「ディバイン――バスター!!」
「プラズマスマッシャー!!」
09やアレルに手下二人の相手を任せ、フェイトとなのはは再びユーリと交戦していた。
しかし彼女を守る《鎧装》は固く、二人がかりで攻撃しても致命打は与えられない。傷を負わせてもすぐ再生してしまう。正直手詰まりだ。
はやての攻撃の準備が整うまで引き付けておくしかないのだろうか。そう思いながら飛び続ける彼女の前に黒い影が映った。
「あの子は――」
「――ディアーチェ!」
そこにいたのは《
しかし、その姿は船で別れた時と違い、背は高く伸び、黒と白が混じったツートンカラーの髪は背中に届くほど長くなってなり、背中からは赤と青の翼が三対ずつ生えている。
しかし、威厳に満ちた声は聞き間違えようがなく――。
「二人とも手間をかけたな。後は任せろ」
その言葉になのはたちは目を見開き、思わず口を開く。
「一人じゃ無理だよ!」
「うん。それなら私たちも――」
「――一人ではない!」
二人の言葉を遮り、ユーリは腕を開く。その左腕にはシュテルの武装《ブラストカラミティ》が填め込まれていた。よく見れば今のディアーチェが着ている鎧の各所には、レヴィが身に着けていた鎧と同じ意匠が見受けられる。
「それって……」
「まさか、君はあの二人の力を――」
二人の問いを肯定するようにディアーチェは笑う
「シュテルも、レヴィも、我とともにある……この近くで戦っているアレルもな」
そう言いながら彼女は迫りくるユーリに向かって左手を突き出す。すると左手から
ユーリは真上に飛んで躱すが、魔力波はぐにゃりと針路を変え、空中を彷徨うユーリと近くにそびえるビルに命中する。
一撃で《鎧装》の両腕を
「ユーリを確保するのはもとより我らの役目。助けがいるのは小鴉たちの方だろう――行ってやれ」
そう言ってディアーチェはなのはたちに目を向ける。その目は有無を許さない――“王”のような威厳があった。なのはもフェイトもうんと言うこともできず、黙ってうなずく。
そして彼女に背を向けて……
「……じゃあ、私たちははやてちゃんの加勢に行ってくるね」
「ディアーチェ
そう言い残して飛んでいく二人に、ディアーチェは「ああ」と応えながらユーリがいる方に目を戻す。そこではユーリに取り付いている《鎧装》が元通りに再生しているところだった。
それを睨みながらディアーチェは覚悟を決める。
(結局、あの頃から抱いていた想いは伝えられずじまいか……)
悔みながらディアーチェは自らの手を握る。その手から三色のおびただしい光が漏れだした。
「……さらばだアレル。ユーリとイリスの事は頼んだぞ。生きていれば、我らもお前たちのそばでずっと見守っていよう」
想いを寄せていた《騎士》に別れを告げながら、ディアーチェは“すべての力”を解放する。これを解き放てば、シュテルとレヴィと同様、ディアーチェも人の姿を保てなくなり、ただの猫に戻ってしまうだろう。
しかし――
「申し訳ないがそれは断らせてもらう。騎士として、一度護ると誓った主を一人危機に晒すわけにはいかんのでな」
「――お前は!」
「――!」
あらぬ方から届いた少年の声にディアーチェとユーリは目を見開いてそちらを見る。
そこにいたのは、アンディと戦っているはずのアレルだった。
◇
「はあっ!」
「ふっ!」
互いにアクセラレイターを発動させたまま、俺とマクスウェルは剣をぶつける。
アクセラレイターとシステムオルタの改良型である《アクセラレイター・オルタ》を使うマクスウェルと、アクセラレイターとフライングムーヴの重ね掛けである《フライング・アクセラレイター》を使う俺の動きに、アミタさんが付いてこれるわけもなく、隅に隠れながら怪我の回復に努めていた。
そんな彼女の頭上で剣をぶつけあいながら、マクスウェルは声をかけてきた。
「ケント、私と組むつもりはないか」
「――何?」
その一言に思わず聞き返すと、マクスウェルは剣をぶつけてきながら言った。
「君と私が手を組めば、フォーミュラと魔導を組み合わせた兵器――イリスやユーリを超える存在を
「都合のいいことを。あちこちの世界に兵器を売り捌こうとしているだけだろうが! そんな事に手を貸すとでも思うか!」
「私に協力すれば“永遠に生きられる体”が手に入ると言ってもかい?」
「――なに?」
永遠という言葉に俺は思わず戸惑いの声を漏らす。マクスウェルは剣を繰り出しながら続けた。
「記憶データと《イリス》の体があれば、肉体が滅んでも別の体に意識を移すことができる。その体が滅んでもまた別の体に意識を移し替えれば、永遠に近い時を生きることも可能になる――かつて君がやったように」
「――!」
その言葉に俺は一瞬動きを止めてしまう。そこへマクスウェルが剣を打ち込んできて、俺は慌てて得物を構え攻撃を防ぐ。
