羅刹の希求 作:蒼林檎
あれからペインの元へ向かい、『空』の指輪を調節してもらったラセツは次回の封印から参加することが告げられ、重い足取りでアジトを出た。
封印参加と同時に暫くの自由行動を許可されたラセツは、木ノ葉の諜報員『柘榴』として自来也と接触していた。
「……今日はここまでです…自来也様…むにゃ」
「随分と眠そうだのォ…」
「『暁』追ってるとぐっすり寝れる日なんてないですよ…この前なんて10日間移動しっぱなしで…自来也様を見つけるのも一苦労だし……」
「難儀だのォ……そうだ、柘榴」
自来也は懐に手を突っ込み、小さな紙袋を取り出す。 その紙袋は木ノ葉でラセツが通っていた甘味処のモノで、見覚えがあった。
「ほら、土産だ。いつも世話になっとるからのォ」
「きゃあ自来也様大好き愛してる!」
中に入っていたのは桜餅や牡丹餅、栗饅頭などのお菓子。 今食べていいか断りを入れ、許可をもらった後、先に好物である栗饅頭を頬張る。
甘い口溶けに思わず緩む頬を押さえる。その時、じっと自来也に見られている事に気づく。
「…どうしたの?自来也様」
「いや…ある少女のことを思い出してな」
「ある、少女?」
「……『暁』の、ラセツだ」
自分の名前が出てきた事に、ラセツは僅かに肩を震わせる。 もしかしたら柘榴の正体に気づいているのかもしれないという考えがよぎるが、自来也ほどの忍がラセツにバレたと悟らせる事をするだろうか。
答えは否だ。ラセツは動揺を見せないように無表情を保ち、冷静さを欠かないよう、心がけながら言葉を発した。
「あぁ、彼女も木ノ葉の忍だったね」
「…あの子は栗饅頭とナルトが好きな女子でのォ。…『暁』に入るような子ではなかった」
思い出すように、自来也はゆっくりと目を閉じた。
頭に浮かぶ、明るく元気な木ノ葉のラセツと、S級では生温いほどの重い罪を犯している『暁』のラセツ。
目の前にいるのがラセツ本人とも知らずに、瞼を開けた。
「すまんのォ、諜報員のお前さんに話すことではなかった。ましてや重ねるなど……」
眉を下げながら謝る自来也。 この返答にラセツは困る。何故なら『柘榴』は今、S級犯罪者と重ねられたのだから。
「いえ、」
結局思いつくことはなく、最終的に出てきたのは、短く曖昧な答えだった。 曖昧な返事で会話は終了したところで柘榴は頭を下げた。
「また、情報が集まったら連絡するね」
「あぁ、また頼むぞ」
「はい、またね。自来也様」
自来也と別れ、人気のない森に足を踏み入れ、変化を解く。
「はぁ…」
肉体と精神を縛っていた緊張から解放されて、ひとつ大きな息を吐き出した、その時。
《ラセツ》
「んぎゃ!!」
脳に直接声が響き、あまりの唐突さに羅刹は飛び上がった。
《…どうした》
「いきなり話しかけられたからびっくりしたの!」
任務を終え、自由行動をもらってからまだそれほど期間は経っていない。にも関わらず連絡が来るとは思わなかったのだ。
《それは悪かった》
「で、どうしたの?任務?」
《そうだ。デイダラとトビが三尾の回収に苦戦しているらしい。行け》
「ん、了解」
《報告を待つ》
要件を言い終えると、連絡はすぐに途絶えた。
羅刹は疲労からくる欠伸を呑気にポケットから1枚の札を取り出す。
「んじゃ、行きますか」
デイダラに爆破されていない事を祈りながら『目印』を探す。 するとピン、と糸を張り合うような感覚に陥り、その糸の先を辿りーーー、
「見つけた」
狙いを定めるように、紫紺の瞳を細め、チャクラを練り上げては『忍術』に注ぎ込む。 『忍術』の器にチャクラが溜まったことを感じ、溜まったチャクラを一気に消費する。
すると、視界が森の中から一変し、開けた景色に変わった。
「ラセツ参上!」
「ぐえっ!」
「…って終わってるじゃん…ラセツの来た意味」
苦戦していると聞いたから来たのに、三尾の討伐はもう既に終わっていた。 ブツブツと脳内でペインに文句を投げつけていると、踏まれて下敷きになっているデイダラが、退く気配の無いラセツに当然ながら痺れを切らし、怒りの声を上げた。
