羅刹の希求   作:蒼林檎

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第三話『忍術』

 木ノ葉に来て約3ヶ月

 

 ラセツは既にカカシの家から出て1人暮らしを始めていた。

 毎日飽きずに里の散歩に出ており、頭の中に里の地図が出来上がってきた頃、ラセツの興味は里から忍へと変わっていた。

 

 

「カカシさんは忍…だよね??」

 

「ん?そうだね」

 

 

 本日、ラセツはカカシ宅にお邪魔していた。

 1人暮らしを始めた今でも週に1、2回の頻度でカカシの家にお邪魔するか、会うかしている。

 

 

「忍がやってる、忍術ってどうやってやっているの??」

 

 

 里を散歩している時やナルトと遊ぶ時、忍の演習場を横切る時がある。その際、ラセツは忍が忍術を使って戦う所を見て興味を持った。

 ラセツは時空間忍術である《空間転移》が使えるが、それは血継限界による固有能力であり、普通の忍術の使い方は全く知らないからだ。

 

 

「あー、それね。チャクラを練って術を発動させてんの」

 

「ちゃくら??」

 

「あー、そこからか。ま、そうだよね」

 

 

 チャクラは基本、忍者学校に入って初めて教えられる事だ。

 カカシは本を閉じてから立ち上がり、棚から巻物と筆を取り出してからラセツの前に座る。

 

 

「簡単に言えば忍術を発動させる為のエネルギーのこと」

 

 

 巻物を開くと中身は真っ白で、カカシはその真っ白な巻物に慣れた手つきで文字と絵を描いた後、説明し始めた。

 

 

「簡単に説明するとだな……チャクラとは忍が術を使う時に必要とするエネルギーの事で、人体の細胞の1つ1つからかき集めて生み出す『身体エネルギー』と、多くの修行や経験によって積み上げられる『精神エネルギー』の2つで構成されている。」

 

「それって身体の中にある、この力の事??」

 

「この力…とはわからないけど、多分あってる。…ラセツが空間転移を使う時に使う力って言った方が分かりやすいかな。」

 

「うん、わかった!」

 

「で、この『身体エネルギー』と『精神エネルギー』を体内から絞り出し、練り上げて印を結んで術が発動する……こんな感じで」

 

 

 カカシは素早く、しかしラセツが視認出来る速さで印を結び、影分身をした。 術によって2人に増えたカカシにラセツは紫紺の瞳をめいいっぱい輝かせた。

 

 

「ねぇ、カカシさん!これ、ラセツにも出来る??」

 

「多分だけど出来るよ。やってみる?」

 

「やってみたいです!師匠!!」

 

「よし。ならやってみようか。ラセツ、いつもの広場まで行くよ」

 

 

 ラセツは弾む足取りで玄関まで歩き、靴を中途半端に履いたまま外に出る。 初めて会った時とは比べ物にならない程、年相応にはしゃぐようになったラセツにカカシは思わず唇を綻ばせた。

 

 

「ししょー!!早くー!!」

 

「はいはい。…ラセツ、ちゃんと前見て歩きなさいね」

 

「わかってる!!」

 

「いやいや、わかってないでしょ」

 

 

 分かってるなどと言いながら、今まさに後ろを向いて歩くラセツにカカシは溜息を零した。

 カカシの家から歩いて約2分程の所にある広場に着くと、もう既に到着していたラセツがいた。

 

 

「師匠!!まずはなにするの?」

 

「んー…効率よくいきたいから、術の前にまず、チャクラコントロールから始めようか」

 

「えー……忍術じゃないの?」

 

「ま、そういうな。チャクラをバランス良くコントロール出来なければ術の効果が半減してしまうばかりか、発動さえしてくれなかったりするからね」

 

 

 カカシの説明にラセツは不服そうだが納得したように屈伸などの準備運動を始めた。

 

 

「じゃあ、そのチャクラコントロールってなにすればいいの??」

 

「ズバリ、木登り!」

 

 

 忍を目指す者ならば誰もが通るこの修行法を聞けば大体の者が不満を持つ。なのでカカシはラセツもその中の内の1人だろうと思っていたが、ラセツは不服そうだった顔から一変、嬉しそうに瞳を輝かせていた。

 

 

「…木登り、得意なの?」

 

「うん!毎日てっぺんまで登ってたの」

 

「そりゃすごいな。見せてくれる?」

 

「もちろん!」

 

 

 地面を軽く蹴り、1番低い幹を掴んで軽くつけた遠心力と鬼族特有の剛力で幹の上に飛び、驚異的な体幹で幹の上に立つ。 それを数度繰り返し、ラセツはあっという間にその木の1番高い幹にぶら下がった。

 

 

「こりゃ、本当にすごいな…。そこらの忍よりも身体能力あるよ」

 

「えっへん!!」

 

 

 鬼族特有の身体能力と強靭な肉体からくる剛力を駆使ししていたとはいえ、地面を蹴ってから1番上の幹に辿り着くまでにかかった時間は約10秒とかなりのスピードだった。 毎日木登りをしていた慣れは伊達ではない。

 

 

「でも、油断するなよ。落ちるぞ」

 

