魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

112 / 124
第17話 群体イリス

 拠点内に突入した武装局員たちは、待ち構えたようにたたずんでいた口元をマスクで覆った女に向かって一斉に魔力弾を掃射する。

 しかし、女は平然と立ったまま機関銃を取り出し、思わず攻撃を止めて身構えた局員に向かって機関銃を乱射した。

 

 別の部屋では、バイザーを装着した紫髪の女たちが射撃魔法を難なくかわしながら、局員たちを蹴散らしていく。

 やがて局員たちを一掃したのを確認すると、敵の一人が腕をバルカン砲に換え、シャッターで閉ざされた出入り口に向かって砲弾を放った。

 当然のようにシャッターは跡形もなく破壊され、ぽっかりと空いた出入口から無数のバイクとトラックに載った《イリス》たちが、続々と拠点から抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

「イリスが――増えただと!?」

 

 武装隊の壊滅と同時に届いたその報告を聞いた途端、俺たちは自分の耳を疑った。

 一方、アミタさんは取り乱すことなく冷静な口調で告げる。

 

「父から聞いた事があります。委員会が手掛けていた《テラフォーミングユニット》は、環境と状況に応じて自己増殖機能を持つと。元々星一つ丸ごと改良するのが仕事です。資源の少ないエルトリアですら、それを可能にするほどの能力があった。素材もエネルギーも大量にあるこの星なら――」

 

 そういうことは早く言え!!

 

 ――と突っ込みそうになったが、イリスの正体はあの紙片の記録を見て知ったばかりだった……ユーリより、まずそっち(イリス)の事を聞くべきだったか。

 

『ハラオウン次長*1、イリス本体の捜索はかけられますね?』

 

『反応マーカーで識別がつくわ。他の《イリス》の位置もユーノ君に手伝ってもらえば――』

 

『はい、任せてください!』

 

 空間モニターに映っているクロノ、リンディさん、ユーノが矢継ぎ早に話を進めていく。それを聞いてレティさんは彼らや俺たちに指示を出した。

 

『分散した《イリス》を結界から出さないように叩くわ。クロノ君、はやて、出撃して』

 

『了解!』

「了解です!」

 

 二人の返事を聞いてから、レティさんは俺たちにも目を向けて――

 

『他のみんなも頼んだわ』

 

「「「はい!」」」

 

 その命令に、俺となのはとフェイトは揃って返事を返した。

 

 エルトリアのテラフォーミングユニット・IR-S07――《イリス》……一筋縄ではいきそうにないな。

 記録を見た時から薄々思っていたが、惑星の緑地化のために造られたユニットにしては戦闘用に偏り過ぎている……まさかと思うが――。

 

 

 

 

 

 

 健斗たちと別れて、はやてたちとディアーチェたちにアルフを加えた面々は船のデッキに出た。

 

「ほな、私たちはイリスを止めに行くから、ユーリの事は王様たちに任せるな」

 

「信用していいんですか? もし私たちがこの船の中で反攻でも企てたら……」

 

 試すようなシュテルの問いに、はやては笑みを浮かべて。

 

「イリスから昔の話を聞きたいのとユーリを守りたいという点では、お互い目的は同じやろう。それにこの船に残ってる人たちの中にも、とっても強い子や怖い人が何人かおる。特に私の友達を怒らせると後が怖いで」

 

「ああ、あの紫髪の娘か。確かにあの娘と会った瞬間、ただならぬ気配を感じたな」

 

 ディアーチェはそう言ってわずかに肩を揺らす。莫大な魔力を持つ、王たる自分があんな娘に敵わないはずがない……はずなのだが、あの娘とその隣にいた少年を前にした瞬間、心の奥から警戒心がわき上がったのを思い出した。

 それに、プレシアという魔導師とリニスという使い魔も侮れない力の持ち主であることは確かだ。勝てる自信がまったくないわけではないが、今は戦う理由もないし争う必要もないだろう。

 

「はやてちゃん!」

 

 ディアーチェがそう考えているところで、ツヴァイが自分の何倍もの大きさのケースを運びながら飛んできて、それを主に差し出す。

 はやては礼を言いながらケースを受け取り、それを開いた。ケースの中には黒い表紙の本と紫色の表紙の本が一冊ずつ入っている。

 はやては紫色の本を掴み、それをディアーチェに手渡した。

 

「王様にはこれ……私用の特注魔導書型デバイス。王様やったらうまく使えると思う」

 

「う、うむ……」

 

――しかし、敵対していた者を信用しすぎではないのか?

