魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第13話 同居

 ジュエルシードと闇の書を求めて突然襲撃してきたリニスを退けて、俺とはやては夜天の魔導書から現れた守護騎士たちを連れてはやての家へと戻る。

 その道中で、はやてにつられたふりをして久しぶりに再会した守護騎士たちを見て思ったのは……。

 

 でかい、ヴィータ以外みんなでかく見える。そのヴィータも俺と頭一つ分しか違わない。

 

 考えてみたら当たり前なのだが、魔導書の主だった頃の俺は18歳なのに対し、今の俺はその半分にも届かない齢で、背丈もあの頃に比べたらはるかに小さい。

 かつてはザフィーラ以外みんな俺より背が低かったが、今では俺より低いのがヴィータしかいない。まるでコ○ンのような状態だ。

 他の事に対しては前世の記憶を取り戻す前というクッションがあったから違和感を覚えずに済んだが、さすがに前世で一緒に過ごした人たちと並んで立つと違和感を感じずにいられない。あの名探偵は小さくされてから一日も経たずに、よく近所の博士や幼なじみに平然と接することができたものだと思う。

 これは“彼女”と会った時もそれ相応の心の用意をしておいた方がよさそうだな。

 

 永い時を越えて再会した守護騎士たちを見ながら、そんなことを俺は考えていた。

 

 

 

 

 

 

 家に戻ってからはやては守護騎士たちをリビングに通しながら置いてきたままのスマホを拾って、さくらさんに「遠方から来た親戚の相手をしなくてはいけなくなったので今日はもう迎えに来なくていい」と言ってから皆をソファに座らせて麦茶を出して、自身もソファに座って口を開いた。

 

「それじゃあ改めて……私はこの家に住んでいる八神はやてです。さっきは危ないところを助けてくれて本当にありがとうございます」

 

 そう言って頭を下げる主にシグナムは戸惑うそぶりをしながら、

 

「い、いえ、先ほども申しましたが、主を守る騎士として当然のこと。礼など不要です。それに我らに対して敬語なども使う必要はありません。主として堂々とお振る舞いください」

 

「主って、私そんなに偉い人ちゃうよ。……ま、まあ、ひとまずお言葉に甘えて普通に喋らせてもらうな。ええと……」

 

「《剣の騎士》シグナムです。将として守護騎士を束ねながら主はやてにお仕えします。どうかお見知りおきを」

 

 そう言ってシグナムはひざまづかん勢いで頭を下げる。それにはやては手を振りながら何か言おうとするが、それをさえぎるようにヴィータたちが口を開き始めた。

 

「《鉄槌の騎士》ヴィータだ。いちいち敬語なんて使ってたら話しにくいからこの喋り方で話させてもらうぞ。それが気に障るんならあんたの前ではなるべく喋らねえようにする」

 

 ソファの上であぐらをかいてそんなことを言うヴィータにはやては、

 

「い、いやいや! 別に敬語じゃなくてかまへんよ! っていうかその話し方の方が私も気が楽やし、いっぱいお喋りしよなヴィータちゃん!」

 

「ちゃんなんかつけんじゃねえ! ヴィータって呼べ! 次に余計な敬称付けたら絶対口きかねえからな!」

 

 主に当たるはずのはやてに対してヴィータは怒声を上げる。

 シャマルはその隣でくすくす笑い声を上げていたが、はやてからの視線に気付いてはっとしながら名乗り出る。

 

「――し、失礼しました! 《湖の騎士》シャマルです。他の三人のように戦いの役に立つことはできませんが、参謀として他の騎士たちへの指示や支援を行いますので、よろしくお願いします主はやて!」

 

「《盾の守護獣》ザフィーラ。この呼び名にかけて何者であろうと主には指一本触れさせません」

 

 残る二人が名乗りを終えるとはやては恐縮した様子で、

 

「よ、よろしくお願いします」

 

 とだけ答えた。

 今まで敬語なんてほとんど使われたことがなかったのに、いきなり主などと呼ばれたらこうなるか。少しずつでも慣れてもらうしかない。

 

