健斗がアレルと戦っている一方で、フェイトもまたオールストン・シーの水中水族館で暴れ回るレヴィを止めるべく、奮闘していた。
館内に被害を出しつつも、フェイトもレヴィも戦いの場を海上ステージに移していた。
海から直接汲み込んだ水面の上にいくつもの足場が設けられている、イルカのショーなどに使う予定の屋外ステージだ。今の時間、暗闇に包まれているはずのステージは、シュテルが落とした雷によって電力が注がれ、照明どころか噴水まで動いている状態だ。
戦いながらもフェイトは懸命にレヴィを説得し続け、レヴィもそれに耳を傾け始めたと思いきや――
「ちょい待ちフェイト! 今なんて言った?」
「……えっ? 人に迷惑をかけたりと物を壊したりするのは悪い事だって――」
突然問いを投げてくるレヴィに、フェイトはかつて犯した自らの行いを思い出しながら、もう一度繰り返す。しかしレヴィは首を横に振り、
「違う違う! その後! “それが命令されたことでも”って言ったよね!」
「えっ……う、うん! 誰に命令された事でも人に迷惑をかけたり物を壊したりするのは――」
「それってさ、ボクの王様のことを悪い人だって言ってるの?」
「えっ――いや、ちが――」
一段低くなったレヴィの声にただならぬものを感じ、慌てて訂正しようとするフェイトだが、レヴィは聞く耳持たずに口を開いた。
「王様はさ、ボクをいい子だって言ってくれた! ご飯もおやつもくれたし、うんと優しくしてくれた、一緒に眠ってくれた! ボクが世界中でたった一人、この人についていくって決めた人だ。そんな王様を悪い人だとか言う奴は……ボクがこの手で――ブチころがす!!」
《バルニフィカス》という武器の形状を斧型に変えながら、レヴィは言い放つ。
そして次の瞬間、レヴィはまさに“雷光”の如き速さでフェイトに迫り、彼女を空中から観客席に叩き落とす。それから間を空けず、レヴィもフェイトに向かってバルニフィカスを打ち込もうと地上に
フェイトはそれを避けながら――
「レヴィ違うの。そうじゃなくて――」
「違わない! 王様をディスる奴は悪いやつ。ボクはそれくらいシンプルでいいって、シュテるんが言ってくれたもんね!」
先ほど親友からかけられた言葉とともに、レヴィは満身の力でバルニフィカスを振り下ろす。フェイトはそれをどうにか食い止めながら――
「レヴィ、私は――」
「うっさい!」
互いの得物がぶつかっている間に説得しようとするフェイトだが、レヴィはその一言とさらに力がこもった二撃目でフェイトを会場へ叩き込み――
「いいから黙って――やっつけられろ!」
怒声を上げると同時にレヴィは瞬時に地上に降り、フェイトを真上に放り上げる。
空中を勢いよく回りながらフェイトは辛くも体制を整え、眼下を見る。そして彼女が見たのは地面にしっかり足を踏みしめたレヴィと、二又の青い刃を天井大まで伸ばした大剣型のバルニフィカスだった。
レヴィは渾身の力でそれを振り上げ――
「双刃――極光斬!!」
その言葉とともに巨大な刃が降ってくる。フェイトはとっさにデバイスを構えるが、刃を受け止めた瞬間、デバイスはひび割れ、あっという間もなく真っ二つに割れた。すると当然フェイトは巨刃をまともに受ける事になり……。
「うああああっ!」
フェイトは刃を食らい、受け身を取ることすらできずそのまま海面に落ちた。
◇
「はあっ!」
「ふっ!」
剣と大剣がぶつかり、金属音と火花が散る。
魔力のこもった剣を何度もぶつけ合い、、俺とアレルは一歩も引かない攻防を繰り広げる。飛行に意識を傾けるのも煩わしくなり、今は互いに地面に降りて戦っている。
「ライトニング――」
彼の象徴である“光”を意味するその言葉とともに、アレルは魔法陣を展開する。
「フレース――」
俺も魔法陣を展開し――
「アーティリー!」
「キャノン!」
再び、俺たちが放った魔力弾が衝突し、周囲に衝撃波を放ちながら相殺し、打ち消し合う。
その直後、奴の姿が眼前に現れた――固有技能か!