 

 そう思いながらも、ディアーチェはなんとか戸惑いを押し殺し、武器(魔導書)を受け取った。

 

 

 

 

 

 

 一方、俺とリイン、なのはとフェイトはフローリアン姉妹を連れて、改修したデバイスやヴァリアントザッパーを取りに、マリエルさんとシャーリーのもとを訪れていた。

 

「シャーリー、マリーさん」

 

「デバイスの方は改修は済みましたか?」

 

 挨拶するように声をかけたなのはに続いて、俺が問いかけるとマリエルさんとシャーリーは自信満々の笑みを浮かべながらうなずいた。

 

「うん!」

 

「ちょうどさっき終わりました!」

 

 そう言いながらシャーリーは台に乗せたデバイスを運んでくる。

 その中でレイジングハートは羽を出して主の元へ飛んだ。

 

「お帰り、レイジングハート」

 

『I'am back(ただいま戻りました)』

 

 俺もアクセサリー状のティルフィングを掴みながら、相棒(デバイス)に声をかけた。

 

「ティルフィング、準備はいいな?」

 

『Immer wenn Sie eine Bestellung haben(命あらばいつでも)』

 

「アミタさんとキリエさんもご協力感謝です」

 

「いえ」

 

「それぐらい当然ですから」

 

 デバイスと再会している俺たちの横で、マリエルさんはアミタさんたちに声をかける。

 そしてマリエルさんは……

 

「ところで、私たちの方でもユーリちゃんが残した頁の解析をしていたんだけど……実は――」

 

 続いてマリエルさんが言った言葉に、アミタさんとキリエさんは目を剥いて……

 

「えっ――」

「それは……本当ですか?」

 

 二人とも自分の耳を疑いながら、マリエルさんに向かってそう尋ね返した。

 

 

 

 

 

 それからすぐ、姉妹を含む俺たちはバリアジャケットを装着しながら甲板に出て、イリスが潜んでいる東京に向かって飛んだ。

 それからすぐになのはたちは、結界に包まれた街の中で暴れ回っている《群体イリス》たちと、彼女らと戦っている局員たちを見つけ……

 

「じゃあ健斗君、私たちはみんなと一緒にあの子たちを止めないといけないから」

 

「ああ、あんな奴ら、俺たちならすぐに――」

 

 なのはに応えながら俺も武器を構える。だが――

 

「ううん。健斗とアインスは、キリエさんと一緒にイリスさんのところに行って! ここで止まってたら手遅れになっちゃうかもしれないから――ですよね、アミタさん?」

 

「はい。《イリス》たちはこの星で奪った資源を元に、どこかで生産され続けているはずです。時間が経てば経つほど私たちの手に負えない量に増えていく恐れが……」

 

 険しい顔で問いかけるフェイトと、それ以上に厳しそうな表情で答えるアミタさんを見て、俺も気を改める。

 

「――わかった。俺たちはイリスのもとに向かう。リインとキリエさんもそれでいいな?」

 

「――はい!」

 

「ええっ!」

 

 リインとともにキリエさんはうなずきアミタさんと視線をかわす。

 そこで俺たちは別れ、なのはとフェイトとアミタさんは群体イリスと交戦を始め、俺とリインはキリエさんとともに“イリス本体”を探すため街の中心へ飛んだ。

 

 だが、そんな俺たちの所にも――

 

 

 

「――! 健斗、キリエ、気を付けろ、近くに何かいる!」

 

「えっ?」

 

「――そこか!」

 

 突然声を張り上げたリインに、キリエさんは怪訝な声を上げ、その一方で俺は間近に存在する気配に気付き身を構える。

 そこへ俺たちに向けて真っ白な光線が放たれた。

 俺たちは身をひるがえしてそれをかわす。

 それとほぼ同時に四脚の《機動外殻》が現れる。あれはアレルが乗っていた《アレイオーン》と同じ――いや、微妙に形状が違う……。

 そう思っていたところで――

 

「へえ、《ケイロス》に気付くなんてなかなかやるじゃん。母様(オリジナル)が警戒するだけはあるね」

 

「えっ……?」

 

 眼下から届いた女の声にキリエさんと俺たちは思わず、《ケイロス》という機動外殻の足下を見る。

 そこには三十体ほどの量産型イリスと、彼女らの前に立つ白髪の女が立っていた。周りの量産型とは姿が違うがあいつも……。

 女――《固有型イリス》は手に持った大型の銃を握りながら上空にいるキリエさんを見据え、嗤う。

 

「まずはあいつから片付けるとするか……悪く思わないでよ」

 

 そうつぶやくと彼女は銃を真横に構え、右足を前に踏み出しながら目の前にそびえるビルに視線を移し……。

 

「アアアアアア!!」

 

 その場から勢いよく駆け出して、垂直に立つビルの壁を伝い――そのまま屋上まで上がり、近くを浮かぶキリエさんめがけて飛び跳ねた。

 固有型は宙を飛びながら銃を振り上げる。

 

「まさか、それで――」

 

 つぶやくキリエさんに彼女はニヤリとした顔を向けて。

 

「殴るんだよっ!!」

 

 ()()()()()に戸惑いながらキリエさんはザンバーで銃を受け止める。だが見た目によらず固有型の強い怪力と銃の重さに、キリエさんはうめき声を上げながら弾き飛ばされる。

 そこへ固有型イリスは空中から落ちる彼女に銃口を向けた。

 

「正直言えば、もう少しまともに戦いたいところだったんだけど――せめて苦しまずに逝きな!」

 

 そう言いながら固有型は引き金に手をかける。だが――

 

「はあっ!」

「つっ――」

 

「――健斗!」

 

