リインと局員たちをアレイオーンの対処に向かわせてから、俺とアレルは空中で剣をぶつけ合っていた。剣戟を繰り返しながら俺とアレルは言葉を放ち合う。
「そういえば貴公の名を聞いていなかったな。己が初めて討ち取る者の名だ。ぜひ聞かせてくれ」
「御神健斗だ。討ち取られるつもりはないがな。そっちこそ聞かせろ。なんで
聞きながらアレルの剣を弾き、そのまま相手に向かって剣を振り下ろす。アレルもそれを受け止めて、俺に向かって剣を振るいながら口を開いた。
「左様だ。だが《王》が永遠結晶と無限の力を手にするには、貴公らを倒す必要があるらしい。それにこのユウエンチという都市も拠点としては悪くない。《王》が力を手にしこの地の制圧を望まれた時に、ここは重要な役目を持つようになるだろう」
「いや、だからなんでそうなるんだよ!? エルトリアって星を救うために永遠結晶を手に入れるんじゃないのか? そもそも《王》って誰の事だ? キリエやイリスの事を言ってるのか?」
俺が問いかけるとアレルは剣を弾きながら、
「質問が多いぞ。敵にそこまで教えると思うか(《雷光》がすでに教えていそうな気もするが)。それ以上知りたければ己を倒して見せる事だ」
そこでアレルは俺から距離をとって魔法陣を展開してくる。それを見て俺も魔法陣を張り――
「フレース・キャノン!」
「ライトニング・アーティリー!」
互いに紺色の砲弾と光の砲丸を射出する。
二つの巨弾は真正面から衝突し、互いに相殺し弾け飛んだ。
それを見届けながら、俺とアレルは小休止するように肩で息をする。
騎士を名乗るだけあって古風な物言いをする男だ。昔の俺でももっと簡単な話し方をしていたぞ。そもそも遊園地を拠点にするって本気で言ってんのか? こっちの世界を知らないためなのか、あの男が天然なのか、いまいち掴めない。複雑な気もするが多分両方だろうな。
とにかく、オールストンにはこいつ以外にも二人敵がいるし、ここから離れた所にはもう一つ魔力反応があるようだ。この騎士バカ一人にいつまでも時間をかけていられない。
相手を遠くに見据えたまま俺は剣を構える。向こうでもアレルが大剣を構えるのが見えた。
「アレル、降参するなら今の内だぞ。この武器は物理的なダメージが与えられる分非殺傷設定が効きにくくてな、まともに食らえば大怪我する」
「負傷を恐れて騎士など務まらん。主のためならば死をも恐れず敵に立ち向かうが《騎士》というもの。なあ、ハイペリオン」
俺の忠告にかえって興が乗ったとばかりに、アレルはその手に握った《ハイペリオン》という大剣に語りかける。無人格型の俺の剣も、向こうが持ってる大剣も言葉を返してこない。だが、純粋な武器としての性能はあちらに分があるように思えた。
しかし、俺には“あれ”がある。速度においては絶対的に優位に立てるあの《固有技能》が――。
「いつでもいいぞ。来い!」
大剣を構えたままの状態でアレルはそう声をかけてくる。
俺はアレルを視界に捉えながら剣の刃に魔力を集めた。
片やアレルは剣を構えたまま、魔法を使う様子もなくじっとしたままでいる。
「行くぞ――」
そう告げると同時に、俺は剣を振り上げながら一歩踏み出す。寸分の差もなくアレルもまた剣を真横に振るいながら足を踏み出した。ここで俺は――
「フライングムーヴ!」
「シャイニング・サブジゲーション!」
固有技能が発動し、世界中の時間が制止する。
俺は止まっているだろう奴に向けて進む。
――だが!
「――なっ!?」
「――ほう」
すべての――俺以外の時間が止まっているはずの中で、奴は、アレルは
次の瞬間、紺色の魔力光を帯びた剣と、眩しく輝く大剣が激しくぶつかった。
初撃は上手く受け止めたものの、驚きのせいで手元が鈍ったせいか、次の剣戟で奴の大剣は俺の剣を下から弾き上げ、俺は無防備な体を奴に見せる。奴は俺の剣を弾き上げてすぐ己の腰まで剣を引く。その隙に剣を振り下ろそうとするが、奴はそれより速く――
「はあああああっ!」
「ぐあああっ!」
肩から斜め下に掛けて斬られ、思わずうめき声を上げる。
アレルは続けて二撃目を繰り出そうとするが、防衛本能に従って苦悶の声を上げながら剣を振るい、奴の剣を打ち返す。
そうして俺とアレルは何度も剣戟を繰り返した後、互いの剣を弾き合って距離を取った。
「俺と同じ固有技能だと?」
「やはり同じ能力を持っていたか。だが、相手も同じ能力を持っていると知った瞬間、腰が引けたのは感心せんな。そのせいでいらん手傷を追うことになってしまった」
傷を押さえながら吐き捨てる俺に対して、アレルはまた大剣を肩に背負う仕草をしながら忠告するように言ってくる。
姿だけじゃなく、同じ固有技能まで持っているのか。いや、それだけじゃない。魔法陣の展開すらせずごく自然に武器に魔力を集めた挙動から、奴は変換資質を持っているとみて間違いない。
今まで聞いた事も見た事もないが、おそらく奴の資質は――“光”。
そんな資質が何の役に立つかは分からないが、魔法を使うそぶりがないからといって油断はできなくなった。
「……アレイオーンが破壊されたか」
ふいにアレルは眼下を見ながら口を開く。奴に注意しながらその視線を追ってみると、確かに残骸になって横たわっているアレイオーンと、奴による破壊の惨状が見えた。
「その割には残念そうに見えないな。王様からもらった愛馬じゃなかったのか?」
そう言うとアレルは苦笑しながら言葉を返してきた。
「《王》から賜ったのは光栄だが、空を駆ける
「キリエかイリス、だな。やはりお前の言う《王》はあの二人とは別人か」
ごまかす気もないのか、アレルはこくりとうなずく。
「うむ。《王》と利害が一致したようでな、体をもらった恩もあって一時的に手を組んでいる……貴公らの魔導データとやらから作った体をな」
「――俺たちのデータから!?」
アレルが寄こした情報を聞いて俺ははっとする。“奴”やキリエが俺やなのはたちから奪ったのはそれか。じゃあ、こいつらはさしずめ俺たちのコピーといったところか?
