魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第11話 悪魔

 オールストン・シーの中心から立ち昇る“赤い光の柱”を見て、今までアレルと戦っていた健斗もリニスも動きを止めて柱に目をやる。それはアレルも同様だった。

 

(あの光は一体? ……まさか、あれが《永遠結晶》か?)

 

《アレル! アレル、聞こえるか!》

 

 光に気を取られていたところで脳内に主の声が響き、アレルははっとした。

 

《王! ご無事であったか》

 

《無論だ。小鴉(ごがらす)ごときに後れを取る我ではない。それより貴様こそ無事か? 今、どうしておる?》

 

 小鴉という単語にアレルは首をかしげかけるも、闇の書の主のことかと思い直しながら答えた。

 

《己は無事だ。しかし、まだ己のオリジナル――御神健斗を打ち破れてはいない。もう少し時間を頂ければ――》

 

《それはもうよい! それよりレヴィとシュテルが破れた。そのうえ、あの桃色とおさげが何かしでかしおるようだ。我は小鴉を撒きながらそっちに向かっておる。貴様もその場から離れて、急ぎ我と合流せよ!》

 

《――心得た、すぐそちらに参る》

 

《うむ。それにあたって貴様に一つ頼みがあるのだが…………》

 

《……了解した。己に任せておくといい》

 

 主からの頼みに首肯してから、アレルは再び健斗とリニスの方に顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

 俺とリニス同様、園の中心から昇る赤い柱を呆然と眺めていたアレルだったが、うなずいたり視線を揺らすような挙動を見せてから、俺たちの方に向き直る。

 ……誰かと思念通話をしていたようだな。あいつが言う《王》って奴か?

 

「御神健斗、リニス、貴公らの相手をしている暇はなくなった。実に残念だが己はこれで退かせてもらう」

 

「――なっ!?」

「えっ――?」

 

 アレルがふいに言った言葉に、俺とリニスは揃って驚きの声を上げる。当然納得できるはずがなく――

 

「ふざけるな! ここまできて逃がすわけがないだろう!」

 

「ええ。あの現象やキリエたち、それと《王》という人について教えてもらわなくてはなりませんしね!」

 

 俺とリニスはそう言ってアレルににじり寄る。

 しかしアレルはやれやれというように肩をすくめ、

 

「貴公らとて、己と戦っている場合などではないと思うがな。ならば――」

 

 そう言いながらアレルは左手を掲げ、その手が金色に光る。それを見て俺とリニスは身構える。

 アレルの左手からあふれる光は視界を塗り潰すほど強くなり、俺もリニスも思わず目を覆った。

 そんな中でアレルの声が聞こえた。

 

「焦らずとも雌雄を決する時はすぐに訪れる。それより貴公らは早くあそこに向かうがいい。早くせねば手遅れになるかもしれんぞ――ではまた会おう!」

 

 眩い光の中、アレルはそう言いながら背を向け、掻き消えるように姿を消す。俺はたまらず――

 

「――待てアレル! お前にはまだ――」

 

 そう怒鳴ったところでアレルが止まるはずもなく、光は収まり、俺とリニスが腕をどけながら目を開いた時には、奴の姿はどこにもなかった。

 

「くそ! あの野郎、すぐに――」

 

「健斗! 待ってください! あれを――」

 

 固有技能を使ってアレルを追おうとした俺を止めて、リニスは空を指さす。文句を言いかけながら彼女が指している方を見た途端、その文句は喉の奥へ引っ込んだ。

 先ほどまで園内から空に向かって伸びていた“赤い光の柱”は今、真っ黒に染まっていた。それを見て俺はアレルが最後に言っていたことをもう一度思い出す。

 

『早くせねば手遅れになるかもしれんぞ』

 

「……一体、あそこで何が起きているんだ?」

 

 黒く染まった光を見ながら、俺は思わずつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょうどその頃水族館の展示ホールでは、キリエとイリスは、天井のガラスを破って現れたクロノと彼が率いる武装局員たちに囲まれ、バインドと無数の魔力刃で動きを封じられていた

……のだが。

 

 

「ちょうどよかった……(からだ)を作るための材料が必要だったから」

 

 バインドに縛られた“板状の端末”の中でイリスは冷たく嗤う。その言葉と笑みにクロノは眉をひそめた。それと同時に――!

