羅刹の希求   作:蒼林檎

8 / 35
第二章『木ノ葉の羅刹』
第八話『卒業試験』


 里を大いに騒がせた『うちは事件』から数年が経ち、ラセツは12歳となっていた。 

 

 

「明日はアカデミーの卒業試験だぞ!!いいか、ナルト!!お前は前回も、前々回も卒業試験に落ちてるんだ!悪戯している場合じゃないだろバカヤロー!」

 

 

 そして今、すっかりとお馴染みとなっているイルカの説教が繰り広げられている。 火影岩に落書きをするという盛大で大胆な悪戯をしたらしいナルトだが、反省の色は全く無く、イルカの額に青筋が浮かんだ。

 

 

「今日の授業は変化の術の復習テストだ!既に合格している者も全員並べ!!先生そっくりに化けること!!」

 

 

 イルカの怒りは周りに飛び火し、生徒達は文句を口にするが、イルカがテストの発言を取り消す事は無く、生徒達は渋々と席から立ち上がる。

 

 

「えー…ラセツ、変化の術苦手……」

 

「だ、大丈夫だよ!前は合格できたんだし…」

 

 

 そう、ラセツを必死に慰めるのはヒナタだ。

 ヒナタとは親友と言っても過言ではないほどの関係を十分に築けており、アカデミーでもよく一緒に過ごしている。

 

 

「とは言ってもねぇ…」

 

 

 チャクラコントロールはカカシの指導のおかげで申し分ないレベルまで上げられたが、相変わらず忍術はからっきしなのである。 成功率8割で《変化の術》と《分身の術》がやっと出来るくらいである。

 苦手な忍術のテストが始まる事の憂鬱さにラセツは溜息をつく。そんな時。

 

 

「変化!!」

 

 

 聞き慣れた元気の良い声が教室に響く。 白煙がナルトを包み込み、白煙が晴れたじめた時、そこには変化対象であるイルカの姿ではなく、女性特有の起伏に富んだ裸体を堂々と晒す金髪の美女がそこにいた。

 イルカにとって目の前の女性はあまりにも刺激的だったらしく、鼻血を滝の様に流して倒れた。

 

 

「ギャッハハハッ!!どうだ!名付けてお色気の術!」

 

 

 思惑通りに盛大に鼻血を出すイルカを見てナルトは変化を解き、腹を抱えて大笑いをする。ラセツも愉快な光景に先程の憂鬱さはどこへ吹き飛び、口元を押さえながら肩を震わした。

 

 

「……この、大馬鹿者!!勝手にくだらん術を作るな!!」

 

「くだらなくないってばよ!!な、ラセツ!!」

 

「うん、見事イルカ先生を撃破したすっごい大技!!」

 

「ラセツ!!毎度だが、ナルトを全肯定するんじゃない!!」

 

「だってナルトはラセツの正義だもの」

 

「そんな正義を自信満々に掲げるな!次、ラセツ!!」

 

 

 完全に矛先がラセツに向いてしまい、いきなり順番を回されたラセツは盛大に顔を歪めた後、渋々とイルカの前に立ち、印を結んだ。

 

 

「いきます!!変化!!」

 

 

 一般的に考えれば時空間忍術に分類される《空間転移》とは比べ物にならないほど低難易度の忍術だが、ラセツにとっては逆だった。 《空間転移》を使用する時の数倍の集中力と念入りにチャクラを練って変化をする。

 

 

「…よし。合格」

 

「ーーっふぅ」

 

 

 イルカの言葉で一気に気が抜けた様に変化を解き、ヒナタにもたれかかり、藍色の髪を撫でるヒナタの手のひらを堪能する。

 

 

「フン、変化の術ごときで情けないな」

 

 

 その言葉にラセツは身体を苛つきでピクリと反応させた。 ヒナタの肩から顔を上げ、ジトリと細められた紫紺の瞳に端正な顔立ちをした黒髪黒目の少年、うちはサスケが映る。

 

 

「……差しでの勝負、ラセツに勝った事ないくせに」

 

 

 生意気な口を開くサスケにラセツはそうポツリと呟いた。 するとサスケは額に青筋を浮かべ、頬を怒りで震わせた。

 

 

