魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第16話 惑星再生委員会(後編)

『委員会に新しい仲間、ユーリが加わって、エルトリア復活の道は大きく開けました。

 ユーリの使う魔法による《生命操作能力》は、植物の復活に大きく貢献。たった二年で施設の敷地内にはずいぶん緑が帰ってきました。

 今はユーリしか使えない魔法技術ですが、それをフォーミュラの術式に変換して私たちやイリスが使えるようになれば、復興は劇的な進歩を見せます。研究チームもその実現に全力で取り組んでいます。

 ユーリもうちに来た当初よりもずいぶん明るくなりました。我らがお姫様――イリスも毎日楽しそうです!』

 

 

 ジェシカという女性研究員による解説を被せながら、ユーリが魔法で植物を育てたり、イリスや委員会の面々と親しげに話したり、首にリボンを付けた三匹の猫と戯れる様子が映し出される。

 そして再び映像は切り替わり、色とりどりの植物の前で屈みこむイリスとユーリの姿が映った。

 

「この子たちは本当に安定しましたね。私が手をかけなくても育ってくれます」

 

「うん。この果樹園、世界中に広げていきたいね……でも委員会の予算がなー」

 

「お金、ですか」

 

 ユーリの相槌にイリスは大きく首を縦に振った。

 

「所長、いつも悩んでるの。この二年で復興の可能性は十分高まってるのに、みんな空の上(宇宙)に逃げる算段ばっかりだって。……もっといっぱいお金があって、たくさんの人が手伝ってくれればなー」

 

 そう言ってイリスはせっかく育てた植物にかかりそうなほど大きなため息をつく。

 そんな彼女のもとに薄灰色の毛並みの犬がやって来て、イリスを慰めるように彼女の頬を舐めた。

 

「うわっ! こらお前、くすぐったいってば!」

 

 そう言いながらまんざらでもなさそうに犬を抱えるイリスを見て、ユーリはふふと微笑み、彼女の空いてる手を握りながら言った。

 

「頑張りましょう。復興が進めばみんなもきっとわかってくれます!」

 

「――うん!」

 

 

 

 

 

 

「あっ――あれれ?」

 

 満面の笑みでイリスがうなずいたところで映像が止まり、レヴィは思わず声を漏らす。

 そんな彼女の上を飛びながらツヴァイが、

 

「途切れちゃいましたね」

 

「おかしいなー」

 

 うなるように言いながら、レヴィは紙片からデータを読み取ろうとする。

 そんな彼女たちの後ろで……

 

「色々びっくりやな」

 

「ええ」

 

 声をかけてきたはやてにシャマルが相槌を打つ。それに続いてシグナムも口を開いた。

 

「ユーリか。もう一つの管制人格の事は二年前にアインスから聞いていたが、あんな小さな子だったとは……」

 

「あたしらと違って、主がいない時に活動するための装置(プログラム)か……お前は当然、ユーリって子の事を知ってたんだよな?」

 

 ヴィータの問いにリインは首を縦に振り。

 

「すまない……終わりのない蒐集に明け暮れていた、当時のお前たちにあの子の事を話せば、それがきっかけで魔導書の破損に気付いてしまう恐れがあった。そうなればお前たちは、魔導書の完成が主の破滅や世界の滅亡をもたらす事を知りながら蒐集を強いられてしまうことになる。それに先ほども言った通り、私もユーリ――システムU-Dについて知っていることはあまり多くない。エルトリアやイリスについても今日初めて知ったばかりだ。まして彼女たちとの間に何があったかまでは……」

 

「知る(すべ)がないか」

 

 俺の言葉にリインは重々しくうなずく。

 そこでレヴィは復元を諦めたようで……

 

「やっぱりデータが破損してるみたい。再生できる所まで飛ばすね」

 

 そう言いながらレヴィはモニターに目を移し、それに合わせて再び映像が流れ始めた。

 そこで目にしたのは今までとはうって変わった光景だった……。

 

 

 

 

 

 

「ぎゃああ!」

 

