魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第24話 激闘(前)

 健斗とアミティエがマクスウェルを追っていった後、東京駅の周囲ではなのはたちが無数の機動外殻やユーリと交戦していた。

 

「はあっ!」

 

 前より厳めしくなった《鎧装》に乗ったユーリに向かって、フェイトが突貫してくる。さしものユーリも目を見張るが、彼女の一撃は鋼鉄の腕(魄翼)によって受け止められ、もう片方の“腕”が彼女に襲い掛かる。それを避けようとフェイトは真上に飛ぶが、そこにはジェシカが――

 

「はああっ!」

「――ああっ!」

 

「フェイトちゃん!!」

 

 袈裟切りに斬られるフェイトを見て、なのはは思わず叫ぶ。そんな彼女の前にアンディが現れた。

 

「よそ見をしている暇があるのかい――はっ!」

「ぐっ……きゃあ!」

 

 なのはは盾を突き出して、アンディの斬撃を受け止める。だが、がら空きになった背中に地上の量産型イリスに銃撃され、それをこらえながらなのはは剣を弾き、上へ逃れた。

 

 そんな戦いを見て、はやては歯噛みをした。

 

(敵の数が多すぎる。せめてユーリを何とかしたいところやけど、手下二人が邪魔してきよるし。これじゃあ《ウロボロス》を撃つ準備もできひん――)

 

《はやてちゃん――下です!》

 

 自身と融合しているツヴァイの声を聞いて、はやては眼下を見る。その直後、《機動外殻・ヘクトール》は白い光線を放ってきた。ツヴァイは主の魔力を借りながら防御陣を張ることで攻撃を防ぐ。

 だが空から新たな機動外殻が現れ、地上からはトレーラーを改造した暴走車がやってきて、はやてに向けてミサイルを放つ。

 ――これ以上は防げない!

 そう思って二人は顔をこわばらせる。

 すると――

 

「おおおおおぉぉぉっ!!」

 

 野太い声を上げながらザフィーラが飛んできて、ミサイルを拳で打ち砕いていく。

 さらに暴走車両の横に大きな渦が開き、そこから飛び出てきた緑色の巨手が暴走車を握りつぶす。まさかと思ったはやてたちの脳裏に声が届いた。

 

《はやてちゃん、ツヴァイちゃん、もう大丈夫よ!》

 

「シャマル! ザフィーラ!」

 

 はやては思わず二人の名を呼ぶ。

 そんな彼女のもとへ飛行型機動外殻が迫ってくるが……。

 

「でえええええいっ!!」

 

「はああああっ!!」

 

 ヴィータは巨大化させた大槌(グラーフアイゼン)で外殻を叩き潰し、シグナムが弓状のレヴァンティンから炎を纏った矢を撃ちだし、残りの敵を射ち壊していく。

 

「ヴィータ、シグナムまで――」

 

 残りの二人の姿にはやては歓喜の声を上げる。

 しかし、地上のヘクトールは諦めることなく、はやてたちに向けて砲を向ける。その砲口からは白い死の光が漏れていた。

 だが――

 

「はああああっ!」

 

 あらぬ方から飛んできた黒い魔力砲がヘクトールを吞み込む。それを見てツヴァイが叫んだ。

 

「――アインス!」

 

「遅くなりました、我が主。ツヴァイもよくここまで主を支えてくれた」

 

 二対の黒翼を羽ばたかせながら、銀髪の美女は主と妹に返事を返す。それは夜天の書の分身にして、ツヴァイが誰より尊敬する姉――リインフォース・アインスだった。

 

「バ、バカな。何であいつらがここに?」

 

「他の局員は生産拠点の《イリス》たちと戦っているはず……」

 

 ジェシカとアンディは思わずそう口にする。

 そんな彼らにアインスは苦笑するような笑みを浮かべながら言った。

 

「思わぬ味方が現れてな。“彼女たち”のおかげでこちらに来る余裕ができた」

 

「彼女たち――ま、まさか!」

 

 アインスの言葉にジェシカは顔を引きつらせ、アンディとともに各地の状況を確かめる。

 《イリス》を通して二人が目にしたのは……。

 

 

 

 

 