「大丈夫!!…ーーーあ、」

 

 

 叫んだ拍子に力が入りすぎてしまったのか、ぶら下がっている木の幹を握力で握りつぶしてしまった。

 

 

「言ったそばから何やってんの!!」

 

 

 真っ逆さまに落ちるラセツを受け止めようと走るが、ラセツはしなやかな動作で違う木の幹を掴み、平然と木から降りた。

 

 

「…なんだ、普通に降りられるのね」

 

「これくらいの高さなら全然平気!」

 

 

 木から落ちた時の対処法の慣れ様、そしてラセツが言ったこの言葉に今登っている木よりも高い木から何度か落ちている事が窺える。 目の前のおてんば娘にカカシは、初対面にて大人しい子どもだと思っていた頃のラセツが酷く懐かしく感じた。

 

 

「…じゃ、これからやる木登りの説明を始めようか。ラセツが知ってる木登りとは一味違うからね」

 

「……?」

 

「まぁ、見ててよ」

 

 

 カカシの木登りはラセツが見せた身体能力と持ち前の剛力を駆使したようなものではなく、手を使わず歩く様に、垂直に登っていた。

 

 

「す、すっごい…!」

 

「ま、簡単に言えば足だけで木に登るって事だね。足の裏にチャクラを溜めて、吸着させるイメージかな」

 

 

 カカシは木の幹に足の裏だけでぶら下がる様に逆さになる。しかし、チャクラで吸着させている為、落ちることはない。

 

 

「慣れれば無意識にできるようになるけど、最初は難しいだろうから助走つけてやっていいよ。」

 

「わかった!」

 

 

 カカシは木から降りて、少し離れた木にもたれかかって懐に忍ばせていた愛読書を開く。 少し本から視線を離してラセツを見れば、重力によって容赦なく何度も地面に叩きつけられているラセツが見える。

 

 

「クク、苦戦してるねぇ…」

 

 

 時空間忍術なんて超高等忍術を使えるから、チャクラコントロールは楽々とクリアすると思っていたのだが、どうやらそんな事はないらしい。

 

 

「それにしても…ラセツの身体能力と怪力は凄かったな……」

 

 

 カカシは先程ラセツがみせた木登りを思い出す。

 あれほどの身体能力を持っていれば、最初の難関である木と木を飛び移る訓練はそう苦労しないだろうし、太い木の幹をなんて事ない様に握りつぶした剛力も合わせれば体術なども得意だろう。 

 元の能力がかなり高いラセツはカカシをも超える忍になる片鱗をもう既に魅せていた。

 

 

「あの子がお嫁にいったら…名前通りの鬼嫁になりそうだな……」

 

 

 そう、何度も木から落ちるラセツを見る。

 白く細い手足は幼いが故に短く、身体もまだまだ小さい。しかし、微笑めば誰もが頬を緩める愛らしい顔立ちに、柔らかく流れる様な藍色の髪という将来有望なラセツの容姿は、凄い忍になる片鱗と同時に鬼嫁になる片鱗も魅せる。

 

 

「ま、まだまだ先の事だろうけど」

 

 

カカシは再度本に視線を落とした。

 

 

✳︎✳︎✳︎

 

 

「…で、出来ない…!!なんで…??」

 

 

 カカシがやってみせた手を使わない木登りを始めて数十分。ラセツは苦戦を強いられており、段々と苛つきが集中を濁す。

 

 

「いやぁ、下手くそだねぇ」

 

「し、師匠…、」

 

「はいはい。師匠がちゃんと教えてあげるから」

 

 

 カカシが乱れた藍色の長髪を透くように整えながら頭を撫で、尻餅をついているラセツの腕を引っ張り、立たせる。 

 

 

「まずはイライラしないで落ち着く事ね。今のラセツだと、精神エネルギーと身体エネルギーのバランスが簡単に崩れちゃうから」

 

 

 その言葉を聞き、ラセツは目を閉じて蓄積された苛つきをどうにかして抑え込み、身体の中に流れる力に意識を集中させる。

 

 

「そう、そのまま集中して、足の裏に溜めるチャクラを適量を保って……登る!」

 

「はいっ!」

 

 

 ラセツは閉じていた瞼を開き、勢いよく木に登り始め、数歩の所で地面に落ちた。 しかしそれはラセツにとって大きな進歩であった。

 

 

「の、登れたーーっ!!師匠、見た??いまの!!」

 

「うんうん見てたよ。倍ぐらい登れるようになったね」

 

 

 自分自身の成にはしゃぎ、紫紺の瞳を興奮と嬉しさで輝かせるラセツの顔には『褒めて』と顔に書いている。 そんなラセツにカカシは唇を綻ばせ、要望通りラセツの頭を褒めるよう、大雑把に撫でた。

 

 

「口で教えられることは教えた。あとは徹底的に身体で覚えろ」

 

「すっごい脳筋な方法…でも、頑張る!」

 

「うん。頑張って」

 

 

 それから生活に必要な最低限と、毎日通っている甘味処に行く時間以外ほぼ全ての時間をチャクラコントロールの修行である、木登りに時間と労力を注いでいた。 

 