 さて、最後は俺か……ここで前世と同じ名前を言っていいものなのか迷うが、まあこの姿を見ても気付かれていないみたいだし、今更名前くらい言っても変わらないか。

 

「俺は御神健斗。はやての友達でよくこの家に遊びに来ているから守護騎士の皆さんともちょくちょく会うことになると思いますので、どうかよろしくお願いします」

 

 そう自己紹介をすると騎士たちはピクリと眉を吊り上げる。

 

(けんと、か……やっぱりこいつ)

 

(あの方と同じ名前か。オッドアイといい、やはり似ているな)

 

(この子、まだ名乗ってもいないのに私の名前を知っていたし闇の書の頁の事だって……でもまさかね。あの方がこんな子供になって生きているはずがない。あれから何百年も経っているし)

 

(だが見た目だけではなく匂いまでまったく同じだ。こんな偶然など果たしてあるのか?)

 

 騎士たちはじっと俺を見る。その視線に俺は苦笑いを返すしかなかった。

 そこではやては闇の書を抱えるように持ちながら、

 

「ところでリニスって人も言ってたんやけど、闇の書やジュエルシードって一体何なん? これらがただの本や石じゃないってことはよくわかったけど」

 

 そう言ってはやては騎士たちの方を見る。確かにこんな騎士たちが出てくるような本がただの本なわけがない。人を怪物に変え、リニスのような者が狙っているジュエルシードについてもしかりだ。

 主からの問いに答えるべく、将たるシグナムが口を開いた。

 

「では、私から簡単に説明させていただきます。

 《闇の書》は、『ベルカ』というこの世界とは別の世界で作られた魔導書で、他の魔導師や魔法生物から魔力を集めていくことで頁が埋まっていき、666すべてを頁を埋めて完成させた暁には所有者たる主に莫大な力をもたらす書物です。

 その力をもってすれば叶えられない望みなどほとんどないでしょう。死者の蘇生や時間への干渉などよほど途方もない望みでなければ、おそらくどのようなことでも」

 

「……ようするに、完成させればたいがいの願いが叶う本っちゅうことか。リニスさんがあそこまでして欲しがる理由がやっとわかったわ。……でも、何でそんなもんがうちにあるん? この本、私が物心ついた時から書斎の棚にあったんやけど」

 

 はやての問いにシャマルが言った。

 

「おそらく、主はやてに魔導師として優れた資質がおありだからではないでしょうか。闇の書は優れた魔導師やその資質を持つお方のもとへ現れますので」

 

「優れた魔導師って私が? けど、魔法なんて私今まで一度も使えたことないよ。何かの間違いと違う? 健斗君ならともかく」

 

 はやてがそう言うと騎士たちはほうという声が漏れそうな顔を俺に向ける。

 ヴィータも俺を見ながら、

 

「へえ、お前魔法が使えんのかよ。魔法がまったく使われてない世界じゃあ珍しいな」

 

「そう! そうやねん! 私も初めて見てびっくりしたわ! 何もないところから突然赤いナイフを取り出したりして。あんなこと、いつの間にできるようになったんや?」

 

「赤いナイフ、だと?」

 

 はやてがそう言うとシグナムは俺を見ながらそんな言葉を漏らす。

 そんな彼女たちに俺は――

 

「……そ、それはだな……リニスをびびらせようと、以前見たアニメの真似をしたら偶然できたんだ。あの時は俺も正直驚いた。まさかあんな物が出てくるなんて」

 

 何とかそんな言い訳を搾り出すものの、はやてや騎士たちは、

 

(絶対嘘やわ。前の時もおかしな呪文唱えてたし、リニスさんと言い争ってた時も闇の書のこと知ってるようなこと言ってたもん)

 

(魔法を使うには複雑な構築式や変換コードを頭に入れておかねばならないのだが、そんなものを何かの真似をして偶然できるものなのか? それに赤いナイフなどまるで……)

 

 視線が冷たい。明らかに信じていない目だ。

 はやてはため息をついてシグナムの方を向きながら言った。

 

「……まあええわ。じゃあジュエルシードっていう石は何なん? こっちの方は一週間くらい前に、健斗君が手に入れたものやねんけど」

 

