第13話 開戦
駆けつけてきたなのはとアミタさんを加え、自由になった仲間や局員たちとともにイリスとユーリを囲み、俺は彼女たちに武器を向けながら言った。
「イリス、ユーリを解放して彼女ともども武装を解除して投降しろ。お前とユーリの間に何があったのかはそこでじっくり聞かせてもらう。少なくとも、俺にはユーリが理由もなく人殺しをするような子には見えない。その辺も含めて話し合う気はないか?」
ユーリを弁護するような言葉を交えながら投降を促すも、イリスは険しい表情のまま隣を向いて……
「ユーリ」
イリスが告げた途端、ユーリの後ろを浮遊している“翼”はユーリを囲むように動き、ユーリの体は黄色い炎に包まれ燃え上がった。
「うっ――ぁぁぁあアアアアアア!!」
悲痛な叫び声とともに、炎の中でユーリの服は溶けていき、再びユーリの身体にまとわりついて新たな服とともに、自身の両側に“鋼鉄の腕”を形成する。
その余波として生じた雷が海に落ちたと思いきや、海から稲妻が昇ってくる。
真上を飛んでいた局員たちが逃げ惑う中、海面から昇ってきた稲妻は樹木の形となり、たちまち海の上に小さな“森”が現れた。
そうして生えてきた“森”の真上に浮かんだまま、イリスは俺たちに向かって忌々しげに言葉を放つ。
「話し合う気なんてない! 私はユーリに復讐するだけよ。大切なものをその手で滅ぼさせることでね。……私は離脱するから、あんたはあいつらを排除しといて」
「Bestellung erhalten. Vorbereitung der Ausschlussaktion(命令受領。排除行動準備)」
「――ベルカ語!」
ユーリが発した、ドイツ語に酷似した言語を聞いてはやては驚くとともに、ユーリがベルカに――そして夜天の書に関わる者だと確信した。
その一方で――。
「Aktivierung der “Maschinenpanzerung”(《機鎧》起動)」
ユーリは俺たちを睨みながら、“翼”から分離した“五枚の羽”を背後に展開させ、両隣に浮かぶ“鋼鉄の腕”――《機鎧》を構え、無機質な表情で告げる。
その横でイリスは標的を指さし――
「まずはごちゃごちゃうっとうしい――あのオッドアイからよ!」
「Ausschluss beginnt!(排除開始!)」
俺かよ――!
そう突っ込んだ瞬間、ユーリは猛烈な勢いでこちらに飛んでくる。俺は魔力がこもったティルフィングでユーリを受け止めた。
すると向こうから桃色の光が灯り――
「ユーリちゃんごめん――すぐに助けるから!」
なのはが放った砲撃を側面から受けて、ユーリは大きく後退し、彼女が帯同していた《機鎧》はバラバラに砕ける。だが、《機鎧》は瞬時に元に戻り、再びユーリを囲んだ。
――再生能力か。夜天の書の管制人格だけはあるな。
「健斗、
「あっ――待ってくださいキリエ! 私も行きます!」
「頼んだ――っ!」
イリスを追うキリエさんとアミタさんに声をかけた直後、ユーリが突進してくる。そこへ白い鎧を着た男が飛び込んできた。
「アレル――」
「ぼやぼやするな健斗! 今はユーリとの戦いに専念しろ!」
そう言いながらアレルはユーリを弾き、俺となのはもユーリに飛びかかっていく。
何度かぶつかった後、ユーリはふいに俺たちから距離を取り……。
「Feuerpfeil(炎の矢)」
その一言とともにユーリのまわりに無数の光点が現れ、俺たちに降り注ぎ、それだけに収まらず周りを飛ぶ局員にまで飛んでいく。それを見てはやては――
「シャマル!」
「――はい!」
主からの指示に、シャマルは結界を張る
「すさまじい力です……ディアーチェ、どうしますか?」
健斗やなのはに混じってユーリと戦うアレルを見ながら、シュテルは問いかける。我々も加勢するべきではと。ディアーチェもそう思い、動こうとするものの……
