魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第15話 惑星再生委員会(前編)

 それからしばらくしてアミタさんの見舞いと治療が終わり、彼女とともに医務室を出た頃にリインから“紙片”の修復が終わったという連絡を受けて、俺たちもみんながいる談話室に行って紙片の記録を見る事になった。

 

 

 

 

 

 

 最初に映ったのは荒涼とした大地だった。(ケント)が生きていた頃のベルカでもここまでひどくはない。

 そんな映像とは正反対な、明るい少女の声が響いてきた。

 

 

『資源の枯渇と土壌の砂漠化……命が暮らす星としてはもう死にかけている惑星――それが私たちの故郷『エルトリア』。

 死にかけた星を見捨てて新しい大地へ逃げようとしている人たちが増えていく中、この星に残って、星の再生を目指そうとしている人たちがいます――それが我ら『惑星再生委員会』!

 

 土地を荒廃させる汚染植物《死蝕》の繁殖原因を調べたり、地下深く眠っている水を地上まで引き上げる工事方法を研究したり、厳しい環境でも生きていける生物や家畜の研究をしたり、たくさんの人たちがここで働いています。

 ちなみに私は委員会の制作物の一つ、生体型テラフォーミングユニット『型式・IR-S07』――マスコットネーム《イリス》。危険な任務は私にお任せ♪

 

 願いは一つ。みんなの故郷……この星にもう一度命と緑を。――そのためにみんなで頑張っています!!』

 

 エルトリア各地や『惑星再生委員会』の活動風景と、大型銃を片手に巨大生物の屍に乗ってイリスが自らの性能()を誇る映像、そして最後に施設の中でガッツポーズをするイリスの映像が映り、その横から「はいオッケー!!」と調子のよさそうな男の声がかかった。

 そこで映像は暗転し、PV(プロモーション)の撮影をしていたイリスたちを別の角度から撮った場面に変わる。

 撮影が終わった瞬間、イリスはため息をつきながら大きく脱力し、丸椅子に座っている男の方を向きながら言った。

 

「所長ー、こんな感じでいいのかな?」

 

「もちろん! 宣伝もばっちりさ!」

 

 イリスの問いに、所長と呼ばれた茶髪の男は満面の笑みを浮かべながら大きくうなずく。

 

「これで追加予算も出るかなー?」

 

「出してもらうさ、必ずね!」

 

 なおも不安そうに尋ねてくるイリスに、男は心強い返事を返しながら椅子から立ち上がり、イリスの頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

「ぐっ――」

 

「――どうした、アレル!?」

 

 ふいに頭を抱えるアレルに気付き、ディアーチェは彼のそばまで駆け寄る。

 そんな主をアレルは片手で制しながら……

 

「急に頭の奥から痛みが走って……大したことではない。慣れぬ映像に酔ったのだろう」

 

「……本当に大丈夫か? 映像の確認ぐらい我らだけでできる。アレルは休んでても――」

 

 心配そうに言うディアーチェに、アレルは首を横に振った。

 

「いや、己にしかわからない箇所があるかもしれん。このまま同席させてくれ」

 

 アレルからそう言われ、ディアーチェは渋々といった様子で「無理はするな」と言いながら席に戻る。はやては呆然としながらも、なにかに気付いたようにディアーチェとアレルを見比べていた。

 そんな中、壁掛けのモニターを通して記録は再び再生される。

 

 

 

 

 

 

 次に映ったのは毒々しい赤紫色の《死蝕》に覆われた洞窟だった。その中を防護マスクと服で体を覆い、カメラを手にしながらイリスは歩いていく。

 

「えー、この一帯は特に汚染がひどいですねー。汚染濃度レベル9、微生物も死滅するほどのデスゾーン……アンディ、ジェシカ、ちゃんと聞こえてる?」

 

『ああ、聞こえてるよ』

 

『大丈夫』

 

 汚染による通信状態の悪化を心配したのか、自分にカメラを向けながらアンディやジェシカという職員に尋ねるイリスに、カメラの向こうから二人の職員が返事を返す。それを聞いてイリスは安心しながら『オッケー』と言い、海底の奥へ歩を進める。

 

 そしてイリスは巨大な扉らしきものの前に立った。だが、扉の隙間を眺めた瞬間――

 

「えっ――うそ」

 

『イリス……?』

 

『どうしたの?』

 

 イリスが漏らした言葉に、職員たちは怪訝な声を発してくる。それに対してイリスは独り言のような応答を返した。

 

「人がいる…………――子供だよ!」

 

 言いながら、イリスは扉の奥に向かってカメラを向ける。そこには紫色の膜と、俺たちも見た“鋼鉄の翼”に包まれながら眠っている“ユーリ”の姿があった。

 ユーリは膝を丸くしながら目を閉じ、剣十字がついた茶色い表紙の本――夜天の魔導書を守るように抱きかかえている。

 そんな光景を見て――

 

『ありえない!』

 