「…百歩譲ってオイラの上に転移する事は目を瞑ってやる。でもなすぐ退け!!!うん!」
「ごめんごめん」
「あっはははは!ラセツ先輩最高!」
デイダラの上から退き、鳥を模した起爆粘土から身を乗り出して下を見ると、気絶している三尾の上で腹を抱えて笑い転げる、『暁』の装束に身を包んだトビの姿があった。
「見てくださいよ!これ、ボクが倒したんです!すっごいでしょ!?」
「ちげぇ!!こいつ逃げてただけだぜ、うん!!オイラの芸術がアートしたんだ、うん!」
「ごめんね。正直どっちでも良い」
「なんだとーー!!!」
結局、任務を遂行できたなら過程なんてどうでもいい。 怒るデイダラをなんとか宥め、少しばかり冷静になったデイダラは、目の前にいるラセツに首を傾げた。
「で、なんでラセツが来たんだ?うん」
「え?三尾の回収に苦戦してるって聞いたから来たんだけど?リーダーに助け求めたの、ディー君でしょ?」
「はぁ?ンなことしてねぇよ、うん」
「え?」
今度はラセツが首を傾げる番だった。 すると、トビが飛び跳ねて己の存在を主張し始めた。
「あ、ボクですよ!ボク!!デイダラ先輩運ぶの遅いし!」
「ンだと!トビてめェ!!」
「…はぁ、取り敢えず運ぶよ。ラセツの方が早いのには変わらないし」
すぐに煽るトビと、沸点が低いデイダラでは話が全く進まないので全て無視し、ラセツは起爆粘土から降りて水面に着地する。
持ち前の怪力で軽々と三尾を引き上げ、片腕に乗せた。
「…?ディー君、トビ。どうしたの?」
突然静かになった2人にラセツは声をかけるが、返事は返ってこなかった。 代わりにデイダラは少し怯えるように頬を引き攣らせ、トビは煩い口をつぐむ。
「……トビ…ラセツだけは怒らせんじゃねーぞ、うん」
「あはは…ラセツ先輩、怒ったら大陸真っ二つに割りそうですもんね。気をつけます」
✳︎✳︎✳︎
移動を続けて数分。さすがチャクラの塊というだけある。ラセツの怪力を持ってしてでも限界が見えてきた。
「ふー、さすがにちょっと肩が痛いかも」
「何処まで化け物なんだよ、うん」
「喧嘩売ってんの?」
「栗饅頭!!栗饅頭奢ってやる!!うん!」
「仕方ないなぁ」
「ラセツ先輩ってホントに栗饅頭好きですよねー。他に好きな物あるんですか?」
「ほかに、かぁ……山菜鍋と焼き魚とかかな」
「へー!サバイバルにも役立つ良い好物ですね!!ボクら向き!!」
「でもよ、山菜鍋と焼き魚食う時、あんま美味そうに食ってるとこ見たことねぇぜ?うん」
デイダラとはよくチームを組んだ。 その為、食事なども何度か共にしている。 その中で野宿の回数は半分を超えており、その時よく作られるのが山菜鍋と焼き魚だ。
デイダラはラセツが栗饅頭を食べる時のように、美味しそうに山菜鍋や焼き魚を食べる姿に覚えはなかった。 デイダラの指摘にラセツは困ったように眉を下げて笑う。
「…うーん、今は、如何なんだろう。分かんなくなってきちゃった」
「あー、味覚変わるのってありますよね!嫌いなものが好きになったとか!」
「んー、それとは少し違うかも」
「どういう事だよ、うん」
「…ラセツが、いつまでも親離れが出来てない子供だって事」
薄く微笑む唇。地面を向いている紫紺の瞳には複雑な想いが絡まって深淵に深く染まっていた。 直接的でない返答に掘り下げようと思ったが、その前にラセツが移動速度を上げたので叶わなかった。
「ほら、そんな事より早く行こう。遅いって怒られちゃう」
悪戯っぽく、空いている方の手で唇に手を当てる。その手に『空』の指輪がはまってる事に気づき、デイダラは花を咲かせるような笑みを浮かべた
「お!!『空』じゃねーか!!うん!」
「ふっふーん!頑張ったんだから!」
それはもう聞いてほしい。と、大蛇丸のアジトであった事をベラベラ話していく。しかし、デイダラが人の長話をしっかり聞くわけがない。
