魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第7話 機動外殻・功殻のアレイオーン

 エイミィさんに言われた通り、キリエたちのもとに向かう途中で代わりの武器を受け取りつつ、俺とリインは武装局員数人とともにバラバラに別れた魔力反応の一つを追って上空を飛んでいた。そして着いた先は……。

 

「オールストン・シー……」

 

 すべての照明が消され、暗闇に包まれた遊園地を眼下に見ながら思わずつぶやく。

 こんな所にキリエたちが?

 訝しんだ時、虚空から声がかかってきた。

 

『御神班、大型の質量反応がそちらに近付いています。注意してください!』

 

 その言葉に局員たちは辺りを見回す。それらしいものは見当たらないが……。そう思いながら皆があたりを眺めまわしていると……。

 

「……! 上だ!!」

 

 突然リインが上を見ながら叫び、それにつられて俺たちも顔を上げる。

 するとちょうど俺たちの真上を浮かぶ雲が割れ、そこから巨大な鉄の塊が落ちてくる。それを見て――

 

「う――うわあああああ!!」

「に、逃げろおおおお!!」

 

 鉄塊の真下を飛んでいた局員は慌ててその場から遠ざかる。

 その直後、鉄塊は真下の海に落ちていった。幸い巻き込まれた者はいない。

 しかし、鉄塊はそのまま沈むことなく、四脚の足を広げて海の上を歩く。よく見ると鉄塊というよりは巨大な鉄の馬に見えなくもない。その鉄馬の背の上には、幅広の剣を担いだ少年が乗っているのが見えた。

 

「ふーむ、水上に作られた都市か。攻めるに難く守るに易いとはこのこと。特に中央にそびえる城はなかなか。我らが《王》の居城にはちょうどいい。出来ればあの城だけでも無傷で手に入れたいところだが……」

 

「おい、そこのお前!」

 

「……んっ?」

 

 オールストン城を眺めてぶつぶつ言ってる少年に向かって声を浴びせると、相手は眉をひそめながらこちらを見上げてくる。そして俺を見た途端「ほう」と驚いたように目を見張った。

 だが、それはこちらも同じだった。俺もリインも武装局員たちも彼を見た途端、思わず息を飲む。

 

「お前は……」

 

(おのれ)と同じ色違いの目を持つ者か。見た目といい、貴公が“この体”の元のようだな。どうやら当たりを引いたらしい」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 言葉を詰まらせる俺に対し、彼は面白そうにニヤリと笑う。

 

 彼の姿は俺とまったく同じだった。

 薄灰色の髪と、赤い右眼と碧色の左眼は異なるが、それ以外は顔の作りも背丈も何もかも瓜二つだ。他に違う所があるとすれば、ところどころに銀の装飾が施されている純白の鎧を着ている事と、幅広の刃を備えた大剣(クレイモア)を持っていることぐらいだ。鎧の方は色違いだが、前世(ケント)の頃に着ていた鎧に似ている気がする。

 

「我々は時空管理局の者だ! 大規模危険行為の現行犯で逮捕する! お前は何者だ? 名を名乗れ!」

 

 彼を見ながら固まったままでいる俺に代わって、リインが少年に問いを投げる。

 一方少年は、リインの剣幕に動じず背中に担いだ剣を腰のあたりへ下ろしながら言った。

 

「ふむ、騎士として身上を問われたからには答えねばならないな。己の名はアレル。王からは《瞬撃のアレル(アレル・ザ・ヘイスト)》という名も頂いている」

 

「瞬撃の……」

「……アレル」

 

 リインと俺の復唱にアレルはこくりとうなずき、

 

「そしてこれが《機動外殻》の一つにして、王より与えられし己の愛馬――《攻殻のアレイオーン》!」

 

 その名を告げるやいなや、アレルは自らを乗せる鉄馬の背をとんと一踏みする。

 すると鉄馬はうなり声を上げるかのような仕草で首を持ち上げ、オールストン・シーに向かって一気に突き進む。

 それを見て局員たちはすぐにアレイオーンという鉄馬に向かって砲撃魔法を撃ちこむが、その程度の砲撃ではびくともせず、アレイオーンは海岸の一部を壊しながら陸地に第一歩を踏み出す。

 何人かの局員は諦めたように砲撃をやめ、巨大な鉄馬の様子を見下ろす。そして、その上にアレルの姿がない事に気付いた。

 そこへ突然、彼らの前にアレルが現れる。

 

「はああああっ!」

 

 彼は手に持っていたクレイモアを大きく振るい――

 

「ぐあああっ!」

「ぎゃあああ!」

「うわあああ!」

 

 アレルがクレイモアを一振りした瞬間、三人もの局員が一気に斬り捨てられ、海へ叩き落とされる。彼はさらに数人の局員を見つけ、狙いを定めたように一睨みした。

 

「ひっ!」

 