 悲鳴を耳にしながら、その主を助けようともせず、男らしき人物は荒い息をつきながら施設内をひたすら走り続ける。

 ほどなくして研究用の広がった空間に辿り着き、開いたままの扉の向こうで三人の職員が手を振りながら声を上げてくる。

 

「早く! こっちだ!!」

「こっちに――」

 

 声に促されるまでもなく、そこに向かって男はまっしぐらに駆けるが、軽い音とうめき声とともに視界が回転し、床の上から三人を見上げる形になる。

 地面に倒れた男を見て三人はすぐに逃げようとするものの、そちらにも無数の光弾が撃ち込まれ、三人は倒れ込みそのまま動かなくなった。

 

 再びノイズが流れ、次に映ったのは血まみれになって絶命した所長と、彼にすがりついているイリスの姿だった。

 

「なんで――ねえ、嘘だよね? あなたがこんなことするなんて……答えてよ――()()()!!」

 

 涙を流ししゃくりあげながら、イリスは目の前の人物に向かって問いをぶつける。

 それに向かってユーリと呼ばれた人物は悲痛そうな声で告げた。

 

「……私がやりました。ごめんなさい、だけど――」

「うわああああああああっ!!」

 

 耳をふさぐ代わりに、ユーリの声をかき消さんと吼えながらイリスは腕を振り上げる――そこで映像は止まり、次の場面に流れた。

 

 次に映ったのは結晶樹によって(はりつけ)になったイリスと、返り血を浴びた状態でそれを眺めるユーリとその前を浮かぶ夜天の書――。

 

 

 

 そこで完全に映像は停まった。

 

 

 

 

 

 

「どうなったのー? 何も聞こえなくなったんだけど! 七瀬、手をどかして!!」

 

「ご、ごめん! つい思わず」

 

 映像が止まったあたりで、アリシアのわめき声と七瀬が謝る声が聞こえてくる。殺害現場を見てとっさにアリシアの目をふさいだらしい。

 当然プレシアさんは七瀬を咎めたりなどはせず、アリサも青ざめた顔ですずかにしがみついていた。

 その一方で……

 

「アレル、大丈夫か? さっきよりもさらにひどそうだが……」

 

「んっ……ああ、もう大丈夫だ。映像が終わった途端痛みが引いてきた」

 

 心配そうに尋ねるディアーチェに、アレルは頭から手を離しながら首を横に振る。

 そんな彼が気になりながらも、このまま呆然としているわけにもいかず俺は話を進める事にした。

 

「『惑星再生委員会』……イリスも言っていた組織の名前だったな。その名前に聞き覚えは?」

 

 エルトリアの住人であるアミタさんやキリエさんに尋ねると、アミタさんはうなずきながら口を開く。

 

「はい、40年ほど前ですが確かに存在していました。事故が起きて職員や関係者のほぼ全員が死亡したと聞いています……委員会に所属していた私たちの祖父母も含めて」

 

「……」

 

 そこまで言ってアミタさんは口ごもり、キリエさんも唇を噛んだ。あの映像が事実ならば、彼女たちの祖父母は事故などではなく、何者かに殺されたという事になる。無理もない。

 それを知りながら、アミタさんは自分を奮い立たせるように首を横に振ってから続けた。

 

「その事故で委員会はなくなり、エルトリアを救おうとする人々はいなくなりました。当時はまだ子供だった私たちの両親をのぞいて……」

 

 それ以上言うことがなくなったのか、アミタさんは息をついて沈黙する。そんな彼女に代わって……

 

「我らは出ておらなんだな」

 

「そうだったね」

 

「ですが、委員会の建物や人々にはどこか見覚えがありました」

 

「うむ……」

 

 ディアーチェに続き、レヴィとシュテルもそんな言葉を漏らし、アレルも首を縦に振る。

 確かにそれも少し気になるが……

 

「でもユーリちゃんはあの後どうなったんだろう? なんでエルトリアにいたユーリちゃんが、鉱石になって海鳴の海底なんかに?」

 

