慧心学園“女子”軟式ヤきゅーぶ!   作:桜咲く日に

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初めまして。この度スポーツを題材にしたものを書いてみたくなりました。衝動です。
スポーツものは初めてですが、純粋に野球ver.になったものを書きたくなりまして。

それではどうぞ。



破けたバケツ

閉鎖的な位置に存在する小さな──いや、この人数ではそれなりに小さいとは言えるが数人ならばそれなりに……、という部屋に押し込められていた。中はお天道様の光はそう、届かない。なれば薄暗い。さらには部屋の四角には、積み上げられた女性の妖艶な姿が撮られている表紙のものが覗いてた。……どうも海産物の臭いが前方にある箱……、言いたくはないが勿論ゴミ箱である。それから漂ってくるような、こないような。

 

 そんな、なんとも居がたい場所に鎮座している男たち──。それを眺めてみれば先ほどした海産物のほかにオイルや革の匂いもする。そんな様々な刺激臭の中、皆は無言で副部長の帰りを待ち続けていた。

 

 ──ここ、七芝高校硬式野球部所属である三年生が一桁、更に一つい上の二年生がやっとこさ二桁の人数。そしてこの場において一番数で勝っているのは言うまでもない。自分を含めた仮入部である一年生である。そんな数の数に押され、飲み込まれ。グラブやそのオイル、またバッティンググローブ、守備手袋などに付着した歴年の汗の匂いを鼻腔に否が応、吸引しつつ扉に一番近い四角を奪取……、というより運良く得たのは僥倖である。そんな四角からは皆の様子が見やすく、少し視点を広げてみれば、橋田中出身のセンター──鹿島、だったか。彼なんかは特に体がでかいせいで両脇から上級生に圧迫され必要以上に汗を掻いている。

 

 下手な蒸し風呂など大したものでもないほどに蒸しているこの室内。不快指数などはとうに頂点を迎え、さらにこの部内の不安を後押ししていることだろう。そんな途方にさえ暮れてしまう状況下で出来ることは先ほどと同じく一つしかない。

 

 窓を、そして扉を思いっきりこじ開け、開放的な空気の感を味わいたいのは間違いなく全員だろう。……多分。少なくとも一年生という仮入部2日の少年たちはそのような思考をしているはずだ。しかし空気──、雰囲気がそれを許してくれるはずもなく、未だに膠着状態であった。

 

 どこからか、拮抗した投手戦です! と見知らぬ実況すら聞こえそうだ。これはもう粘り勝ち。そんな中、一筋の汗が顎下を零れ落ちる。はぁ、長い──。正直あまり実感すらしていない。国技、とは言わないまでも日本で有名なこのスポーツをやっている、その状況下でこのような経験はそう、ない。いや、あってたまるか。

 

 そんな中、遂に一つの影、拮抗を終わらせる打者が扉を開いた。それにより均衡したこの空気間は外に抜けていく二酸化炭素、その他によって若干だが軽くなる。一斉に部員たちが彼を見た。彼は真剣な面もち……、よりは幾らか目を伏せたような面構えを現した。

 

「……杉本、さん」

 

 誰かがそう呟いた。恐らく、さん付けからして二年生の先輩だろうか。その声はなんとなく震えさえ含んでいるような気がした。

 

 しかし軽くなった空気は一瞬にして物理的なものではなく精神的なものによって重くなる。その中で眉間に皺を寄せ、立ち尽くす先輩。その面を見れば無理やりにでも理解させられた。楽観的、希望的観測はここまでのようだ。その口から奏でるのは恐らく──。

 

 ただ俺は祈っていた。野球の神様が見ている! といった少年の頃からいわれ続けた神に対して意味のない祈りを捧げていた。精神論より、技術、理論でのプレーを重んじる自分にとってその神はただの心の中の飾り。しかし、今ほど祈りたくなることもそうないのだ。

 

──以前……、二○XX年に誕生した初の女子プロ野球選手。変則なサウスポーとしての中継ぎ、またワンポイントとして十二球団の一つに生まれた球界の花は日本のベースボール業界、きってはNPBに激震を起こした。それは革命にすら近い。ただの客寄せパンダ、一年契約で終わろうとした球団の意図を裏切り、そのサイドよりかはアンダーよりの投法から繰り出される左右の変化球により登板三○を超えても防御率を二点台ジャストに留めたのである。この偉業は全国を震わせた。

 

