「さあ、始めましょうか、サカキ=ハルオ」
メカゴジラは笑いながら貫き手を構え、
ナノメタルを精製して作り上げた運動エネルギー弾、無数の弾幕がマゼンタ色の噴煙を引きながらハルオを狙う。
他方ハルオに出来ること、それは逃げることだけだ。鋼鉄をも打ち砕く貫通ミサイルを紙一重で躱し、ハルオはすぐ傍の岩陰へと隠れた。
そんなハルオをメカゴジラは嘲笑う。
「逃げないでくださいよ、サカキ=ハルオ。わたしを『始末』するんじゃあなかったんですか?」
迫ってくるメカゴジラを尻目に、ハルオは岩へと背を預け、抜いた拳銃の残弾を確認する。
弾数は多くない。あったところでメカゴジラに通用するとも思えない。
しかしその余裕をメカゴジラはパンチで粉砕した。
強烈な爆発音がハルオのすぐ背後で炸裂。
振り返ってみると、ナノメタルで強化された鋼鉄拳による一撃が、ハルオが背を預けていた岩を木っ端微塵に打ち砕いていた。
――こいつ、なんでもありか!?
愕然とするハルオを見ながら、メカゴジラは機嫌良さそうに鼻歌を口遊みながら言った。
「隠れても無駄ですよ、サカキ=ハルオ。あなたが逃げようとすればするほど、あなたは苦しむことになる」
飛び散る岩の破片から身を守るハルオ、その襟首をメカゴジラは背後から掴み上げると、一息で宙へ担ぎ上げてから地面に叩きつけた。
「がはっ」
メカゴジラは、そんな悶絶して動けないハルオの胸倉を左手で掴み、高々と吊し上げる。その表情は相変わらず穏やかで、この期に及んでもハルオには、それが自身を狙う殺人マシーンの表情だとは到底思えなかった。
メカゴジラは言った。
「
赤い瞳で微笑みながら、メカゴジラは右手のカギ爪をドリルに変形させた。
メカゴジラの強力なドリル、
「……なあ、ユウコ」
そのときハルオは、思いついたことを口にした。
喉を締め上げられているので酷く喋りづらかったが、なんとか言葉になった。
「『強くなりたい』、そう言ってたよな」
それはゴジラ=フィリウス戦での一幕だ。ゴジラ=フィリウスとの戦いでパワードスーツ部隊に志願したユウコ。そんなユウコを止めようとするハルオに、ユウコは『強くなりたいんです!』と啖呵を切ってみせたのだった。
「……ああ」
メカゴジラも覚えていたようだった。
「ええ、『かつてのわたし』はそう言ってましたね。で、それがなにか?」
「そんなに強くなって、おまえは満足か?」
「……なに?」
ドリルでハルオの顔を抉ろうとしていた、メカゴジラの手が停まった。
ハルオは喋り続ける。
「全身武器の塊で、拳は岩も砕けるし、腕力は常人の倍以上、その気になりゃ怪獣とだって張り合える。それで、おまえは満足か?」
そんなハルオに、メカゴジラは意気揚々と吼えた。
「そうですね、でも今よりももっと、かつて成し得なかった夢の再現といきたいところです。身長50メートル、いや1キロメートルの超巨大メカゴジラによる怪獣プロレス! これなら愚かな人間たちだって、きっと満足してくれるでしょうとも」
……ふふっ。
そんなメカゴジラの宣言を、ハルオは『笑った』。
メカゴジラの表情から余裕の笑みが消え失せ、怪訝の入り混じったそれへと変わる。不機嫌そうに声を潜めながら、メカゴジラはハルオに訊いた。
「なにがおかしい」
メカゴジラの詰問に、ハルオは噛み殺すような失笑を浮かべるだけだった。
「いや、知り合いが言ってたのさ。『この宇宙には、より絶対的な破壊の力が潜んでいる。それに比べればゴジラなんて恐れるに足りない』ってな」
「さあ、伏して拝むがいい。〈黄金の終焉〉を」
次の瞬間、ハルオの背後から、金色の〈高次元怪獣〉が鎌首をもたげて現れた。
高次元怪獣による一閃が、ハルオの頸を締め上げていたメカゴジラの腕を振り払う。再びハルオを掴み上げようと手を伸ばすメカゴジラだったが、高次元怪獣に阻まれて掴めない。
「サカキ=ハルオ、なにをした!?」
メカゴジラに問われ、ハルオは答えた。
「おれではおまえを始末できないからな。だから
メカゴジラから見えないようにしていたハルオの手の中には、先日メトフィエスとの戦いの後に回収したゲマトロン演算結晶が光っていた。
隠し持っていたもうひとつの切札、それは高次元怪獣だ。
