羅刹の希求 作:蒼林檎
木ノ葉に来てから約1年。
週に1、2度程カカシに修行を見てもらい、その他の日はカカシに出された課題をこなすか、ナルトと里を散策するなどの毎日を過ごしていた。
今日もその当たり障りない日常と同じく、日課となった朝練の後、甘味処に足を運んだ。
「おや…ラセツちゃん、いらっしゃい!!いつものかい?」
「うん!いつもの!!」
この甘味処へ通い始めて約1年が経つ。 ラセツはメニューにある甘味を制覇し、特に気に入った栗饅頭を毎回と言っていいほど頼んでおり、店主はもうラセツの注文を覚えていた。
「ん〜〜っ!美味しい!!」
運ばれてきた栗饅頭の甘い味わいながらちびちびと食べ、偶にお茶の苦さを楽しむのがラセツのお気に入りの食べ方だった。
「おばさん、いつもの」
「はーいよ」
ラセツと同じような注文をしたのは、ゆるくひとつに纏めた漆黒の長髪に髪と同じ色をした瞳を持ち、幼さがまだ残るが十分に端正な顔立ちをした少年だ。 カカシと同じ額当てをしていることから忍だということが分かる。
(あ、今日も来たんだ)
少年を見てそんな感想を持つほど、この甘味処で見る顔だった。しかし、それだけ。 特に話したりはした事がなく、ラセツが持つ少年の情報は木ノ葉の忍だという事と、甘味処の常連だという事と、ラセツと同じ注文が通じる程団子をいつも食べているという事くらいだ。
きっとこの情報がこれから増える事はないだろう。そう、ラセツは視線を少年から栗饅頭に向ける。
「ここ、いいかな」
中性的で優しげな声に、栗饅頭に向けていた視線を上げれば先程まで自分の視界に居た少年がいた。
「駄目、かな?」
驚きで言葉が出てこず、なかなか返事をしないラセツに少年は少し困ったように眉を下げ、ラセツは慌てて立ち上がり、目の前の席を両手で指さす。
「い、いえ!どうぞどうぞ座ってください!!」
「あはは、そんなに慌てなくても。…失礼するよ」
少年は僅かに端正な顔立ちに緩やかな笑みを浮かべ、テーブルを挟んだラセツの前に腰を下ろした。
「君、此処にはよく来るのか?店に入ったら大体居る」
「毎日通ってるから。お兄さんも良く来るよね」
「あぁ、甘味が好きだからな」
少年は運ばれてきた三色団子とみたらし団子の組み合わせのうち、三色団子を手に取り、ゆっくりと口に運ぶ。
「…君は、忍びになりたいのか?」
「え?」
「手。かなり練習しているみたいだったから」
ラセツの手には手裏剣術やクナイ投げをしている人間特有のタコや傷があり、忍を目指しているという考えに至るのは容易だった。
「君は、忍になって何を望む?」
その問いかけは大人が子どもに「将来の夢はなぁに」と聞くような、そんな気軽さはどこにも無かった。
少年の口から出た忍についての問いかけ。忍になって何を成しえ、何を望むのか。 その問いかけに対する答えをラセツは持ち合わせていなかった。
「いや、すまない。意地悪い質問だったな」
黙り込んでしまったラセツに少年は「忘れてくれ」と申し訳なさそうに眉を下げる。しかしラセツは首を横に振った。
「ううん、そんな事ない。忍になるなら考えなきゃいけない事だと思う」
目的とは時に、成し得るために努力する原動力や大事な事を選択するきっかけにもなる大切な精神の柱となる。忍への道はもちろん、忍になった後もその柱があるかないかで色々と結果が変わってくるだろう。
栗饅頭を口の中に放り込んでから忍になってから何を望むのかを考え始める。
「……ナルトの役に立てる忍になりたい、かな」
「ナルト…?ナルトってあのうずまきナルト君か?」
「うん、ナルトはラセツの英雄で恩人で…いつか火影になるすっごい人なんだから」
