羅刹の希求   作:蒼林檎

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おそくなりました。


第三十二話 『踏ミ潰シ』

 

まだ鳴り止まないものの、次第に収まってきた心臓の鼓動を軽く聞きながら、ゆったりとした息をひとつ吐く。

 

 

「ぁ…リーダーに報告しなきゃ」

 

 

 指輪にチャクラを僅かに注ぎ込み、ペイント通信を繋げる。 一本の糸が繋がる感覚を確かめ、ラセツはペインに呼びかけた。

 

 

「リーダー」

 

《…どうした》

 

「ごめん、九尾は捕獲できなかった。あと、サソリがやられた」

 

《サソリが…?そうか。デイダラはどうだ》

 

「心配ねーよ。うん」

 

「分が悪くて引いたの。いい報告が出来なくてごめんね」

 

《そうか、わかった。…ラセツ、次の任務だ》

 

 

 『暁』古参メンバーが殺されたというのに、ペインの反応はひどくあっさりしていた。

 所属して2年半ほど。それもラセツは『暁』の裏切り者。 そんな立場に立つラセツであっても、サソリの死に対して何も思わなかったわけではない。 それなりの情が湧いていた。

 

 温度のない組織関係に居心地の悪さを覚えながらも、『暁』のラセツを精一杯表に出した。

 

 

「えっ、早くない?」

 

《問題ない。ただのおつかいだ…大蛇丸のアジトへ行き、指輪を奪還しろ》

 

「それ、問題ない訳ないし、ただのおつかいじゃないよね」

 

《報告を待っている》

 

「あ、聞く耳なしね。知ってた」

 

 

 一方的に通話は切られ、頭の中に居座るような変な違和感は一気に消えた。 ラセツは大きく息を吸い、肩を落としながら息を吐いた後、ぐったりと座るデイダラにひらひらと手を振った。

 

 

「…じゃあ、ラセツ行くね」

 

「おー、死なないようにな、うん」

 

「ディー君こそ気をつけてね。今隙だらけなんだから」

 

「うるせー!早くいけ、うん!!」

 

 

 元気だったら、きっと起爆粘土を大量に投げそうなほどご機嫌ナナメなデイダラから逃げるように背を向けると、キョロキョロと挙動不審に動き回っている渦巻きの仮面を身につけた男を見つける。

 

 

「ん?ありゃ…トビだな」

 

 

 挙動不審な仮面の男。 ラセツはこの男を『暁』加入前から知っている。 この男はうちは抹殺事件にてイタチに協力していた協力者だ。

 

 

『お前…うちはじゃないな。何者だ』

 

「あーー!デイダラ先輩にラセツ先輩みーっけ!!」

 

 

 本当に同一人物かと疑ってしまうほどの喋り方。 その上、当時感じた威圧感はまるで無く、逃げ出す能と場を和ます能力に長けているだけの無害な男だ。

 ラセツは、あの威圧感を全く見せない『無害な男』として認識させるトビが、恐ろしかった。

 問いたいことも確かめたい事も色々ある。しかし、

 

 

『トビ、という男には知らないふりをしろ』

 

 

 加入してすぐ、イタチに言われた忠告に従い、ラセツは何も知らないふりをする。

 

「こんなところにいたんだ〜」

 

「探シタゾ」 

 

「ゼツもいたんだ」

 

「デイダラ先輩とラセツ先輩、あんまりにも見つかんないから死んじゃったのかと思いましたよー!!よかったー!」

 

「勝手に殺すんじゃないの!」

 

「あいたたタタタタ!!ラセツ先輩、痛い!!あ、そうだ!」

 

 

 首をギリギリと締めていくラセツの腕を右手で軽く叩きながら、左手はポケットに突っ込み、何かを探すようにガサゴソと忙しく動かし、やがて1枚の紙を取り出した。

 

 

「ラセツ先輩!これ、回収しときましたよ!」

 

 

 これはサソリに渡していた転移用の札だ。 作り方が非常に難しく、失敗も多いため、物凄く貴重な札だ。 正直助かった。

 

 

「あー、ありがとう」

 

「いえいえ〜どういたしまして!」

 

「これ、ディー君持ってて。間違っても爆破しないように!」

 

「約束は出来ねーな、うん」

 

 

 この札を作る為の苦労を知らないわけではないだろうに、そんなことを言うデイダラの怪我を足でグリグリと痛めつけていると、ゼツが辺りを見回しながら問いかけた。

 

