魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第15話 新たな蒐集方法

 間もなく夜中になろうという時間帯。

 この家にいる全員が寝静まった頃を見計らって、俺は部屋から出て廊下を歩く。

 暗闇の中、師に教わった通りのやり方で気配を殺しながら床を歩き、慎重にかつ急いで歩を進める。

 それからほどなくして、堅い扉に閉ざされた目的の部屋の前に辿り着いた。自分がさっきまでいた部屋から出て一分少ししか経っていないだろう。

 俺は扉の取っ手を掴み、取っ手をひねりながら扉をそっと奥へ通す。

 その際にぎぃという耳障りな音がするが、こんな音すぐ近くにいなければ気付かれるはずがない音だ。そう自分に言い聞かせながら扉を閉める。

 

 そして俺はこの部屋に誰かいないか気配を探った。しかし、この狭い部屋の中で気配どころか息遣いさえ聞こえてこない。俺が来るのを察知して先客が潜んでいるということはなさそうだ。

 安心するあまり口からため息が漏れる。はやてだけならともかく、守護騎士たちなら俺の動きなど簡単に察知できそうだからな。

 そして俺はこの部屋の奥にある本棚へと向かった。

 

 ここははやてのお父さんが生前使っていた書斎で、彼が仕事に使う専門書などが仕舞われてある場所だった。だが、今はこの部屋を使っている者は誰もおらず、きれい好きなはやてが毎日掃除しに来たりする以外は時々こうして俺が忍び込むくらいだ。

 もちろん目的はただ一つ。

 《闇の書》、いや《夜天の魔導書》は以前と変わらず、茶色の表紙とそこについている剣十字を露わにした向きのまま本棚に置かれていた。しかし、この間まで書を縛り付けていた鎖はもうない。

 

 守護騎士たちは再びこの世に現れた。だが“彼女”は今もまだこの本の中に……。

 

 守護騎士が召喚される具体的な条件は今もわからない。年齢は明らかに違うだろうし、(ケント)の時もはやての時も何らかの危機に陥っていたのは同じだが、他の主が皆そうとは思えない。

 守護騎士が召喚される条件というものはなく、魔導書が主を取り巻く環境や時期を見計らって騎士たちを呼び出している、というのが俺が今立てている仮説だ。

 

 だが“彼女”の方はそうではない。“彼女”を魔導書から呼び出すには二つの条件がある。

 まず一つは、400ページ以上の頁を埋めること。

 二つ目は魔導書の主が書の《管制人格(マスタープログラム)》の起動と具現化を希望すること。ただし、すべての頁を集めていない状態で管制人格を具現化させてもその力は半端なものになるらしい。

 それでも“彼女”の力は俺が知る何者よりも強いし、何の準備もなく全ての頁を埋めるわけにはいかない。

 そもそも俺にとって“彼女”の力なんてどうでもいい。あいつに再び会えさえすれば。

 

 とにかく“彼女”に会うためには魔導書の頁を400ページ以上埋める必要がある。しかし俺が知る限り、頁を増やす方法は、魔導師から強引に《リンカーコア》を引きずり出して魔力を奪うしかなかった。

 さすがに魔導師を無差別に襲うような真似はしたくない。だが、今のままではいつまで経っても“彼女”に会えないうえに、魔導書の方が業を煮やしてはやてを取り込んで別の世界に転移しかねない。そうなったら今までの努力はすべて水の泡だ。

 

 しかし、その問題を解決するかもしれない物が俺の手の中にある。言葉通りの意味で。

 俺は手を開いてその中にあるものを見た。

 宝石のように青く輝く石。リニスはこれを《ジュエルシード》と呼んで、闇の書とともに奪おうとしていた。

 実際この石には膨大な魔力が封じ込められている。こいつを使えばもしかして……。

 

 今日はやての家に泊まった本当の目的がその検証だ。

 はやての家に住むようになった守護騎士の様子を一度見ておきたかったのも本当ではある。しかしどちらかというと、やはりこちらの方が重要だ。それもできる限り早く済ませておきたい。万が一リニスにこのジュエルシードを奪われるようなことになる前に。

 

 そう思うとこうやって考え込んでいる時間も惜しくなり、俺は早く検証を済ませようと魔導書に手を伸ばそうとして、その寸前で手を止める。

 

 シャマルの事だ、間違いなく魔導書の前に不可視のセンサーを張っている。これ以上不用意に手を伸ばせばセンサーが反応して、守護騎士の誰かがこの部屋に踏み込んでくるだろう。だったら……

 

「俺だ。ちょっとこっちまで来てくれないか」

 

 そう呼び掛けてしばらくすると、魔導書は音もたてずに浮かび上がり俺の手元までふわふわ飛んでくる。俺は書を掴み取って頁を開き、月明かりを頼りにその中を読む。

 頁はすでに15ページほどが魔法の構築式で埋まっている。そのうち5ページは記述式ではなく魔法資質について書かれていた。おそらく一年前に主であるはやてから蒐集したものだろう。残りの10ページがあれからずっとはやての脚に注ぎ込んだ俺の魔力分か。

 

 俺は魔導書を棚の縁に置いてジュエルシードを近づける。

 あの少年は自分たちをだまそうとした俺への怒りであんな変貌を遂げた。そこから考えて、この石は所有者の感情や意思に反応して力を発揮するのではないかと思う。

 俺はジュエルシードを魔導書に近づけながら石に命じた。

 

「ジュエルシード、お前が持っている魔力を半分ほどその魔導書に分けてやってくれ」

 

 すると案の定ジュエルシードは暗闇の中で青く輝き、あの怪物の額にも表れたXの文字が浮かび上がる。

 それに呼応するように夜天の魔導書も紫色の光をまとい、またたく間に頁を増やしていく。

 これだけで一気に頁が全部埋まったりしないだろうなと冷や冷やしながら見守っていると、頁の増加は収まりジュエルシードの輝きも弱まっていく。どうやら魔力の移譲は無事に行われたようだ。

 俺は安堵で胸をなでおろしながら新たに増えた頁を数える。

 ……25ページか、ジュエルシード一つにつき魔導書の頁を50ページは増やすことができるということになるな。

 

 彼女と会うための最低条件である400ページには全然届かない。しかし、人を傷つけることなく頁を増やす方法を見つけられたというのは大きな前進だ。問題はジュエルシードは他にも何個かあるのか、全部でいくつあるのか。

 400ページ埋めるには8個、666ページすべて埋めるには14個必要になる。ジュエルシードがそれぐらいあればいいのだが。

 

 魔導書を棚に戻し――もちろん魔導書自身に本棚まで戻ってもらって――俺は書斎を後にする。

 この場でジュエルシードの魔力をすべて使うことも考えたが今はやめておくことにした。

 ジュエルシードを手元に残しておけば、これを餌にリニスたちを誘導する手が使える。現時点でその手段を断ってしまうのは得策ではないと思った。

 

 

 

 

 

 部屋に戻っていく健斗の後ろには、狼の姿をしたザフィーラが彼の様子をじっと窺っていたが健斗がそれに気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

――『夜天の魔導書』40ページまでの蒐集を完了。

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