魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第21話 真相

「所長が……は、はは。何を言い出すかと思えば。所長が私を操ってたなんて、そんなことありえるわけないじゃない。所長はあの時死んだのよ――ユーリに殺されてね! あんただって今そう言ったじゃない!!」

 

 乾いた笑みを漏らしながらイリスは叫ぶ。キリエは否定せずうなずき……。

 

「ええ。マクスウェル所長は確かにあの時ユーリの手にかかって死んだ。でも、死ぬ前に自分の記憶をデータ化してどこか――いえ、()()()()()に隠した。エルトリアではとっくの昔に記憶や意識のデータ化に成功している。“肉体は死んでも精神は生きてる”なんてことが言葉どおり起こりえるのよ」

 

 もっとも、自分自身が死ぬことに変わりはないうえに、データとして蘇ってもコンピュータの中で過ごすか、ロボットになる形でしか生きられない。だから意識のデータ化を試る人間などほとんどいなかったが。

 

「だ、だとしてもおかしいじゃない! 所長がデータとして生きていたとして、なんであの人が私を操ったりするのよ? あんたが所長の何を知ってるの!!」

 

 まくしたててからイリスは荒い息をつく。そんな彼女に――

 

「ええ、私は所長って人の事を知らないわ。だから知ってる人に聞いた」

 

「――えっ?」

 

 思わぬ一言にイリスは思わず戸惑いの声を上げる

 そんなイリスの前でキリエは懐に手を入れ、青い石板状の“端末”を放った。思わずそれを掴み取るイリスに、キリエは続けて言う。

 

「あの紙片の中に鍵があったの。この世界とエルトリアを繋ぐ『アクセスキー』がね。それでエルトリアにいるママと通信ができた」

 

 それを聞いてイリスははっと目を見張る。あの時ユーリがはやてたちに差し出そうとして、自分が燃やした紙片にそんなものが記されていたとは――。

 

「40年以上も前の事だけど、ママははっきりと覚えていたわ。自分たちが生まれ育った惑星再生委員会のこと。仕事の合間に、小さかったパパとママの面倒を見てくれた“明るいお姉さん”と“その友達”のこと。彼女たちが飼っていた猫たちと犬のことも。……そして家の遺跡版を使って調べてくれたの。委員会の内情やイリスが生まれた経緯、委員会が崩壊した“あの日”の裏で何が起きていたのか――そして“あの日”の記録を見つけ出した」

 

 そこまで言って、キリエは視線を下げて押し黙る。その視線をたどってイリスもちょうど今受け取った“端末”に目をやる。

 それだけでキリエの言わんとすることがわかった。

 

(これに“あの日”のことが……)

 

 そう思った途端、イリスの指は無意識に“端末”のスイッチに伸びた。

 起動した瞬間端末に長い文章が浮かび、敵を前にしているにもかかわらず、イリスは食い入るようにそれを見る。

 そこに書かれていた“真実”は――。

 

 

 

 

 

 

「まったく、“あの時”は驚きましたね。アレルの検査(実験)をしようと思ったら、突然《イリス》が襲ってくるんですから」

 

「私なんて他の職員と一緒に奥へ逃げようとしたところで、待ち構えていた《イリス》に頭をズドンよ。委員会の解体が決まった上に予算の横領までばれちゃったとはいえ、まさか私たち全員を始末させるなんてね」

 

 ジトリとした目を向けるアンディとジェシカに、マクスウェルは二人に頭を傾け……

 

「すまなかった――とでも言えばいいのかな。だけど、あのまま政府の言う通りエルトリアから撤収しても、惑星再生を果たせず無能の烙印を押された職員のほとんどはつまらない閑職に回されるだけだろう。特に君たち二人は私と同様査問にかけられ、二度と研究職に就けなくなるほどの処分が下るところだった――そんな未来は御免だろう?

 だったら()()人生に幕を閉じて、“次”でやり直せばいい。来世や生まれ変わりなんかじゃなく、明確な形で復活できる方法で。現に私も君たちもこうして再び現世に戻ってこられたじゃないか――あの時よりもはるかに強い力を身につけて」

 

 そう言いながらマクスウェルは鋼鉄でできた自らの腕を掲げる。それを見てアンディたちは苦笑を返した。

 その力は実証済みだ。強力な魔導師の力をコピーした四匹も、この体と機能の前には形無しだった。

 今の自分たちに加え、オリジナルを含めた無数の《イリス》、さらにユーリまでもが加われば、時空管理局でさえ歯が立たない。少なくとも、現在この星にいる人員程度ではどうにもならないだろう。

 

「他の仲間がいればさらに敵なしなんですけどね。あいつらも復活させるんですか? 材料はとっくに集まってますし」

 

「それはやめといた方がいいわ。他のみんなはあくまで自衛用として《イリス》の開発に協力しただけで、軍事団体や他世界に売り渡すのは反対だったから。私たちだって、結界とやらの外にいるユーリを回収する役目がなかったら、ずっとイリスの中で眠ってたままだったんじゃないかしら。私たちに相談もなく、あの時の襲撃や今回の『復活プラン』を立てた所長の事だし」

 