「じゃ、今回から参加だな!うん!!」
「……そうだね」
デイダラにとっては『封印に参加する』ことで『自分の負担が減る』ことが重要なのであってその経緯はどうでもいいのだ。 知ってはいたが、神経を逆撫でるするのには変わりない。
掻きむしりたくなるようなイラつきを押さえつけながらアジトへ足を踏み入れ、その中心部にはペインの幻身がいた。
『来たな。ご苦労』
いつも通り《外道魔像》を口寄せし、ラセツ、デイダラ、トビは担当の指に乗る。 ペインも担当の指に乗り、印を組んで収拾をかけた。
『集合しろ』
有無を言わせない一言を発すると、数秒後には《外道魔像》の指の上に何人かの幻身が現れた。
『チィ…!良いところで呼び出しやがって』
「酷く機嫌悪いねぇ、どうしたの飛段」
『どうしたもこうしたもねぇよ!!あと少しで木ノ葉の奴らをジャシン様の儀式に使えたっていうのによォ!!戒律に引っかかったじゃねぇか!!もう少し遅く回収しろよ!!テメェを儀式に使うぞ!!』
「理不尽の極みなんだけど」
『…今回ばかりは飛段に同意だな。あと少しで3500万両が手に入った』
「何処までもお金だなぁ、角都は」
『当たり前だ。この世で唯一信じられるのは金だからな』
『はぁ!?信仰するならジャシン様に決まってんだろ!』
『信じられるものは己のみ』
『ダナ』
「オイラはやっぱ芸術だな、うん!」
「ボクは…うーん、なんでしょう??ラセツ先輩は?」
「ん?ラセツ?」
トビに話を振られたラセツはうーん、と唸り、考える。
信じられるもの。と言われた時、真っ先に思い浮かぶのはやはり金髪碧眼の青年だった。
「……英雄かな」
ポツリ、と溢すように答えられたラセツの解答に、飛段は満足げに口角を上げた。
『おー、ラセツ、なかなか素質あるじゃねぇか。ジャシン教にーー、」
「却下。……なんでそんな可哀想な人を見る目で見られないといけないわけ?納得いかない」
とてつもなく可哀想な人を見るような哀れみの目を向ける飛段の幻身に、栗饅頭のゴミを投げつけた。
『遅くなりました』
『オイ、動物コンビ!!おっセーぞ!!オレも折角の儀式を切り上げてきたのによォ!』
『飛段、喧嘩は後だ』
『チィィ…!!!!』
幻身であっても分かるほどの青筋を浮かべ、アジトに響く盛大な舌打ちをしつつも、飛段はペインに従って印を組む。
『…では始めるぞ。集中しろ』
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『暁』が人柱力及び尾獣を封印している同時刻。 いの、チョウジを含む班がアスマ、シカマルを含む班に合流し、『暁』所属の飛段、角都との交戦の末、軽症ではないアスマにいのは駆け寄った。
「アスマ先生!!」
「いの…大丈夫だ、致命傷ではない」
正直、かなり危なかったけどな、と『暁』と交戦した4人は思う。
飛段の不死身の肉体を活用した、自分の肉体の損傷を相手に反映させる忍術にかかったアスマが生き残ることができたのは本当に奇跡だった。
テレパシー系の術か。この場には居ない誰かと話し始めた飛段と角都。飛段の方は『もう少し待ってくれ』と『誰か』に説得していたが、角都の判断。そして、忍術の要となる自分の血で描いた陣から出ていた事もあり、飛段は腹立たしげに舌打ちをした後、アスマの命を奪う前に去った。
「アイツらが引いた理由はよく分かんねーけど……助かった」
「あぁ、本当だな」
「でも、嫌な予感しかしないよ」
ほぼ勝利確定だった『暁』。 あと数秒もあればアスマを殺害することも出来たにも関わらず、『暁』は『誰か』の指示に従い、その場を去った。 それほど『暁』にとって優先順位が高い事があるという事だ。
「……その、嫌な予感っつーやつは当たるだろうな…。でもまず、『暁』相手に誰も死なずに情報を得られた事を喜ぼう」
「えぇ、そうね。まずは木ノ葉に帰ってアスマ先生を病院に運ばなくちゃ」