今のハルオは生きたガルビトリウムも同然、ハルオがその気になれば、ガルビトリウムがなくとも高次元怪獣を自在に呼び出すことが出来る。そのために必要なゲマトロン演算結晶はまだ残されている、その詳細な手順は、先日から脳内で響き続けている『声』に従えばいいだけ。
「さあ、餌の時間だ」
ハルオの手振りに従うように、三つの頭を持った高次元怪獣が、メカゴジラへと襲い掛かった。
ピロピロ ケタケタ イヒヒヒヒ……
黄金の稲妻にも似た姿の高次元怪獣は、嘲笑うように嘶きながら三本首でメカゴジラへと食らいつき、高々と吊し上げる。
「なんだ、なにが起こっている!?」
メカゴジラは宙に釣り上げられたままもがき、懸命に抵抗した。全身から武器を展開し、フィンガーミサイルやブレードランチャーを撃ちまくる。
だがしかし、ミサイルもブレードもすべてすり抜けてしまうばかりで、高次元怪獣を振り払うどころか触れることすら出来ていない。
メカゴジラが当惑を口にする。
「サカキ=ハルオ、貴様、何をしている!?」
……やはり、思ったとおりだ。
先日の戦いについてマーティン博士から聞かされた、『顕現した高次元怪獣を機械類で捉えることが出来なかった』という話。
そこからハルオは一つの推測を立てていた。
機械類、つまりメカゴジラには高次元怪獣の姿が見えない。きっと今だって、何が起こっているのかさえ理解していないだろう。
そうこうしているうちに、メカゴジラの手足を高次元怪獣が食い千切った。人間らしい赤い血は一滴も出なかった。
「いや、いやあ! やめてえ!」
それと同時にメカゴジラの口から声が漏れ、引き裂くような絶望の悲鳴が一帯へと響いたが、ハルオはその場から微塵も動かなかった。
……わかっている。こんなものはハルオの同情を誘うための偽装、芝居、演技だ。
「い、いたい、いたいよう! くるしいよう!」
実際は痛いとも苦しいとも、なんとも感じてはいない。
こうやって哀れっぽく叫べば、優しいハルオが手を差し伸べてくれる。かつてメカゴジラ=シティでの戦いでユウコを助けようとしたときのように。
そんな風に計算しているだけだ。
「たすけて、
……ごめんな、ユウコ。おれにはこうしてやることしかできなかったんだ。
ハルオはその場に崩れ落ち、慟哭した。
高次元怪獣の攻撃を受けるうちに、ついさっきまで人間そっくりだったメカゴジラは銀色の奇怪な塊へと変貌していた。
あまりにも醜悪で、グロテスクで、そしてあまりにも哀れな姿。まるで人間の欲望の
そしてそんなスクラップに成り果てたメカゴジラを、高次元怪獣は容赦なく貪り食っていった。
その光景を眺めながら、ハルオはメカゴジラ=シティを破壊したときのことを思い出した。
「勝利するなら覚悟しろ! ヒトを超え、ゴジラを超えたその果てに至ると!!」
そうしてナノメタル化を迫ったムルエル=ガルグを、ハルオは受け容れることが出来なかった。
……あのとき下した自分の判断が正しかった、なんてことは絶対に思わない。もっと良い方法が、そしてメカゴジラ=シティの運用についてビルサルドたちを迂闊に信用せず、もっと事前に価値観を擦り合わせておけばあの状況は避けられたはずだ。
そしてそれが出来なかったのはこのおれ、サカキ=ハルオの責任だ。
自分の詰めの甘さが何人もの仲間を犠牲にし、ユウコを怪物にしてしまい、そしてゴジラ討伐の未来も喪う結末を招いた。皆死んでしまったのになぜ自分だけが助かったのか、そう悩まなかったことは一度もない。
……しかし、である。
もしもあのときムルエル=ガルグの言葉に屈して、ナノメタル化を受け入れていたら、どうなっていただろう。
たしかにゴジラは倒せていただろう。しかしメトフィエスたちエクシフが暗躍していた以上、高次元怪獣の毒牙からは逃れられなかった。そしてもしそのときが来たら、あるいは自分たちもこうして高次元怪獣に為す術もなく喰われるだけだったのかもしれない。
高次元怪獣に喰われながら、メカゴジラが咆哮した。
ゴジラの咆哮にも似た、メカゴジラの断末魔の叫びだ。
そのときハルオは、高次元怪獣に喰われてゆくメカゴジラの口元が、微かに動いているのに気づいた。
……ありがとう、せんぱい。
そう言っているように見えた。
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