 ジェシカの推測を聞いて、マクスウェルはハハッと軽い笑い声をあげた。

 

「確かに仕事もないのに部下を叩き起こす気はなかったな。でも君たち二人は優秀だからね、いずれ手を借りる日が来ると思っていたさ。他のみんなも必要になったら目覚めさせるつもりだ。これからどんどん忙しくなる――“あの子たち”も手伝ってくれれば助かるんだが」

 

 マクスウェルが前に目を向くと同時に、タイヤが滑る音が近づいてくる。

 その音とこちらに迫ってくるバイクに気付き、量産型イリスたちが銃を向けながら立ちはだかるが――

 

「かまわない。道を開けてあげなさい!」

 

 マクスウェルが命令すると《イリス》たちは即座に後ろに飛びのき、中央のスペースを開ける。ちょうどそこにアミタと彼女が乗る青いバイクが滑りこんできた。

 

「あなたたちだったんですね――この事件を起こしたのは!」

 

 その場でバイクを止めながら、駅舎の上にいる三人に向かってアミティエは声を張り上げる。

 だが……。

 

「あらあら、話には聞いてたけど……」

 

「本当にエレノアちゃんそっくりだ! じゃあ、もう一人の子供がグランツ君に似てるのかな?」

 

 ジェシカとアンディは尻込むどころか、知り合いの子供を見つけたような気安い調子で声をかけてくる。しかも両親の名前まで出して……。

 

「父さんと母さんの事を……やはりあなたたちは――」

 

『ジェシカさん、アンディさん、それにマクスウェル所長……本当にあなたたちなんですね』

 

 ふいにアミティエの前にモニターが現れ、そこからエレノアが三人に向かって尋ねる。

 彼女を見て、マクスウェルは懐かしそうな笑みを浮かべた。

 

「やあ、久しぶりだねエレノア君。元気だったかい……と言いたいところだけど、君もグランツ君も《死蝕》に触れすぎて芳しくない状態みたいだね。特にグランツ君は意識が戻る見込みがないほど末期のようだ。もって半年……だったかな」

 

『……何が言いたいんです』

 

 マクスウェルたちが復活した方法から彼の言いたいことを察し、エレノアは険しい顔であえて尋ねる。

 そんな彼女の内心を悟りながら、マクスウェルは両手を広げながら言った。

 

「私たちの仲間になる気はないかい。これから私たちが始める“新しい仕事”に協力してくれるなら、君とグランツ君が斃れても《イリス》として復活させることを約束しよう。もちろん君たちの子供――アミティエ君とキリエ君も一緒だ!」

 

「――なっ!?」

 

『……』

 

 彼の提案にアミティエは目を見張り、エレノアはただマクスウェルたちを睨む。

 そして……

 

『“仕事”というのは、《イリス》の軍事利用のことですね……今アミティエたちやあなたたちがいる、地球という星の資源をすべて奪いつくして、その大量の資源を元に生産した《イリス》たちを、他世界の軍隊や武装組織に売り渡していくという……』

 

「――!」

 

 エレノアの言葉にアミタははっと《イリス》たちを見回し、再びマクスウェルたちを見上げる。それに対し、マクスウェルは説明する手間が省けたと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

『すべての始まりはマクスウェル博士……地上研究所の所長にして惑星再生委員会の現場指揮者だった彼が発案した、『生体型テラフォーミングユニット』が開発されたことにある』

 

 ベッドに横たわる老年の男はモニター越しにそう切り出す。

 彼はコロニーに住むエルトリア政府の元高官で、フローリアン家の設備を中継する形で、本局にいるレティと話をしていた。

 そんな彼にレティは尋ねる。

 

「あなたたち――エルトリア政府はあくまで星の再生(テラフォーミング)のために《イリス》を造り出したと?」

 

 その問いに元高官は首を縦に振った。

 

『無論だ。荒廃した星を離れ、宇宙に浮かぶコロニーに移住した後も戦争や兵器開発に明け暮れるほど愚かなつもりはない。だが、マクスウェルと一部の研究者はそうではなかったようだ。

 彼らはテラフォーミングユニットとして《IR-S07》……《イリス》の開発を提案し、コロニー内の委員会本部そして政府はそれを認め、巨額の予算を割り当てた。実際《イリス》はテラフォーミング用()()()()、非常に優れた性能を持っていた。適切に運用すれば惑星の再生に役立つほどの……。

 だが、《イリス》には危険生物の駆除や研究所の防衛としては、明らかに過剰すぎる武装と増殖能力が組み込まれていた。増殖能力については惑星全土の環境を修復するために搭載されたのだが、結局それがエルトリアの再生のために使われたことはなかった……』

 

 そう言って、元高官は嘆かわしいと言いたげに深いため息をつく。

 レティはさらに話を続けた。

 

「それを設計したのがマクスウェル所長と彼の部下たち……ですね?」

 

『そうだ。《イリス》の開発は全面的に地上研究所に任せる形になっていた。それを利用して“人造兵士”としての機能を組み込んだのだろう。もっとも、ほとんどの職員は自衛のためだと信じていたと思うが。