その間にも奴は剣とともに言葉を放ち続けてきた。
「君は一度聖王に自らを討たせながら、自らの記憶を夜天の書に保存しておいた。そして滅びゆくベルカから逃れ、この世界で蘇ることに成功した。私が行ったことは君がかつて行ったことと何も変わらないんだよ」
「それは――ぐっ」
図星を突かれたことと剣を弾かれたことで、俺の喉からうめき声が漏れる。
確かに奴の言うとおりだ。俺は滅びかけた
「私と組めば、夜天の書に頼るより確実な方法で生き続けることができる。さっき言ったとおり、永遠に生きる事だって不可能じゃない。そうすればあの管制ユニット……リインフォースという恋人とだってずっと一緒にいられるはずだ」
「なに――ぐあっ!」
その言葉につられたせいで一瞬動きが止まってしまう。そこへマクスウェルは鋭い剣先を突き出してきた。俺はかろうじて避けるものの、完全にかわし切れずにわき腹を裂かれてしまう。
「何も迷う必要はない。一度行ったことをまた繰り返すだけだ。私とともに永い時を生き、技術と魔法の極みを目指そうじゃないか。もちろんリインフォースも一緒だ。それなら文句はないだろう!」
マクスウェルはなおも攻撃しながら言葉を放ってくる。そんな彼に――
「――ふざけんじゃねえ!!」
俺は叫びながら剣を振り上げる。マクスウェルは剣を突き出し、俺の剣撃を受け止めた。
「俺があの時どれだけの思いで
「……」
「もうあんな事を繰り返すのはごめんだ。それにこの世界には現代の夜天の主、はやてもいる。あいつを犠牲にするような真似、リインや守護騎士たちが許すわけがねえ!!」
沈痛な思いで言葉を吐き出すと、マクスウェルはふむと呟いて。
「そうか、そういえば現代の主や他のプログラムもいたんだっけね。彼女たちまで抱き込むのはさすがに難しそうだな。……仕方ない。やはり君を一度殺して記憶を取り出すしかないか」
「なに――」
マクスウェルは武器を銃に変え、何発も光弾を撃ち込んでくる。
俺は剣をふるって弾を弾き落とすが、その一瞬の間にマクスウェルは眼前から消えていた。
そして――
「はああああっ!」
気配に気付いて後ろを振り向くと、頭上からマクスウェルが剣を振り下ろしてきた。こんな時にフライングムーヴとアクセラレイターの負荷が襲ってきて、俺は動けず目を見開くぐらいしかできなかった。
だがその瞬間、真下からパンと軽い音が響き、マクスウェルが手にしていた武器が砕ける。
驚きに目を見張りながら俺とマクスウェルはそちらを“見下ろす”。その先には銃型のザッパーを持ち上げるアミタさんの姿があった。
「マクスウェル、これ以上、あなたの好きにはさせません。ましてや健斗さんをあなたの野望に利用するなんて――絶対に許さない!!」
「アミティエ、貴様――」
マクスウェルはそこで初めて忌々しそうに歪んだ顔を彼女に向ける。
だが、そこへもう一人――
「ああ。私も同感だ!」
アミタさんの真上から女の声が届いて、俺は思わずそちらに顔を向ける。その声はまさか――
「――リイン!」
リインは黒い翼を羽ばたかせ、猛スピードでこちらに向かってきながら、ぎゅっと“黒い魔力光に覆われた”拳を握る。
そして彼女は大きく拳を振りかぶって――
「はああああああっ!!」
「――ぐあああっ」
腕力を強化した腕で思い切り顔を殴られ、マクスウェルは大きくよろめく。
その隙にリインは俺に手を伸ばし、
「健斗――」
「――ああっ!」
彼女の意図を察し、俺も武器を持っていない左手を彼女の手に重ねる。
すると、彼女の体は黒い粒子となって、溶けるように俺の体の中に入り込んだ。
「「ユニゾン・イン!」」
無意識にそう口にした途端背がぐっと伸び、前世と変わらないほどの身長になる。俺自身には見えないが、髪の色も白くなって、瞳の色も右眼だけ赤くなっているはずだ。
これが夜天の書の最上位プログラム、ユーリにもない力――《
「これは――」
初めて見る融合にマクスウェルも驚きを隠せず呆然とする。
そんな彼を前に俺は再び剣を向け――
「アクセラレイター!」
《フェアーテ!》
アクセラレイターとリインの加速魔法を重ね掛けたスピードに、マクスウェルも目で追うことすらできず、ただ棒立ちする。
そんな彼に
「はあああっ!」
《くらえ、クラウソラス!》
俺がマクスウェルに斬りかかり、さらにリインが無数の魔力弾を撃ち込む。今のリインの魔法にもフォーミュラによる補正がかかっている。魔力攻撃とはいえ、無傷では済まないはずだ。
「くそっ、舐めるな――」
マクスウェルはアクセラレイターを起動しながら剣を振りかぶってくる。しかし、そんなもの今の俺たちに通用するわけもなく、剣を振るおうと銃弾を放とうとそれらはむなしく空を切り、その間に俺とリインは何度も斬撃と魔力弾で奴に傷をつけていく。