「こちら、拠点を一つ発見しましたが、量産型に阻まれて動けません! それどころかあいつらどんどん増えて――」

 

 銃弾を浴びせてくる量産型イリスたちを前に、武装局員たちは遮蔽物に隠れながら報告する。彼の言うとおり、こうしている間にも《イリス》たちが次々と拠点から出てきて、いつなだれ込んできてもおかしくない状況だった。

 局員たちは顔を見合わせ、覚悟を決める。こうなったら駄目もとで突っ込み、拠点内の機能を停止させるしかない。成功する可能性は低いし、間違いなく犠牲が出るだろうが。

 そう思っていたところで――

 

「やめておくがいい。お前たちでは入り口まで辿り着くことすらできん」

 

「えっ……?」

 

 怪訝な声を漏らしながら局員たちは顔を向ける。そこにいたのは長い赤髪の女だった。腰には長い剣を差しており、無数の量産型たちや銃声に臆する気配もない。

 そこで局員たちは彼女の正体に気付いた。

 

「ま、まさか君は――」

 

「私が先陣を切る。お前たちはその後に続け」

 

 そう言いながら女は遮蔽物をくぐり、量産型たちの前に躍り出る。戸惑うように動きを止めている彼女らを前に、女は剣の柄に手をかけながら名乗った。

 

「《IR-S07=コマンダータイプ・ナンバー04》――推して参る!!」

 

 それを聞いて相手を敵と見なし、量産型は銃を乱射する。しかし、《ナンバー04》はそれをすべて避け、刃で弾きながら突貫し、何体もの量産型を切り裂いた。そして彼らも負けじと――

 

「俺達も行くぞ! 彼女だけに任せては武装隊の名折れだ!」

 

「――はいっ!」

 

 その直後、遮蔽物から局員たちが飛び出して《イリス》たちに攻撃を仕掛ける。

 他の場所でも……。

 

 

 

 

 

「新手の機動外殻が出現――いったん退避!」

 

 新たに二体の機動外殻が現れ、隊長格の局員はそう指示を出す。

 しかし、新たな機動外殻は局員たちではなく、別の機動外殻に砲口を向ける。

 局員たちが訝しんだところで、機動外殻の肩から女二人の声が響いた。

 

「標準よし――」

 

「――やっちゃえエクスカベータ!!」

 

 その瞬間、エクスカベータの砲口から白い砲撃が放たれ、射線上にいる他のエクスカベータやヘクトールを貫いた。

 それを見て、それぞれの愛機の上で《ナンバー05》と《ナンバー06》はウインクと笑みを交わした。

 

 

 

 

 

 

「固有型が反乱を起こしてる!? 本体はこっちの言いなりなのに!!」

 

 各地の状況を知って、ジェシカは思わず声を荒げる。それは彼女らにとって無理もないことだった。

 固有型イリスはいわば中継器。本体に代わり、広範囲に広がった量産型を束ねるための中間ユニットにすぎない。それが本体を押さえた状況で勝手に行動するなどありえないことだ。

 しかし、それを否定するように――

 

「んなもん関係あっか! ばーか!!」

 

 その声にジェシカも、フェイトまでもが顔を上げる。そこへ《ライフル使い》の姿とライフルが降ってきた。それをもろに顔面に喰らい、ジェシカは醜いうめき声を上げながらのけぞる。

 

「君は――!?」

 

「よお。うちの身内(他の固有型)が迷惑をかけたな。こいつはアタシに任せて、あんたはユーリって奴の相手をしてくれ」

 

「《09》――何をしてるの? 敵はあっちよ! 馬鹿なことしてないで、他の固有型と一緒に局員どもを――あがっ!!」

 

 態勢を整えながらまくしたてるジェシカの頭を、09は再びライフルで殴りつけて言った。

 

「図に乗んな、同じ固有型のくせに! なんでアタシらが他の固有型の命令なんて聞かなきゃならないんだっての!」

 

「なんでって、私は《イリス》を造った開発者の一人よ。私たちの命令に従うのが当然――ぐああっ!」

 

 ジェシカが何事か言おうとしたところで09は得物を重いランチャーに変えて、再び彼女を殴りつける。イリス同様速く動けようと、動く前に攻撃されてはたまらない。

 