ラセツは紫紺の瞳を細め、唇に弧を描き、微笑みを浮かべる。その微笑みは何処か誇らしげなものだった。
「お兄さんは?」
「え?」
「お兄さんは忍でしょ?何を望んで忍になったの?」
今度はラセツが忍についての問いかけを返す。忍になって何を望んでいるのか。 少しの間を開けたあと、黒い瞳を少し伏せながら少年は答えた。
「……争いのない、平和な世界を作りたいから、かな」
少年が口にした望みは、たった数年前に大きな戦争を終えた今でも、小さな争いが絶えない忍世界では決して簡単な事ではない望みだった。
「それ、とっても素敵。」
「……夢物語だとは思わないのか」
「望みはね、欲張りなくらいが丁度いいの。…それに、小さな望みなんかより、お兄さんのような欲張りな望みを叶える為に頑張る方が、大きな事を成せると思わない?」
その望みが大きければ大きいほど、望みまでの道のりは険しく、辛いものになるだろうが、達成される業績も大きく、それを成しとげるだけの力を求め、望みの為なら耐える根性と情熱を持てるとラセツは思う。
「それにね、ラセツ、争いは嫌いなの。失うものが多すぎるから。……だからお兄さんのその望み、とっても素敵だと思う」
両手で頬杖をつくラセツの表情はうっすらと微笑みが浮かんでおり、少年も釣られたようにうっすらと唇に弧を描いた。
その直後、バン、と激しい音が鼓膜を震わせる。 その音の正体はラセツがテーブルを叩いた音だった。 あまりにも唐突な出来事に少年は黒い瞳を大きく見開く。が、ラセツは驚く少年を気にも留めず、可憐な顔を息がかかる距離まで近づけた。
「決めた!!ラセツ、大切な人を護って役に立てる凄い忍になって、お兄さんみたいに争いのない平和な世界を作れるように頑張る!!」
ラセツは自分にとって大切なモノ1度全て奪い去っていった争いは大嫌いだ。だからこそ、目の前の少年が持っている望みを本心から素敵だと思い、ラセツも目指したいと思った事から生まれた素直な言葉だった。
少年は未だに瞳を大きく見開いており、幾度も瞬きをしていたが、次第にその表情は柔らかい笑みに変わっていった。
「……ふ」
「な、なんで笑うの!?あ、どうせ子どもの戯言だとか思ってるんでしょ!!ラセツ、真面目に本気で言ってるんだけど!!」
「いや、すまない。そうじゃないんだ」
「じゃあ、なんで笑ったの」
「…同じ志を持つ人に出会えて嬉しかったんだ」
何処か安堵したように瞳を閉じて返答をした少年に、怒り心頭していたラセツだが、驚きに紫紺の瞳を一瞬見開いたあと、頬杖をついて微笑んだ。
「ラセツ達、お揃いだね」
「あぁ、お揃いだな」
少年は2本の団子を食べ終わり、ゆっくりとお茶を飲み込んだあと、少年は席から立ち上がった。
「もう帰っちゃうの??」
「任務があるからな。会ったらまた話そう、ラセツ」
「え、なんで名前…、」
「なんでって。ラセツの一人称は名前だろう」
やってしまったと言わんばかりにラセツは自分の口元を両手でおさえる。 そんなラセツに少年は可笑しそうに笑った。
「オレはうちはイタチ。またな、ラセツ」
イタチはそう、修行を長く多く積んできたと分かる少し硬くなった指先で、ラセツの小さな額を小突き、甘味処を後にした。
ラセツは『うちは』の家紋を背負った背中を見つめながら少し熱い額に触れる。
「……次は、いつ会えるかな」
またイタチと話せる日を楽しみに、ラセツは冷めてしまったお茶を喉に流し込み、ラセツもまた席を立つ。
「さ、ラセツも頑張らなきゃ」
先程語った夢を夢物語にしないよう、今まで以上に頑張らなければいけない。 ラセツは頬を両手で軽く叩き、いつも修行している場所走って向かった。
やっとイタチ出せた…!!