魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第14話 初戦を終えて

 イリスとの戦いを終えて、健斗たちはクロノの指示でフローリアン姉妹とディアーチェたちとともに、支局が用意した指揮船に身を移すことになった。

 実行犯だったキリエやディアーチェたちも今は事情聴取と情報共有に応じる意思を見せており、その一方でユーリは戦いの傷と心因性のショックによって意識を失い船内の医療室で深い眠りについていた。

 そんな中、おおよその聴取とメディカルチェックを終えたディアーチェたち四人は今……。

 

 

 

「さあ、ここよ」

「ゆっくりしてて」

 

「うむ」

 

 二人の女性局員に連れられ、他の三人より遅れてディアーチェも客室に足を踏み入れる。

 シュテルは上品な仕草で紅茶を口に運び、とっくに紅茶を飲み干したレヴィは退屈そうに足をバタバタさせ、アレルは彼女らの後ろで所在なさげに直立していたが、ディアーチェを見た途端二人は椅子から立ち、アレルはそのまま彼女の方に歩き寄ってきた。

 ディアーチェも他の三人も今は鎧ではなく、支局が用意した私服に身を包んでいる。

 

「王様!」

 

「ディアーチェ……どうぞ、こちらへ」

 

 柔らかそうなソファを進めるシュテルに、鷹揚なうなずきを返しながらディアーチェはソファに腰を下ろす。

 そこでふと、今まで沈黙していたアレルがディアーチェの前に立ち、おもむろに(ひざ)をついた。シュテルやレヴィが目を見張る中、ディアーチェは神妙な面持ちで《騎士》を見下ろす。

 

「王、貴君の許しを得ずユーリと刃を交えた無礼、ここにお詫びする。いかなる処分も甘んじて受けよう。何なりと沙汰を」

 

 そう言って頭頂部が見えるほど頭を下げるアレルに、ディアーチェは首を横に振ってから答えた。

 

「……よい。むしろ動けずにいた我らに代わり、よくユーリを止めてくれた。礼を言う。今後も貴様の働きに期待しているぞ。肝心のイリスがあれで退くとは思えんからな」

 

「はっ! しかと肝に銘じる!」

 

 一層頭を沈めるアレルに、ディアーチェは「うむ」とうなずいて……

 

「それよりも今後についてだ。シュテル、なにか考えはあるか?」

 

 主に問われて、シュテルは考えをまとめるように腕を組みながら話した。

 

「イリスが私たちを、闇の――いえ、《夜天の書》と呼ばれる本から呼び出したのは確かです。それはユーリと呼ばれたあの子を探すためであり、我々とユーリを戦わせるためでもあった……私たちとユーリの間に浅からぬ関係があるのは確かです」

 

 その言葉にディアーチェは首を縦に振り、レヴィとアレルもうなずきを返す。イリスの言動や行動、そしてユーリを見た時に湧いてくる奇妙な懐かしさ。自分たちとユーリ、夜天の書に何らかの関係があるのは確かだろう。

 シュテルは続ける。

 

「大いなる力を得るという私たちの目的もありますが、まずイリスの意図を知ることです……そして私たちの事も」

 

「うーん、二人の事はよく覚えてるんだけどなー。名前も性格も一緒にいたことも」

 

 レヴィはあごに人差し指を乗せながら記憶を呼び覚ます。シュテルとディアーチェも首を縦に振り――

 

「大きな木の下と緑の草原、そこで私たち“三人”は確かに一緒にいました」

 

「うむ、我も覚えておる。思い返してみれば、そこにユーリもいたような気がする……のだが」

 

 そこでシュテルとディアーチェは視線を流し、レヴィもつられたように“彼”の方を向いた。

 

「アレルについてはほとんど覚えてないんだよねー。ボクたち以外に()()()いたような気はするんだけど……」

 

「私も貴方に関してはまったく記憶がありません。アレル、貴方の方はどうでしょう? 私たちやユーリ、もしくはイリスについて、なにか覚えていることは?」

 

 レヴィはアレルをじっと見ながら記憶を探し、シュテルはアレルに問いをかけてくる。

 それに対してアレルも宙に視線を向けながら……

 

「残念ながら己も以前の事はほとんど覚えていない。仕えていた主と護っていた供たちがいたことぐらいしか……ただ……」

 

『この恩知らずの()()()がぁぁぁ!!』

 

 イリスが言い残した言葉に、アレルは何か引っかかるものを覚える。それが自分の過去を表しているような……。

 だが、いずれにせよ――。

 

「今、己が仕えている主はディアーチェただ一人。寄る辺なき己を騎士と認めてくれた貴君のために、我が剣と力のすべてを捧げる事をあらためて誓おう」

 

 ディアーチェにひざまづきながら宣誓するアレルを見て、シュテルとレヴィもその場で膝を付き……

 

「貴方を守り、貴方の願いを叶えるために私たちは働きます」

 

「そのとーり! 今度こそアレルに負けないもんね!!」

 

 おのおの忠誠を誓う騎士と臣下二人を見て、ディアーチェは誇らしく、愛おしく思いながら深いうなずきを返した。

 ちょうどそこで――

 