 この成果を大学を出てから四年間維持しているところを見ればどれほど世の中の女の子たちが勇気付けられたのか想像には難しくない。今までの女性選手は中学でのソフト移行を余儀なくされることが殆どであり、女子プロ野球を目指す人間など希少であった。だが、これにより多くの署名、デモ活動が実を結び、監督、部長両名、さらには両親、学校長、理事長、高野連の許可申請を受けれた者を聖地──甲子園予選の出場を認められた。

 

 ここまでの厳重な管理はやはり女子と男子とのプレーを危険視する者が跡をたたないからである。理由はクロスプレーなどが顕著であるが、他にも様々なものが捻れているからである。甲子園という有る意味プロよりも遥かに目指す者が多い憧れの場所を女子が汚すのは……、などという意見も有ったのだが、このような意見は差別という見方により粛正された。こうしてある程度の関門は在るにせよ、女性でも甲子園大会予選への扉が開かれたのである。

 

 まぁ、何が言いたいかと言えばこの事が世間の予想を裏切る程に素晴らしい女性選手を生み出し始めたことにより、狭い門はさらに狭くなった……、これに尽きる。それにより球児人口は増加、女子高すら硬式野球部を持つ所が増えている。

 

 ……しかも、先ほどの関門などは余程のことがない限り通る。なぜなら女生徒が部内に入るのは自由、さらにベンチ入りにまで使える女生徒はなんの問題もない。はっきり言えば、クソ下手な女が公式戦で怪我でもしたら処理にめんどくせぇ、といったところか。ベンチ入りしてほしい、とまで監督に思わせられる選手は問題がない。この申請を通れば基本的には男女の境界線がなくなる。一人の選手としてグラウンドに立つことになるのだ。

 

 しかし、どうして監督のみの申請では駄目なのか、それはコネを使う親などへの抑止力だったはず……。正直ここ数年の話なのであまり覚えていない。裏金などでベンチ入りを仄めかすのは私立などではそれなりに起こり得ることである。実際に俺の友人の兄貴はそれで話にならない下級生から最後の夏、背番号を奪われたことがあった。

 

 まあうろ覚えな話をしてしまったが簡潔すれば“甲子園を目指す意志のある人間”皆にその資格がある。そんな感じだ。

 

 というわけでここでもしも三カ月も──なんてことになればそれだけで夏の大会はおじゃんだ。これだけでたった五回の内、一回が消える。俺としては夏からベンチ入りを狙い、最低でもって三塁のランナーコーチャーあたりは貰いたい。勿論、スタメンで出れるならばそれが一番だが。

 

 そして俺は先輩の口が“い”で始まるのを待った。待ち続けた。まるでテレビのクイズ番組のようになかなか答えは発表されない。しかし、それにも終止符が打たれる。

 

 「──いっ」

 

 よし。間違いなく“い”だ。これはなんとか──……。

 

「一年の活動停止。夏、および秋は絶望的だ。そして……俺たち三年は──今日をもって引退、だ」

 

 時が停止した。言葉通りだ。ゲーム風に言えば目の前が真っ白だ。真っ黒ではない。真っ白。目の前には何もなく、心のどこからか色が抜け落ちて言った。このまま頭もアルビノ万歳な色になるのではないか。そうまでも思えるほどに俺の色は──なかった。

 

「──はっ……」

 

どこからか声が漏れた。震えが部内に浸透する。誰かの呻きが、嗚咽が聞こえた。この高校、甲子園には以前に一回だけ出場したことがあった。そして決して強豪とは言えなくとも毎年ベスト16から8を安定してとる。さらには投手育成の評判がここ最近の高校では抜けていたのだ。他にも理由はあるが、だからこそ、ここに来たというのに──。

 

 先輩たちの床を殴るドカン、という擬音と涙の滴る音と共に俺──長谷川昴のアイデンティティ、および精神的支柱が陥落した。

 

 

 

 

 最悪、最低だ。世の中、救いなど何もない。俺は死にたい。それほどに心は壊れそうになっている。──あれから四日が経ち、今は金曜日。今では随分と騒がしい教室で孤立を作り上げていた。俺の周りだけ、静かだ。まるで南鳥島。その周りをサッカー部のチャラ目の男子に囲まれているこの席は軽く地獄である。ちなみに言えば俺は坊主ではない。というより今では坊主はそこまで主流と化していなかった。まぁ、高校によっては五厘刈りは怖いため禁止、なんていうところもある。後は……女子選手の影響もあるか。さらにはアメリカ発端のスポーツのくせに日本は軍隊かよ! みたいな意見もあったらしい。

 

 そんなことは端へと追いやって席を立つ。すると道が開く。俺はモーゼかよ。……あれから随分と遠巻きに見られている。まぁ、仕方ないか。しかし、やはり解せないところもある。だって──俺は仮入部2日だけでこの扱いかよ。そんなところだ。