 

「うぐっ……」

「ぐぅぅ!」

 

 彼とともにイリスたちを囲んでいた局員たちが苦し気なうめき声を上げながら体を曲げ始めた。

 

「ど、どうした? ――イリス、一体何を? ――う゛っ!」

 

 体の中から沸いてくるような激痛に、クロノもたまらずうめく。そして――

 

「ぐあああああー!」

「あああぁぁっ!」

「うぐっ――ぁぁぁ」

 

 クロノと局員たちは喉から苦悶の声を上げ、その体から赤黒い(つた)のようなものを噴出させながら意識を失う。その一方、彼らの体から突き出てきた蔦はイリスに集まり、彼女が映る端末を包み込んだ。

 

「――イリス!」

 

 術者(局員たち)が意識を失ったために、バインドと魔力刃が解けると同時にキリエは、イリスに向かって声を上げる。

 その間にも蔓は端末を完全に吞み込み、見る見るうちに人の形のようなものを形成していく。

 

 そして現れたのは、自分が知るよりも大人びた雰囲気を纏い、髪も背もぐんと伸びた、()()()()()()()の女だった。右側に寄せた髪を束ねるリボンは赤く染まり、服装も胸元や脇、背中など露出した部分が多くなり、今までと逆に黒に配色された部分が増えている。

 

 それを見てキリエは自らの言葉と動きを止めた。だが、『鉱石』を包むガラスが砕け、『鉱石』そのものにもひびが入っていくのを見て――

 

「永遠結晶が――!」

 

 やっと探し当てた結晶が砕けていくのを目にして、キリエは手を伸ばす。だが――

 

「大丈夫よ」

 

「――えっ?」

 

 背を向けたままつぶやいたイリスの一言に、キリエは彼女の方を見る。イリスは永遠結晶()()()()()()鉱石を見たまま言った。

 

「これはただの“殻”……この中にいる子を守るためのね」

 

「殻? 中にいる子って一体……」

 

 そう言っている間に鉱石のひびは全体に走り、自らの重みに耐えきれず、鉱石はとうとう根元から崩れ落ちた。そして、その中から鋼鉄の板が何枚も連なった“翼”が現れる。

 

「何これ……結晶の中になんでこんなものが? 永遠結晶って一体?」

 

 疑問のあまり、キリエはイリスに向かって問いを投げる。イリスは彼女に視線を流して……。

 

「あのねキリエ、この“翼”の中には《悪魔》が一羽眠ってるの。途方もない力を持った《悪魔》が」

 

「悪魔? 何を言って――」

 

 初めて聞く言葉にキリエは戸惑いながら聞こうとする。それに構わずイリスは《悪魔》について話を続ける。

 

「だから星を救うとか、あなたのパパを助けるとか――そんな事には使えないの。これは過去の闇の書と同じ――《星を殺す悪魔》だから」

 

「だってイリス、永遠結晶はエルトリア救済のための力だって――」

 

 たまらずイリスが前に話していたことを口にするキリエ。だがイリスは冷たい表情で言った。

 

「ごめんね、嘘をついたの」

 

 すまなそうな様子など微塵も見せずに詫びるイリスに、キリエは――

 

「パパの病気も治るかもって……」

 

「それも嘘。そう言わなきゃ、あなたに手伝わせることはできなかったから」

 

 イリスは淡々と明かす。それでもなおキリエはすがるような目と笑みで……

 

「イリス……嘘、よね?」

 

 その問いに、イリスは目線をわずかにそらしながら答えた。

 

「そうね、嘘だったわ。あなたに話したことも、あなたに言った言葉も……出会ってからの全部が“嘘”!」

 

「――っ」

 

 イリスとの思い出をすべて否定する一言に、キリエは笑みを消し、喉の奥からひきつった声を漏らす。

 そんな彼女にイリスは振り返り、さらに続けた。

 

「甘ったれのあなたと付き合うのは大変だったわ。だけど感謝はしてるから教えてあげる」

 

「……え?」

 

 これ以上何をと思いながらキリエは声を漏らす。イリスは顔色一つ変えないまま、

 

「私は遺跡板のAIなんかじゃない。エルトリアで生まれ育った命。だけどこの《悪魔》に、私は命も家族も大切なものも全部奪われた! 心だけが生き残って、あの遺跡板の中で眠ってた。眠ってる間もずっと探してたの――この《悪魔》に復讐するための方法を!」

 

「だけど、だからって――」

 

「“心から願った想いがあるなら他人を困らせても仕方がない”……キリエもそうやって自分の願いを叶えようとしたでしょう。みんなを傷つけて、私を利用して」

 

 その言葉を聞いて、キリエの脳裏に先ほど傷つけた少女たちが浮かび上がる。だが――

 

「違う! イリスのことをそんなふうに思ったことは――」

 

「どこかの誰かが(こうむ)る迷惑よりも、自分の目的の方が大事。おんなじよ、私もあなたも……お話は終わり。バイバイ、“どこかの誰か”」

 

 キリエの言葉を遮りながらイリスはそう言って、彼女に人差し指を向ける。その指から白い光が放たれようとした時――

 

「待て!!」

 

「――!?」

「……ちっ」

 

 不意に響いた声に、キリエは驚きながら、イリスは面倒そうに舌打ちしながらそちらを見る。そこからオッドアイの少年を先頭に、長い銀髪の女と薄茶色の女、それに続いて数人の局員たちが踏み込んできた。

 

 

 

 

 

 

 水族館の奥に踏み込んできた俺たちが見たのは、赤黒い(つた)のようなものを生やしながら意識を失っている武装局員たちと、その中で対峙している二人の女だった。こいつらが――。

 

「キリエ・フローリアンとイリスだな? ここで何をしている? これはお前たちがやったのか?」

 