「それについては私にもわかりません。その石に強い魔力が込められているのはわかるのですが」

 

「たぶん《ロストロギア》って奴だろう」

 

「ロスト……ロギア?」

 

 両腕を首の後ろに回した格好のヴィータが言った言葉を復唱しながら、はやては首を斜めに傾ける。そんな主にシャマルが言った。

 

「ロストロギアとは、消滅してしまった世界や文明から発見された遺産のことです。そのジュエルシードという石もどこかの世界から流れ込んだものでしょう」

 

 ロストロギアか、それなら前世でも聞いたことがあるな。闇の書や聖王のゆりかごが一部でそう呼ばれていた。もっとも、どちらも実在が疑われていたからロストロギアという言葉を知る者さえ滅多にいなかったが。

 

 俺が過去を思い返しているところで、シグナムは身を乗り出しながらはやてに尋ねる。

 

「それでいかがいたしましょう? 主はやてがお命じ頂ければ、我々はすぐにでも闇の書の頁を蒐集しに行きますが」

 

 それを聞いて俺はついに来たかと身を固くした。

 はたしてはやてはなんと答えるだろうか? もしはやてが騎士たちに頁の蒐集を命じた場合、俺はどう言って彼女たちを止めるべきだろうか? 

 俺の気も知らずヴィータは不機嫌そうに言う。

 

「さっきはこいつが妨害したせいで蒐集できなかったけどな。まったく。あの女なら3、40ページはいっただろうし、とっ捕まえたら色々吐かせることもできただろうに」

 

「……」

 

 そんな恨み言にぶつけられるも俺は何も言い返さずにいる。

 黙ったままの俺に対してヴィータが何か言おうとするものの、はやてが口を開こうとしていることに気付いてその言葉を飲み込んだ。

 

「シグナムさん、一つ聞いてもええか?」

 

「はい。何なりと」

 

「例えば……例えばなんやけど、もし私の足が動かなくなるようなことがあっても、闇の書の力があれば治ると思う?」

 

 その言葉に俺はハッとする。やはりさっきのは……。

 シグナムも察したようで、はやての足に目をやりながら答える。

 

「その程度完成した闇の書なら容易にできるはずです……足がお悪いのですか?」

 

「――う、ううん! ちゃうちゃう! 確かにずっと前に一度だけ動かんようになったことはあるけどな、今は何ともないよ! 例えばの話や!」

 

 はやては両手をぶんぶん振りながらそう答える。はやての顔と手はやや俺の方に向けられており、シグナムよりどちらかというと俺に言っているようでもあった。

 そんなはやてにシグナムは釈然としない顔をしながらも頭を下げて言った。

 

「そうでしたか。出過ぎたことを言いました、お許しください。……それで、闇の書の頁の蒐集はいかがいたしましょう? 段取りや蒐集する対象などはどのようにすれば」

 

 その問いを聞いた瞬間俺の体に緊張が走った。守護騎士たちに対してはやては何と言うつもりなのか。

 はやては自分の足に目を落とした後、心の中の誘惑をを吹っ切るようにふるふると首を横に振って言った。

 

「……ううん、私は闇の書を完成させる気はない」

 

「はっ――?」

 

「本気ですか? 主はやて」

 

 ヴィータとシグナムからそんな声が上がる。他の二人もぽかんと口を空けていた。

 そんな守護騎士たちを前にはやては言葉を続ける。

 

「さっきシグナムは、闇の書のページを集めるには多くの魔導師や生き物から魔力を集める必要があるって言ってたやろう」

 

 その言葉にシグナムは「はい」とうなずいた。はやてはそれを受けて、

 

「だったらあかんよ。例え体を治すためやとしても、自分の身勝手で他の人を襲うようなことしたらあかん。そんなことをしてまで私は闇の書を完成させたくない」

 

 それを聞いて守護騎士たちは唖然とし、リビングに長い沈黙が流れる。

 それはそうだ。歴代の主の中で闇の書の完成を望まない者などはやてが初めてに違いない。かつての俺(ケント)を含めて、多くの所有者が莫大な力を求めて闇の書を完成させようとしたのだから。

 