 その眼光を受け、局員たちは思わずたじろぐ。そんな彼らをあざ笑うように、あるいは失望したような冷笑を浮かべながら彼は大剣を構え、踏み込むように身をかがめた。そこへ――

 

「はああっ!」

 

 俺は奴に接近し、迷わず剣を振り下ろす。アレルは大剣を突き出し、俺からの一撃を難なく受け止めながら口の端に笑みを浮かべた。

 

「貴公か。少々出遅れたようだが、己と刃を交わす気になったのは評価しよう。だが……」

 

 そこで彼はわざと視線を眼下に下ろす。それにつられて下を見ると、地面に上陸したアレイオーンが施設の一つをその巨脚で踏み潰そうとしているところだった。それを見て――

 

「穿て、ブラッディダガー!」

 

 リインは虚空から無数の短剣を取りだし、アレイオーンの脚元に向かって飛ばす。

 アレイオーンの脚にぶつかった瞬間、短剣は爆発し、アレイオーンはひるむように脚を引っ込めた。

 

「健斗、私は局員たちとともにあれの対処にあたります。申し訳ありませんが、それまでの間、健斗は一人でアレルとやらの相手をお願いできますか?」

 

「おう! こいつは俺が何とかする。あのデカブツはリインたちに任せた!」

 

「はっ!」

 

 それだけ言って、リインは他の局員たちとともにアレイオーンの元へ降りる。そして空中には刃をぶつけたままの俺とアレルが残った。

 

 

 

 

 

 ちょうど同じ頃、オールストン・シーのエリアBに鉄でできた隕石が落ちてきて、それを撃ち落としたのを皮切りにフェイトと《雷光のレヴィ(レヴィ・ザ・スマッシャー)》が、別のエリアではなのはと《殲滅のシュテル(シュテル・ザ・デストラクター)》が戦いをはじめ、ヴォルケンリッターたちが彼女らが引き連れていた《機動外殻》の対処にあたっていた。

 

 

 

 

 

 

 健斗と別れ、リインは局員たちとともにアレイオーンへの攻撃を始める。しかし、アレイオーンの装甲は強固で、局員たちの砲撃ではヒビ一つ入れる事が出来なかった。

 その上……

 

「はああああっ!」

 

 リインは魔力のこもった槍型のデバイスを振り下ろして、アレイオーンの頭を穿ち、そのまま地面に着地する。

 それを見て誰もがやったと思いきや、アレイオーンは頭を失ったまま、リインめがけて前脚を踏み下ろした。リインは空中に飛んで回避し局員たちは砲撃を再開するも、その間にも斬り落としたはずのアレイオーンの頭は赤く輝きながら浮かび上がり、本体に戻っていった。

 

「再生しただと……先ほど戦った暴走車にはあんな機能付いていなかったのに」

 

 驚くリインの前でアレイオーンは再生したばかりの頭をもたげ、眼下の施設群に向かって真横に振るおうとする。その前にリインは結界を張りながら飛び出し、その頭を受け止めた。

 

「リインフォースさん! この――!」

 

 局員の一人が叫ぶように彼女の名を呼び、砲弾を撃ち続ける。それが効いたのか、アレイオーンの動きがわずかに鈍った。それを瞬時に感じ取り、リインは全身に力を込める。

 

「ぐっ……ぐああああああっ!」

 

 端正な容姿をゆがませ、細い喉から荒々しいうなり声を絞り出し、リインはあらん限りの力で結界を突き出し鉄馬の巨大な頭を跳ね返す。それを受けてアレイオーンはのけ反るように一歩足を下げた。まわりの局員が歓声を上げリインに負けじと、ひるんだ鉄馬に向けて砲撃を撃ち込む。

 弱ったところに無数の砲弾を撃ち込まれて、さしものアレイオーンもよろめくように身をよじらせる。とはいえ、戦況は思わしくない。キリエたちが引き連れていた暴走車と違って、機動外殻とやらには再生能力があるようだ。頭を斬り落としても再生する鉄馬をどうやって破壊するというのか?

 そう思っていたところで、リインの頭の中に女の声が響いた。

 

《アインス! 聞こえる?》

 

《シャマル。どうした? こちらは今、機動外殻とやらと戦っているところだが》

 

《その機動外殻の弱点がわかったわ。私たちと戦った外殻には、胸のところに全身の動きを制御するコアがあったの。多分そっちの機動外殻にも――》

 

《胸だと?》

 

 それを聞いてリインはアレイオーンの背中を見る。くしくも先ほどまでアレルが乗っていた背中の向こう……その向こう側にアレイオーンのコアがあるのだろう。だが、アレイオーンの背中はしっかりとした装甲で覆われており、そう簡単に破壊できないのが見て取れる。破壊できたとしても再生されればコアを攻撃することはできない。

 だが……

 

「やるしかないか……『響け……』」

 