『イリス、近づいちゃだめだ! そのまま撮影だけ――』

 

 職員たちのざわつく声が聞こえてくる中、イリスは「大丈夫」と言いながら扉をくぐり、ユーリの元へ近づく。その足音に気付いたのか、ユーリはゆっくりと目を開いた。

 イリスはユーリの前で立ち止まり、

 

「ねえ、大丈夫?」

 

 そう尋ねるイリスをじっと眺めてから、ユーリはおずおずと口を開いた。

 

「Hier……sind Sie?(ここは……あなたは?)」

 

「あれ……何語だ?」

 

 ユーリが放った言語に首をかしげながら、イリスはカメラを地面に下ろし、自らマスクを外してもう一度尋ねた。

 

「大丈夫? ケガはない? 君はどこから来たの?」

 

 イリスとは逆に、ユーリには彼女が言ってることがわかるのか、ユーリは穴の開いた天井を指さした。

 そこから漏れる日の光を見て、イリスもユーリが言わんとすることを悟り――

 

「落ちてきたの?」

 

 イリスの言葉にユーリはこくりとうなずき、おもむろに立ち上がりながら、今まで抱えていた魔導書を開き頁の一文を指でなぞる。

 すると――

 

「ダイジョウブ……コンニチハ…………挨拶はこれで合ってますか?」

 

 ユーリの口から、自分たちが使っている者と同じ言葉が出て来た途端、イリスはぽかんと口を開いたまま立ち上がり、

 

「えっと……君はあれかな、天使様かなにか?」

 

「テンシ……?」

 

 イリスが言ったことを口にしながらユーリは首をかしげる。それを見てイリスはぷっと噴き出した。

 

「まずは外に出ようか。ここは危ない場所だからさ」

 

 イリスの勧めにユーリはこくりとうなずいた。

 

 

 

 

 

 

「今のって夜天の書とユーリやね?」

 

「はい。間違えようがありません」

 

 映像を眺めながら訊ねるはやてにリインは神妙な顔で返事を返し、俺たちも心の中で同意を示した。

 イリスの言った通り、ユーリは過去のエルトリアに存在していた。そして夜天の書も……。

 だが、守護騎士もリインも、エルトリアについては何も知らないらしい。

 

 

 

 

 

 

 再び映像は切り替わり、機材の残骸が散乱している荒れ地と、その真ん中で机と脚立付きのカメラを挟み、椅子に座りながら対面しているイリスとユーリが映った。前の映像から少し時間が経過したらしく、ユーリはつなぎのような服を着ている。

 

「じゃあインタビューを始めます。あなたのお名前は?」

 

「ユーリ・エーベルヴァイン、です」

 

「いい名前だねー。ユーリって呼んでも?」

 

「はい」

 

「ユーリはどこ生まれのどこから来たの?」

 

「生まれは『ベルカ』。ここに来る前は『オルセン』にいました」

 

「それはどのへん?」

 

「この星ではないです。もっとずっと遠い異世界」

 

 異世界と聞いてイリスは半信半疑な様子を見せながらも、それを抑えてユーリが抱えている本に目を向けた。

 

「じゃあその本は?」

 

「《夜天の書》――魔導書です。少し危険な所もあるのですが、とてもいい子なんです。私はこの本を安全に管理するために造られました」

 

「造られた? 本を管理するために?」

 

 ユーリの言葉にイリスは首をかしげる。するとユーリはおもむろに書を手放し、書は落ちることなく、イリスとユーリの間を浮いてぐるぐる回り始めた。

 驚くイリスを前にユーリは書について説明する。

 

「夜天の書は旅する魔導書……主となる人物に出会うために色々な世界に旅をします。私はこの子が主に危険を及ぼさないように、見守ったり説明したり……そんな役目のために生み出されました……ですが…………」

 

 そこでユーリは口を濁し、沈黙してしまう。夜天の書が完成した時に起こる“暴走”の事を思い出したんだろう……。

 ちょうどそこで机の上に置かれた端末に映った所長が、ユーリに声をかけてきた。

 

『ユーリ、ちょっといいかい。その“魔導書”というのは何ができるのかな?』

 

 いきなりの問いにかかわらず、ユーリは気分を害するどころか安堵したように答える。

 

「主が扱えばいろんな事が出来ます」

 

『具体的には?』

 

「できないのは“失われた命を取り戻す事”と“時間に干渉する事”――それ以外なら大抵の事は」

 

「すごいねー! 『願いが叶う魔法の指輪』だ!」

 

 イリスの言った言葉に、ユーリは「指輪?」と復唱しながら小首をかしげる。キリエさんもそんなことを言っていたな、たぶんエルトリアの童話や絵物語だろう。

 するとまた端末越しに所長が問いかけてきた。

 

『ユーリ、君自身もその本の力を扱えるのかな?』

 

「ほんの少しでしたら……あとは、私自身も《魔法》をそれなりに」

 

「――魔法!? ユーリは魔法使えるの?」

 