 守護騎士たちが戸惑う中、俺はほっと息を吐く。

 やはりはやては莫大な力に目がくらんで闇の書を完成させようとする奴じゃなかった。

 それぐらいわかっているつもりではいたが、はやてだって闇の書の力で叶えたいことぐらいあるのではないかとは思っていたし、足の事を言った時はまさかとは思ったが、どうやら杞憂だったようだ。

 

 もちろん、それですべてが丸く収まったなどとは欠片ほども思っていないが。

 

 

 

 

 

 はやてが闇の書の蒐集をしないと告げてから、騎士たちは顔を見合わせたり本当にいいのかと窺うようにはやての方を見るが、はやては笑みを返すだけだ。

 やがてシグナムはぽつりと言った。

 

「では主はやて、我々は一体どうすれば? 頁の蒐集を行わない以上我々がすることは何も……」

 

 するとはやては手を合わせながら、

 

「それやねんけどな、うちは両親がいなくて私一人だけやねん。後見人のおじさんが用意してくれたヘルパーさんが来てくれるし、健斗君や他の友達もよく訪ねてきてくれるけど、やっぱり一人やとさみしい日もあるし怖い時もあるんよ。

 ……それで、もしよかったら、私と一緒にこの家に住んでくれんかな?」

 

「えっ?」

「はあっ!?」

 

 はやての言葉にまたもやシグナムとヴィータは驚きの声を上げて、ザフィーラも目を見張る。

 

「私たちが主と一緒にこの家に住む、だけですか?」

 

 シャマルの問いかけにはやてはうんとうなずく。

 

「そう、それだけや。それだけでもすごく助かる。それにな、私が知っている限り騎士っていうのはご主人様のそばにいて守るもんやと思うんやけど……違ったかな?」

 

 はやては不安そうな声色でそう尋ねる。それにシグナムは首を横に振って、

 

「……いえ、主のおっしゃる通りです」

 

 そう言いながらシグナムは覚めたような顔になってはやてを見る。

 主のそばにいてその身を守るもの。それが本来騎士のあるべき姿であり、シグナム自身が憧れた姿だったのかもしれない。

 しかし、気が遠くなるほどの年月を頁の蒐集に費やすあまり、それを忘れてしまっていた。一時期は主君(かつての主)より騎士の位を与えられ、憧れていた通りの騎士として主や力なき民を守っていたにもかかわらず。

 シグナムはしばらくして再び口を開き、

 

「主はやてがそれをお望みなら我々はあなたの近くにこの身を置き、その身をお守りしましょう。騎士の剣にかけて……お前たちも異存はないな?」

 

 そう言ってシグナムは他の騎士たちを見回す。それを受けて……

 

「まっ、あたしらがとやかく言うことじゃねえし、ここに住むっていうのも文句はねえよ。むしろありがたいくらいだ」

 

「そうね。頁の蒐集はしないにしても、私も主のそばを離れるべきではないと思うわ。あれくらいでリニスって人が闇の書を諦めるとは思えないし」

 

「同感だな。それに主や健斗が言っていた通りなら、リニスの後ろには主という者がいるらしい。はったりという可能性もあるが、奴一人だけだと決めつける方がかえって危険だろう」

 

 ザフィーラの言葉に続いて俺も、

 

「ああ。俺もあいつが言っていたことが嘘やはったりとは思えない。リニス自身はジュエルシードや闇の書を強奪することに乗り気じゃなかったみたいだし、それを命じた主がいるというのは本当だと思う。だとすれば他にも……」

 

「その主って奴の手下――リニスの仲間がいるかもしれねえってことだな」

 

 ヴィータの言葉に俺はこくりとうなずく。しかしそこでヴィータは顔をぷいとそむけた。彼女を怒らせるような事でも言ってしまっただろうか?