 カカシにチャクラコントロールの修行を教えてもらってから約3週間。 毎日の修行が実を結び、木登りがほぼ無意識下で出来る様になった頃、ラセツはカカシに修行の成果を見せに来ていた。

 

 

「どう??」

 

「うん、完璧だね。」

 

 

 ラセツは涼しげな表情で木の枝に足の裏だけでぶら下がる。一切の無駄なく安定してチャクラをコントロール出来ているラセツにカカシは満足げに頷いた。

 カカシの太鼓判を貰ったラセツは喜色浮かべて木から飛び降りた。

 

 

「次は忍術??」

 

「そうだね、忍術かな。まずは簡単なのからいこうか……《変化》」

 

 

 カカシは印を組み、チャクラを練る。すると次の瞬間に白煙がカカシを包み込み、白煙が晴れる頃にはカカシの姿はなく、代わりに1番見慣れた姿形がそこにあった。

 

 

「…ラセツだ…!!」

 

 

 感動する様に紫紺の瞳を大きく見開き、驚きからか数度瞬きをしてからラセツに変化したカカシを凝視する。 じっと見られることに居心地の悪さを感じたのか、カカシはすぐに変化を解いて説明を始める。

 

 

「変化する対象をしっかり想像して、その通りになる様チャクラをしっかり練る事。…印はこうね。まずはオレに変化してみようか。」

 

「はい!……《変化》!!」

 

 

 年相応に元気よく手をあげた後、先程教えで貰った印をぎこちない動作で組み、瞼を閉じて身体の中に存在する力に意識を集中させて練り上げた。

 自分の身体が変化した感覚に目を開けると、眉を寄せたカカシの顔がそこにあった。

 

 

「うん。さすが先にチャクラコントロールをやらせただけあるね。チャクラコントロールもチャクラの練り方もバッチリな筈なんだけど…なんでかな、すっごい下手くそだねぇ…」

 

 

 そう言われて自分の姿を見下ろす。全身を見ていなくとも十分に伝わるほど歪な姿をしている自分の姿が視界に映った。

 ラセツは変化を解き、再度教えてもらった印を組んだ。

 

 

「………もう一回」

 

「はい、どーぞ」

 

 

 それから何度変化を失敗したのだろうか。両手の指で数えきれなくなった所で数えるのを辞めた事は覚えている。 カカシも丁寧に教えるが、何度やっても上手く発動する事は無かった。

 

 

「……空間転移はできるのに、なんで変化が出来ないの?」

 

「なんでと言われても…あれは、なんか出来るし…。」

 

「じゃあさ、転移の時はどうやってる?」

 

「なんかね、コップにチャクラを流し込んでる感じ」

 

「コップに?」

 

「うーん…、コップにチャクラを注いで、いっぱいになったら転移できる…って感じ。」

 

「なるほどねぇ…。術の札みたいなものか。」

 

 

 札は完成されている術式に一定量のチャクラを流し込めば術が発動する。 ラセツの固有能力《空間転移》も似たような発動条件なのだろう。

 

 

「…聞いてみたかったんだけどさ。視界の外に転移する時、うっかり人を刻んじゃうとかないの?」

 

「えぇ、師匠物騒……」

 

「いや…気になるでしょーよ。うっかり境界に挟まれたら堪んないし。」

 

 

 ラセツの空間転移は空間を交換して瞬間移動をする時空間忍術。 交換する空間と交換しない空間に発生する境界は例外なく断裂される。

 

 

「むぅ…たしかに……でも、うっかり境界に挟む事はないよ」

 

「そうなの?」

 

「うん。境界の周囲はね、簡単なモノだけど感知出来るの。」

 

 

 個人が特定できるほどの精密さは無いが、何かが居るという簡単な感知をすることが可能な為、人や動物を巻き込んだ事はない。

 

 

「でも、生き物限定だから何度も歩いてちゃんと覚えなきゃ…、」

 

 

 言葉を止め、ラセツはカカシの視界から消え、代わりに見事な断面をした木が目の前に転がった。 ラセツは空間転移した木の後ろから姿を現し、空間転移によって断裂されて転がっている木を指さした。

 

 

「そんなふうになっちゃう」

 

「なーるほど。…しょっちゅう散歩に出てるのはそのせいでもあったのね」

 

「それもあるけど、里を探検して座標を記録してる目的の方が大きいかな」

 

「座標の記録??」

 

「《空間転移》はね、1度ラセツが行ったことある所にしか転移できないから」

 

「へぇ…」

 

「因みに此処から……あの木くらいまで記録できる!」

 

 

 ラセツが指さしたのは3m程先にある木だった。

 まだまだ謎が多いラセツの《空間転移》にカカシは興味深そうに耳を傾けていたが、ラセツは自慢げな顔からふと、ハッとしたような表情に変わる。

 

 

「……って、ラセツの転移の事は良いの!!変化の術のコツ教えて!」

 

「あー、はいはい」

 

 

 こうしてラセツはカカシに師事し、忍として必要になる能力を少しずつだが着実に身につけていった。 因みに忍術の才能はほぼ無く、1ヶ月で諦めさせられた。

 

 

 

 

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