「でもさ……あの子、泣いてるよ」
レヴィの一言と、ユーリの金色の両眼からこぼれる
何故だろうか。ユーリという者の顔とあの涙を見ると、ディアーチェ自身にも悲しい気持ちが湧いてくる。
(ユーリ……あやつは一体……)
◇
健斗たちがユーリと戦っている一方で、キリエはイリスに
「イリス……あんたの目的はいったい何? 何のために私を騙して、王様たちとユーリって子を蘇らせたの?」
「あら、あれだけ言ったのにまだわからない? ユーリに復讐するためって言ったでしょう――それに」
剣をぶつけ合いながら、キリエはザッパーを銃に変え、イリスの額に付きつける。だがそれはイリスも同様だった。
キリエと銃を向け合いながら、キリエはなおも言葉をぶつけてくる。
「家族を裏切ったのも、残された時間を永遠結晶を手に入れるために充てるのを選んだのもあなたの方でしょう……余命わずかな父親と
「――えっ?」
イリスの言った一言にキリエは眉を上げる。それを見てイリスは「ああ」と笑みを消した。
「そういえばあなたは知らされてなかったんだっけ、母親の病気のこと。
「――!」
イリスの言葉にキリエははっとする。
言われて見れば、最近はアミティエが分担する家事の量が増えており、母エレノアはその分、椅子に座って休むことが増えていた気がする。調子を崩して寝込むことも何度か――まさか!
「とんだファザコンね、今までパパしか見えてなかったのかしら。――じゃあ
うろたえるキリエを前に、イリスは引き金にかけた指に力を込める。だが、それより先にアミティエが斬りかかって来て、イリスは姉妹から距離を取った。
アミティエはキリエをかばうように、彼女の前を飛んだまま問うた。
「あなたは一体何者ですか?」
「……私は“イリス”。あなたたちと同じ、死にかけた星で生まれた命……“あの日”から今日までずっとチャンスを待ってた。だから……」
そこで真下の海中から大きな何かが現れ、二人に向けて青い光線を放ってくる。アミティエとキリエは辛くもそれを避けるが、そこを狙ってイリスはキリエに向けて銃を向ける。それを見て――
「キリエ――」
アミティエはとっさにキリエをかばい、脇腹に銃撃を受ける。
「お姉ちゃん!!」
キリエは叫びながら、傷ついたアミティエを抱え、地上に降りる。
そんな彼女たちを、海上から現れた新たな機動外殻《エクスカベータ》の影が覆う。
「誰にも邪魔はさせない」
イリスのつぶやきとともに、エクスカベータは巨大な腕を振るい落とし、姉妹はそれに飲み込まれた。
◇
『60 seconds to the operating limit(稼働限界まであと60秒)』
「っ――ああああああっ!!」
レイジングハートの宣告に焦ったのか、なのはは砲撃を撃ち込むも、ユーリは難なく砲撃を躱し、《機鎧》でなのはを殴りつける。
そこへ――
「フレースヴェルグ!」
「ライトニング・アーチェリー!」
俺は側面から魔力弾を撃ち、躱したユーリに向かってアレルが金色の魔力砲を撃ち出す。ユーリはそれに耐えつつ、俺とアレルに向かって《炎の矢》を撃ってきた。
俺たちは矢の合間をくぐりながらユーリに近づくが、ユーリは俺に近づき、《機鎧》を繰り出して俺を握り潰そうとしてくる。そこで誰かが飛んできて、俺の胸に入ってきた――この感覚は《
《健斗、遅れてすまない。このまま一気に行くぞ!》
「ああっ! ――フレース・キャノン!!」
リインとの融合によって威力が倍加した砲撃を撃ち放つが、ユーリは《魄翼》を纏いながら砲撃をこらえる。だがその上空から――
「クラウソラス!」
はやてが射出した無数の光線を浴び、ユーリはたまらず真下の“森”へ墜落し倒れ込む。そこへシグナムが「はああっ」と吼えながら
