-交換日記(SNS)02◆
『ああああ! 最初の印象からして全然じゃない! 真帆のせいよ! これも! 紗季』
『うーん。なんでだろなあ。すばるん、もしかしてメイド嫌い、とか。それともオンナだったりするんじゃないのかな? まほまほ』
『いやいや……。長谷川さんは男でしょ、どうみても。確かに中性的な感じはするけれど。それよりもこのままじゃ後二回で終わっちゃうよ! 紗季』
『……そうだよね。このままだとどうしても。最終日にお願いしてみて、様子見てみよう。……でも今日の練習、楽しかったなあ。 湊 智花』
『あー! そう言えばもっかん! 聞き忘れていたぞ! すばるんとどういう関係だー! まほまほ』
『……わ、わたしも少しだけ気になる、かな? それとわたしもすごく今日、楽しかった。 あいり』
『え!? えと、えとね? その、なんていうか……あぅ。 湊 智花』
『むむむむ! これはあやしい! まほまほ』
『おー? ともか、おにいちゃんとあやしい? ひなた』
『……確かにそうね。なんだか思ったよりも仲良しな感じだったし。まあ、長谷川さんなら不思議じゃないけど。 紗季』
『なにがふしぎじゃないんだ? まほまほ』
『ほら、今日一日だけだったけど、長谷川さんってすごく教え方も丁寧だったし、みんなが飽きないようにしてくれたじゃん。だから数回会ったことがあればあんな風に仲良く見えるのも不思議じゃなさそうだってこと。 紗季』
『えと、それは長谷川さんが優しいからってことでいいのかな?
あいり』
『そういうこと。 紗季』
『……私がね、前から知ってたの。長谷川さんって野球やってる人からすればここらへんでは結構有名なの。 湊 智花』
『へー! やっぱみーたんがいってたとおりすばるんはすげーコーチなんだな! まほまほ』
『具体的にはどれくらいすごいの? 紗季』
『えっとね……、事情とかは知らないんだけど、中学生の時に、硬式野球で一年生で全国大会に行っちゃうくらい、かな。その後に色々あったみたいで軟式をやっていたみたい。でもそこでも関東大会行っちゃうくらいだからきっとすごいのだと思う。 湊 智花』
『ふーん。詳しいのね。これは脈ありかしら? 紗季』
『そ、そんなんじゃないよぅ! ただ地方新聞とかで見たから……。 湊 智花』
『でもでも! ぜんこくってことはナツヒみたいな、ちくゆうしょうなんかとははなしにならねーってことだろ!? やっぱすばるんいればらくしょーじゃん! まほまほ』
『……お前、やっぱり変換しろよ。読みづらい。でも、そうかもね。始めたばかりだからあまり分からないけど、地区優勝は県大会に出れるだけらしいし。確か県大会は一回戦負けだったっけ? そうなら長谷川さんに指導してもらえればもしかしたら。 紗季』
『だろだろ! だからもんだいないって! まほまほ』
『でも問題あるとしたら……。 あいり』
『メンバー、集め。だよね……。 湊 智花』
『なー。もっかん。やっぱりごにんでしあい、できないのか?
まほまほ』
『……駄目、だと思う。カマキリ先生も試合の日までに人数が揃わなかったら勝ち負け関係なくそこでお終いだって……。 湊 智花』
『おー。ひな、だれかにこえかけてみる。 ひなた』
『……そうね。最後の最後まで頑張ってみよう。指導は長谷川さんに任せて人数は自分たちでどうにかしよう。 紗季』
『くそー! あたしらごにんでもすばるんがいればかてんのに! まほまほ』
『……うん。とにかく足掻いてみよう。 湊 智花』
◆
初めての練習は案外あっけなく終了した。バッティングをやらせてみたらやっぱりというか、真帆は嬉々として金属音を鳴らしていた。子供からすれば打つのは楽しいのだろうな。一番その場で結果が見やすいことも理由の一つだろうか。みんな、精一杯に遠くへ飛ばそうとしていた。ジュニア用のとても軽く、短いバットもあったのでひなたもなんとか振ることが出来ていた。途中から近めに移動してゆるく投げていたのだが。まあ、小学生の球速なんて100キロ出ればいいほうだ。殆どのピッチャーは90キロ前後。これが小学生の平均球速である。……しかし不思議だよな。中学にいったら120や130も怖くなくなるなんてさ。小学生のころも、バッティングセンターなどで慣れてくれば当たるくらいにはなるが、やはり相当速く感じたものだ。とにかく小学生で全国や世界大会に行くような投手はマックスで115ほどだったはず。俺がたまたま見た時にそうだっただけで以後の小学生野球にこれ以上の逸材がいてもおかしくはないが。だがそれでもそうそうそんな投手はいないし、いてもストライクがしっかり入るかどうかは別問題だ。特に今はバッティングマシーンを持っているチームも多いからぶっちゃけ速い球が放れても対策など簡単にできてしまう。人間は慣れればどうにかしてしまうからな。それよりもカウントを作れないピッチャーなどハッキリ言って邪魔だ。ストライクが入らないのならば例えば160を投げようとそれはピッチャーとは言えないし、認める気にもならない。俺自身、野手で試合を経験したことは勿論あるが、ストライクが取れない投手には苛立ちすら感じてしまう。ただ誤解が有ると困るので言っておくが、四球をノーアウトからバンバン出して、終いには押し出しをしながら試合を壊すような投手に限ってだが。
