共学化
『エグザミア事件』の翌年、俺たちが6年に進級して半ばに入った日の事……。
「突然ですが、聖祥の中学校と高校を含めた全学科が共学になることが決まりました!」
朝のホームルーム。教壇に立って早々、担任の教師がそんなことを告げてきた。
それを聞いて……
「うちの中学と高校が共学に? 小学校と大学は元々男の子と女の子いっしょだったけど……」
「ということは、来年からも男子と一緒に勉強するってこと?」
「マジで!? ――よっしゃあ!! 男ばかりのむさ苦しい思いしなくてすみそうだぜ!」
クラスメイトたちの中から疑問と戸惑いの声とそれに混じって喜びの声が上がる。まあ、彼の気持ちはわかる。そろそろ男子のほとんどが異性に興味を持つ年頃だし、中学からは女子のスカートも短くなるからな。
ついそう思っているところで、教師はパンパンと手を叩いた。
「はいはい、みんな静かに! もう気付いた人もいるみたいですが、みんなは中学校に上がった後も男女一緒に勉強するようになります。詳しいことは帰りのホームルームに配るプリントに書かれてありますから、持って帰ってお父さんとお母さんに見せておいてください。……ではホームルームを終わります。委員長、号令を」
「は、はい! 起立……礼!」
教師に呼ばれ、すずかが号令をかける。
それにならって頭を下げながらも、ほとんどのクラスメイトは共学化と来年からの中学生活の方に考えを向けていた。俺とはやてや雄一も例外ではない。おそらく他のクラスでそれを聞かされているなのはたちも。
◆
「まっ、そろそろこうなるんじゃねえかって思っていたけどな。少子化でうちも生徒が少なくなっていたし」
そう言いながら雄一は箸に挟んだ肉団子を口に放る。それに何人かがうなずきを返した。
聖祥学園は小学校から大学院まであるエスカレーター式の一貫校で、そのうえ、中学校と高校、大学の一部の学部は男女別に分かれている。もちろんその分、校舎や体育館などの施設も多く建てられている。
しかし、少子化による生徒の減少で、学校の規模に対して使用する生徒と教員の数が見合わなくなってきたのだろう。そこで来年から、男女別だった学科や学部を統合して同じ校舎や施設を使用させようということになったに違いない。
問題は生徒と親たちがそれを認めるかということだが……。
「あたしはいいと思うけどね。六年間ずっと男の子と一緒だったし、中学から急に男女別にされてもと思うわ」
「そうやね。今まで男の子に力仕事とかお願いしてきたし、それができなくなるのは困るなぁ(ここで健斗君と離れたら、いよいよリインに勝ち目なくなってまうし)」
「私は力仕事とかは大丈夫だけど、もう男の子とも話せるようになったし、今になって別々にされる方が困っちゃうかな(男女別にされたら健斗君にお弁当あげたり血を分けてもらうことができなくなっちゃうよ)」
アリサの言葉にはやてとすずかが合いの手を入れる。ちなみに二人はいつも通り俺の両隣に座って、弁当を分けてくれていた。
「でも男の子と女の子が一緒だと友達とは違う意味で仲良くなることもあるみたいだし、学生のうちは一定の距離をとった方がいいというのも一理あるんじゃないかな――あっ、別に健斗や雄一と一緒にいるのが嫌という意味じゃないよ!」
手をぶんぶん振りながら付け足すフェイトに、俺と雄一はわかってるというようにうなずく。
男女の別学を望んだり支持する理由のほとんどは、そこに行き着くだろう。学校も出てないうちに恋愛など早いという声はいまだに多い。
特に聖祥はいいとこ育ちのお坊ちゃんとお嬢様が多い。手塩にかけて育ててる最中の我が子に悪い虫がついてほしくないと思って、男女別の学校だから聖祥に通わせているという親も多いだろう。
しかし……。
「でも同性だけだって問題があるわよ。中学の先輩に聞いた話だけど、異性の目がないからってあられもない恰好で校内をうろつく子が出てくるし、受けだの攻めだの変な話を堂々とする子もいるっていうし、共学より風紀が悪い面もあるらしいわ。……スキンシップと言って人目もはばからず胸を揉んでくる子もいるって聞いたわね」
「……た、確かにそれもよくあらへんな(胸か……そう考えると別学も捨てがたかったかも……)」
アリサが付け足した言葉にはやては歯切れの悪い返事を返す。はやての邪な思惑に気付いたのか、アリサは胸をかばいながら続けた。
