羅刹の希求   作:蒼林檎

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第三章『道化の羅刹』
第二十八話『攫イ者』


 空は雲ひとつない快晴と、心地よい輝きを放つ太陽が世界を彩る美しい日だと言うのに、太陽の光が届かない路地裏に3つの影があった。

 1人は色の抜け落ちたような白い長髪を適当にひとつで纏め、額には『油』と書かれた額当てを付け、背に大きな巻物を背負った大柄の男。 残りの2人は同じ外套を身に纏っており、片方は黒い髪に青い瞳の女性で、もう片方は焦茶色に栗色の瞳の男性だ。2人とも中性的な顔立ちをしていて、特に、と言う特徴はない普通の人間だ。

 

 普通では無い、と言ったら2人の諜報員という役職だ。

 どちらも凄腕の諜報員であり、伝説の三忍と謳われる自来也であっても『暁』の情報仕入れは難しい、S級犯罪者が集う犯罪組織『暁』に近づき、情報を仕入れている。『暁』の情報はこの2人にほぼ任せきりなほどだ。

 

 

「……本日の情報はここまです!自来也様」

 

「本日もいい情報だのォ!柘榴!」

 

 

 情報の詰まった手帳をパタンと閉じ、自来也もメモする筆を置き、情報提供をしてくれた女性…柘榴を褒めるが、柘榴は眉を下げて苦笑いをする。 理由は簡単。お世辞にも有益とは言えない情報だからだ。

 

 

「そう気を落とすな。あの『暁』から情報を取れるだけ上出来だ。……良い弟子を育てたのォ、雛菊」

 

「自来也様にそう言って頂けるなんて光栄ですね」

 

 

 自来也に褒められて笑みを零したのは男性の方の諜報員…雛菊だ。 雛菊は自来也の諜報員を務めて数年であり、柘榴は2年半ほど前に雛菊に弟子入りした諜報員だ。

 情報を渡し終えた諜報員と自来也は路地裏を抜ける為に歩き出す。

 

 

「そういえば、今日、ナルトは連れていないの?姿が見えない」

 

 

 諜報員と自来也のやり取りは不定期ではあるもののそれなりに行われており、自来也の旅にナルトが同行している時も何度か顔を合わせており、いくつか言葉を交わしている。

 

 

「アイツと旅して2年半。だいぶ育ったからのォ…ついさっき里に戻してきた。…なんだ柘榴、寂しいのか」

 

「まぁ…馬鹿丸出しのナルトが今日はどんな馬鹿を晒すのか…少し、少しだけ期待してた」

 

「辛辣だのォ!」

 

「褒めてるんですよ。ナルトとの旅は楽しそう」

 

「確かにのォ…ナルトとの旅は退屈せんかった」

 

「おや、柘榴。私と任務の旅はつまらないと?」

 

「い、いえ、まさかそんな事…」

 

 

 雛菊の言葉に柘榴が慌てて両手を慌ただしく振り、必死に弁明していく。そんな柘榴に雛菊は「冗談ですよ」と笑い、自来也は豪快に笑った。

 次第に建物の隙間から差し込んでくる太陽の光が強くなったところで雛菊と柘榴は足を止めて軽く腰を折った。

 

 

「では、我々はこの辺りで」

 

「これからも頼むのォ、雛菊、柘榴」

 

「はい、勿論です」

 

「またね。自来也様!」

 

 

 雛菊は礼儀正しく腰を再度折り、柘榴は愛想の良い笑みで見送るように手を振った。 自来也の後ろ姿は段々と小さくなり、雛菊と柘榴は元来た道に戻り、そのまま街を出て森に入る。

 誰もいない事を確認した後2人は《変化》を解き、白煙の中から赤い雲模様の入った外套を身に纏った人物が姿を表す。

 

 

「んっ〜!!疲れたぁ…」

 

「お疲れ、ラセツ」

 

 

 《変化》をして姿を変えていた2人の人物。柘榴の方がラセツで、雛菊の方がイタチ。どちらも元木ノ葉隠れの忍『暁』所属のS級犯罪者だ。

 

 

「……だいぶ変化が上手くなったな。最初は補助なしじゃ難しかったのに」

 

「まぁ、流石に2年もひたすら練習すればね」

 

 

 ラセツが『暁』に所属して2年半が経ち、裏では木ノ葉と繋がっているラセツとイタチは《変化》にて別人に化け、諜報員として自来也に暁の情報を流している。

 忍術が大の苦手なラセツだが《変化の術》だけは、伝説の三忍自来也であったとしても見抜けないほどに上達していた。

 