ユーリはうめきながらも、まばゆい光弾を撃ち、分裂した無数の矢をはやてたちに浴びせるが、ヴィータがとっさに展開した結界によって被弾を免れる。
そして、その後ろからいかつい“杖”を構えた
「エクシード――ブレイカーー!!」
「ああああああああっ!!」
彼女が放つ桃色の砲撃はユーリを直撃し、ユーリだけでなく、ユーリの
『Count minus 9. I managed to shoot(カウントマイナス9。なんとか撃ちきりました)』
「はぁ……はぁ……ユーリちゃんは?」
レイジングハートの報告を聞き、なおも荒い息をつきながらなのはは眼下を確認し、紫色の
「あれは――」
《夜天の書の頁……》
俺とともにリインも驚きの声を上げる。
その光景とディアーチェたちがユーリの元へ降りて行くのが見え、俺とはやてもそちらに向かって降下していった。
「ユーリ」
「おい、ユーリ!」
はやてに続いてディアーチェが呼びかけると、ユーリは目をしばたかせながらゆっくり両目を開き、彼女らを見上げる。
そんなユーリに俺は声をかけた。
「ユーリ、大丈夫か? 加減する余裕がなくてな、すまない」
俺の詫びに構わず、ユーリは俺たちの隣に顔を向けて……
「まさか……ディアーチェ……シュテル……レヴィ……アレル――それに、あなたたちは!」
「八神はやて。夜天の書の主です」
「御神健斗。夜天の書とはちょっと関わりがあってな……リイン――もう一人の管制人格も俺の中にいる」
立ち上がりながら尋ねてくるユーリに、はやてと俺は自己紹介をした。
俺を見てユーリは顔をほころばせ――
「ケント、本当に戻ってきて……はやて、ケント、お願いがあります。どうかこれを――」
そこでユーリは手元に出現した一枚の紙片を差し出すように向けてくる。
「これに、すべて載っています……ディアーチェたちとイリスの事も……それに――」
「――! 下がれ!」
そこで突然アレルが叫び、ユーリに向かって剣を振り下ろした。
「なっ――アレル、何を!?」
突然の従者の蛮行にディアーチェは声を荒げるも、それとともにギィンという金属音が響き、アレルと剣をぶつけているイリスが現れた。
「ちっ、また私の邪魔をしてくれる」
「先ほども言ったはずだ、貴公は必ず止めると。そのユーリとやらは、王にとってもシュテルたちにとっても、己にとっても大切なもののようでな。騎士として貴公の好きになどさせん」
「――何が騎士だ! この、恩知らずの
「――!」
イリスの一言にアレルは何かを思い出したようにはっとする。それと同時にイリスのまわりで弾けたような爆発が起き、アレルは吹き飛ばされ、はやてはイリスを抱えながら俺たちとともに離れた。
それに対してイリスは先ほどのユーリのように紫色の膜と頁に守られながら、平然とした笑みを向ける。
その手にある、茶色い表紙の本を見てはやては声を上げる。
「夜天の書――」
「便利な本ね。多くの主が必死に完成させたがってたわけだわ――用済みになるまで使わせてもらう!」
「イリス!」
イリスが言い終えるのを待たず、はやてはクラウソラスを撃ち込むが、夜天の書によるバリアに守られているイリスには通じず、イリスは赤い光に包まれて俺たちの前から姿を消す。
それと同時に、頭上から彼女の声が響いてきた。
『結構予定が狂っちゃったわね。立て直すまでの時間をもらうわ。それと、最後にもう一度だけ忠告してあげる。くれぐれもその《悪魔》に注意することね。でないとあなたたちも殺されるか、私のようにすべてを奪われる羽目になるわよ』
「待てイリス! 一体何をするつもりだ!?」
たまらず俺は空に向かって叫び、他のみんなも頭上を見上げるものの、返事は返ってこず、イリスが姿を見せる事もなかった。
そんな中、俺の手元に焼け焦げた一枚の紙きれが落ちてきた。