「お邪魔しまーす! うわあ――ママが言った通り、ほんとにフェイトそっくり!」

 

「でしょう! 初めてあの子を見た時は生き別れの娘かと思ったわ……まあ、あんなかわいい(むすめ)、手放すわけがないけど」

 

 突然扉が開き、フェイトが小さくなったような金髪の少女が部屋に入って来て、その後から十人近くの人間が入ってくる。

 レヴィを見て歓声を上げるアリシアやプレシアに続いて、アリサとすずかも他の三人に近寄って来て……

 

「へぇ……髪の色や雰囲気は違うけど、確かになのはそっくりね。あたしはアリサ。あなたはなんていうの?」

 

「本当にはやてちゃんや健斗君にそっくり……あっ、初対面なのに失礼しました。私は月村すずかと言います。友達に似てたからつい」

 

「ヴィクターじゃ。ヴィルと呼ぶがよい。しかし、見れば見るほど健斗にそっくりじゃのう。お主も固有技能を使うのかえ?」

 

 近づいてくるなり、いきなり挨拶してくる面々に四人ともたじたじになり、そんな中でディアーチェは、彼女らの後ろにいる自分そっくりの少女にジトリとした目を向けた。

 

「……おい小鴉、今の状況が分からぬわけではあるまい。うぬの友人らと戯れてる暇はないのだが」

 

「いやー、王様たちの事を話したら、みんな会いたがってなー。挨拶くらいええやろうと思って……」

 

「ここまで連れてきちゃいました!」

 

 はやてと彼女の肩の上を飛んでいるリインフォース・ツヴァイは、いたずらっぽい笑みを浮かべながら告げてくる。それを見てディアーチェは頭を抱える仕草をとった。

 そこでディアーチェは、はやてが持っているビニールポーチとその中に入っているボロボロの紙切れに気が付き――

 

「それは……ユーリが渡そうとした……」

 

「うん。破損してるけど中のデータはまだ生きてるみたいなんや。王様たちやったら復旧できるんとちゃうかなって」

 

 そう言いながらはやてはポーチから紙片を出して、差し出すようにディアーチェに向けてくる。ディアーチェは首を縦に振り、

 

「うむ、そういう事ならこやつに任せるといいだろう――レヴィ、その紙片の修復を頼めるか」

 

「うん! ボクに任せて!!」

 

 アリシアとプレシアにまとわりつかれた状態ながら、レヴィは快活な笑みを浮かべながら答える。

 それを見て、はやてをはじめ何人かは意外そうな顔でレヴィとディアーチェを見比べる。そんな彼女ら――主にはやて――に向かって、ディアーチェは得意げな笑みを向けた。

 

「何を驚いておる。データの解析と復元はレヴィが得意とするところ! 我らはもとより、貴様らの中にもレヴィの右に出る者はおらぬだろう!」

 

 そう言いながらディアーチェはレヴィの頭を撫で、レヴィは「えへへ」と甘い声を漏らしながら主にされるがままになる。

 その横でふとアレルは言った。

 

「そういえば、己のオリジナル――御神健斗はどうした? まさかまだ……」

 

 その言葉にはやては心配そうにうつむき、

 

「うん。なのはちゃんやアミタさんたちと一緒に医務室にいる。でも大した怪我やないみたいやし、今頃、治療を済ませてなのはちゃんやアミタさんたちのお見舞いに行ってるんやないかな」

 

 

 

 

 

 

「お大事に」

 

「ありがとうございました」

 

「――なのは!」

 

 看護師に頭を下げながら出てくるなのはを見て、フェイトが駆け寄り、俺とキリエさんもその後に続く。

 なのははフェイトと一言交わした後、俺たちの方を見て……

 

「キリエさん、もう動いて大丈夫なんですか?」

 

「ええ、私の方は大したケガじゃなかったから……それより、あなたの方こそその足……」

 

 脚に巻かれた包帯と杖を突きながら立つなのはを見て、キリエは眉をひそめる。なのはは何でもなさそうに笑みを浮かべながら言った。

 

「ふんばった時にちょっとひねっちゃって。心配しなくてもすぐ治ると思います」

 

 その返事にキリエさんは安堵の笑みを浮かべるものの、すぐに顔を曇らせておもむろに頭を下げた。

 

「ごめんなさい、全部私のせい。みんなにひどい迷惑をかけて……お姉ちゃんにもどう謝ればいいのか」

 

 キリエさんの謝罪になのはとフェイトは首を横に振ろうとするも、最後の一言を聞いて困ったように顔を見合わせ、フェイトは顔を戻しながら言った。

 

「アミタさんならわかってくれると思います。さっき目を覚まされたみたいですから、一緒にお見舞いに行きませんか?」

 

 フェイトの誘いにキリエさんは不安そうにしながらも、こくりとうなずく。

 そこで俺はふと思いついた()()()――

 

「そうだ、アミタさんのところに行く前にジュースでも買っていきませんか。キリエさんならお姉さんが好きな飲み物くらい知ってるでしょう?」

 