 だが、マクスウェルと直属の部下は最初から生体兵器として《イリス》を開発していた。おそらくその後は《イリス》とともに他世界の軍事組織に移籍するつもりだったのだろう。そのようなことを許すわけにはいかん。

 だから政府は、成功するかわからない惑星再生に巨額の予算を投じ続ける委員会の解体とともに、《イリス》開発の指揮を執っていたフィル・マクスウェル、予算の着服に手を貸していたジェシカ・ウェバリー、危険な《死蝕》研究を行っていたアンディ・ペントンを処分し、研究の場から永久に追放するつもりだった。

 しかし、彼らにそれを告げた直後に研究所の職員、家畜までもがすべて死んでしまう“事故”が起きた。現場の状況から《イリス》の暴走、もしくはマクスウェルらによる無理心中だと気付いてはいたが、惑星再生のために投じた予算が兵器開発に利用されたなどと公表するわけにもいかず、結局政府内で秘匿することにした。

 それがまさか、こんな事態を引き起こすとは……』

 

 元高官は再びため息をつき、心底疲れ切ったというようにうなだれる。

 管理局の上層部といえるポストに登りつめたレティには、彼らがそうせざるを得なかった事情もそれが裏目に出てしまった苦悩も理解できた。

 だが、労わる余裕などない。レティはもう一つ問いを重ねる。

 

「では、ユーリという子供のことはご存じですか? あなたや政府の方々はユーリについてどこまで……」

 

 そこで元高官はしばらく視線を宙に浮かせ、ああと思い出したように首を振りながら答えた。

 

『そういえば、委員会からの報告(レポート)に何度か載っていたな。どこからか現れた不思議な力を持つ子供だと……だが、それ以外のことはわからん。君たちはあの子について何か知っているのかね?』

 

「……いえ。同じくらいの時期にユーリという名前の子供の捜索願いが出された記録がありますので。関係ないとは思いますが一応」

 

 逆に質問され、レティは一瞬悩みながらもしれっと誤魔化してみせる。彼にユーリの正体や夜天の書といった余計なことまで話す必要はない。

 ちょうどそこへ……

 

『すみません。これ以上はお体に障りますので、そろそろ終了させていただきたいのですが』

 

 白衣を着た医者らしき人物が入り込んできて、そう告げてくる。確かに高齢の彼にこれ以上の長話は毒か。

 委員会の解体や“事故”があったのは40年前。当時若手の官僚だった彼も、今は一日のほとんどをベッドで過ごしている年齢だ。

 

「わかりました。今日はこれで失礼します。――ただ、我々管理局は近いうちにエルトリア政府と協議の場を設けたいと考えています。その際にもう一度お力をお貸しいただけないでしょうか」

 

『ああ、マクスウェルと《イリス》の処遇について話したいのだろう。私も彼らについては君たちに任せた方がいいと思っている。知り合いの議員にもそう伝えておこう』

 

「お願いします……ではお体に気を付けて」

 

 レティが頭を下げると、向こうも軽くうなずいてモニターを消す。

 

 これでおおよその事情と背景はつかめた。40年前の“事件”を起こしたのも、イリスを操って今回の事件を仕組んだのもフィル・マクスウェル。

 エルトリア政府や委員会本部の落ち度は、彼らが強力な兵器を保有していると知りながら、拘束に踏み切らず暴走を許してしまったことか。それが多くの職員たちの命を奪い、40年の月日を経て地球や他の次元世界にまで脅威を及ぼそうとしている。

 

(エルトリアの政府に引き渡すのは不安がある。やはり監督不備の点を突いて、管理局(こちら)でマクスウェルと《イリス》を収容できるように交渉するしかないか……)

 

 そう思いながらレティはふっとため息をつき、目の前の状況に思考を戻す。

 

「現在の状況は?」

 

 彼女の問いに、真下にいるオペレーターが振り向きながら答えた。

 

「マクスウェルは固有型2体と量産型を連れてアミティエ・フローリアンと対峙。イリス本体も東京タワー内でキリエ・フローリアンと対話中。どちらもまだ戦闘行為には至っていません。もしかすれば――」

 

 姉妹のうちどちらかは寝返るかもしれない。そういうニュアンスを含めて言葉を止める。

 しかし、レティは首を横に振った。

 

「その点も含めて対処するよう現場に指示してあるわ。現場の局員たちは?」

 

「はい。魔導師数名がマクスウェルのもとへ急行中。ハラオウン執務官は武装隊を率いて拠点の発見、確保にあたっています。ですが、どちらも相当な規模で制圧しきれるか――」

 

「彼らを信じるしかありません。あなたたちはそのまま状況の把握に努めて!」

 

 レティの一言に、オペレーターたちは一斉に「はい」と答える。レティも現場が映し出されているモニターに目を戻した。

 

(東京一帯に張った結界内はリンディが、その周囲は私たちが目を光らせている……でも)

 

 現在敷ける体制としてはこれがベスト……のはずなのだが。

 

(何か見落としてるような……)

 

 嫌な予感にかられながらレティは東京全域を表示したモニターを注視する。しかし、その予感の源が東京より()()()()()に存在するとは、この時の彼女には考え付く余裕がなかった。

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