 

「ホント、今でも信じらんないくらいびっくりだよ。自来也様が持ってた情報の発信源がまさかイタチだったなんて」

 

「まぁ…オレは表向き、『暁』のメンバーでS級犯罪者だからな」

 

「なら、ラセツも一緒だね。お揃い」

 

「あぁ、お揃いだな」

 

「自来也様、正体知ったらびっくりするかな?」

 

「驚きすぎて口から心臓が出るかもな」

 

「何それ面白すぎる」

 

 

 自来也の口からハート型のキュートな心臓が口から出るのを想像して、ラセツは思わず吹き出してたっぷりと3分間笑い転げた後、突如静かになる。

 

 

「……それにしても、難しいよね…この情報報告」

 

「…まぁ、確かにな」

 

 

 ラセツとイタチは表向きだけだが『暁』の人間。 それなりに『暁』の秘密も知っているが、詳しい情報を渡しすぎたら『暁』で内通者がいると疑われてしまう。だからといって内容が薄すぎてもダメだ。その微妙なバランスを取るのは至難の業だった。

 イタチは深く考えそうになるラセツの額を突き、手を差し出した。

 

 

「さ、早く戻ろう」

 

「うん!」 

 

 

 ラセツはイタチの手を取って立ち上がり、座標を安定させて空間を指定し、《空間転移》を行った。

 視界の景色は一変し、目の前には長身で青白い肌にギザ歯という人間離れした風貌をした大柄な男、『暁』メンバーの1人、鬼鮫が居た。

 

 

「おや、随分と早いお帰りでしたね」

 

「簡単な任務だったからね」

 

「なら、疲れてはいませんね。始めるとしましょう」

 

「うん」

 

「…確か今日の組み合わせは…鬼鮫とラセツだな」

 

 

 ラセツと鬼鮫は向き合って立ち、ラセツは軽い準備運動。鬼鮫は首を鳴らし、イタチは地面に落ちている石を拾う。 双方の準備が出来たと判断したイタチは石を投げ、その石が地面に落ちた瞬間、轟音が周囲の空気を震わせた。

 木々と森特有の複雑な地形をお互いに駆使しながら刹那の攻防が繰り返される。最初はラセツが優勢に見えたが、戦闘の最中に鬼鮫が仕掛けたトラップに引っかかり、優劣は一気に逆転する。

 

 

「ぁ」

 

 

 瞬き程の一瞬だけ隙が出来たラセツに、鬼鮫は踏み込み、顔面に拳を叩きつける直前で拳を止めた。

 

 

「……私の、勝ちですね」

 

「あー……負けたぁ、今日の食事当番はラセツか……」

 

 

 これはラセツの修行と食事当番決めが同時に行える一石二鳥な修行だ。 ラセツが『暁』にきた時、鬼鮫が作った修行法。毎日交互にイタチか鬼鮫がラセツの相手をする。

 

 

「随分と…強くなりましたね。ラセツ」

 

「まぁ、この2年半…2人に嫌と言うほど扱かれたからね…」

 

 

 当たり前だが、食事当番決めの修行以外にも修行は行われており、色々扱かれ、時には半殺しにされた。思い出すだけで乾いた笑いが洩れる。

 

 

「強くなっただろう」

 

「なったけれども!!」

 

「少し強くしすぎた感じはありますね。食事当番を押し付けるのが難しくなってきました」

 

「確かにな」

 

「はーい、弱い者いじめ反対!!」

 

 

 片手をピンと伸ばして抗議をするが、2人は涼しい顔で受け流し、取り合わない。 ラセツはひとつ溜息を吐き、ふと気付いたように顔を上げて鬼鮫を見た。

 

 

「そいえばさ、鬼鮫って最初の頃『ラセツさん』だったのに呼び捨てに変えたよね??なんで?」

 

「阿保な貴方に敬称を付けるのが馬鹿らしくなったからですよ」

 

「よーし、今日のご飯は焼き魚に決定ね。イタチ、豪火球」

 

「落ち着け」

 

「ラセツが阿呆なのは事実でしょう」

 

「鬼鮫も黙れ」

 

 

 鬼鮫は大規模な術を扱い、ラセツは地形さえも歪めてしまう怪力を持つ。そんな2人が全力で喧嘩などしたら洒落にならない。イタチは事前に防ごうとするが、鬼鮫は忌々しそうに歯を噛み締めた。

 

 