 なのはの問いに他のみんなは腕を組んだり首をひねりながら考える。それは“夜天の書自身”でもあるリインも同様だった。

 そこへ――

 

「これは俺の実体験も踏まえたうえでの推測なんだが……」

 

 俺が声を発した途端、皆がこちらを見る。実体験と聞いてリインや守護騎士、勘のいい何人かは“ケントの転生”の事を指しているのだと気付いたようだ。

 一方で、フローリアン姉妹とディアーチェたちは首をひねりながら俺を見ている。

 

「もうみんなも知ってる通り、イリスの力は相当なものだ。それに加えてイリスには通常の魔法を無力化するフォーミュラという力がある。夜天の書を使っても苦戦は免れなかっただろう。イリスとの戦いでユーリはほとんどの力を使い、書の中で眠っていたリインに助けを求める事もできない状態だった。だからあの後、ユーリは“自分自身を蒐集させて”夜天の書の中に戻った……とは考えられないだろうか」

 

 そこまで言うと、シャマルも得心しながらあごに手を乗せて推測の続きを口にした。

 

「なるほど……ユーリちゃんが戻ったことで、夜天の書の転生機能が働いてエルトリアを後にして……」

 

「何人かの主を経て、夜天の書が私のところにやってきた」

 

「だからアインスもユーリがどうなったか知らなかったってわけか!」

 

 ヴィータの言葉にリインも納得したように首を縦に揺らす。そこへ彼女の妹分(ツヴァイ)が口を挟んできた。

 

「でも、それならどうしてユーリはあんな場所に?」

 

「水族館の鉱石の中だっけ。健斗の言う通りなら、ユーリは夜天の書の中にいたはずだろう?」

 

 続くヴィータの問いにはやてもうーんとうなる。そこで俺の脳裏に、《闇の書の闇》が魔導書から切り離された時に見た頁がよぎった。

 

「――あの頁がユーリだったのかもしれない。《闇の書の闇》と一緒にユーリも切り離されて、《時の庭園》から(はやて)が住んでいる海鳴に近い海の中に転移して、そこで鉱石化して眠っていた……さらに、ちょうどそこがオールストン・シーの建設場所の真下か近くで……」

 

「――パパの会社が掘り当てちゃったってわけね!!」

 

 気付き、甲高く叫ぶアリサに俺はうなずく。

 そしてデビッドさんは善意か打算からか、発見した『巨大鉱石』をオールストンの水中水族館に展示することにした。それをイリスに狙われた形だ。

 

「まっ、俺たちがああだこうだ言うより、ユーリ本人に聞いた方が早いだろうけどな。幸いアレルのおかげでユーリは無事に確保することができたし、あいつが目覚めたら40年前の事も含めて色々確認してみよう。それにイリスを捕まえれば――」

 

 俺が言ってる途中で通知音が響き、はやてが空間モニターを開く。そこに本局側の総指揮官であるレティさんの顔が映し出された。

 

「こちら捜査本部。対象イリスの拠点を発見したわ。今、最寄りの武装局員が向かっている。念のため、あなたたちも出動準備をして!」

 

 向かっているのは武装局員だけか。結晶樹を使うユーリはこちらにいるし、数次第なら武装隊だけでイリスを押さえられない事もない……か?

 嫌な予感を覚えながらもそれを抑えて、俺はみんなとともに「了解」と応えた。

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 

 都内某所にある資材置き場を兼ねた施設を拠点()()()にして、管制室にイリスは潜んでいた。

 

 イリスがユーリを目覚めさせた目的は、委員会のみんなを殺した理由を聞き出すため、そして自分を裏切ったユーリへの復讐のためでもある。

 自分を造り(うみ)育ててくれた“家族”を奪った事はなにがあろうと許せないし、自分だけを生かした事も許せなかった。ユーリの力なら、イリスが二度と蘇らないよう完全に死なせることもできたはずだ。

 

 ユーリへの復讐を果たし、“過去”を終わらせる。

 そうしない限り、自分は生きる事も死ぬ事もできない。

 