 

「人柱力ハドウシタ」

 

「オイラのノルマは終わってんだろ」

 

「ラセツも。ノルマは終わってるし」

 

「あー!逃がしたんですねー??ダメじゃないですかー」

 

「黙れトビ!!」

 

 

 今度はデイダラに首を絞められていくトビ。

 少し苦しげに。しかし軽さは忘れずに。誰の危機警報にも引っかからない『無害』を、表に出すトビに背筋が凍るような恐怖を抱くが、全てを押し殺しながら柔らかい笑顔を向けた。

 

 

「じゃあ、トビ、ゼツ。ディー君のことお願いね。ラセツ、『空』の指輪探してくる」

 

「わかりましたー!デイダラ先輩が爆死しないように見張ってますね!」

 

「お前は窒息死だ!うん!」

 

「気をつけてね〜」

 

「死ヌナヨ。荷物運ビガイナイト色々面倒臭イ」

 

「ラセツを雑用扱いとは死にたいの?黒ゼツ」

 

「冗談ダ」

 

「ならいいけど。……じゃ、またね」

 

 

✳︎✳︎✳︎

 

 

「あっーーーもう!!見つかんない!!」

 

 

 

大蛇丸のアジトを探して10日目。大蛇丸のアジトは一向に見当たらない。否、見当たらないと言うのは語弊がある。 見当たらないのではなくて、指輪の無い元アジトならばいくつも見つけたからだ。

 

 

「近くにあったら反応してくれるみたいだけど…ホントかな……」

 

 

 そう、疑心暗鬼な色を滲ませる視線が向けられるのは左手の小指に嵌まる指輪。 嵌めている本人しか分からないほど弱いリンクではあるが、反応するようになってるらしい。

 しかし、この指輪に反対なんて来たことがない。

 

 

「このアジトに無かったら暫く休憩しよう…」

 

 

 まず、S級犯罪者 大蛇丸のアジトを探せ。と、お使い感覚で言うのがおかしいのだ。 指輪がないハズレのアジトだったとしても、何年も木ノ葉の追跡から逃れている大蛇丸の、綺麗に隠れたアジトを見つける方が難しい。

 なので少しくらい休憩という名のサボりをしても怒られないだろう。そう思って入ったのに。

 

 

(い、いたーー!サスケみっけーー!!)

 

 

 偶々、空間転移の境界に反応があり、好奇心から覗いた部屋にはまさかの人物が横たわっており、声に出さず、心の中で叫んだ自分をもみくちゃに称賛したい。

 気配を悟られるのはマズいと、最大限気配を消すことに集中しながら、その場をそっと離れーーーピリ、とした弱い電流のような反応が左手の小指に走った。

 

 

「指輪……」

 

 

 まぁ、そうだよね。とラセツは思う。

 今まで覗いていた大蛇丸のアジトは当然、証拠を最小限にする為、もぬけの殻だ。 持ち歩いているという事は予想がついていた。

 そして、ここにサスケがいるといる事は大蛇丸もいるという事。 危険人物が多すぎるアジトの中で、いつでも転移できるようにチャクラを練り、共鳴が始まった方向へ進んでいく。

 

 

「……ここでもない」

 

 

 弱々しい反応がに変化は無く、遠ざかっているという事はないだろうが、近づいているのかも分からない。

 早く見つけたい。と、大蛇丸のアジトから出たら甘味処で栗饅頭を食べようと心に決め、必死に探していく。

 

 

「…お邪魔しまーす」

 

 

 誰もいないのは境界の反応から分かってはいるが、相手が、S級犯罪者の大先輩である大蛇丸の為、なんとなく挨拶をし、そっと部屋に忍び込む。

 大量の資料や珍しいもの、奇妙なもの、広げられる実験データからここは大蛇丸の部屋だろうなと分かり、ここは重点的に探そうと部屋を見渡すと、特に異質な存在を放っている枯れ木のような手が目に入る。

 

 

「あ、『空』」

 

 

 枯れ木のような手に嵌っている指輪は目当てである『空』の指輪であった。 罠がないか慎重に確認した後、そっと指輪を取る。

 

 

「はぁ、任務完了…」

 

 

 あまりにも呆気なかったが、安堵から緊張していた肩を落とす。 しかしまだ油断はできない。なんせ、大蛇丸のアジトだ。何が起こるか分からないし、個人的に触るのも無理なので迅速に部屋から出たい。