「忘れたとは言わせませんよ。一度目は知らなかったとはいえ、二度ならず三度までも私を転移で素っ裸にしたこと。…あれはいつ思い出しても殺意が湧きますねぇ」

 

「その節は誠に申し訳ございませんでした」

 

 

 ラセツの阿保さがわかるエピソードが爆弾として落とされ、被弾したラセツは土下座せざる得なかった。 

 

 

「………イタチさん、何を笑っているんです。」

 

「いや…、」

 

 

 その場には勿論、鬼鮫のツーマンセルであるイタチも居た。

 転移した際に鬼鮫の服だけがパサリと落ちたあの瞬間と、慌てて鬼鮫の元へ転移した際に問答無用で素っ裸にされてしまった鬼鮫の姿は生涯忘れられない思い出だ。

 背を向けて笑いを堪えるように口元を抑えるイタチに、鬼鮫は諦めたように溜息を吐き、憎らしいほど美しい青空を見上げた。

 

 

「そういえば…そろそろですかねぇ、一尾の捕獲」

 

 

 本日、一尾の人柱力である砂漠の我愛羅捕獲にデイダラとサソリが向かっており、近いうちに尾獣封印の収集があるだろうと、先日ペインから報告が入った。

 

 

「デイダラのことだ。飛び出して遊んでいるだろう」

 

「サソリ、遅い。早くしろって怒ってそう……」

 

「クク…確かに」

 

 

 一瞬の美しさを求めるデイダラと、永遠の美しさを求めるサソリ。『暁』芸術コンビの戦闘力は申し分ないが、相性がいいかと言われれば頷き難い。否、一周回って仲が良いのかもしれないが。

 

 

《ラセツ》

 

「あ、リーダー」

 

 

 頭の中に直接響くような声。

 最初は気持ち悪さを覚えたが、今ではすっかり慣れ、平然と返答を返す。

 

 

《そちらの任務は終わったか》

 

「うん、終わったよ」

 

《なら、サソリとデイダラの所へ向かえ》

 

「噂をすれば」

 

《噂をしてたのか》

 

「少しね」

 

《そうか。……ラセツ、任務の際はくれぐれも…》

 

「ん、わかってる。ラセツは緊急脱出要員だもんね」

 

 

 ラセツの戦闘能力は非常に高く、実力者が揃う『暁』内でも上位を誇るが、ラセツよりチャクラ量の多い鬼鮫とのツーマンセル、もしくは単独の任務以外、基本的に戦闘員としては任務に参加しない。 理由はラセツの《空間転移》の能力だ。

 『暁』の任務は厳しく過酷なものが基本で、戦闘になれば激しくなることが多い。その際、敗北又は失敗が決定しているにも関わらず脱出困難な状況に陥ってしまった場合の為の『緊急脱出要員』だ。 それがこの2年半で定着したラセツの役割だった。

 

 その為、ラセツは固定のツーマンセルがおらず、基本的にペインの指示で大きな任務を担ったツーマンセルに緊急脱出要員として参加する。 緊急脱出要員は死んでは意味を為さない。なので戦闘は最小限に抑える、非戦闘員のスタイルをとっている。

 

 今回、ラセツが参加するツーマンセル先はデイダラとサソリ。鬼鮫という名の例外には当てはまらない為、通常の役割である緊急脱出要員だ。

 

 

《わかってるならいい。では、報告を待つ》

 

「了解」

 

 

 短く返事をして、イタチと鬼鮫に振り返る。 ペインの連絡は2人に聞こえていないはずだが、ラセツの返答でなんとなく察したらしく、鬼鮫はゆるりと首を横に振った。

 

 

「…どうやら食事当番は決め直しのようですね」

 

「うん、ごめんね。次はラセツがやるからさ」

 

 

 ラセツは『芸術コンビ』と書いてある札を取り出して、指に挟み、目を閉じて集中する。

 この2年半で、ラセツは自分の持つ札と対になっている札の場所を『目印』として、《空間転移》が発動出来るよう、飛雷神の術を参考にして、小南に協力して貰いながら完成させた。

 制作がかなり高難易度な札であり、ツーマンセルに1枚しかないので、デイダラが塵にしていないか、サソリが八つ当たりに破っていないか心配になりつつも札の気配を探る。

 

 

「……見つけた」

 

 

 無事『芸術コンビ』の札の目印を見つけた。心配していた事が杞憂に終わった事にラセツは胸を撫で下ろした。

 

 

「じゃあ、行ってくるね」

 

「デイダラの芸術にならないようにな」

 

「うっかり毒を刺されないように気をつけてくださいね」

 

「物騒なのヤメテ」

 