 すかさず剣を振り下ろしながら飛び込むと、固有型は銃で剣を受け止めながらもうめき、キリエさんは思わず俺に声をかける。

 俺は背中を向けたままキリエさんに向けて言った。

 

「こいつらは俺たちが何とかする。キリエさんはそのまま先に進め!」

 

「えっ? で、でも――」

 

 キリエさんは戸惑いながら俺と対峙する固有型、機動外殻・ケイロス、そして地上にいる量産型たちを見る。そんな彼女に――

 

「こいつらが邪魔しに来たという事は、この先にイリス本体がいる可能性が高い! さっきアミタさんが言ってた通り、時間が経てば経つほど《イリス》たちは増えていって、結界を抜けられる恐れが強くなる。そうなる前に誰かが本体を止めなきゃならないんだ……それに――」

 

「……」

 

 少し間を空けて付け足すと、キリエさんは怪訝な顔を見せる。そんな彼女に、

 

「――このままイリスにやられっぱなしでキリエさんは気が済むのかよ?」

 

「――、ううん!」

 

 挑発じみた問いにキリエさんは首をぶんぶん振る。そんな彼女とオレに固有型は「ハッ」と笑いを飛ばした。

 

「このまま行かせると思うかよ! やっちまえ!!」

 

 固有型の命令とともに、ケイロスの口から白い光が漏れる。すると――

 

「来たれ石化の槍――《ミストルティン》!」

 

 頭上から落ちてきた白い槍に貫かれ、ケイロスの頭は見る見るうちに石化し奴の口から漏れていたおびただしい光もそのまま霧散する。

 《石化の槍》を繰り出したのはケイロスの真上を飛んでいたリインだった。それを見て固有型もキリエさんも目を見開く。その合間を縫うように、

 

「今だ!!」

「――っ」

 

 俺が叫ぶと、キリエさんは首を前に揺らしそこから飛び出す。

 

「させるか!!」

 

 固有型が吼えると、地上から量産型たちがキリエさんに向けて撃ってくる。

 だがキリエさんは超高速ですべての弾を避け、ついでと言わんばかりに十体ほどの機体を破壊していった。それを見て固有型は歯噛みをするが――。

 

「はあっ!」

「――ぐっ」

 

 俺が剣を振りながら迫ると固有型は銃で受け止める。

 

「敵の目の前でよそ見とはずいぶん余裕だな」

 

「てめえ――」

 

 煽るように言う俺に固有型は憎しげな顔を向けながら力を込める。その横でリインもケイロスの攻撃をかわしながら、コアのある背中を狙って攻撃する。

 キリエさんは一度振り返ってそれらを見た後、意を決したように街の中心部に向かって飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

『私は《テラフォーミングユニット》。望む世界を作るため、邪魔なものを排除するのも役目の内――その力を証明してみせるのも私の目的の一つなんだから。……じゃあもう切るわね。見ての通り忙しくてあなたと話してる暇なんてないの』

 

 後ろで群体たちの管制をしている分身を指しながらイリスがそう言うと、クロノの前に浮かぶ空間モニターは黒一色に染まり、彼女の声も聞こえなくなる。向こうから通信を切られたのだ。

 機動外殻を氷漬けにするための広域魔法で吹雪が吹きすさび、術者である自身も雪にまみれながらクロノは嘆息した。

 やはり相手(イリス)の決意は固く、ユーリとの面会を約束するぐらいでは投降してくれなかった。

 

(それほどまでユーリを憎んでいるというのか……家族同然の人たちを殺され、自分自身も動けなくなるほどの重傷を負わされたとあっては無理もないが――)

 

――その復讐のために結界から出て、ユーリのもとに向かおうとしている……。

 

 そこまで考えてクロノは、いやと首を横に振った。

 

(それにしては群体たちの様子がおかしい。自分から僕たちに攻撃を仕掛けてきたり機動外殻を繰り出してきたり、わざわざ目立つ行動をとっている。はやてと交戦した《イリス》は鉄を集めていたらしいし、結界から抜け出すためにしては妙だ)

 

 街にいる《イリス》たちの行動は、本体の性格やこれまでの行いから割り出した分析(プロファイリング)とはあまりに逸脱している。

 

(…………まさか!)

 

 

 

 

 

 

 クロノがある考えに至った頃、彼の頼みによって、病室でイリスの戦闘記録を見ていた美沙斗たちも……。

 

「このイリスって子、かなりの強さだね。身のこなしも武器の使い方もかなりのものだよ。まるで()()()()()()()()()()()()()()。母さんたちや恭ちゃんならともかく、多分私じゃ勝てないくらいじゃないかな……」

 

 美由希の一言に、美沙斗も心の中で同意する。そして早見も……

 

「そうですね、魔法とやらについてはさっぱりですが、剣の腕は相当なものはわかります。ですが私たちが戦ったあのロボットは……」

 

 もう一つのモニターに映されているロボットを見ながら、早見が零した一言に美沙斗もうなずき。

 

「ああ……()()()()()()。少なくともあのロボットを操っていた者は別にいるはずだ」

 

 

 確信に満ちた声でそう言い切った。

*1
本作でもリンディは新暦67年度から本局総務部の次長に就いている。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。