 アレイオーンの真上まで飛び、持っている槍を杖型にし、魔法陣を展開しながらリインフォースは唱える。リインとはやてが()()()使える魔法の中では、最も威力の高い砲撃魔法を。

 アレイオーンはそれを察したように園内に進もうとするが、そこへまたも局員たちが無数の砲撃を浴びせてきて、思わず歩みを止めてしまう。ちょうどそこで――

 

「――溜まった! みんな離れろ!『終焉の笛――ラグナロク!!』」

 

 リインの一喝に局員たちは一斉に散ってアレイオーンから離れる。その直後、リインの杖から高密度に収束された黒色の砲撃が放たれた。

 アレイオーンはなすすべなく砲撃を食らい、背中に大穴を開ける。だが背中の奥にあるコアは無傷なまま、アレイオーンは再び進撃を始める。局員たちがコアに向けて砲撃するが、焦りのせいでほとんどの攻撃は外れてしまい、体内に散った残骸を集めてアレイオーンの背中は修復を始める。リインはすぐに砲撃の用意を始めるが、とても間に合わない。

 その時だった。

 

「であああああっ!!」

 

 着物を着た長い白髪の男が彼方から飛んできて、鋭い爪で再生しかけた装甲を破壊し、アレイオーンの中へ飛び込んでいった。

 

「ヴィクター!」

 

 彼を見てリインは思わず叫ぶ。

 一方、アレイオーンの体内で白い輝きを放つ球状のコアを前に、ヴィクターは獰猛な笑みを向けながら爪を更に長く伸ばした。

 

「月村家の備品をよくもこんな鉄屑に変えてくれたもんじゃ。異界じゃろうが異星の人間じゃろうが――《夜の一族》を舐めるでないっ!」

 

 そう言いながらヴィクターは爪を振り上げコアに向かって、何度も爪を振り下ろす。彼の数倍の質量を持つコアは見る見るうちにひび割れ、白色の光を溢れさせていく。それを見てリインは――

 

「まずい――逃げろヴィクター!!」

 

 そう叫んだ直後、コアは大爆発を起こし、アレイオーンの体もバラバラになって、その場に崩れ落ちていった。その中からヴィクターが出てくる様子はなく、リインは思わず――

 

「ヴィクターー!!」

 

「なんじゃ騒々しい。まさか儂に惚れたか?」

 

「――っ!?」

 

 隣から声をかけられて、リインはそちらを振り向く。ヴィクターは無傷なまま彼女の隣を浮いていた。

 ヴィクターはふてぶてしい笑みを浮かべながら言う。

 

「なんじゃその顔は? まさか儂が鉄の馬ごときと心中したとでも思ったか? あの程度の修羅場、ハンター数百人に囲まれた時に比べれば何でもないわい。爆発に巻き込まれた程度で死ぬほどやわではないしの」

 

「……そうか、無事で何よりだ。しかし、どうしてあなたがここに?」

 

 リインが尋ねると、ヴィクターは憤然とした様子で腕を組む。

 

「リンディという娘から、賊の一味がオールストン・シーに向かってきおると聞いての。しかも、その全員が先ほどの鉄馬や鉄人形を持ってきているというではないか。そこへちょうどユーなんとかという金髪の小童(こわっぱ)が来ての。あやつと一緒に加勢してみることにしたのじゃ」

 

「ユーノも来ているのか! ……しかし、あなたが《一族》としての力を発揮するには、異性の血を飲む必要があるという事だが……まさか」

 

 訝しむリインに対し、ヴィクターはしたり顔で言った。

 

「いやあ美味かったのう、リンディの血は。異界の女子(おなご)の血も悪くないもんじゃな。聞いた話によると未亡人という話じゃし、儂の新しい妻にしてもいいかもしれんの」

 

「彼女本人とご子息を納得させられる自信があるなら勝手にしてくれ。ところで健斗を見なかったか?」

 

 先ほどまで健斗とアレルがいた空中を見ながら尋ねるリインに、ヴィクターは肩をすくめた。

 

「あやつなら白鎧を着た童と剣をぶつけながら飛び回っておったぞ。白熱しておるようで儂にも気付かなんだ。あの童の見た目といい、想像以上に厄介なことが起きておるようじゃな」

 

「ああ。何しろ《システムU-D》が関わる事だからな。何事も起こらずにすめばいいが……」

 

 リインはそう願うものの嫌な予感が消えない。自身の本体であり、いずこにある夜天の書が何かを警告しているような気がしてならない。

 

 

 

 

 ヴォルケンリッターが機動外殻を破壊した頃、はやては自身に瓜二つな《王》と、なのはとフェイトは《臣下》と、そして健斗は《騎士》と戦いを繰り広げていた。

 さらに時を同じくして、遅れていたバルディッシュとティルフィングの改修が終わり、本局から地球に、さらに東京支局が手配した車に載せられ、大急ぎでオールストン・シーへ運ばれていた。

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