 

 物騒な見送りに肩を落とし、ラセツは『目印』に転移した。

 視界は一変し、目の前にいたイタチと鬼鮫の代わりにサソリが視界に入る。

 

 

「来たな」

 

「はーい、ラセツ参上しました!」

 

 

 直後、爆風と爆音が全身を襲い、発生源である上空を見上げれば、『風影』砂漠の我愛羅とデイダラが戦っていた。

 

 

「ディー君は相変わらず派手だねぇ…」

 

「チッ、遅ェ」

 

「まぁまぁそう言わずにさ、気長に待とう?」

 

「オレは人を待つのも待たすのも嫌いだ」

 

「なんか、サソリって年寄りなのに年寄りっぽくない」

 

 

 暇な時間を楽しむ年寄りどころか、サソリは『暁』のメンバー内で1番時間にせっかちだ。 唇を尖らせるラセツをサソリは厳しく睨みつける。

 

 

「うるせェ傀儡にするぞ」

 

「軽率に殺そうとするの辞めて」

 

 

 本日で何度目かの溜息をついた瞬間、大きな影がかかり、視線を向けると、鳥を模した起爆粘土に乗るデイダラと、起爆粘土の尾に巻かれた我愛羅の姿があった。

 

 

「ディー君おかえりぃ」

 

「遅せーぞ。待たせんなっつったろ」

 

「こいつ、結構強かったんだ。うん」

 

 

 我愛羅は人柱力な上に、砂隠れの頂点である風影の称号を持つ実力者だ。強くないわけがない。「だからもっとちゃんと準備しとけって言ったんだ」と叱るサソリにデイダラは不機嫌そうに唇をへの字に歪め、ラセツを見た。

 

 

「ンなことより疲れた。ラセツの転移で帰ろうぜ、うん!」

 

「無理だよ。我愛羅の服だけ転移しちゃう」

 

 

 人柱力は膨大なチャクラの塊である尾獣が封印されている。もしラセツが《空間転移》を行えば、服だけが転移して、砂漠の上に素っ裸の我愛羅が転がる事態になってしまう。

 

 

「チッ、肝心な時に役立たねぇな」

 

「今回ばかりは旦那に賛成だな、うん」

 

「あれ?そんなこと言っていいの?」

 

 

 文句を言う芸術コンビの顔を、ラセツは大きく見開いた紫紺の瞳で見つめる。その眼光は狂気すら感じるもので、デイダラの額から一筋の汗が流れる。

 

 

「ラセツ、何回サソリとディー君の事助けたっけ??え?」

 

 

 『暁』の中でも、考えなしに先陣切って飛び出す事が多いデイダラと、その相棒であるサソリは緊急脱出要員であるラセツを頼った回数が1番多い。 なのに、肝心な時に役に立たない能力と言われれば流石に怒りが込み上げる。

 

 デイダラは視線を背けて口をへの字に曲げ、サソリはバツが悪そうに舌打ちをする。 ラセツは肩を落とし、2人なりの精一杯な謝罪を受け入れた。

 

 

「さ、帰ろ。あの子みたいに追ってこないうちにさ」

 

「あの子?……あぁ、アイツか」

 

 

 余裕のない足取りで追ってくる気配に振り返ると、全身真っ黒な任務服に、奇抜な化粧を施した青年、カンクロウが居た。

 

 

「……我愛羅は、返してもらうぜ」

 

 

 我愛羅は『暁』の目的だ。はい、どうぞ。と渡すわけにはいかない。 自分の目的を達成したいのならばカンクロウを倒すしかない。

 そして又、カンクロウも自分の目的を果たしたいならば、『暁』を倒さなくてはならない。 カンクロウは背負っている巻物を取り出して広げ、傀儡を口寄せした。

 

 

「ラセツが行こうか?」

 

「お前は非戦闘員だろうが」

 

「えへへ」

 

「はぁ…コイツの相手はオレがする。お前は人柱力に着いて、ついでにデイダラのお守りをしてろ」

 

「はーい。ほらディー君、行きまちゅよ〜」

 

「ラセツに旦那!!後で覚えてろよ!!うん!」

 

「ディー君、乗せて」

 

「聞けよ!!うん!」

 

 

 文句をギャンギャンと叫ぶデイダラを無視して、ラセツは鳥を模した起爆粘土に乗る。

 

 

「サソリも早めにきてね。遊んじゃダメだよ」

 

「安心しろ。オレは人を待つのも待たすのも好きじゃねーからな。すぐ終わらせる」

 

 

 

 

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