「《はあああっ!!》」
「ぐはああっ!」
リインの魔法で強化した剣を振り下ろし、奴の体を斜め下に斬りつける。
その一撃をもろに喰らって、奴は大きな悲鳴を上げながら吹き飛んだ。
そして……
「馬鹿な。生体デバイスとの融合、そして加速の重ね掛けだと――そんなもの、人間が耐えられるわけが……」
自身をはるかに上回るスピードとそれを可能にした加速の重ね掛けに、マクスウェルは痛みにうめきながら狼狽する。それに思わずうなずきそうになる自分がいた。加速の連発と重ね掛けの反動で体はすっかりボロボロで、体中に激痛が走りここで倒れてしまいたいくらいだ。
だがまだだ。この男をここで完膚なきまでに打ちのめしておかなければ――。
「アクシス・カノンソードモード」
俺が唱えると、ティルフィングは大きく変形し、砲口が付いた大剣になる。それを見てマクスウェルは傷だらけの体に鞭打ちながらここから逃れようとするが。
《はあっ!》
リインの声が響いた瞬間、奴の手足と体に黒い
身動きが取れなくなったマクスウェルに、“俺たち”は砲剣型のティルフィングを向け、そして唱えた。
「シュバルツ――」
《ブレイカーー!!》
その瞬間、ティルフィングの砲口から紺色の魔力砲が打ち出され、マクスウェルを包み込む。奴はうめき声を上げながら耐えていたが、次第に手足が耐えきれずボロボロ崩れ落ちていく。
俺たちはさらに引き金に込めた指を振り絞りながら魔力を放出した。
「――
「うぉおあああああああーーー!!!」
紺色の光の中で、マクスウェルの四肢も躰もはじけるように吹き飛んでいく。
その瞬間、魔力濃度の増大による爆発が起き、周囲を黒く染め上げた。
◇
「――うっ!」
「イリス!」
爆発を見た瞬間、突然頭を抱えたイリスにキリエは心配そうに寄る。
しかし、イリスは首を横に振って「大丈夫」と返した。
彼女の頭の中に残っていた“所長”の姿にノイズが走り、完全に消失するのが見えたのだ。
今ならわかる。あれは“父親”の記憶などではなく、自身に寄生していた“支配者”が植え付けた枷だったのだと。
それが今、自分の中から完全に消え去ったということは……
「ふふ……あいつがやってくれたみたいね……あとはこの本の持ち主たちだけど、あの子たちなら大丈夫でしょう……」
そう言って、イリスは安堵と寂しさが混じった笑いを浮かべながら、懐から茶色い表紙の本を取り出す。
それは彼女がはやてから奪った、夜天の書に他ならなかった。
◇
「味方各員の離脱を確認。健斗君たちとキリエちゃんたちも無事よ」
シャマルの報告にはやては「うん」とうなずく。その頭上には6つの巨大な魔力球が浮かんでいた。
(リインを行かせて正解やったみたいやな。今回ばかりはあの子に譲るしかないか……)
悔しげに思いながらもはやては気を引き締め、残りの機動外殻に目をやる。
そしてはやては杖を空高く掲げながら告げた。
「《ウロボロス》発動準備完了!」
その言葉に、はやての中でリインフォース・ツヴァイはうなずいてからオペレートを始めた。
《除外範囲選択。弾道セット……発射カウント、6、5、4、3、2、1――ゼロ!!》
相棒がゼロと告げた瞬間、はやては地上に向けて杖を振り下ろす。
すると魔力球からおびただしい光が雨のように降りそそぎ、地上に残る機動外殻と量産型たちを呑み込んでいった。
◇
その“光の雨”をディアーチェたちも眺めていた。
戦闘の影響で街はすっかり見る影もなく、ボロボロに崩れた残骸の中心で、ディアーチェとユーリは倒れ伏し、アレルも瓦礫の一つに腰かけていた。しかし三人とも生きている。それも人間の姿のまま。
ディアーチェが“すべて”を込めた一撃を放とうという時、アンディを打ち倒したばかりのアレルが現れて、彼女とともに攻撃を放ったのだ。
二人の攻撃によってユーリを縛り付けていた《鎧装》は跡形もなく砕け、ウイルスコードも焼き切れた。
「まさか、貴様に助けられるとはな……」
「当然だ。主を護らずして騎士など名乗れるわけがあるまい……ユーリこそ無事か? 加減などする余裕もなかったが」
「……いえ、あれくらいやらないと解けなかったでしょうから……あなたたちこそ無事でよかった……でもシュテルとレヴィは……」
猫に戻った二人の事を思い、ユーリは地べたに倒れたまま顔を曇らせる。しかしディアーチェはふっと笑みを浮かべて言った。
「貴様が心配しなくてよい。あの二人を戻せるあてはある。あやつらに姿を貸した娘たちに頭を下げる必要はあるがな……」
気恥ずかしそうに付け足すディアーチェに、ユーリは彼女の意図を察し笑みとうなずきを返す。そんな二人を見やってアレルも笑みをこぼす。
これで40年前からの因縁に決着がついた。
……