羅刹の希求   作:蒼林檎

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第七話『いってらっしゃい』

 放課後、週に5回、渋い顔をするサスケと甘味処へ行き、その後修行することになっていた。

 いくつもの木に囲まれている場所で、木や岩の影にクナイや手裏剣の的を置いてあり、狭いが地形の障害物を駆使しながら体術の修行が出来るという、修行にはもってこいの場所だった。

 

 

「ーーー…」

 

 

 両手の各指にクナイを挟み、計8本のクナイを投げる。

 死角となっている岩陰にある的にも当たるよう、クナイ同士を弾かせるという、アカデミーでやっている実技とは比べ物にならない程高難易度だ。

 

 

「さすがだな」

 

「師匠に厳しく教えられてるからこれくらいはね。……でも、やっぱりイタチのようにはいかないや」

 

 

 クナイは全て的に当たっていたものの、全てが中心部に当たったわけではない。 この高難易度な技術をイタチは優にこなし、クナイが当たる瞬間の時間でさえ揃える。

 

 

「兄さんは天才だからな」

 

「サスケのイタチ至上主義は何なわけ?」

 

 

 少しイタチを褒めれば、サスケが堂々と自慢げに胸を張る。 そんなサスケにひとつため息を零し、飽きたようにクナイを弄ぶ。

 

 

「…そろそろ組手にしない?」

 

「あぁ…………折るなよ」

 

「折ったことないのに普段から折ってるみたいに確認するの辞めて」

 

 

 確かにラセツの怪力は常人の域どころか人間限界を優に超えており、力を溜めて地面を殴るか蹴るかをすれば、地面は無惨に砕け散る。 人間の骨なんて鉛筆のように折ってしまえるだろう。

 しかし、力のコントロールはしっかりしているラセツにとってサスケの確認は不愉快なものであり、頬を膨らませるが、サスケは気にせず、合図もなしに組手を開始した。

 

 

「はーい、またラセツの勝ち」

 

 

 組手を始めて早1時間。組手は全てラセツの完勝であり、特に数えてはいないが順調に連勝記録を更新中である。

 

 

「チッ」

 

「あー!舌打ちした!!」

 

 

 1度たりとも勝てていない事実に腹を立てるのはわかるが、隠す気のない舌打ちにラセツが不機嫌になる。 

 サスケは自分の手を見て開いたり閉じたりした後、悔しそうに拳を強く握った。

 

 

「やはり実技はまだ勝てないな」

 

「まだって…。抜かされるつもりはないよ」

 

「いや、抜かす」

 

「ラセツを抜かせるのはナルトだけだもん」

 

「お前のナルト至上主義はなんなんだよ」

 

「サスケに言われたくない」

 

「………ほら、もう一本やるぞ」

 

「あ、誤魔化したな??ま、いいけど」

 

 

 その後もラセツの連勝記録は途絶える事無く、いつしか空は橙色を通り越して深い群青色に染まっていた。

 

 

「…すっかり、遅くなっちゃったね」

 

 

 見事な満月はかなり高い位置まで登っており、おそらく7時は超えているだろうと推測できる。

 

 

「もう少し早く切り上げてくれればよかったんだけど…」

 

「……転移があるからいいだろ」

 

「転移はしないよ」

 

「…なんで」

 

「今日、アカデミーで変化の練習しすぎてチャクラ使いすぎちゃったの」

 

 

 ラセツは固有能力である《空間転移》以外の忍術は大の苦手であり、実技で唯一補修ギリギリの成績なのである。

 自習の時間や休み時間にヒナタを引っ張り出して変化の術を使いまくってしまい、現在、ラセツの中に《空間転移》に必要なチャクラが十分にない。

 

 

「今のチャクラ量じゃ座標が不安定になるってことか」

 

「そ。サスケの手足をバラバラに転移しちゃっていいなら転移するよ」

 

「良いわけないだろ」

 

 

 サスケはひとつ溜息をついた後、忘れ物がないか十分に確認し、うちはの家紋見える背中を向けた。

 

 

「ほら、行くぞ。今日の晩飯はハンバーグだって母さんが言ってた」

 

「え!それすっごく楽しみ!」

 

 

 ラセツは軽い足取りでサスケの半歩前を走り出した。

 あと少し、あと少しでうちは一族の地区に着く時、視線を感じ、ふと上を見た。

 

 

「どうした?」

 

「ううん。なにがいた気がしたけど、気のせいだったみたい」

 

 

 紫紺の瞳には一際高い電柱と、その奥には思わず息を洩らしてしまいそうになる程に見事で綺麗な満月があるのみ。

 ラセツは視線を道に戻し、酷く暗い道をサスケと共に走った。

 