 例えのつもりで言った“魔法”が使えると聞いて、イリスは目を輝かせながら聞き返す。ユーリが「はい」と言いながらうなずくと、イリスは椅子から立ち上がってユーリの手を握りながら言った。

 

「見せて! あたしの《フォーミュラ》も見せてあげるから!」

 

 

 

 イリスはユーリから少し離れ、金属片を両手に抱えながら自身の足元に円状の《(プレート)》を浮かべる。

 

「私のフォーミュラは、体内に入れたナノマシンを通じて、物質に含まれる《エレメント》に干渉する力」

 

 説明しながらイリスは足元にある大きな岩を指さし、指先から光弾を放った。

 

「それに金属や無機物に干渉する《ヴァリアントシステム》を組み合わせると――」

 

 さらにイリスはバラバラになった岩の欠片を掴み、もう片手に持つ金属片と組み合わせ、赤い大型銃を造った。

 イリスは残骸に銃を向け砲弾を撃ち放つ。砲弾は残骸に命中して爆発し、その欠片が飛び散るのが見えた。それを見てユーリは意味深な表情を浮かべるが、イリスはそれに気付かずユーリの方を振り返りながら――

 

「と、こんな感じの事ができるんだ」

 

「――すごいですね」

 

 慌てて言ったような賛辞にイリスはえへへと照れ笑いをする。そこへ――

 

「私の魔法もそのフォーミュラと似ていますね」

 

 ユーリはそう言いながら、何を思ったのかイリスが破壊した残骸の方へ歩いていく。怪訝な顔をしながらも、イリスはもしやと思いカメラを構えた。

 イリスやカメラ越しに職員たちが見守る中、ユーリは魔導書を開きながら地面に膝を付き、ベルカ式の三角魔法陣を足元に浮かべる。

 魔法陣から残骸に向かって黒い枝が伸びてきて、残骸だった物質は紫色の光に包まれながら形を変えていく。その形を見て、まるで樹木のようだと思った途端、光は砕け、その中から青々とした木々が現れ、さらに足元の地面にも芝生が広がっていく。

 ユーリはそれを見ながらイリスの方を振り返り……

 

「壊す事にも使えますが、私はどちらかというとこんな風に“育てる”方に使うのが好き……なんですけど……」

 

 あぜんと自分を見つめるイリスを見て、まずい事をしてしまったかとユーリは言葉を詰まらせる。それに気付かず、イリスは目に涙を浮かべ、カメラを放り捨てながらユーリの元へ駆け寄り、ユーリを抱きしめた。それを受け止められず二人は地面に倒れてしまう。だが、そんなことはどうでもいいと言わんばかりに――

 

「ユーリ……ユーリ――ユーリ!! ユーリは本当に《天使》なのかも! 命に触れる力、育てる力――あたしたちが一番ほしかった力なの!!」

 

「そうなんですか……?」

 

 ユーリの両手を握りながらまくし立てるイリスに、ユーリは戸惑い交じりに聞き返す。そんなユーリを立ち上がらせながらイリスは言った。

 

「ユーリ、お願いがあるの! 私たちに力を貸して。ユーリの魔法が私たちの希望なの!」

 

「私が、ですか?」

 

「ユーリが、だよ!! ……駄目?」

 

 声高く言いながらも、浮かないままのユーリを見てイリスも顔を曇らせる。彼女に対してユーリは、

 

「駄目というか、私なんかでお役に立てることがあるとは……」

 

「ある! 勝手なお願いだってのはわかってる。だけどユーリが困ってる事や悩んでる事があるなら、それを私たちが手伝う。だからお願い。力を貸して!」

 

 詰め寄るように何度も協力を求めるイリスを見返しながら、ユーリはつぶやくように答えた。

 

「いつまでここにいられるかわかりませんし、ご迷惑をおかけすることもあるかも……」

 

 そう言いながらも、ユーリは意を決したようにイリスの手を握り返して言った。

 

「それでも、私の魔法が皆さんのお役に立つのなら……協力させてほしいと思います!」

 

「ユーリ……ありがとう! 大好き!!」

 

「――わぷっ、イリスさん!?」

 

 再び抱きしめられ、今度は倒れはしなかったものの、ユーリは戸惑いの声を漏らす。そんなユーリにイリスは言った。

 

「さんはいらない、イリスでいいよ。所長が付けてくれたお気に入りの名前なんだ!」

 

 イリスの言葉にユーリは躊躇うようなそぶりを見せながら……

 

「じゃあ……イリス!」

 

「うん、ユーリ!」

 

 

 

 

 お気に入りの名前(マスコットネーム)を呼ばれ、イリスは感極まったようにユーリを抱え上げ、無邪気な笑い声をあげる。そんな彼女の姿は、ユーリに対して憎悪と復讐心を燃やしている現代のイリスからはあまりにもかけ離れていた。

 そう思いながら俺たちは映像を眺め続ける。その合間もアレルは時折頭を押さえ付けていた。

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