「おいラセツ、表に出ろ。今すぐそのムカつく面を地面に擦り付けてやるよ」

 

「その言葉、そのまま返すよ」

 

「コラ!!ラセツにサスケ、喧嘩をするな!」

 

 

 騒がしいアカデミーの授業が終わり、放課後。 ラセツは雑巾を手に、火影岩がある崖の場所に来ていた。そこからは聞き馴染んだイルカとナルトの声が聞こえてきた。

 

 

「ラセツはともかく、ナルトは綺麗にするまで家には帰さんからな!」

 

「別にいいよ。家に帰ったってだーれも居ねェしよ!」

 

「ラセツも1人暮らしだから門限は無いの。最後まで付き合うよ」

 

「ラセツ!」

 

 

 雑巾を手に現れたラセツに、ナルトは蒼い瞳をめいいっぱい開き、輝かせる。 ラセツはそのままナルトの隣に飛び降り、足元に置いてあったバケツで雑巾に十分な水分を含ませて火影岩を彩っている落書きを拭っていく。

 

 

「ナルト、ラセツ」

 

 

 ふと、上から声がしてラセツとナルトは同時にイルカの方を見る。 イルカは視線を泳がせ、頬を指で掻きながら少し複雑な顔つきのまま口を開いた。

 

 

「まぁ、なんだ。それ全部綺麗にしたら、今晩ラーメン奢ってやる」

 

「よーっし!オレさ!オレさ!頑張っちゃお!!ラセツ!!速攻で終わらせるってばよ!」

 

「了解!」

 

 

 水飛沫を盛大に飛ばしながら倍速とも思わせる程のスピードで掃除を完了させ、一楽にてラーメンを奢ってもらったあと、星空と月が見事に輝く空が視界を彩るほどすっかり暗くなってしまった帰路を歩く。

 

 

「イルカ先生のケチ!!」

 

「まだ言ってるの?」

 

「だってさ、だってさ!ちょっとくらい良いじゃん!」

 

 

 ナルトは一楽にてイルカに額当てをさせてくれと頼んでいたが、笑顔で断られてしまい、その事に対して拗ねていた。

 

 

「でも、明日の楽しみが増えたでしょ?」

 

 

 明日は卒業試験だ。合格すれば念願の下忍であり、忍の証である額当てが贈られ、身につける事が許される。 ナルトは不機嫌から膨らましていた顔から一変、「たしかに!」と無邪気に笑い、釣られる様にラセツも頬を緩ます。 しかしすぐ地面に視線を落とした。

 

 

「…でも、受かるかすごく不安」

 

「大丈夫!!」

 

 

 不安から地面と睨めっこをしていたラセツの顔が弾かれる様にあがる。 そして、夜だというのにひだまりの様な笑みを向けるナルトに思わず息を呑んだ。

 

 

「ラセツならぜーったい大丈夫だってばよ!!オレが保証してやる!」

 

「…ふふ、なら安心だね。明日、お互い頑張ろう!」

 

「おう!」

 

「寝坊、しちゃダメだからね?」

 

「わかってるってばよ!!」

 

 

✳︎✳︎✳︎

 

 

 次の日。

 大丈夫だと言われても緊張してしまう。滲む手汗を強く握り締めながら試験官であるイルカの話をじっと聞いた。

 

 

「ではこれより、卒業試験を始める。呼ばれた者は隣の教室に来る様に、尚、課題は分身の術とする。」

 

 

 分身の術。そう言われてラセツは地面に叩きつけられる心地がした。 何度も言う様にラセツは忍術が大の苦手なのだ。 苦手分野を卒業試験の課題にされ、絶望しない者は居ない。

 

 

「あぁぁあ、ヒナタどうしようぅ」

 

「だ、大丈夫だよ。それに、この前成功してたでしょ??」

 

「そうだけど、たまに失敗するし…」

 

 

 隣に座るヒナタに泣きつくが、卒業試験の内容は変わってくれない。 行き場のない絶望は段々と怒りに変わっていき、試験内容に八つ当たりし始めた。

 

 

「なんで卒業試験が、こんな難しい忍術なんだろう…。空間転移とかにすればいいのに。」

 

「普通は逆だっての。なんで時空間忍術使えて基本忍術な分身の術が苦手なんだよ」 

 

 