 

(ちっ、主の友達だからって、なんであたしが初対面のガキと話なんか……やっぱりこいつを見てると調子が狂っちまう)

 

 不機嫌そうに鼻をフンと鳴らすヴィータの事はひとまず置いてといて、俺にはやてに向き直って尋ねる。

 

「しかし大丈夫か? いきなりこの四人と同居なんて、食費とか色々お金がかかると思うが」

 

 するとはやては手をひらひら振って、

 

「ああ、それは大丈夫や。3年生になっていろいろお金がかかるやろうって、今月からおじさんが生活費を多めに送ってくれるおかげで結構余裕があるんや。やからシグナムさんたちの食費くらいどうにかなると思う。なんなら健斗君もうちで一緒に暮らすか? 私は全然かまへんよ」

 

「バカ、それじゃあ母さんはどうするんだよ。あの人一人だけじゃまたろくなもん食わなくなるぞ」

 

 俺がそう言うとはやてはわざとらしく「そやったそやった」と言いながら舌を出して笑った。

 

 それを言うなら、むしろはやての方が俺たちの家に来てもらうべきだと思う。だが、はやての生活の援助をしている“グリムおじさん”がいるためにそれもままならない。

 母さんもグリムさんに会って、はやてをうちに引き取ることができないか話がしたいと言っていたが、世界各地を転々としているらしく連絡を取ることすらできないとこぼしていた。

 もっとも母さん自身も海外出張が多く、そのたびに俺を高町家に預けているため、あまり強くは出られないみたいだが。

 

 しかし、こうやって考えてみると妙に引っ掛かる。生活費の急な増額といい何か変だ。……考えすぎか?

 

 

 

「じゃあ、そうと決まったらさっそく準備しよっか。みんなはちょっとここで待っててな!」

 

 はやてはいきなりそう言い出すとソファから立ち上がってリビングから出て行き、たたたと階段を駆け上げる音を響かせる。

 騎士たちは顔を見合わせて首をかしげたり、俺に尋ねるような視線を向ける。しかし、はやてが何をしようとしているのか俺にもさっぱりわからず、肩をすくめることしかできなかった。

 それからすぐに階段を駆け下りる音を響かせながら、はやてはリビングに戻ってきた。その手には二つのメジャーが握られている。そこでようやく俺は彼女の意図を察した。しかし騎士たちは主が何をしようとしているのかがまだわからず呆気にとられたままだ。

 

「それじゃあさっそくみんなのサイズを測ろうか。その服のままやと外にも出られんやろ。私はここで女の子たちのサイズを測るから、健斗君は別の部屋でザフィーラのサイズを測っといてくれん?」

 

 そう言ってはやては俺にメジャーを渡してくる。それを受け取りながら、

 

「ああ。それはいいが、俺たちもここで測っちゃ駄目なのか? 別に体のサイズを測るぐらいで裸になるわけじゃないんだし」

 

 するとはやてを始めとする女性陣は呆れた目で俺を見る。隣にいるザフィーラまで呆れたようなため息をついているようだ。

 なぜだと思って首をひねっていると、

 

「あちゃー、相変わらず健斗君はそういうところが鈍いなー。あのな、男の子は服をちょっとずらすだけで済むのかもしれんけど、女の子はブラとか買うために胸のサイズまで測る必要があるんやで。服着たまま胸を測れると思うか?」

 

「あっ――!」

 

 そういえばそうか。シグナムやシャマルならブラジャーは必須だ。それを買うために彼女たちの胸は測っておかなくてはならないだろう。ヴィータはまだ必要ないと思うが――

「おいてめえ、今なんか失礼なこと考えてただろう」

 

「い、いやいや、別に何も考えてない!」

 

 凄んでくるヴィータに対して思わず俺はそう言った。なんでこういう時は鋭いんだ?

 

「そういうわけやから健斗君は別の部屋でザフィーラの体を測ってほしいな。できれば二つ以上離れた部屋で。間違っても覗いたりしたらいかんよ。でないと……」

 

 はやてがそう言うと他の女性陣は冷たい視線を俺に向けてくる。シグナムやシャマルはともかく、ヴィータならまじで()りにきかねない。

 

「わ、わかったわかった! 俺は離れた部屋でザフィーラを測る。行くぞザフィーラ!」

 

「うむ、任せた」

 

 

 

 そう言ってザフィーラとともに慌ててリビングから出て行く健斗を見ながらシグナムたちは、

 

《なあ、あの健斗という少年だが……》

 

