ライスシャワー。小さな体に反して中身は他の追随を許さない最強のステイヤー。真の適正距離は3000mオーバーとも言われるほどの無尽蔵のスタミナを誇る。今回はそんなライスシャワーと彼女のトレーナーとのお話
「こんにちは、お兄さま」
「こんにちは、ライス」
お兄さまとは言うものの血縁関係はない。単にトレーナーの事をお兄さまと読んでいる。ここに至るまでには様々な経緯があるので省略するがそう呼んでいる。
「それじゃあ今日のメニューは………」
いつものようにトレーニング。しかし今日はトレーニングの後、普段と違うことがあった。それは
「ふふん、トレーナーは高給取り、引く手あまただろうな」
マッチングアプリである。というのも女の子まみれのトレセン学園だが、手を出せば犯罪である。というか教え子に手を出すなど論外。ということで生まれてこの方独身を貫いているじトレーナーだが、ライスシャワーが長距離G1を勝ちまくり、お金には余裕が生まれ、ライスシャワーもある程度安定してきたところでふと脳裏をよぎった。
[このままじゃあ売れ時を逃して一生独身童貞なのでは!?]
そうと決まれば早かった。何せ現代技術の結晶、スマートフォンなるものを用いれば彼女など容易に見つかる。トレーナーという高給取りであれば尚更
「どれどれ…………」
自分の給料を入力すれば出るわ出るわ候補者の山。しかしこんなものを使うということは相手もそういうことで
「………まともそうなのがいねぇ」
見ればわかる地雷まみれ。どれも年齢が高く、プライドが高そうな顔立ち。玉の輿をゲットして遊びまくりたいという気持ちが駄々漏れ。少しは隠せよとぼやく。
「お!」
そんな中目についたのはアプリがおすすめとして提示してきた一人の女性
「名前は………ブルーローズさんね。ほえー、中々に…………ええやん」
低めの身長、趣味がウマ娘のレース観戦、加えてこのアプリが使えるギリギリの年齢という若さ。顔も悪くない、綺麗な黒髪の女性だ。
「ダメで元々、実際に会う訳じゃないし一人の寂しさを紛らわすつもりで使おうかね。チャットなら声もバレない」
こんなのでもライスシャワーのトレーナーとして顔も声も広まっている。下手に声を出せば年収とかのスペックも相まって一瞬でバレる。
「最初のメッセージはどうしようかな。ええと………」
声に出さないのでしっかりと考えた末に書き込んだのは
「これでよし」
マッチングアプリを使う相手だ。出会いに餓えているのだろう。そう考えてこんな文を送った。すると夜だからだろうか、以外にもすぐに返信が来た。
「以外にも好感触!?」
こうしてトレーナーのマッチングアプリ利用が始まった。
★★★
「参ったな、長引いちゃったよ」
当然マッチングアプリは日々の業務のプラスアルファ、やるべき事を済ませた後で時間があれば行うものだ。出会いにうつつを抜かして本業を疎かにしてはいけない。
共通の話題が出来たからだろうか。チャットでのお話はとても弾んだ。
★★★
それはマッチングアプリを使いはじめて数ヵ月が経った頃のこと。
「まじかー」
いかんせんトレーナーは有名人。かといって実際に会って顔を見せないのは不味い。腹をくくるべきだろうか
「今やらなくていつやるんだ。どうせ結婚まで行けば嫌でもバレるんだ。男は度胸!」
そう奮い立たせて
「ふー、ちょうど良かったな。何せ」
今週末の日曜。カレンダーにはこう書いてあった。
天皇賞(春)
京都芝3200mG1。3000mオーバーが大得意のライスシャワーが唯一出られる超長距離レース。既に連覇しており三連覇が掛かってたりする。外すわけにはいかない。
「一旦マッチングアプリのことは忘れて天春に専念しよう」
★★★
「うし、準備オッケー」
大差をつけての危なげない横綱相撲を披露した天皇賞(春)から一週間後。メディアでは前人未到の三連覇を成し遂げたニュースで一杯だ。
「ライスには悪いがなんか売り文句が一個増えた感じだな」
ライスシャワーには用事で出掛けてくると伝えてある。何でもライスシャワーも用事で出掛けるんだそうだ。偶然って怖いなぁ
「待ち合わせはここだな。どれ、格好を教えておこう」
青の薔薇模様。相手のブルーローズという名前にあやかってだ。何だか青い薔薇というとライスシャワーを思い出す
