら木の幹に登り、隙間から見える満月を楽しんでいるとサスケとサクラの声が聞こえて気配を殺しながら近づく。

 ラセツが着いた頃にはもう2人の会話は終わっており、気絶しているサクラをベンチにそっと寝かせて、サスケは迷わず里外へ出たところでラセツは満月を見やった。

 

 

「良い月夜に兄弟揃って里抜けかぁ……」

 

 

 数年前を思い出す。暫く思い出に耽り、ラセツは里からゆっくり満月を眺めるのは最後になるであろう見事な夜を静かに楽しんだ。

 

 次第に夜は溶けるように明けて太陽が覗く。

 見上げると、愛する蒼く広い蒼穹が世界を侵食していくように広がっていっており、時折浮かぶ白い雲が光を反射して空を彩っていた。

 

 

「クッソーーーッ!ラセツの奴、どこに居るんだってばよ!!」 

 

「おい、お前の鼻でラセツとやらを見つけられんのか」

 

「チッ!!普段散歩しまくってるからか、あちこちにあって見つけずれェんだよ…!!」

 

「家にも広場にも甘味処の開店待ちぶせにも居ねぇ……アイツ本当、どこ行きやがった…」

 

「ラセツのことだから散歩してた途中で寝てるとかありえるよね」

 

 

 聞き慣れた声の会話に視線を落とすと、そこにはナルト、キバ、シカマル、チョウジの同期組と一期上の日向ネジがいた。

 

 

「シカマル…中忍になったんだ…」

 

 

 1人だけ中忍のベストを着用しているシカマルを筆頭とした下忍編成のメンバーだ。聞こえてくる話によれば、里抜けしたサスケを連れ戻す任務のようだ。 

 

 

「クソ…アイツが居ると居ないじゃ難易度の桁が違う…なんとかして見つけてぇが…」

 

 

 ラセツの《空間転移》はラセツよりチャクラ量が少なければ誰でも転移ができる。 サスケを見つけてラセツが《空間転移》をするだけでこの任務は完了となるのだ。 その上、交戦になったとしてもラセツは戦闘員としても優秀であり、サスケ奪還作戦にラセツほど適材な忍はこの里には存在しない。

 

 それを全て理解しておきながらラセツは木の幹から降りることはなく、見守るのみだった。 それは、イタチがサスケの成長の為に大蛇丸を利用すると言っていた為だ。

 正直里抜けまでするとは思っていなかったが、1番の成長方法は大蛇丸のところへ行く事だろう。それに、サスケの事はイタチが引き受けた。変に動かない方がいいだろうと判断した。

 

 仲間探しの制限時間が来て、5人はラセツを見つける事なく里から出た。

 暫くして木の幹から降りて帰路に着こうと歩き出すと、里の正門の方からサクラが駆け寄ってきた。

 

 

「サクラ、おはよう」

 

「ちょっと、おはようじゃないわよ!!何処行ってたの!?みんな探してたわよ!?」

 

「ごめん、ちょっと散歩してて」

 

「今、散歩どころじゃないのよ!!サスケくんが…!!」

 

 

 ラセツの両肩を掴み、項垂れてボロボロと大粒の涙を溢しながらサスケが里を抜けた事と、ナルト達がサスケを連れ戻しに出た事を話す。

 知ってる、なんて言えるはずもなく、ただ静かにサクラの話を聞くことしかできなかった。 次第にサクラの涙は止まり、顔を上げるとある1点に若葉色の瞳が釘付けになる。

 

 

「あら?ラセツ、こんな耳飾りつけてたっけ?」

 

「ううん。昨日買ったの」

 

「へぇ……綺麗ね、なんていう石なの?」

 

 

 まだ痛む耳たぶに手を当て、太陽の光を反射させるように弄り、サクラに紫紺の瞳を向けた。

 

 

「柘榴石って言うの」

 

 

 

 

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