「フライングムーヴ!」
俺もすかさず技能を行使しながら剣を振り上げる。
そのまま俺たちは剣をぶつけ、剣戟を再開する。その際、俺の剣からピシッという音がするものの、そんなものにかまけている余裕などあるはずがなく――
「はああっ!」
「――ぐっ!」
音に反応してかすかに生まれた隙をついて、アレルは勢いよく剣を叩きこんでくる。とっさに俺はその攻撃を剣で受け止めるものの、勢いに押されて数歩後ずさってしまう。
そこでまたアレルの体がブレる気配がした――これは!
「はあっ!」
反射的に
「だああっ!」
瞬時に盾を消しながら、俺は剣を振り上げる。アレルはすぐに剣を突き出すも、動揺のせいかその勢いは弱く、俺の剣は奴の剣を弾き上げ、アレルは一瞬無防備な体を晒す。
「ああああ――」
そこへ俺は渾身の一撃を叩きつけようと剣を振り下ろした。
その時――
バキン!
「えっ……?」
俺は思わず間の抜けた声を漏らす。アレルも思わず目を見張った。
俺が振り下ろした剣の刃は突然割れて、半ばから先が折れて宙を舞った。
それを俺はあぜんと眺める――その間にアレルは大剣を構え直し、
「せああああっ!」
彼の大剣はそのまま俺の胴に突き当たり、俺の体は吹き飛んで宙を舞う。
それを見上げながらアレルは剣を構えた。
「いい勝負だったぞ――さらばだ、御神健斗!」
そして、アレルは俺にとどめを刺そうと、剣を振り上げながら地面を蹴った。
◇
一方、その頃。
「フェイトはどこー? 死んじゃったー?」
ステージの足場だった残骸が散乱する水面の上で、レヴィは能天気そうな声を上げながら自分と瓜二つの敵の姿を探す。
そして残骸の上に横たわるフェイトを見て、わずかに体を上下に動かしているところを確認して、レヴィは顔をほころばせた。
「あー、まだ生きてる! ――あ、いやいや、王様のためシュテルンのため、一応トドメをね」
フェイトが生きているのを喜んだのも一瞬、レヴィは首をぶんぶん振って自らの役目を思い出す。
そして、レヴィは薙刀型に変えたバルニフィカスの刃を下に向けて……
「そんじゃ……バイバイ、フェイト」
遊び相手を見送るような口調で、レヴィはフェイトに向かって真っすぐ飛び降りようとした。
――その時!
「はあっ!」
「――えっ!?」
破壊された観客席の方から“紫色の雷撃”が飛んできて、レヴィは魔法陣の盾を張ってそれを受け止める。そして光線が飛んできた方に向かって叫んだ。
「なんだよ、今いい所だったのに! 誰だ、そこの黒いオバサン!」
「えっ……」
レヴィの最後の一言を聞いて、フェイトはそちらに顔を向ける。
そこには黒衣のローブを着て、長い黒髪をたなびかせた、妙齢の女が立っていた。胸元やへそ、脚の付け根あたりを露出したローブ風のバリアジャケットはフェイトも二年ぶりに見るものだった。
「フェイトをこんなにしたのはあなたかしら? 愛娘そっくりな子に手を出すのは気が引けるけど、ちょっとお仕置きが必要みたいね」
手のひらの上に紫色の球を浮かべながら、“彼女”はそう口にする。
それを聞いてフェイトは呆然とつぶやいた。
「母、さん……」
「えっ? お母さんって、フェイトの?」
それを聞いて、レヴィは思わずフェイトと彼女を見比べる。そう言えば顔立ちが似ているような気が……。
「私はプレシア・テスタロッサ。しがないおもちゃ屋の店主で、あなたが傷つけたフェイトの母親――そしてミッドチルダから地球に移住してきた《自称大魔導師》よ!」
かつて武器を交えた少年に呼ばれた二つ名とともに、プレシアは名乗りを上げた。
◇
「はあっ!」
「ぬっ?」
ステッキ状の杖が剣を弾き、アレルは乱入してきた邪魔者を見据えながら地面に着地する。
一方、“彼女”は空中を飛びながら、眼下にいる敵を見てわずかに驚きながらもきっ、と目を細くした。
「何者だ? 健斗の部下か?」
「部下とは心外ですね。私がお仕えする主は別にいます。私の主はあなたごときに後れを取るような方ではありませんよ」
久しぶりに黒いタイツと白いコートのバリアジャケットを身にまとった彼女は、そう言ってアレルに冷笑を浴びせる。
