慧心学園“女子”軟式ヤきゅーぶ!   作:桜咲く日に

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野球盤

 

 

 練習日──水曜日──慧心学園、校庭。第二回目のコーチが始まる。

 

 この間、千早と遭遇して一日が経過した。俺の答えに彼女はやはり無表情で。それでいて……。ダメだ。こんな面持ちでは笑われてしまう。

 

 現状、何をどうすればいいかなんて分からない。監督顧問の指導の定評やその他の理由もろとも吹っ飛ばされたのだから。

 

 思考をクリアにする。考えの向き、ベクトルを変えろ。

 

 俺は前方に目をやった。

 

 ズラリと並ぶが小学生。しかも女子。しかも全員の容姿がある(個人的に)一定以上のラインを越えるほどに良。これが正直余計にまずい。なまじかわいい子相手だといらぬ不安まで第三者に抱かせそうで。指導をしながらも、辺りを時々確認してしまう。どこかに俺を不届き者と疑う輩がいないかを。

 

 そんなことは一端おいておいて、紗季に目をやる。なんだか、前日と様子が違う。これは気合い? なのだろうか。アイガード……。まあ、どのスポーツでもそんなのはあるから、特段違和感があるわけではないのだけれど。それでもなんか……カッコいいような。それに髪の毛も後ろにやっていて別人のようだ。他のみんなはそんなに変わりがあるわけではないけど、やはり目が多少違うかな。前よりも少しだけど真剣というか、なんかやる気スイッチが入ったような。

 

 とにもかくにも“野球”をやらせてあげなければいけない。こないだは好きにやらせたが今回からは少しだけ趣向を変えていこう。やはり、ゲームに近い形でやったほうがおもしろいだろうし、気合いの入り方も変わるだろう。俺としてはたった一週間で基礎を仕込む気などさらさらない。というか無理だ。智花になら変わったことを教えてあげられるけど、みんなにはさすがに。だったらいっそ、“野球”というものの輪郭だけでも体感させてあげるのがいいのだろう。

 

「えーと、それじゃあね、少しゲームでもしてみようか」

 

 みんなを見据えてそう口にする。すると、各々が様々な反応を示す。

 

「おっしゃー! すばるん! あたしのレベルいくつかちゃんと見といてね!」

 

 真帆は予想通り。まあ、はっきり言って反応は予測し易いタイプだ。こういうタイプは盛り上げて、誉めて伸ばすのがいい。というより、誉めなければ拗ねてしまうことがある。叱れば尚更だ。まあ、叱ることはないけど。それでも性格を把握しておくと助かることは多い。

 

「どうやってやるんでしょうか?」

 

 おずおずと聞いてくるのは智花だ。彼女は意見するのを得意としてはいない。詳しい性格はやはりゲームで見なければまだ分からないがおそらく“イヌ”に近いタイプだろう。イヌというのは人間の性格は犬、猿、猫と三つに分けられる。イヌタイプは非常に扱いがしやすい。簡単に言えば期待されて、褒められるのが大好きである。彼女はみた感じはイヌよりに感じる。真帆もどちらかと言えばイヌだが、前回で身体能力、運動センスが高いのを把握したし、基本的に自分で行動をするので犬よりの猫、くらいかもしれない。猫は気分屋でもあるからな。

 

「野球は9人でやるんですよね……?」

 

 少し戸惑った様子で聞いてくるのは紗季。この子は猿よりかもな。まあ、小学生だから人格が完全に安定していないので細かく決め付けることは不可能だが、工夫を施し、思考でどうこうするタイプであるのならば猿よりである。それはこれから見ていこう。

 

「おー。げーむ? それってどうやるの?」

 

 ひなたは……。止めよう。とりあえず、余り子供たちをこういう風に枠に収めるのは止めておくか。そのうち分かるだろうし。正直性格を分けておくと練習メニューが組みやすいので中学から使っていたがたった五人では意味もない。全員でやる以外大した練習など出来やしないのだから。とにかくひなたはあまりボールを怖がらないし、後は慣れていくしかないな。

 

「……え、えと、大丈夫、かな」

 

 愛莉は相変わらずなところはあるが、練習前の智花の話ではこの間の頭ポカリが良かったのか、あのまま怖がりは克服しようと頑張っているらしい。

 