 

 どこで飯を食おうか……。四時間を乗り切った今、昼食を取らねばならない。友人のところへいこうにも何せ奴ら。遠慮なしに深い傷に塩、いやタバスコすら塗ってくる。だからいつも一人で食わねばならない。

 

 俺が何をしたのか。そう廊下を歩きながら思う。そして廊下の南側の窓を仰いで呟いた。やっぱり野球の神様などいない。そう感じる。毎日、七キロは走り、素振りも欠かしたことはなかった。腹筋、背筋、スナップ、ゴムトレーニング、インナーマッスル……etc.その他に柔軟もだ。欠かしたことなどない。有名高校がゴミを見つければ拾い、それは運を拾っているのだ、というインタビュー記事を見たときは戸惑いもなく関係のないゴミも拾った。道具を疎かにしたことなどない。それでも──残酷さは容赦がない。

 

 時計に目をやれば少し時間が経っている。あと二十分、か。いつもならベースボールマガジンや野球小僧という雑誌を読みながら昼食──ああ、本来なら一年生はグラウンドのトンボ掛けもあったな。それすらもないのか。一年使わないグラウンドはきっとボコボコに痛むだろう。あの、マウンドも。そんな思いを秘めながら廊下を抜けていった。

 

 

 

 

「いよう、ロリコン一味!」

 

 ……先ほど危惧した事態に直面した。なんたることか。そしてこの声、一成か。腹の立つ声は腹の虫を一瞬忘れさせて殴りたい気持ちに誘う。きっと、後五分遅くいわれていれば確実に手がでていただろう。

 

「お? どーしたんだい! 機嫌がぁ──ぐばっ……うぶ! な、なにしやがんだ!」

 

「……殴った感触がある、だと?」

 

 おかしい。手に感触がある。痛みも少々。どうやら感情にともなって体も反応したようだ。目の前を見れば──鼻を押さえながら腰を上げていた。インテリ風の眼鏡を決め込み、意味のない高級美容室カットで凡庸にセットした男。うむ、間違いない。これは一成だ。人違いでなく本当に良かった。……殴ったら腹が余計に……。学食、だよな。

 

「ちょ、ちょい待て! おい! 昴! 鼻血出てんのに無視かよ!」

 

 鉄の匂いを含んだ風を纏わせながら近寄る野郎が面倒くさい。いや、たしかにやりすぎたのは認めるが。それでも。

 

「……本当にお前、これくらいの事も予想せずにあんな事いうなよ」

 

 目の端でチラリと見やる。そこには眼鏡を直しながら手を伸ばしてくる奴が。一様、旧友のよしみでここまでですましてはいるが正直もう一発はかましてやりたい。

 

 ちなみに俺はロリコンじゃねぇ。

どちらかと言えば年上が好きなような……いや、わからん。

 

 結局そのまま一成と学食へと赴き、席へと腰を落ち着け割り箸を割って飯をつつく。……右投げ左打ちだった俺は飯を左手で食っていたが今では右手だ。……もう意味を感じない。

 

「あれ? お前って右で食えたんだ」

 

 理由を知らないとは言えズガズガと侵入してくるコイツの学食、うどんへ七味をぶっかけてやりたい。

 

「別に。まぁどっちでも食えたんだよ、元々」

 

 素っ気なくそう返す。すると何かを思い付いたかのように指をパチンと鳴らした。

 

「ああ! お前って右利きのくせに左打ちだっけ? だから左手の神経鍛えるために……悪いって。そう睨むなよ」

 

 分かってるなら触れないで欲しい。まぁそんなことをコイツに望んでも仕方ないが。

 

「でもなぁ、みんな心配してんだよ。お前さ、ずっと暗いし腐ってんじゃないかってさ」

 

 ああ、その通りだよ。それのなにがいけない。その通りに返せば先より真剣な目で俺を見てきた。

 

「ばーか、悪いよ。それはもう思いっきりな。何でなんもいわねぇんだよ。そんな泣きそうな、捨てられた犬みたいな顔して。水くさいったらない。お前とは何だかんだ長い付き合いなんだから話せよ、いろいろ」

 

 呆れが大半を占めるその口調。偉そうに。もうほっといてくれないか。硬球を使えるところなんかろくにない。グラウンドを借りるとしてもそれなりに金がかかる。それに背中がなんだか痒い。柄にないことを言うなよ。

 

「……ほっといてくれないか。俺はなんともないって」

 

 嘘だ。しかし吐露するわけにもいかなく俺はさっさと立ち去ろうと食器を手に持ちその場を離れた。

 

「おい! 話はまだだろ! 昴!」

「……ついて来たければこいよ。屋上で風に当たってくるから」

 

 ツンデレ野郎が、なんて言葉が聞こえたのは幻聴か? 