「それこそ知ったことか。アタシら(イリス)を造った奴らは何十年も前に死んだって聞いたぜ。アタシらに命令できるのはもうあの人だけだってーの! そうだろう――」

 

 ジェシカを殴りながら、09は()()()()()()()

 

「――母様よお!!」

 

 

 

 

 

「――!」

 

 ウイルスコードによって、自らの意に反してキリエと戦わされていたイリスは、その声を聞いてびくりと肩を震わせた。キリエも何かを感じ取って動きを止める。

 

『母様ももう気付いてんだろう! こいつらは母様を騙して、戦争の道具なんかにするために利用していたんだ。そんな奴らのために働く義理なんて欠片もねえ! ウイルスコードだか何だか知らねえが、そんなもん気合で破っちまえ! ――アタシらの母親(オリジナル)がそんなもんに負けんじゃねえ!!』

 

 09はジェシカを鉄の塊で殴りながら、母親を()()()()()()()()()()。それを喰らって(聞いて)、イリスは怒りで体を震わせた。

 

「あの脳筋が――それができれば苦労しないわよ!!」

 

 そう言いながらイリスは剣状のヴァリアントをキリエに振るう。しかしその文句と敵意はキリエではなく、勝手なことをのたまう(09)と自分を操っていた父親(マクスウェル)に向けられていた。

 キリエもそれも察して――

 

「はああっ!」

「うぐっ――」

 

 キリエは渾身の力を込めて、(ザッパー)をイリスの頭に叩きこむ。

 先ほどまで自分がかけた言葉と今誰かがぶつけてきた言葉で、イリスはかなり揺れている。さらにショックを与えればウイルスコードの綻びが大きくなり、イリスが自力で破ることも可能になるはずだ。

 

 

 

 

 

 

「は、ははは……何言ってるんだ。気合だけでウイルスコードを破るなんてできるわけないじゃないか。機械ユニットのくせになにを非科学的な……」

 

 イリスと09のやり取りを聞きながら、アンディは乾いた笑い声をあげる。それは嘲りというより、もし本当にウイルスコードを破ってしまったらという不安を紛らわすために見えた。

 彼に追い打ちをかけるように――

 

「どうかな。案外何とかなるかもしれんぞ。己も気合があってこそ、あの男(マクスウェル)の呪縛を解くことができたしな」

 

「なに――ぐあああっ!」

 

 顔を向けたところを大剣で斬りつけられ、アンディは悲鳴を上げながら吹き飛ぶ。

 一方、アンディを斬りつけた少年を見てなのはは声を上げた。

 

「――アレル君!」

 

 アレルは彼女に顔を向けながら口を開いた。

 

「遅くなったな。こやつは己が引き受ける。貴女は他の仲間を助けに向かうがいい」

 

「う……うん。私としてはその方が助かるけど、アレル君は大丈夫なの? それにディアーチェちゃんたちは――」

 

 腹に包帯を巻いたままのアレルを見て、なのはは不安そうに尋ねるものの、アレルは首を横に振った。

 

「心配無用、ただの切り傷だ。王も後で来るとのことだ。それより貴女はあの金髪娘の加勢に行ってやれ。ユーリ相手にあの女子(おなご)一人では心もとない」

 

 そう言われてなのはは迷うそぶりを見せるものの、フェイトの事も心配なのか、意を決したように――

 

「……う、うん! くれぐれも無理しないでね!」

 

 そう言って、なのははフェイトとユーリの元へ向かう。

 その一方で……。

 

「アレル……なぜ動ける? お前の体内には“あの右腕”があったはず……」

 

 なのはを追おうともせず、アンディは憎しげにアレルを睨みながら問いかける。アレルは肩をすくめて……。

 

「さてな。09とやらの言葉を借りて、“気合で破った”とでも言っておこう。それより先ほどの続きといこう。昔からの借りを返すいい機会だ」

 

「黙れ! 貴様なんかにこの僕が――」

 

 アンディは吼えながら《システムオルタ》で加速しながら迫る。だが――

 

「はああっ!」

「ぐあああっ!」

 

 アレルは易々と躱し、逆にアンディに一太刀入れた。

 

「スピードなら己も自信がある。“イリスと同程度”の速度とやらで、どこまで己に追いつけるかな」

 

「ぐっ――この恩知らずの野良犬めえええ!!」

 

 

 

 

 

 

(なんだ……なんなんだあいつらは!?)