野手からすればボールがくれば死ぬ気で守る。しかし、それすらも相手にさせずに夏などのくそ暑い中、ただ、案山子にされてしまう野手からすればマウンドまで行ってぶん殴りたくなるだろう。俺としてはとにかくストライクを多く入れられる人間が一番大切だと思っている。勿論、これは小学生野球においてだが。中学からはストライクが入ればそれでよし、とはいかない。
愚痴のようなことを零してしまい、なんとなく自分に辟易とする。やっぱり野球が出来ないことにストレスを感じているのだろうか。教えるのは好きなほうだが、やはり俺はまだ高校生。甲子園へ! な年頃なわけである。それでも多少気が紛れたのは事実だ。あの子たちと野球をして、心が少しだけ軽くなるのを感じた。
特に印象に残っていることがある。
──智花だ。
彼女が打席に立ったのは一番最後だった。あ、そうそう。危ないのでヘルメットはみんな被っている。
智花が打席に入った時、変な違和感を覚えた。俺は、左打ちだ。智花は右打ち。本来なら左は打った時に自然と一塁ベースへ向くことができる。しかし右は逆方向へ体を捻るため、ベースへ行くのが遅くなる。だからこそ、右と左は同じ打ち方は決して出来ない。もう、感覚が違うのだから。それなのに。
……なんだろうか。いや、まったく違う。俺とはやっぱり違うのに。はず、なのに。どこだろうか、どこかが重なっているような違和感。
まるで、まったく形も色も違うと思っている物同士を重ねてみたらぴったり、ズレもなく合わさるような……。それまで違うと思っていたのは俺の目の錯覚なのか、と思わせるような。
……とにかく今はいい。彼女の力に集中しよう。そう思って投げてみたのだが……。
──感嘆の声が漏れた。
アウトコースをセカンドの頭へ。インコースをショート頭上へ。まるでお手本をさらに超えたかのようなバッティング。低めも高めも全て。文句をつけるのがおこがましいほどに綺麗な打ち方。肘の使い方があまりに滑らかしぎる。
小学生はどうしてもバットに振られてしまう人が多い。いわゆる波打っている、状態だ。しかも、バットを水平に振らせるのは難しい。
それがあまりに無さ過ぎる。
いや、ない子供もいるのだが、女の子で、しかもここまで完成度の高いフォームを手に入れているのが。
……天才、そんな言葉が浮かぶ。技術、パワーはどうにかなる。後天性だ。甲子園でも変な打ち方の人間はいるし、なんでこんな打ち方で打てんの? みたいな奴は必ずいる。
しかし、フォームやその滑らかさ。やっていて、尚且つある程度のレベルを経験していないと気付かないほどではあるが。
ここまで無駄を省いて省いて、出来るようなものを小学生が持っているのが信じられない。
野球をやっていると見た目や振り方、雰囲気でそいつが上手いかどうかをある程度判別できる。まずはユニフォーム。これの着方がお粗末なやつで上手いのはなかなかいない。やはりユニフォームの着方がカッコいい人間はレベルも高い。次は出で立ちや道具の扱い方など。勿論、例外はいるがプロなどに行く人間の高校時代の話を聞けば殆どの人間はこれらが他人から見ても一線を置いている場合が多い。
智花たちがそれら全てを気にするには若干早いような気はするが。
しかし、智花の構え、そして素振りを見れば経験者ならとりつかれてしまうだろう。
それほどに彼女の動きは美しすぎたから。
打てないイメージが浮かばない。……イチローやまた、プロで活躍する選手たちを指導してきたお父さん方、また監督、コーチ。みなさんはこんな気持ちだったのでしょうか。
結局みんなが満足するまでバッティングは続いたが俺はそれが頭から離れなかった。次の練習の時はピッチングを見てみたい。
もしかしたら野手だった、なんてことがあるかもしれないけれど。それでも、彼女に期待をするなという方が無理な注文だった。
ソフトボールでも良かったんじゃないか、などと思ってしまった。
このまま、原作なぞるのとオリジナル展開をぶち込んでいくの、どっちの方がいいのだろうか。