 

 

 

 

 それから話したのは誰でも知っているような事ばかりだ。不祥事を起こしたのは部長だとか、その部長が監督顧問の小学生の娘に手を出したとか。それはもういろいろだ。きっと次予選の抽選に行きでもすれば辺りからすごい目で見られるだろうよ。ロリ校野球部とか。結局愚痴として話せることを話してしまった。これは失態だといっていい。

 

 はっきりいってメディアでたら流しにならないのが不思議だ。もう外を歩けなくなるところだった。

 

「──そんで? どうすんだよお前さんは。これからさ」

 

 冗談も交えながら聞いていた先程と打って変わり、改まった口調になる一成に目を開く。

 

「どうって何がだよ」

 

 ただ、腑抜けにならないように返事をした。

 

「部活一択だよ! ぶ・か・つ。お前さ、中学では陸上部に助っ人もしてたじゃん。それに足もあるから引っ張りだこじゃねえの? 駅伝とかやったらどうよ? 箱根はいいぜぇ。それにさ『一回戦敗退常連の弱小野球部だった桐原中野球部を三年で関東準優勝までの仕上げた長谷川昴という選手。上手投げの本格派投手で捕手の経験もあり。それにより視野に広く、実質サインなども出していた若き司令塔。彼を中心に桐原は快進撃を続けた』って雑誌にあったじゃん。お前は頭でスポーツすんの得意だし順応できるだろ? だから他のもありだろ」

「……なんかキモイな。なんでそんな知ってんの?」

 

 身震いするだろ。ちなみにサイン云々は顧問が素人だったのが由来である。

 

「そういやなんで関東準で全国行けなかったの?」  

 

 きょとんとした表情に毒気を抜かれて溜め息を吐いた。

 

「前言ったろ。総体は部内事情で出れなくて、その後の大会は関東までしかなかったの」

 

 二度目の対応に辟易しながらそう説明する。

 

「つーかさ、お前野球に拘りすぎだよ。たまには違うのやってみたら? 野球できる奴って結構なんでもできる奴いるじゃん。ほら、全部使うからさ」

 

 そう言って手や足を動かす。

 

「──それか、いっそ伊戸田に転校するとか」

 

 伊戸田商業。甲子園に十五回出場しているきっての名門校だ。ここ最近では連続で出場していて、いつぞやのP○学園を思い出す。

 

「駄目だ。どちらにしろ俺は来年まで出られやしない。高野連規定だ。俺がやむ終えない事情で向こうの関係者に養子でもならないと公式戦にはでれない」

「なればいいじゃん」

 

 ……そう高校生ならではの軽いノリで返してくるコイツをぶん殴りたい。

 

「やむ終えないって言ったろ」

「怒んなって。ジョークよジョーク」

 

 転校してから年度が変わらなければ公式戦は出れない。中学までは関係ないんだが。理由はいわゆる引き抜き工作を無くすためだろう。活躍している選手を金を積んだり口説いたりして引き抜き、なんの枷もなく公式戦で使えたら高校野球はもっと殺伐としたものになってしまう。だからこそ、二年なら三年まで出れない。三年で転校したらもうそれだけで高校野球は終わりだ。

 

 先程の一成の言うとおり、確かに部活を変えるのもいい。しかし──

 

「もう引き際かなって、俺はそう、思ってる」

 

 もう、ボールもバットも置いてしまうか。それだけだった。

 

「……おいおい、それでどーすんだよ。お前から野球とってなんの意味が残るんだよ。やりたいんだろ? やれよ。死ぬ気で標を探してみろよ!」

 

 ……言ってることがさっきからあべこべだ。結局なにがいいたいんだ? だからそういう目をしないでくれ。ほんと頼む。

 

 正直抜け道などどこにもなかった。硬式のクラブなどそうない。それに転校しても一年はどちらにせよ試合は無理。受け入れてくれる所もあるか、分からない。それに──下手な強豪で肩などを壊さないように。理想の投手になれるようにここに来たのに。ここの監督顧問は顧問を降りた。まぁ、自身の選手に大事な愛娘を奪われたのだから分らんでもない。つまりだ。もう空っぽなのだ。

 

 ──やりたかった、野球も。全て。穴を開けたバケツのように情熱も思いも、夢も。全部流れてしまった。

 

 残ったものは、損なわれた現実、だけだった。

 

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