「それに悪い虫って言っても、聖祥の生徒ならよその子より身元はしっかりしてるし、将来も有望でしょう。その子に責任とらせればいいだけよ。聖祥の子同士がくっつくことを望んで共学化に賛成する親も出てくるんじゃないかしら」
……なるほどね。今は許婚を探すのも難しくなってきたし、男女とも学校を卒業した後はどこかへ就職する時代だ。社会に出て見知らぬ相手にほだされるくらいなら、聖祥の生徒とくっついた方がまだ安心できるということか。
「私も男の子と一緒がいいよ。ゲームやマンガとかの話が合う子が多くて楽しいし。最近は弟が欲しいって思ってたりするんだ!」
卵焼きを食べながらそう言ってきたのはアリシアだった。横にいる七瀬ともども、学年の違いなど気にせず口を挟んでくる彼女だったが……。
「だから、エリオ君がうちに来るかもしれないって聞いた時は、張り切ってお迎えの用意もしたんだけど、ママがやった事のせいでそれもなしになりそうで……」
そう言ってアリシアは恨めしげにため息をこぼす。そんな姉をなだめるように……。
「まあまあ……母さんも今はロストロギアに関わっていないから。エリオも気持ちの整理を付ける必要があるし、落ち着いたらこっちに来てくれるかもしれないよ」
そうなだめるフェイトに、アリシアは「本当かな?」と言いながら顔を向ける。それに対してフェイトは苦笑を浮かべていた。
向こうの暦で今年度初頭となる6月上旬。ミッドチルダで、“エリオ・モンディアル”という少年が違法組織に拉致されそうになる事件が起こった。
ちょうどその日、モンディアル家を訪ねる予定だったフェイトたちによって“エリオ”は救出され、違法組織とモンディアル夫妻はその場で逮捕された。
詳細は省くが、“エリオ”は《プロジェクトF》の技術によって造りだされたクローン人間で、その出生自体が法に背いたものだったらしい。
“エリオ”を生み出す元となったプロジェクトの関係者だったプレシアさんは強い責任を覚え、彼の引き取りを申し出たものの、プレシアさんが過去にフェイトに対して行った虐待歴と、今までミッドチルダに住んでいた被害者をいきなり管理外世界に住まわせる事のリスクを懸念した結果、却下されたそうだ。
そしてそれが原因で、アリシアもついに母親が昔行っていた違法研究やフェイトへの虐待を知り、フェイトを連れてハラオウン家に家出するという出来事が起こった。
そのショックでプレシアさんは寝込んでしまい、彼女が倒れている間リニスが店の切り盛りやアリシアの説得をする羽目になったり、結構大変だったらしい……。
「――ところで、士郎さんたちはもう帰ってきたのか? そろそろ公演も終わる頃だろう」
「う、うん! 昨日連絡がきて、イギリスまでフィアッセさんを送ってから、一週間後にはうちに帰ってくるって言ってたみたい!」
話題を変えようとする俺の意図を察して、なのはは大げさに首を振りながら答える。それに対して俺は本心から安堵して「そうか」と答えた。
“あの爆弾魔”や“奴ら”が相手と聞いて心配していたが、どうやら無事に終わりそうだな。協力してくれたリーゼたちとグレアムさんにも今度礼を言っておかないと。
そう胸をなで下ろしたところでアリサが声を上げた。
「じゃあみんな食べ終わったみたいだし、そろそろ出ましょうか。早くしないと遊ぶ時間がなくなっちゃうわ!」
その言葉に俺たちはうなずきながら弁当を片づけ始める。
そんな中、裾を引っ張られ、俺はそちらに顔を向ける。
すると……
「……健斗君、そろそろ飲みたくなっちゃったんだけど……今日もいいかな?」
「……ああ、昼休みの終わりぐらいでいいか?」
俺の確認にすずかは顔を赤くしながらうなずきを返す。
中学以降も彼女たちと一緒ということは……このやり取りも何年か続くということか。
このまま聖祥を卒業した後は、ミッドチルダか本局に移住して管理局員としてキャリアを積み、いずれはリインと契りを交わす。
……だが、そんな人生設計も少し油断すればあっさり崩れてしまうかもしれない。
そんなことを思う昼休みだった。
空白期間のまとめと三部の伏線をまとめた回です。日常回は終わらせ方が難しいですね。
私用で遅くなりましたが、これで『愚王の魂を持つ者』完結となります。リンクに載せているR-18版の執筆も開始しましたので、苦手でない方は是非読んでいってください。三部『七課の剣銃士』はその後に執筆します。
長めの休載を挟みましたがこれからもよろしくお願いします。