 そのために八神はやてから闇の書を奪い、《鍵》と称してあの……たちを目覚めさせた。

 正直なところ、ユーリを目覚めさせるだけならあの子たちを蘇らせる必要はなかった。キリエに話した通り、永遠結晶(ユーリ)の居場所は特定できていたのだから。

 

 時空管理局や“ヒーローたち”を敵に回してまで、そんな事をしたのも理由がある。

 委員会にいた頃、ユーリはあの子たちを目の中に入れても痛くないほど可愛がっていた。自分もそれなりに愛着はあったが、今となっては些末な事だ。あの子たちをその手で殺させて、ユーリに自分と同じ“痛み”を味わわせるという復讐に比べれば。

 

 だがふと思う。あの“野良犬”まで蘇らせる必要はあったかと。

 ユーリと殺し合わせるためならディアーチェたちだけで十分だし、奴のせいでせっかく目覚めさせたユーリは自分の手を離れ、計画は大きく修正せざるをえなくなった。

 御神健斗や闇の書の意思、高町なのはも自分の邪魔をしてくれたが、計画を狂わせた一番の原因はあの“犬”にあるといっていい。

 

 十分なリソースもない中分身を造り出してまで、なぜ奴を復活させることにこだわったのか? その疑問がずっと頭にこびりついていた。ディアーチェたちだけ復活させて、あいつらに復讐の一端を任せるだけで十分だったはず……。

 

――私はやらなくていいはずの事に固執し、自分が考え付かないはずのことをやろうとしていた……?

 

「……まさかね、馬鹿馬鹿しい」

 

 ありえない。ユーリへの復讐も、そのためにディアーチェたちを使うのも自分で考え出した事。“誰か”が自分を操って、そうさせたなんてあるわけがないじゃないか。

 十歩譲ってそんな事が起こりうるとして、誰が自分を操るというのだ? 自分を知る者もエルトリアに残っているのも、今やフローリアン一家以外にいないというのだぞ。

 

「ユーリを徹底的に苦しめるためよ。ユーリが助けて、名前まで付けて可愛がってたあの“犬”を殺させることで、あの子の心を痛めつけてやるためよ――そうに決まってる!」

 

 自分に言い聞かせるようにイリスはひとりごちる。その声は室内にこだまするほど大きく、叫んだといっても過言ではないほどだった。

 

 まあいい……ユーリには闇の書同様《ウイルスコード》を植え付けてある。その気になればいつでも自分のもとに戻せるはずだ。それに《IR-S07》として“本来の力”を発揮する準備も整えてある。

 そろそろそれを見せる時が――

 

『Eindringlinge erkennen!(侵入者を検知!)』

 

 耳障りな音とともに、闇の書が警告を告げてくる。

 その横に表示してあったモニターには、黒いコートを着た侵入者たちが映っていた。

 うんざりするような待ち焦がれていたような、相反する感情を抱きながらイリスは口を開いた。

 

「この星は(うるさ)くてかなわないわね……始末して!」

 

 イリスが命じた瞬間、侵入者たちはいずこから飛んできたエネルギー弾に頭を撃たれ、その場に倒れた。その向こう側の木の上には目元にバイザーを付け、自動小銃を構えた女たちが立っているのが見える。

 いやいや、手勢はあれっぽちだけじゃない。この拠点の中にはもっと多くの手駒がいるし、他の拠点では今なお多くの手駒たちが生み出されている。

 

 それを思って、イリスは三日月状に唇を吊り上げた。

 

「まずは邪魔者を排除して、それからこの星を丸ごと復讐の舞台に変えてあげましょう! 行くよ、私の分身――《群体イリス》!!」

 

 その告げた瞬間、彼女の後ろの扉が開き、局員たちを撃った者たちと同型の《群体イリス》たちが出てきた。




この話か前回でカリムの預言について触れる予定だったのですが、テンポが悪くなるためカットしました。
設定的には紙片の修復中、みんなでお菓子を食べてる間にはやてが話した事になってます。
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