 

 《イリス》やアンディたちを通して状況を知った、マクスウェルの脳裏に浮かんだのはそんな言葉だった。

 ほとんどの固有型が反旗を翻し、そのうえ無力化したはずのアレルまで再び牙を剥いてくるとは。あの犬が現れたということは、ディアーチェや他の猫たちも……。

 

(なにがあいつらをそこまでさせている? おとなしくどこかに隠れていればいいものを。このままだと本当にすべての《イリス》、ユーリまでもが倒されてしまうかも――)

 

 そこまで思って、マクスウェルはいやと首を振った。

 

 ユーリは夜天の書を管理するために造られた最高管理ユニット。あの程度の魔導師が何十人向かってこようが倒されることはないはず。

 万が一ユーリが倒され、他の手駒が全滅したとしても、自身か“切り札”の()()()()()この街から脱出すれば再起は十分可能だ。その《種》もすでに仕込んである――イリスとキリエがこの星に来た瞬間に!

 

 そう思っていたところで、バイクの走行音が聞こえてきた。

 

(アミティエか……いい加減逃げたと思ったのに、懲りない子だね)

 

 マクスウェルは苦笑しながら動きを止め、彼女を待ち構える。娘一人を躾ける時間ぐらいあるだろう。

 そう思い、舌なめずりしそうな顔で待ち構える彼だったが――

 

「――っ!」

 

 ()()()()()()()()バイクを見て、マクスウェルは目を見開く。

 まさかと思ったその時――

 

「せえええい!!」

「ああああっ!!」

 

 空のバイクを眺めたまま目を見張った彼の背後から、オッドアイの少年と赤髪の少女が斬りかかってくる。

 それを見て、マクスウェルは吼えた。

 

「アクセラレーター・オルターー!!」

 

 

 

 

 マクスウェルが叫んだ直後、奴は紫色の光を纏いながら一瞬でアミタさんの眼前に移動し、彼女を蹴り飛ばす。

 アミタさんはすぐに体勢を立て直しザッパーを構えるものの、マクスウェルは瞬時に取り出したヴァリアントで、ザッパーを切り裂き彼女を切り上げた。

 マクスウェルは加速したまま彼女に迫り――

 

「さよなら……アミティエ」

 

 剣を構えながら、ささやくような声で別れを告げる。

 その直後――

 

「フライング・アクセラレイター!!」

 

 そう叫んだ瞬間、俺はマクスウェルの眼前まで移動していた。あまりの速度に自分でも驚きかけるが、それを()()()()飲み込んで剣を振りかぶる。

 

「はああああっ!」

「ぐあああっ!」

 

 剣を叩き込んだ瞬間、マクスウェルは眼下の街に転がり落ちた。

 奴が倒れている間に、俺はアミタさんを抱きかかえながら声を張り上げる。

 

「おいアミタさん――しっかりしろ!」

 

「健斗さん……まさか、あなたもフォーミュラを……それに、その速さは?」

 

「キリエさんにナノマシンってやつを分けてもらってな……速さの方は、固有技能とフォーミュラを合わせて使ったせいだと思う」

 

 痛みに顔をゆがめながら答えると、アミタさんは『なんて無茶な』と言いたそうな目を向けてくる。

 そこで真下から奴の笑い声が聞こえてきた。

 

「素晴らしい……エルトリア式フォーミュラと魔導の融合。イリスとユーリを使って私が達成しようとしていた事を、たやすく成し遂げてしまうとは……くくく、やはり欲しいな」

 

 笑いながらマクスウェルは立ち上がってくる。その姿に戦慄を覚えながら彼を見下ろす。

 そんな俺たち――いや俺に向けてマクスウェルは言った。

 

「ケント――君も“私の子供”にしてあげよう!」

 

「――アミタさん、下がってろ! ――ぐおおっ!」

 

 言う間もなく、《アクセラレイター・オルタ》で加速しながらマクスウェルが迫ってくる。その衝撃でアミタさんもろとも弾き飛ばされるも、空中で態勢を整えながら《アクセラレイター》を起動させて奴を迎え撃った。

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