 

「……おい、ラセツ」

 

「なぁに?」

 

「…まだ、寝るような時間じゃないよな?」

 

「………うん」

 

 

 夜だといえど、道はあまりにも暗かった。 普段ならば暖かい民家の明かりが漏れている筈なのに。

 嫌な胸騒ぎと本能からくる警報音が頭の中を叩く。 痛いと思ってしまうほどの警戒音を聞きながらラセツとサスケは視野を少しずつ広げていく。

 

 

「これは…」

 

「な、にこれ……」

 

 

 ーーーーびちゃり

 

 

「ぁ、」

 

 

 音がしたのは足元。ゆっくり視線を向ければそこには水より粘着性のある赤が広がっており、思わず後ずさる。

 

 

「なんだよ、これ……父さんと母さんは…??」

 

「サスケ!1人じゃ…、」

 

「ラセツは他に生きてる人がいないか、確かめてくれ!」

 

 

 走り出すサスケに静止は効かず、ラセツは少ないチャクラを絞り出していつでも空間転移が出来る様に境界を設定する。

 不安に唇を噛み締めながら酷く静寂なうちはの地区内を歩く。 次第にビチャビチャと血の音を鳴らす足の裏に恐怖を覚え、屋根の上に登った。

 

 

「お前…うちはじゃないな。何者だ。」

 

「ーー!」

 

 

 人の声に振り返り、咄嗟にクナイを構えた。 

 そこには右目部分を中心にうずまきを描いた仮面をつけている男がいた。 目の前にいる男に気配は無く、常軌を逸する程の手練れであることが分かる。 空間転移で逃げてしまいたいところだが、生憎チャクラも僅かで座標が不安定な為、遠くに転移は危険だ。

 今、この場で助かるには目の前の男を倒すしかない事実に、汗で滲んだクナイを強く握りしめた。

 

 

「……何者か、なんてこっちが聞きたいんだけど。」

 

「まぁ、確かにそうか。」

 

 

 ラセツの絞り出したような言葉に、男はあっさりと答える。直後、絶叫の様な泣き声が静寂を震わせた。

 

 

「サスケ!?」

 

「安心しろ、弟は殺さない。」

 

「………なにが、目的なの。」

 

「お前には、関係のない話だ。」

 

 

 男は足先を僅かにラセツの方へ向ける。 その瞬間、ラセツは空間転移を発動させた。境界は男のど真ん中に設定して。

 

 

「ーーな!?」

 

「チッ」

 

 

 しかし、座標は安定せず、狙いは思い切り外れて男の外套の端と位置交換となった。が、そんな事は想定内だ。 ラセツは握りしめたクナイで銀線を描くが、動揺から落ち着きを取り戻した男は当然というように躱す。

 

 

「……その歳で時空間忍術を使うか。面白いな。」

 

「不審者におもしれー女認識されても嬉しくないんだけど。」

 

 

 なけなしのチャクラを絞り《空間転移》を発動したせいで身体には酷い倦怠感がのしかかる。 しかし、気力で踏ん張り再度クナイを構えたその時。仮面の男の横に音もなく人影が降りた。

 

 

「ーー終わったか」

 

「あぁ」

 

 

 仮面の男と話すのはイタチだった。

 見慣れた漆黒の双眸ではなく、柘榴石のような双眸を静かにラセツに向ける。

 

 

「…気をつけろ。ラセツの《空間転移》は空間を交換して転移する術だ。転移する空間と転移しないの境界に配置されると断裂される上に、境界はラセツが指定できる。」

 

「……ラセツ、《空間転移》については転移するとしか言ってないし、イタチに関しては一度しか見せてない筈なんだけど」

 

「初めて見せてもらった時、元いた場所の植物も一緒に転移し、転移した場所では茂みは刻まれていた。」

 

「…!」

 

「そこで空間を交換して転移している事と、転移する空間と転移しない空間の間に境界が存在する事を推測し、逆にお前1人が去った際はどこも刻まれていなかった事で転移する空間を指定できることが分かった」

 

「わぁ…凄いね」

 

「忍だからな。」

 

「いや、流石に一回でそこまで見破るのは凄いと思うよ」 

 

 

 いとも簡単にラセツの《空間転移》を見破るイタチに場違いといえど感心する。 仮面の男はイタチの話を聞き、ひとつ溜息を吐いた。

 

 

「……かなり厄介な能力だな。外套が持っていかれた」

 

 

 そう、ユラリとラセツの方に身体が向いた瞬間、イタチが片腕を上げ、柘榴石の様な双眸を細めて仮面の男を静止する。

 