《ああ。見た目といい、ああいう鈍いとこといい》

 

《似てるわよね。あの方に》

 

 そう思って三人がかつての主を思い出そうとしているところではやての声が響いてきた。

 

「じゃ、男子たちがいなくなったところで早速みんなのサイズを測るで! さあ脱いだ脱いだ!」

 

「えっ!? いきなりですか? こういう時って体を測りながら徐々に脱いでいくものじゃ?」

 

「何言うてんねん! どうせ胸測る時にほとんど脱ぐんやから今脱いでもおんなじことや。健斗君もあれだけ脅かしとけば覗こうなんて考えんやろうし、男子たちの事は気にせんで大胆にいこう!」

 

 手をワキワキさせながら迫るはやてに女性陣は思わず身の危険を感じる。それにヴィータは呆れたため息を吐きながら、また変な主のもとに来たなと思わざるにはいられなかった。

 

 なお、この日を境にはやては胸揉みに目覚め、巨乳に見とれる男心にも理解を示すようになったという。

 

 

 

 

 

 

 その夜、海鳴市の隣の遠見市にあるマンションの一室にリニス()()の姿はあった。

 同居人が帰ってきたことに気付いて、リニスは家事で濡れた手をエプロンで拭いながら玄関に向かう。そこには黒い私服の少女と赤い狼がいた。

 リニスは少女の方に声をかける。

 

「お帰りなさいフェイト。どうでしたか、ジュエルシードの探索は?」

 

 リニスに問われると少女、フェイトは淡い笑みを浮かべて口を開く。

 

「少し邪魔が入ったけど大丈夫だったよ。ちゃんと手に入れてきた。《ジュエルシード・シリアルXIV》を」

 

 フェイトの報告に赤い狼、アルフは嬉しそうな鳴き声を上げ、リニスも笑みを浮かべた。

 

「そうですか。さすがフェイトです。教師として私も鼻が高いですよ……アルフの方は?」

 

「私の方は全然見つからなかったよ。あんたの方は?」

 

 リニスの問いにアルフは首を横に振りながらそう答えリニスに聞き返した。人間が発するものとまったく同じ言葉を話しながら。

 リニスはそれに驚くことなく苦笑いをしながら、

 

「面目ありません。私の方は見つけることはできたのですが、失敗してしまいました。こちらも思わぬ邪魔が入ってしまいまして」

 

「リニスの方にも? それに……」

 

「あんたが失敗しただって? 邪魔したのっていったいどんな奴だい?」

 

 思いがけない事実にフェイトとアルフは驚く。

 そんな二人にリニスは口を開いた。

 

「闇の書から現れた、守護騎士と名乗る四人組です。そしてあと一人はフェイトくらいの齢の男の子でした。時折私より速く動くことができる子で、何らかの技能(スキル)だとは思うのですが」

 

「守護騎士、それに私ぐらいの男の子がリニスを……」

 

「へえ……」

 

 師が追い詰められたという事実にフェイトは胸をぎゅっとつかみ、アルフは獰猛に目を光らせる。そんな彼女たちにリニスは言った。

 

「大丈夫です。私だって大魔導師と名高いあのお方に仕える使い魔。その気になれば闇の書やジュエルシードを手に入れることくらい簡単な事です。フェイトとアルフもその時が来たら……わかっていますね」

 

 リニスの問いにフェイトはこくりとうなずく。

 

「うん。多分ジュエルシードのいくつかは、今日邪魔をしに来たあの白い服の子が持っている。でも大丈夫だよ、その時は……迷わないから」

 

「ええ、いい子たちです。フェイトもアルフも」

 

 リニスはそう言ってフェイトの頭を撫でる。フェイトはくすぐったそうにしながらまんざらでもない顔でそれを受けてから、しばらくして顔を上げた。

 フェイトの視線の先――部屋の上には額に入れられた写真があった。

 そこには優しそうな長い黒髪の女性と、緑色のワンピースを着たフェイトに瓜二つの少女が映っていた。

 フェイトは写真の向こうにいる黒髪の女性に心の中で告げる。

 

(待ってて母さん……すぐに帰ります。ジュエルシードを集めて)

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