 本当ならすぐにでも転移をしたかったが、物が多いこの部屋で転移すれば絶対に何か断裂してしまうと、ラセツは廊下に出て、転移をしようとした、その時。

 

 

「う、わっ、」

 

 

 突然の地鳴り。 ビシビシと壁に亀裂が入り、亀裂が生まれた方向を見れば、アジトの壁や天井が盛大に崩れていた。

 

 

(あの方向、確かサスケが…)

 

 

 あのサスケの事だ。 絶対に無事だろう。しかし、何故アジトがいきなり崩れたのか気になる。 大蛇丸のアジトはどれもかなり頑丈なもので、ちょっとやそっとでは崩れない。

 すぐに帰りたいという気持ちは、少しの興味に上書きされ、危なかったら転移すればいいや、という贅沢な逃げの選択肢から、ラセツは好奇心に従った。

 

 気配を最大限に消しつつ駆け足で移動し、ある程度近づいた辺りで、かろうじて残った壁に身体をくっつけて様子を伺いーーー茫然とした。

 

 

「うそ……」

 

 

 天井が崩れたせいで、眼前に広がる美しい蒼穹の下に、まずは存在を確認していたサスケが居た。 そして驚くのはここからだ。

 サスケが漆黒の瞳を忌々しげに細めながら見下ろしていたのは、知らない男2人と、まさかのナルトとサクラ。 カカシは確認出来ないが、第七班班員がここに大集合している。

 

 直後始まった戦闘を、少しヒヤヒヤしながら観戦しーーー我に返った。 目的も果たしたし、激しい戦闘の影響で隠れている壁が壊れて見つかってしまう前に逃げようと思ったその瞬間。

 

 

「…その術はやめておきなさい。サスケ君。そしていらっしゃい…お客さん」

 

「うげ、」

 

「居るのは分かってるわよ。さっさと顔を見せなさい」

 

 

 大蛇丸に隠れていることを看破され、驚愕に一瞬身を固まらせた。 その一瞬で大蛇丸はラセツが隠れていた壁を破壊した。

 

 

「うわ、怖」

 

「あら…ラセツちゃんじゃない…噂通り『暁』に加入したのね」

 

「え、はい」

 

 

 ラセツが見に纏う『暁』の装束に、大蛇丸は懐かしさからか笑みを深める。そんな大蛇丸に鳥肌を立てていると、別方向から声が飛んできた。

 

 

「ラセツ!」

 

 

 思わず肩を跳ねさせ、何度か瞬きをしながらその方向を見ると、眉を寄せ、唇をへの字に曲げ、拳を握りしめるナルトと、両手を口元に当て、涙を浮かべるサクラの姿があった。

 痛々しげな2人の姿に、締め付けられるように、叩きつけられるように胸が痛い。 そんな心を踏み潰し、軽く手を振り、ヘラリとした笑みをラセツは浮かべた。

 

 

「あ、えっとナルトとサクラは10日ぶり。サスケは久しぶり。第七班で大集合だね。びっくりしたよ」

 

「ンなのどうでも良い!!サスケと一緒に木ノ葉に帰るぞ!」

 

「残念、却ーーー」

 

 

 却下、と言おうとした瞬間、銀線が走り、ラセツは反射的にしゃがみ込み、ガラ空きな腹に一撃入れた。

 いきなり攻撃を仕掛けてきた知らない男…青年の方はナルト達が立っているところまで吹っ飛ばされる。 ラセツは吐血し、白い肌を汚す口元を拭っている青年に、瞳を細め、比例するように刺すような視線になる紫紺の瞳を向ける。

 

 

「……いきなり攻撃なんて何。てか貴方、誰」

 

「サイと申します。…貴方がラセツさんですね」

 

 

「そうだけど」

 

「どうか、木ノ葉に戻っていただけませんか?」

 

「…それ、攻撃した後に言う事?」

 

「気絶させるつもりでした。きっと、あなたは聞かないから」

 

「なぁんだ、分かってるじゃん」

 

「でも、失敗した。だから説得します。木ノ葉に戻ってきてください」

 

「説得に失敗するから気絶させようとしたんでしょ。意味ないことしないで。……まぁ、一応却下しとく」

 

「考え直しては、くれませんか」

 

「頭悪いね、却下」

 

「何度でも、説得します。貴方の心が動くまで」

 

 

 言葉が詰まった。何度も頭を下げて『お願いします』と説得するサイ。どこまでも純粋な涙を流し、叫ぶように懇願するサクラ。真っ直ぐ手を差し伸べて言葉を主張するナルト。

 