「えっ――う、うん」

 

 ()()()()()()()、キリエさんはうなずきを返す。そして俺はなのはとフェイトに向かって言った。

 

「じゃあ、俺とキリエさんは自販機に寄っていくから、なのはたちは先にアミタさんの部屋まで行っててくれ。すぐに済ませる」

 

「う、うん」

 

「じゃあ先に行ってるね」

 

 なのはたちはそう言い残しながらアミタさんがいる医務室へ向かう。

 彼女らが見えなくなってからキリエさんはおもむろに尋ねてきた。

 

「……で、何の用事? ただジュースを買いたいだけじゃないでしょう。アミタならどんな飲み物でも喜んで飲みそうだし」

 

 その問いに俺は、なのはたちの気配が遠ざかったことを確認してから――

 

「フォーミュラを使うために必要なナノマシン、まだ予備があるはずですよね。それを俺に分けてくれませんか。アミタさんが持ってる分はもうわずかしかないみたいなので」

 

「ナノマシンって……まさかあんた――」

 

 目を見開くキリエさんに俺はうなずきながら言った。

 

「電磁武装が追加されてるとはいえ、このままだとちょっと厳しい。俺のデバイスにも“あれ”を組み込む必要があると思いまして。あなたたちとなのはが使っているものと同じ――《フォーミュラシステム》を!」

 

 

 

 

 

 

 同時刻、ホテル近くに設置されたままの医療施設で、御神美沙斗は目を覚まし、同僚の早見と事情を聞いて駆けつけてきた高町美由希(たかまち みゆき)とともに、空間モニターに浮かぶ“彼”と会話をしていた。

 

『美沙斗さん、目を覚まされたそうですが、大丈夫ですか!』

 

「ああ、おたくの医療スタッフのおかげで事なきを得た。今は娘とともに早見さんに色々説明していたところだ。管理局の事や魔法について、少しな……」

 

『そうでしたか……』

 

 その説明と空間モニターを不思議そうに見ながらも落ち着いている早見を見て、クロノは納得すると同時に内心舌を巻く。健斗やなのはの周囲は色々な意味で適応力が高い者が多いと。

 早見という女性も警察の中でも特殊な立ち位置にいるようだし、今回の事以外にも何かしら不可思議な事件や存在に相対した事があるのかもしれない。例えばこの世界に点在している《夜の一族》のような……。

 

『それで、起き上がったばかりのところ、申し訳ないのですが……』

 

 美沙斗との会話に思考を戻し、クロノは口火を切る。それに美沙斗はうなずき。

 

「まだ事件は解決してない……だから私たちに協力してほしい、という事だね?」

 

『……はい』

 

 クロノは申し訳なさそうに一言返す。それに美沙斗は首を横に振り。

 

「気にしないでくれ。東京や海鳴に害が及ぶ可能性がある以上、私たちも今回の件を放置しておくわけにはいかない。我々にできる事ならどんな協力もしよう……それで、何が聞きたい?」

 

 その問いにクロノはうなずき、彼女らの前に赤い髪の少女が映ったモニターを表示させた。

 

『この少女が今回の事件の首謀者とされる、『イリス』です。先ほど健斗やなのはたちと交戦しましたが、逃げられてしまいました』

 

「……この子が、健斗君やなのはと……」

 

 弟と妹の名が出て、美由希は思わず顔を伏せる。

 そんな彼女に気の毒そうな、あるいは申し訳なさそうな顔をしながらも、クロノは続けた。

 

『今までの状況から考えて、あなたたちを襲った人型のロボットはイリスが造ったものだと推測しています。美沙斗さんと早見さんには、局員が撮った交戦記録からイリスの動きを見てもらいたいんです。美沙斗さんたちが戦ったあのロボットと動きを比べながら――あのロボットの映像もサーチャーで記録してありますから』

 

 クロノの頼みに美沙斗はうなずき。

 

「わかった。確かにあのロボットとイリスの動きを比べたら、関連ぐらいは掴めるかもしれん」

 

『お願いします。美由希さんもなにかわかったら言ってほしい。どんな些細なことでも構いませんので』

 

「うん。クロノ君たちも頑張ってね。健斗君となのはにもこっちの事は心配しないでお仕事頑張ってって伝えて」

 

 美由希の返事と頼みにクロノは笑みを浮かべながらうなずき、空間モニターの操作方法を教えてから通信を終える。

 それとともにイリスと例のロボットの交戦記録が流れ始め、美沙斗たちは非現実的な光景に目を奪われそうになりながらも、イリスとロボットの動きをじっと注視していた。

 

 

 

 

 

 

 一方、美沙斗たちとの通信を終えて、隣に立つエイミィが見守る中、クロノは銀色のカードを取り出した。

 

「出撃だ、デュランダル。今度こそ本当の意味で『闇の書事件』を終わらせるため、もう一度お前の力を貸してくれ!」

 

『OK,BOSS!』

 

 主の命令に《デュランダル》は簡潔な、それでいて頼もしい一言で応えた。

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