 さて、始めるか。

 

「試合ってほど大袈裟じゃないけどね。ただ単にポイント制の遊びかな」

 

 キャッチボールなどをずっとやるのはあれだし、バッティングばかりではバッティングセンターにでも行けば済んでしまう。ここでしかできないものをやるとしよう。

 

「よし、じゃあ──」

 

 

 

 

 説明したものはこれ。

 

 まず、前回の練習を見てみて内野を越せるほどの打球を打てたのは真帆と智花の二人。紗季はゴロでいい当たりが何本か。ひなたは当てるのが現状精一杯だ。それも60キロほどの遅球を。まあ、これからだろう。むしろ、前の三人が運動センス高いほうなのだ。愛莉は一度だけ目を瞑って振ったボールがファールではあるが外野まで飛んでいたな。やはり小学生では背が高いだけでけっこう力……、体のバネ、とでも言えばいいのか、とにかくそれが他人とは違うのである。

 

 それらを踏まえて練習は学校にあるネットを内野に並べる。まあ、テレビなどで見るリアル野球盤、小学生仕様である。智花以外はそう内野を越えることはないので外野の分はいらない。

 

 後は軽いポイント制にしよう。

 

 俺がピッチャーをやって、バッターに三人。守備に二人。この際に守備の子はネットの前でも、ネットがないところでも、かまわない。適当に守備についてもらう。まだ、ポジションを細かくいう必要ないしな。それで、バッターは一回打ったら次の子と交代。ただ、これはファールは数えない。三振か、ダイヤモンド内に打ったら一回とした。

 

 まあ、つまりだ。

 

 五人にじゃんけんをしてもらった。勝ち順は前から、紗季、愛莉、ひなた、真帆、智花、となった。

 

 上から三人が攻撃側へと向かい、真帆、智花が守備につく。

 

 それで、紗季、愛莉、ひなたと一回ずつ打っていく。それを三回り。

 

 そうすると紗季が一番最初に三回打ち終わるから紗季は守備に。それで四番目の真帆が攻撃側にいき、愛莉、ひなた、真帆となる。それで愛莉が打ったら智花が攻撃側、愛莉が守備……。真帆が三回打ったら、紗季がまた攻撃側に行って真帆が守備に行くんだけれど。まあ、智花と真帆が二人で守備に、紗季たちは三人で守備って途中からはなってしまうけれど。奇数だからなあ。まあいいだろう。

 

 これを繰り返す。

 

 そして内野のネット、また守備を抜けて外野まで打てたら5ポイント。守備にいて、来たボールをとれたら3ポイント。これを何周りかするまでに競う。

 

 ただ、智花がぶっちぎってしまっては困るので智花に了承を得てから智花にはハンデをつけさせてもらった。ポイントをどちらも2にしたのである。……まあ、これでも勝ちそうだけど。

 

 

「すげー! これってテレビでみるようなやつじゃん!」

 

 真帆が嬉しそうにはしゃいでいた。実際はだいぶ違うのだが……喜んでいるならいいか。

 

 ついでに一番になった子にはアイスでも奢ろうか。コンビニで悪いけど。でもあまり贔屓にならないようにほかの子にはジュースかな。それを言うと。

 

「おー。ひな、ハーゲ■ダッツがいい」

「そうね……どうせやるならアイスがいいわね」

 

 ひなたと紗季は既にアイスを食べる未来を想像しているのだろうか。

 

「そ、そんな、長谷川さん悪いですっ!」

「なにいってんだ! もっかん! すばるんはコウコーセーなんだから大丈夫だっ!」

「あ、アイス、かあ……」

 

 遠慮がちの智花に飛びつく真帆。まあ、おごる側からすれば遠慮されると少し寂しくもあるな。愛莉はなにやら逡巡している。

 

「まあ、全員にそれくらい奢っても大したお金でもないしね。とにかくやってみようか」

 

 俺の掛け声に大きな声で返事をくれる彼女たち。今だけ、なんとなく高校野球ではなく、“野球”そのものを楽しめているような、そんな気がした。





練習の説明、下手で申し訳ごさいません。

そろそろ物語を動かしていこうかな、と。
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