「健闘の褒美はここまでだ。そろそろ第二戦と行こう。それとも降伏するか? 貴公と先ほどの銀髪の婦女なら己の従者に取り立ててやってもいい」
笑みを見せながらアレルは再び剣を構える。
俺もそれに倣いながら、
「お前の従者なんてお断りだ。だいたい、リインまでなんて変なこと考えてるんじゃないだろうな。俺のコピーならなおさら怪しい」
「そこは安心しろ。騎士たる者、婦女子に狼藉を働くなどありえん――行くぞ!」
俺たちは再び剣を交える。
俺の剣に
◇
『高町班、状況クリア。対象シュテルを……』
『御神班とテスタロッサ班も巨大兵器を破壊。ただし、テスタロッサ執務官と御神捜査官はそれぞれ単身で対象レヴィ、対象アレルと交戦中』
空間モニターや念話による報告に耳を傾けながら、妙齢の女性が二人、オールストン・シーの入り口近くに立っていた。一人はリンディ・ハラオウン、もう一人はプレシア・テスタロッサである。
リンディは次元犯罪を解決する機関の人間として、プレシアは園内で戦っているフェイトの身を案じて、ここに駆けつけて事態を見守っていた。
そんな彼女らの近くに一台のワゴン車が停まる。その中から犬のような耳と尾をつけて、額に宝石のような者が埋め込まれているオレンジ髪の少女が降りてきた。
彼女はアルフ。フェイトが拾った死にかけの狼を素体として作った使い魔で、現在では主の魔力負担を減らすために、二年前のフェイトぐらいの背丈の少女の姿を取ることが多い。
ちなみに、アルフの素体となった狼は古代ベルカで繁殖した種で、ベルカ人たちがかの世界からミッドチルダに連れてきた種族だと言われている。
アルフはプレシアの姿を見て、少し身をこわばらせながらもリンディに告げる。
「ごめん、遅くなっちゃった! でも、新しいバルディッシュとティルフィングはちゃんと持ってきた! ……フェイトと健斗は?」
その問いにリンディは心配そうな顔でオールストン・シーを見ながら……
「二人とも、中で犯人たちを追いかけてる」
「――じゃあ、あたしが届けてくる!」
同乗していた技術部のスタッフからデバイスが入ったケースを取り上げながら、アルフは園内に入ろうとする。そこへリンディが彼女の前に立ってそれを止めた。
「普通の魔法がほとんど通じない相手よ。あなたじゃ危ないわ」
「えっ……でも、だったらなおさら、今の装備のままフェイトたちを戦わせられないよ! キリエに続いて、フェイトたちにそっくりな子たちもいるんだろう? 今の武器のままじゃあ――」
そう言われてリンディも戸惑う。
フェイトたちが現在持っている武器は管理局で支給されてる汎用デバイスで、性能はいいとは言えない。
それに対して敵は、通常の魔法を無効化するキリエ、イリスに加え、フェイトたちの姿、主武器までをもコピーしたような者たちだ。万が一のことは十分考えられた。
かといって、
ならばここは――
「私がと――」
「私が届けに行くわ」
アルフからケースを取ろうとしたリンディをさえぎって、プレシアがケースを取り上げる。それを見てアルフは目を丸くし、リンディは険しい顔で彼女に言った。
「プレシア。今のあなたは自由に魔法が使えない身よ。もうろくなデバイスも持っていないはず。それに敵の中には魔法が通じない子もいるわ。いくらあなたでも危険――」
「馬鹿にしないで。デバイスがなくったって魔法の百や二百、常に頭の中に入っているわ。少なくとも補助型のリンディよりはまともに戦えるはずよ……それに」
プレシアはなにか言おうとしながらも、続きを飲み込む。そして彼女はデバイス入りのケースを手に園に体を向けた。
「とにかく、私はフェイトにデバイスを届けに行ってくるわ。健斗君にも届けたいところだけど……」
「――彼には私が届けに行ってきます」
その声に一同が振り返る。
そこへ車の奥から、帽子をかぶった薄茶色の髪の女性が出てきた。
「リニス……」
使い魔兼親友の顔を見て、プレシアはその名をつぶやく。
そんな彼女をはじめとする一同にリニスは言った。
「デバイスの不備なんかで、ライバルに負けてもらっては困りますから!」
原作に詳しい方への補足。
“光”の変換資質は本作独自です。
ただ、変換資質は生まれ持った時から身についたものですから、炎熱・雷撃・冷却以外の属性を持ってる人間がいてもおかしくないんじゃないかと思って設定しました。
“光”は作中世界でも極めて珍しい属性です。それがどんな風に役立つのかは後々……。