 

「里には手出ししないという約束の筈だ。ラセツも例外じゃない」

 

「……そうだったな。………オレは行く」

 

「先に行っててくれ。木ノ葉の上層部に念を押しておく」

 

 

 仮面の男は右目を中心に吸い込まれる様に消え、ラセツとイタチの間に重い沈黙がおりる。 一歩。屋根を踏んだ音がする。その瞬間、ラセツはクナイを投げる。警告のつもりかクナイはイタチの頬の皮1枚だけを掠って過ぎる。

 

 

「それ以上近づいたらいくらイタチでも刻むよ」

 

「……大丈夫だ。近づかない」

 

 

 鋭いイタチならラセツが今チャクラ不足で十分な空間転移が出来ない事くらいお見通しだろうが、イタチは一歩踏み出した足を引いた。

 

 

「……ねぇ、イタチ」

 

 

 ラセツは尋ねる。

 

 

「あなたは、何のために戦ったの?」

 

 

 このうちは一族の惨状はイタチと先程の仮面の男が成した事は2人の短い会話から明瞭だった。 でも分からない。なんでそんな事をしたのだろうと。 だってイタチは誰よりも平和を愛し、争いを嫌う男だったから。

 

 

「……」

 

 

 ラセツの問いにイタチは何も答えない。ただ柘榴石のような紅い瞳から一筋の涙を零す。それはラセツに全ての真実を語りかけた。

 里と一族。どちらを取るかの選択を迫られたイタチの真実を。

 

 

「…そう」

 

 

 血臭のする風が2人の間を吹き抜ける。それがイタチという平和の為の犠牲と選択の重さを感じさせた。

 

 

「きっと間違ってなんていない。ただ、現実は楽じゃなかった。……それだけ」

 

「あぁ、それだけだ」

 

 

 ラセツは今まで、正しい選択をすれば平和になるのだと思っていた。しかし、今のうちは一族とイタチを見て、正しい選択だけが皆を幸せにするわけではないという現実の厳しさを知った。

 

 

「平和は、難しいね」

 

「あぁ、とても」

 

 

 これだけの犠牲を払っても平和は常に薄氷の上だ。ラセツは現実の厳しさを知ると同時に自分の夢の難しさを再確認した。

 

 

「ラセツ」

 

「なぁに?」

 

「俺が居ない間、里とサスケを頼む」

 

「サスケはともかく、里は下忍にもなってないラセツに頼む事じゃないよ」

 

「そうだな。でも、お前に頼みたかったんだ。……オレとお揃いなお前に」

 

 

 思わず顔を上げた。しかし、吹き抜ける風に揺れる黒い髪がイタチの顔を隠していて表情が見えない。 でも、ラセツには今イタチがどの様な顔をしているのか簡単に予想がついた。

 紫紺の瞳を軽く伏せ、目の前の惨状から目を逸らさずに答えた。

 

 

「……此処はいつかナルトが火影になる里だし。サスケはナルトのライバルだし」

 

「ラセツは本当にナルト君が好きだな」

 

「当たり前でしょ。ラセツの恩人で英雄だもの。それはこの先もずっと変わらない。……勿論、ラセツが平和を愛する気持ちも変わらない。イタチとお揃いのまま」

 

 

 2人以外は何もいない静寂なこの空間に酷く響くラセツの言葉をイタチは柘榴石の様な瞳を揺らしながら黙って聞く。

 

 

「だから。手の届く範囲にはなっちゃうけど、里もサスケもちゃんとラセツが任されてあげる」

 

「……ありがとう」

 

「いってらっしゃい。気をつけてね」

 

「あぁ、いってくる」

 

 

 別れには短すぎる言葉を交わしたあと、イタチはもうそこには居なかった。ただ、イタチの言葉が頭の中で何度も反芻され、心を砕き、暴いていく。

 

 暴いていく途中で2度とイタチと過ごす日常も、胸が潰れてしまいそうなくらいに優しい笑みも、声も、態度も。ラセツに向ける全てが失われた事に気づく。 その喪失感は果てしないもので、紫紺の瞳から大粒の雫が零れ落ちる。

 

 

「なんで、今更」

 

 

 心を砕き、暴いた先で芽吹いているモノに気づくにはもう遅すぎた。いや、こうなる運命が決まっていたなら遅いも早いも存在しない。いっそーーー。

 

 

(ーー……気づかない方がずっと幸せだったのに。)

 

 

そう、思わずにはいられなかった。

 

 

 




あー…やっと第一章終わってホッとしてます。次回から二章入ります
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