 ラセツの八つ当たりに反応したのはすぐ後ろの席に座り、気だるそうに頬杖をつくシカマルだ。 

 

 

「わっかんない!!天はふたつを与えないってやつじゃない?」

 

「天は二物を与えずな。……でもお前には当てはまんねぇと思うぜ」

 

 

 座学が壊滅的で忍術が苦手といえど高等忍術中の高等忍術である時空間忍術の習得、忍となるべくして生まれたと言っても過言ではない天性の身体能力と強靭な肉体。

 その上、2つに結われた藍色の長髪は傷みを知らない艶めきに満ちており、紫紺の瞳は思わず魅入ってしまいそうな程のものだ。肢体は細く白いが健康的で顔立ちはまだ幼さが残るものの、可憐で美貌の片鱗を十分に訴えかけている。

 天に二物どころか数物与えられている気がするが、ラセツはそんな事微塵も気づいていない。

 

 

「そうかな?ラセツから見ればサスケとナルトとシカマルは特に天才だと思うけど」

 

「お前のナルト至上主義はホント理解できねぇな」

 

「だって本当だし」

 

「……ま、ナルトはともかくサスケとオレを並べんな。オレは平均だ」

 

「嘘つき」

 

「嘘じゃねぇよ」

 

「残念。ラセツの目は騙されないよ。シカマルは天才。特に此処」

 

 

 悪戯っぽく、揶揄う様に微笑み、片目を閉じてラセツは人差し指でこめかみを突く。

 

 

「チーム演習の時、シカマルが司令塔に着いたらすっごくやりやすいんだから」

 

「別に、普通だろ」

 

「個人及び相手の能力、装備、配置は勿論、その場の環境や地形。その他の細かい情報も全て利用した作戦立案と実行能力。……誰にでもできることじゃない。」

 

「ンなことねーよ。サスケとかサクラとか。」

 

「確かにサクラは上手だけど、サスケなんてダメだよホント!!全部1人で突っ走っちゃうもの!」

 

「オレ1人で十分だからに決まってんだろ阿保」

 

「それで毎回ラセツに負けてるのは誰かなぁ??」

 

 

 対抗するためか途中で会話に横入りしてきたサスケに、クスクスと口元に手を当てて笑いながら返答をするその姿はタチの悪い小悪魔そのもの。 サスケはホルスターからクナイを取り出し、滑らかな動作で投げる。

 

 

「おっと、…危ないでしょ」

 

「お前なら大丈夫だろ」

 

 

 ラセツは身体に刺さる寸前のところで投げられたクナイの持ち手を掴んでいた。 大丈夫、と言うだけあって投げる速度はいつもと比べ物にならない程だったが、失敗したら大怪我に繋がる。 

 

 

「ラセツ…お前、嫌な信頼のされ方してんな」

 

「ラセツも今そう思った」

 

 

 ラセツはサスケのクナイを少し弄んだ後、刃の部分を持ち、サスケに持ち手部分を向けて投げてクナイを返す。 ラセツはシカマルに視線を戻すと同時に脱線した会話を元々話していた会話内容に戻した。

 

 

「……ま、頭だけじゃなくてシカマルは忍術も上手だし。結構天才の部類だと思うよ」

 

「そーかよ」

 

「あ、照れた?」

 

「そう見えたなら医療忍者に頭診てもらったがいいぞ」

 

「え、冗談だよ?冗談だからね」

 

 

 真顔でそう言い放たれたラセツは慌てて弁明する。直後「わかってるよ」と言われ、揶揄われていた事に気付いたラセツの怒りメーターは急上昇した。 ヒナタに宥められ、怒りメーターは収まったものの、ラセツの頬は膨らんだままだった。

 

 

「次、ラセツ!」

 

「…あ、呼ばれちゃった。行ってくるね」

 

 

 呼び出しの先生がラセツの名前を呼び、ラセツの感情は怒りから緊張へ一気に変わる。再度汗がにじみ始めた拳を握り席から立ち上がった。

 

 

「おー、頑張れよ」

 

「ラセツちゃん、頑張って!」

 

 

 仲の良い友人達の声援を胸に、ラセツは教室から出て、試験が行われる教室のドアにそっと触れ、最小限の音で扉を開けた。

 