 やめて欲しかった。羅刹はこんな事をされていい人間じゃない。何より、何もかも捨て、縋ってしまいそうだったから。

 込み上がってきた感情を、何千回、何万回、何億回目か。踏み潰して躙る。そうやって何度も何度も『自分』さえも偽ってきた。

 

 

「…みんな揃って甘ちゃんなんだから。…ホンットに反吐が出る」

 

「それはオレも共感だな」

 

 

 邪魔な『暁』を、労力なく排除してくれるからか。沈黙を守っていた大蛇丸側からふと声がする。視線を向けて確認せずとも声の主はわかった。

 

 

「あれ、珍しく気が合うじゃん、サスケ」

 

「あぁ、そうだな、ラセツ」

 

「正直返答は、どっちだっていいんだよ」

 

「ーーー!!」

 

 

 強引に会話に割り込み、脅威の天秤が傾いた方…ラセツに、術を展開させたのはもう1人の認識のない男だった。

 

 

「力尽くで連れ帰るから」

 

「木遁秘術…!?」

 

「そう、当たり。ボクはヤマト。よろしくね」

 

 

 ギリギリと身体に巻きつく木遁を締め上げながら、ヤマトはにこやかに挨拶する。 その笑みに返すように、ラセツも笑みを作り、向けた。

 

 

「貴方が死んだ後ならいくらでも宜しくしてあげるんだけど」

 

「それはお断りしたいかな」

 

 

 木遁は緩む事なく、今でもギリギリと締め上げていく。 当たり前だがかなり頑丈であり、何本もグルグルと巻き付けられると鬼族の怪力を持ってしても、通常時では勿論、角1本でも抜け出せるか分からない。

 

 

「…痛ぁ、ホントに力づくだね」

 

「余裕そうな君にびっくりだよ。普通なら気絶なのに」

 

「ラセツ、普通じゃないから。……そろそろ帰るね」

 

「…ーーーっ!?」

 

 

 《鬼化》せずとも、この木遁から抜け出せる便利な術をラセツは持っている。

 

 

「もう、用は済んでるから」

 

 

 木遁の術中ではなく、別の方向から声が聞こえ、弾かれるようにヤマトはその方を向く。

 バラバラになった木遁の術で生み出された樹木を地面に落としながら、余裕そうに笑うラセツに、ヤマトは畏怖の念を抱く。

 

 

「あら、『暁』が此処になんの用事だったのかしら?」

 

「指輪だよ。貴方が持ってたから回収しに来たの」

 

「あぁ、それ」

 

「返してもらうよ。これ『暁』のだし」

 

「良いわよ。もう要らない物だから」

 

「じゃあ、早急に返して欲しかったな」

 

「そんな機会、あるわけないでしょ」

 

 

 『暁』から抜けた者は裏切り者として処分される。 大蛇丸と互角。それ以上のメンバーがいる『暁』に指輪を返すだけでわざわざ危険を犯すわけがない。

 それがわかっているから、ラセツは力無く笑うだけだった。

 

 

「それじゃあね」

 

「えぇ、せいぜい殺されない事ね」

 

「意外。殺しに来ると思ってた」

 

「気分よ、気分。私の気が変わらないうちに去りなさい」

 

「はーい」

 

 

 引き留めるために叫び、手を伸ばすナルト達に、ヒラヒラと呑気に手を振ってから《空間転移》でその場を去った。

 

 

✳︎✳︎✳︎

 

 

「少しくらいサボっても文句は言われないよね」

 

 

 大蛇丸のアジトから去って、安堵感から草原に横たわり

草の匂いを堪能しながらサボりを満喫する。 任務が終わったら絶対食べると心に決めていた栗饅頭を買い、味わった後、いつも通り通信に繋いだ。

 

 

「リーダー」

 

《…どうした》

 

「指輪、回収したよ」

 

《ご苦労。これからこのアジトへ向かえ。『空』の指輪を調整する》

 

「了解」

 

 

 お持ち帰りとして紙袋に入れてもらった栗饅頭をひとつだけ頬張り、はしたなく伸びをした。

 

 

「じゃ、向かいますか…休みを頼むの忘れないようにしなきゃな」

 

 

 眩しいくらいの光を放つ昼の空。ラセツはナルトの瞳と同じ蒼穹に『空』の指輪は嵌っている左手で影を作った。

 

 

 

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