突然だがあなたは幽霊というものを信じているだろうか?俺は非科学的な幽霊なんて信じていなかった。彼女と出会うまでは
「おはよう、ございます……」
「おはよう、カフェ」
俺の担当しているウマ娘。マンハッタンカフェはミステリアスなステイヤーだ。というのも
「今日も、お友だちが騒がしいです」
「そうなのか?ドンッ!………そうみたいだな」
ポルターガイストというやつだろうか?彼女がお友だちと呼ぶ何かはやたらどついてくる。最初の頃は良く悲鳴を上げていたものだ。慣れたけど。
「それじゃあ今日のトレーニングは………」
霊的なモノということでトレセン学園でこういう事に詳しいはずのマチカネフクキタルに頼ったこともあった。しかし
「はて?悪霊の類いは憑いていないようですが?不安でしたらこちらを………」
フクキタル本人にはこう言われ、霊感があるらしいフクキタルトレーナーには
「ああ、安心してくれ。悪霊は憑いていないよ。不安ならこれを持っておくといい」
フクキタルにはお守りを、フクキタルトレーナーには清めたという塩を貰った。翌日、お守りは端が解れて少し破れ、塩は真っ黒になっていた。しかし、上から物が降ってきたり、勝手に鍵が掛かったり、無理矢理外へ引き摺り出されたりした自分にとってそんな些細な変化は気付かなかった。
★★★
「よし!今日はここまで!お疲れ様。クールダウンはしっかりな」
「はい、ありがとうございました」
カフェとのトレーニングも終わり、トレーナーにとって数少ない自由時間が訪れる。特に今日は特にやる仕事もない久々の完全自由な日。当然トレーナーには門限が無いため何でもできる。そう、何でも
「何処に行こうかねぇ」
ウキウキしながら探すのはちょっとお高いそっち系の飲み屋。教える立場が何をやっていると怒られそうだが彼には理由があった。それは
「教え子には手を出せないが教え子が自分の好みにドストライク…………はぁ」
サラサラの漆黒の長髪、落ち着いた口調、ライブで見せる想像できない程可愛い歌声。どれを取っても好みだ。しかし教え子に手を出したが最後、居場所は無くなる。噂じゃあ教え子に手を出したとして毎年少なくない人数のトレーナーが永遠にトレセン学園から去っている。お陰でトレーナー不足は深刻だ。
「となれば行くしかあるまいて」
仲良しでベテランのトレーナーがいたならば必死に止めただろう。しかし今の彼にそんな存在は居なかった。
ベシベシッ
「痛い痛い、何をするんだよ。ちょっと出掛けてくるだけだ」
いつものナニかにしばかれながら学園を出る。因みにナニかは弁えているのか着いてこられないのか見えないので定かではないが学園の外では何もされない。
「ほな、行きますかぁ」
カフェが重賞を幾つか勝っているお陰でトレーナーも少なくないボーナスを得て懐は暖かい。財布に十二分にお金を入れて、ネオン煌めく繁華街へ向かった。この時彼は忘れていた。何年もカフェと歩んできたせいで忘れていた。トレーナーとして最初にしれっと流すように習った文言を
「ウマ娘は良くも悪くも一途だ。そして競争心が強い。距離感には気を付けるように」
★★★
翌日
「やぁ、おはよう、カフェ」
「おはよう、ございます……………?………………へぇ、ありがとう。そうなんだ」
「ん?」
カフェがこちらではない何処かへ話しかけている。お友だちと話しているようだ。しかしここで何故か俺の中の何かが警鐘を鳴らした。しかし俺はそれを無視した。無視してしまった。一体この状況の何処に危険があるんだと
「あの………トレーナーさん。昨日は何処かへお出掛けになりましたか?」
嘘をつくときは!少しの真実を織り混ぜよう!
「ああ、最近飲みに行ってないからな。生憎連れが居なかったから一人でな」
「そう、ですか」
ずずずいっと近づくカフェ。すんすんと鼻を鳴らし
「お酒の匂い。本当のようですね」
「ああ」
ウマ娘は五感に優れる。それは優れすぎるがゆえに場合によっては歓声で怯えるほど。嗅覚も例外ではない。ここで彼は夜のお付き合いをしなくてよかったと胸を撫で下ろした。したなら匂いで速攻バレるからだ。シャワーを浴びても雄の匂いは簡単には消えない。
「じゃあ今日は……」
「私と良く似た女性と飲むお酒はさぞ美味しいのでしょうね」
「!?」
安心したのも束の間。ぶわっと冷や汗が吹き出る。何故バレた!?
「冷や汗………本当なんですね。ありがとう」
そして虚空へ感謝。まさか!?
「ええ、不安でしたのでお友だちについていって貰いました。何かあったら大変ですから」
どうやら何もしないだけでついてきていたらしい。思えば相手の女性が度々青ざめてたり、帰りにやたら信号に引っ掛かったりと不自然な点はあった……
「いや………その…………それは…………」
「いえ、怒ってはいませんよ。トレーナーさん」
カフェは普段から濁った美しい目に落ち着いた口調。それはどんな感情でも同じ。故に今言っていることが本当かどうか外見では判断できない。
「ですが…………」
カチャリ
「!?」
いきなり部屋の鍵が閉まる。誰も動いていない。間違いない、お友だちだ
ドンッ!
背中に衝撃、気がつけばカフェの腕の中
「あ…………」
ここで詰んでいることに気づく。ウマ娘は人間よりも力が強い。男の彼でもマンハッタンカフェには手も足も出ない。文字通りに
「怖がらないでください。私とあなたは永遠のパートナーですから…………そうですよね?」
「え、永遠なんかzy………グエ」
首が締まる。そうじゃないだろという感情を感じる。それ以上声が出せない。
「永遠だとしてもパートナーなんかzy………ギィ」
カフェはただ彼を抱き締めているだけ。なにもしていない。微笑んでいるだけだ。
「……………ゼヒュ」
容赦ない。下手したら死ぬ。選択肢は無かった。
「俺は、カフェの永遠のパートナーです………ゲホッゴホッ」
「はい、不束者ですがよろしく、お願いします」
「へ?………あ…………」
カフェの手にはボイスレコーダー。カフェの手は離れているのに体が動かない。
「ええ、永遠のパートナーです。永遠の…………」
「いや………そんな意味じゃ…………」ドゴッ
そう言った瞬間、まるでウマ娘に蹴られたかのような衝撃と供に前のめりに倒れる。カフェを下敷きにして
「フフッ、ありがとね」カシャッ
「あ………」
待ってましたとばかりに写真を撮るカフェ。その写真には俺がカフェを押し倒している姿がくっきりと
「いや………まだ大丈夫だ。手は出してないし何より人間はウマ娘よりも弱いから………」
「これが世間に出たらどうなりますかね?」
「あ…………」
ウマ娘と普段から付き合いのあるトレセン学園職員ならともかく、世間からすればウマ娘は普通の人となんら変わらないという認識。
「これでずっと一緒ですね。トレーナーさん」
数年後、彼はマンハッタンカフェ共々トレセン学園を後にした。
ウマ娘に襲われたなんて言えるはずもなく、出ていったトレーナー達は教え子に手を出したという事になっています。外へも内へも。だからこそこういった被害者は無くならない。