 

「失礼しまーす…」

 

「あはは、いつもの元気はどうした」

 

「えへへ…」

 

「いつもそれくらいお淑やかだったらなぁ…」

 

「喧嘩なら最安で買いますけど?」

 

 

 イルカの言葉のおかげで緊張がすっかり抜けたラセツは卒業試験の課題である《分身の術》の印を組み、慎重にチャクラを練り上げた。

 

 

「《分身の術》!!」

 

 

 ラセツの隣にラセツの分身が1人現れる。 イルカとその隣に座るミズキはラセツの分身の術を見て少し顔を顰める。

 

 

「皆は3人以上に分身しているんだが……分身の術は出来てるし、まぁいいだろう。合格だ」

 

「や、やったぁ!!!」

 

「ほら、額当て。」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 イルカから差し出された額当てを受け取り、まだ真新しく銀に輝く額当てに自分を映す。

 

 

「これでラセツも下忍……!!」

 

「そうだな。でもまだスタートラインに立ったに過ぎない。これからもっと精進する様に!」

 

「はい!」

 

「…ラセツに関しては特に勉強な。」

 

「うぐっ、」

 

 

 ラセツの座学は下から数えた方が早く、赤点常連組である。ラセツは曖昧に返事をしたあと下忍になった登録のために写真を撮る。 その時にナルトが卒業試験に落ちたという情報を拾い、ナルトを探そうと足を動かすが、どう声をかけて良いか分からず帰路の道をふらふらと歩いた。

 

 

「お、ラセツじゃないの」

 

 

 唐突に名前を呼ばれて振り返ると、額当てで片目を隠し、顔の半分をマスクで覆う不審者の様な見た目の男、カカシがいた。 カカシはまずラセツが手に持つ真新しい額当てに目をやった。

 

 

「…卒業試験合格したんだ。おめでとう」

 

「師匠…」

 

「なに落ち込んでんの?まさかオレが原因?」

 

「違う…。今回は師匠の顔見て落ち込んだわけじゃない…」

 

「…突っ込みたいことあるけど今回はスルーして話聞いてあげるよ」

 

「甘味処に行きましょう」

 

「はいはい」

 

 

 ゆったりとした速度で甘味処に向かう途中で、ラセツは卒業試験にナルトが落ちたこと、ナルトに対して何を言ったら良かったか分からなかった事を素直に話し、カカシは考えるように手を顎に当てた。

 

 

「なぁるほどね。そりゃ難題だ」

 

「ラセツ、ナルトに色々してもらってるのに何も返せてない。ラセツの阿保馬鹿おたんこなす意気地なし」

 

「そんなこと、ないと思うけどなぁ…」

 

 

 カカシの言葉にラセツは勿論納得などせず、めそめそと両手で顔を覆う。 カカシは小さく笑い、ラセツの頭を少し乱暴に撫でた。

 

 

「でもま、なるようになるさ」

 

「師匠役立たず」

 

「あれ?そんなこと言っていいの?この後修行見てやろうと思ったのに」

 

「ごめんなさい」

 

「なんという見事な土下座」

 

 

 大通りのど真ん中で見事すぎる土下座をし、カカシが周囲の里人に盛大に勘違いされ、自業自得といえど鬱憤を晴らす様な鬼畜の修行が行われた翌日。

 

 

「ラセツーーー!!」

 

 

 明るく弾んだ声がラセツを呼ぶ。 声の方向を見ると満面の笑みで大きく手を振りながら向かってくるナルトの姿があった。そして額には見慣れたゴーグルではなく、少し霞んでいるがしっかりと手入れされている銀色が目に入る。

 

 

「ナルト、その額当て…」

 

「オレも忍者!」

 

「ご、合格したの??」

 

「おう!……ラセツ?」

 

 

 紫紺の瞳を見開き、唇を震わせているラセツにナルトは少し眉を顰めて心配そうに覗き込んだ、その時。

 

 

「よ、よかったぁあぁ!!おめでとうぅぅう、」

 

 

 ナルトに飛びついて強く抱きしめた。安堵と感動が混ざりに混ざった泣き声をあげるラセツの背中を、ナルトは照れ臭そうに笑いながら優しくさすった。

 

 

 

 




第二章、開始でっす!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。