「ちょっと気取って見るか」
壁に寄っ掛かってうつ向く。カッコつけたい年頃だ。数分もしないうちに
「すいません。○○○さんでしょうか?」
「はい、ということはあなたがブルーローズさんd………………!?」
聞いたことのある可愛い声だなぁ。呑気にそう思いながら振り向くと
「はい、ブルーローズ改めライスシャワーです。昨日ぶりだね、お兄さま」
「は?」
思考停止。何でライスシャワーがいる。何でライスシャワーがその名前を知っている…………
繋がるピース。
ブルーローズ、青い薔薇
ウマ娘のレース観戦、当然だ。だって走ってるもん
スポーツ関係の仕事、だろうね、一流のアスリートだもんね
「どうしたの?固まっちゃって、デート行こ?」
「あ…………いや…………その、ブルーローズってライスのことなのか?」
「さっきそう言ったよ?行こ、お兄さま」
ここでトレーナーの頭の中で高速思考が行われた
教え子に手を出すなど論外、言い方からして普通のお出掛けとはわけが違う…………
そして冷静なようでパニックなトレーナーが弾き出した答えは
「っ!」ダダダッ
「あ、お兄さま………」
逃亡だった。人混みなら逃げられるだろう。パニックな頭は最悪な行動を弾き出した。
「ふうん。ライスから逃げるんだ。逃がさないし、ニゲラレルトオモッテルノ?」
ウマ娘が全力で走ってぶつかろうものなら相手が大ケガをする。全力で走れないもどかしさを感じながらライスシャワーはトレーナーを追い始めた。
★★★
「不味い不味い不味い!やっちまった!」
少し走って冷静になり、状況の悪さを実感した。ライスシャワーのスタミナの規格外さは誰よりも知っており、それ故
「まあ、建物や人混みならライスも本気では走れない。このまま撒いてやる。明日どんな顔で会えばいいか分からんがそれは明日の俺に任せよう」
人はこれをやけくそと言う。
「着いてきてるぅ。行けるところまで行ってやる!」
★★★
そして鬼ごっこは以外と早く終わった。撒いたのだ。
「よし、やったぜ。ほんならさっさと帰りましょうかね」
自室でしっかりと鍵を閉めて寝よう。そう思い帰路についた。時だった。川沿いの少し閑散としたところで
「見いつけた。お兄さま」
「ぎゃああああああああ!!!!!!!」
みっともなく叫んで逃げた。荷物は落としてしまった。気にしてられない。逃げなければ…………
「ぐっ、キツイ」
先程までの逃走が尾を引いてしんどい。でも走らなければ………
「どこ行くの、お兄さま。待ってよ、逃げないでよ。逃げられないよ。逃がさないよ」
「あぎゃあああああああ!!!!!!」
降りかかる声を払い除けるように叫ぶ。身体能力が違いすぎる。余裕で並走されている。妨害してくれる人混みはもうない。当然逃走劇はそう長く続かなかった。先程と合わせて数キロも走ったところで
「カヒュ………カヒュ………」ドサッ
倒れて動けなくなるトレーナー。それを
「じゃあ帰ろっか、お兄さま」
お姫様だっこで連れて帰るライスシャワーだった。
★★★
「う………ここは…………ヒッ」
「おはようございます。お兄さま」
ライスシャワーの膝枕で目が覚めた。
「捕まっちゃったね。もう何処にも行かないでね」
「もう何処にも行かないよ。意味がない。ライスの凄さは誰よりもよく知ってる。逃げるったって何処へ逃げるんだよ」
「そうだよ。幸い両思いみたいだしこれを期に本当に付き合っちゃう?お兄さまが黙ってればバレないよ。バレても揉み消す。それが出来るくらいにはライス今まで頑張ってきたよ?今のライスは切り捨てるにはもったいなさすぎるもん」
前人未到の偉業を達成した漆黒のステイヤー。これを切り捨てるのと大したことのない問題を揉み消すの、URAがどちらを選ぶかは考えるまでもない。
「そっか……………」
それから数年後、ライスシャワーはトレセン学園を卒業した。お兄さまを連れて。
★★★
「こうして魔法使いさんは大好きなお兄さまと一緒に末永く幸せに暮らしたのでした。めでたしめでたし」
ライスシャワーの天春三連覇は完全にオリジナル設定です。史実とも関係ありません。怪我がなかったらやってたかもなぁ。
面倒なのでレース描写はバッサリカットです。そういう小説ではないので。