彼女の後ろで俺はつぶやくように言った。
「リニス……なぜお前が?」
「お店の営業が終わったのでプレシアやフェイトたちの様子を見に行こうとしたら、支局の方からフェイトと誰かさんのデバイスを送る途中だと伺ったので、一緒に向かうことにしたんです。案の定、危ないところでしたね」
リニスは笑みを向けながらそう言うもののの、実際にはクロノあたりの根回しだろう。それよりも――。
「新しいデバイスってまさか――あれを持って来てくれたのか?」
リニスはうなずき、なにかを取り出そうと懐に手を伸ばしながらこちらを振り向こうとするものの――
「させん!」
その一言とともにアレルの姿が消え、一瞬にしてリニスの真後ろに現れた。
「はああ!」
アレルは彼女に向かって剣を振り下ろす。その剣は彼女の体を切り裂き
「――ぬっ?」
その直後――
「健斗!」
声とともに上空から装飾品のようなものが落ちてきて、俺は片手を上げてそれを掴み取る。それは手のひらに収まるほど小さい、剣型のアクセサリーだった。アレルの剣をかわしたリニスが、上空から“あれ”を落としてきたのだ。
俺は右手に掲げながら、呼びかけるように唱えた。
「《ティルフィング・アクシス》――
『Ja Meister!(御意!)』
アクセサリー――《ティルフィング・アクシス》は応えながら、以前より少し長い刀身の剣に変わった。
「それが貴公が使う本来の武器か。ハイペリオンそっくりだ」
「ああ。これならお前にもハイペリオンという剣にも負けない。これで条件は互角――いや、こっちが有利か」
隣に降りてきたリニスを横目で見ながら、俺はそう言い直す。しかし、アレルは臆する様子も見せずに剣を向けてきた。
「どうかな? 手負いの貴公に一人味方が加わった程度で、敗れる己ではない。来い御神健斗、そしてリニスよ!」
「ああ――」
「行きます!」
俺とリニスはおのおのの武器を手に飛びかかる。アレルも剣を振るいながら向かってきた。
◇
それぞれが戦っている頃、水中水族館では……。
「あらあら、こんなに派手に壊しちゃって。壊し方からするとレヴィかしら。水族館では戦わないよう事前に言っておくべきだったわね」
割れた水槽と水浸しの床を見下ろしながらイリスはつぶやく。そして彼女はこの先の通路に目を向け、そこが無事なままである事を確認して、安堵したように胸をなでおろした。
「まっ、この先には行ってないようだし、あの子も今は上でフェイトって子と戦ってる。結果オーライってことにしときましょ。さ、行くわよキリエ」
イリスの言葉に、彼女の後ろを歩いていたキリエは遺跡板を手にしながら「う、うん」とうなずく。遺跡板には赤い光点が表示されており、そこに目的のものがあるとみて間違いないのだが……。
「ねえイリス、さっきから遺跡板も見ずに進んでるけど、もしかして最初から知ってたの? 永遠結晶がどこにあるのか……」
「ええ。確証はないけど、見当はついてるわ。こっちの世界のテレビやネットというものでよく取り上げられてたから。その情報を調べれば大体察しはつく」
あっさりそう言ってのけるイリスに、キリエはたまらず――
「だ、だったらなんで、あの王様って子たち――《鍵》なんか目覚めさせたの? 最初からここに向かっていたら、あの子たちと戦う必要はなかったじゃない!」
その問いにイリスは視線を宙に向けて、考えるようにしばらく黙りこむ。そして……
「……見つけるだけじゃ駄目なのよ。永遠結晶を使えるようにするには、それに関わった事があるあの子たちを解放して共鳴反応を起こす必要があるから。管理局の人間を足止めする“囮”も必要だったしね。私とキリエだけじゃあれだけの数の相手なんてできないでしょ」
「そ、それはそうだけど――」
「話は後にしましょう。あの子たちの時間稼ぎもそう長くは続かない。それより早く永遠結晶を手に入れないと。あれはこの奥にあるわ」
迷うそぶりを見せるキリエの言葉をさえぎり、イリスは示すように通路の先を示す。
その先は、海鳴の海底から発掘された『巨大鉱石』が展示されているホールがある場所だった。