 険しい口調で問いを浴びせる俺を、キリエらしき桃色髪の女は助けを求めるように見て、イリスらしき赤毛の女は憮然とした表情で睨みつけてきた。

 

「あんたか。あの騎士気取りはどうしたの? まさか倒してきちゃった?」

 

「……答える必要はない。知りたいなら大人しく投降しろ。そうしたら教えてやらなくもない」

 

 イリスの問いに俺は誤魔化し混じりにそう答えるものの、イリスは見透かしたように肩をすくめた。

 

「そう、まだ捕まっていないみたいね。足止めすらできない役立たずなのは変わらないけど……所詮は…か

 

 イリスは腹ただしそうに吐き捨てる。そんな彼女に俺は武器を向けながら言った。

 

「そんなことよりそっちこそ答えろ! お前たちはそこで何をしていたんだ? その鉄の板のようなものはなんだ? まさか……」

 

 俺に問われながら、イリスは呆れたように首を振り、

 

「悪いけどあんたなんかとお話してる暇はないの。これから“この子”とやることがあるから。知りたいことはそこの女の子から聞いて。どうせその子も捕まえるつもりなんでしょう。……それに、早く運ばないと何人か死んじゃうわよ。非殺傷設定なんてもの、“この子”の能力(ちから)にないから」

 

「――なに!?」

 

 イリスの視線と言葉につられて、彼女のまわりで倒れている局員たちを見る。彼らは体から赤黒い蔦のようなものを生やしながら、倒れる事もできず気を失っていた。

 

「どういう事だ? これはお前がやったんじゃ……」

 

 言い終える前に、やはりイリスは首を横に振り、

 

「――これ以上は付き合えないわ。そんなに私に聞きたければついてきなさい。ただし……」

 

「――うぁっ」

「クロノ!」

 

 クロノのうめき声が聞こえ、思わず彼の方を見る。イリスは平然と嗤いながら。

 

「この子を見殺しにしても構わないならね。今のでギリギリ以上吸っちゃったから本当にやばいわよ」

 

「てめえ――」

 

 思わず殺意のこもった顔でイリスを睨みつける。一方、イリスは何でもなさそうにふわりと浮き上がり、“鋼鉄の翼”とともに俺たちを見下ろしながら言った。

 

「《愚王》の名と違って本当に甘い子みたいね。……一つだけ忠告してあげる。私たちがこの星にいる間は、お友達と一緒に地上のどこかでじっと隠れてなさい。でないとせっかく恋人と再会できたのに、また死んじゃうことになるわよ。――じゃあね、ケント」

 

 明らかにケントのことを知っている口振りで忠告めいた言葉を残し、イリスと“翼”は天井を突き破って空へ飛んでいく。それを追いかけることは今の俺たちにも、キリエにも出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 その頃、オールストン・シーの地上では、なのはに敗れたシュテルが担架に乗せられながら、レヴィとは別の救護車に運ばれようとしているところだった。

 そんな彼女の脳裏に聞き覚えのある声が響く。

 

《シュテル、聞こえるか?》

 

《ディアーチェ……ええ、聞こえています》

 

 シュテルはおぼろげな瞳で空を見あげたまま、念で応答を返す。そして再び彼女たちの脳裏に主の声が届いた。

 

《お前たちの手が欲しい。“門”を作る、急ぎ戻れ!》

 

 その命令に、彼女たちは気を取り戻しながら身じろぎする。だが、

 

《……心得ました。しかしまわりに魔導師が何人か。万全な時なら問題ありませんが、今の私では……》

 

「その心配は無用だ」

 

 その声にシュテルとまわりにいた局員たちが一斉に振り返る。それと同時に――

 

「ぐふ!」

「ぐあっ!」

「きゃあああっ!!」

 

 シュテルを運んでいた救護隊員が手刀で倒され、それを見ていた女性局員が悲鳴を上げる。

 一方、シュテルは担架ごと落ちる前にある者に抱えられる。それを見てシュテルはその者の名を呼んだ。

 

「アレル……どうしてあなたが?」

 

「王に頼まれてな、貴公と《雷光(レヴィ)》を迎えに来た。《雷光》はすでに――」

 

「はああああっ!」

 

 アレルが言おうとしたと同時にレヴィの掛け声が届いてくる。見ると、レヴィがアレルたちを捕まえようとした武装局員たちを薙ぎ払っているところだった。

 それと同時に、彼女たちの先に紫色の穴が開く。(ディアーチェ)が開いた“門”と見て間違いないだろう。

 

「行こうシュテるん! アレル! 王様がボクたちを待ってるよ!」

 

 武装局員を蹴散らしながら“門”を見て、レヴィがシュテルたちに向かって叫ぶ。当然シュテルとアレルはうなずき。

 

「ええ!」

 

「言われるまでもない」

 

 局員たちが止める間もなく、三人は紫色の“門”に飛び込む。

 自分達が仕える《王》に応えるために。彼女の、そして自分たちの願いを叶えるために!

 

 

 それぞれの陣営にとって、次の戦いの幕はすでに上がっていた。

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