ですので途中から「AIのべりすと」様の手を借りて文章を作りました。自分でも手を加えていますが、局の流れがおかしくなってるかもしれません。ご了承ください。
「どうぞ」
温泉から上がり客室に備え付けられた椅子に座ってくつろいでいる恭也の前に、ノエルは湯気の立つ淹れたての茶が入った湯吞みを置いた。今は二人とも旅館が用意した浴衣に身を包んでいる。
恭也は湯呑を掴みながら、
「ありがとう。しかし、ノエルも今日は仕事じゃないんだからのんびりしていいんだぞ」
「はい。のんびりさせていただいてますよ」
恭也の労いにノエルは両手に盆を持ったまま、にっこりとしながら言う。
そこへ――
「じゃあノエルさん、お茶を出して回るのはそのくらいにして俺と一局やりませんか? 久しぶりに」
その声につられて恭也とノエルは出入り口の方を見る。
連れの少女たちの前に立ってノエルに声をかけてきたのは、黒髪に黒の右眼と緑の左眼の少年。恭也にとっては弟に等しい家族であり、ノエルにとっては恭也に続く好敵手にあたる人物だった。
彼の手にある二つに折られたボードを見て、ノエルは不敵な笑みを作りながら言った。
「至らぬ点もあると思いますが、私でよければ喜んでお相手いたします。健斗様」
◇
それからしばらく経って対局の準備が整ってから……
「「お願いします!」」
対局前の一礼をしてから、俺は白のポーンを2マス前に進める。
それを見てノエルさんはつぶやくように言う。
「最初に動かすのはクイーンとビショップの斜め上にあるポーンですか。典型的な手ですね」
「それだけ有効な手ということですよ。持ち時間には注意してください」
「ご忠告ありがとうございます。では私もクイーンやビショップが動かしやすくなるように……」
そう言いながらノエルさんも俺が指してからちょうど10秒後に、俺が動かしたのと真逆の位置にあった黒のポーンを2マス進めた。
俺とノエルさんはすずかや恭也さんを介した知り合いで、共通の趣味をもつ同好の士でもある。その趣味というのがチェスを始めとする盤面遊戯だ。
前世で一国の王子として育った俺は、いずれ軍を率いる時に備えての教練の一環として盤上遊戯を仕込まれ、気がつけば王族としての嗜みとして知り合いや友人たちと何度も打つようになった。
そして現世で生まれ変わった今でも、恭也さんを始めとする知り合いとチェスや将棋を打っている。
ノエルさんの方は数年前まで趣味らしい趣味もなくメイドとしての仕事だけをしているような人で、たまに休息を取っている時などはただじっと座っているだけだったという。それを見かねた先輩がさくらさんと示し合わせていくつかの室内遊戯を勧めた結果、囲碁にはまるようになったらしい。先輩は「麻雀にはまったら面白かったのに」などとこぼしていたが。
チェスを嗜む俺と囲碁の虜となったノエルさん。そんな俺たちが知り合って対局を重ねるようになったのは、ごく自然な流れだろう。
とはいえ、メイドとしての仕事をしている時のノエルさんが対局をするようなことはない。忍さんたちからの許可が出てもだ。そのため俺とノエルさんが対局できるのは年に何度かある彼女の休日か合同旅行の合間くらいしかなく、旅行先での対局はほとんど恒例行事となっている。
そのため……
「おっ、やってるやってる!」
「チェスか、懐かしいな。俺もボディーガードを引退するまではアルバートとよく打ってたもんだ」
不意にがらりと戸が開き、外に出ていた面々が部屋に帰ってきて、部屋の中央に置かれた盤面を見ながら忍さんと士郎さんはそんな言葉を漏らす。
シグナムもはやてのすぐそばまで足を運びながら、盤面を見下ろしてぽつりと言った。
「……懐かしいですね。あの方と打っていた頃を思い出します」
「あの方って……もしかしてケントって王様のこと?」
声を潜めながら尋ねるはやてに、シグナムは首を縦に振って答える。
「ええ。何度か相手をさせていただきました。まず駒の進め方を教わるところから始めて……それからお互い暇な時によく打っていましたが、さすがに相手は一国の軍を率いる王。まったく相手になりませんでした」
確かに盤面遊戯でシグナムが俺に勝った事は一度もなかった。だがそれは経験不足による差で、対局を重ねていくごとに差は縮まっていき、最後の頃になると危ない局面も何度かあった。あと五局ほど打てばほとんど互角になっていたと思う。
あの頃を思い出しながらしみじみと語るシグナムに、はやてはふーんと言ってから……
「じゃあ今度私とやろうか。うちにもチェスと将棋あるし。……父さんが遺したものやから縁起悪いかもしれんけど」
「そ、そんな滅相もない! ……ですがよろしいのですか? そのような大切なものを私が使っても」
「うん。部屋の隅にしまっているより、使った方が父さんも喜ぶやろうし。まあ、私は健斗君やノエルさんに比べたらルール知ってるぐらいの素人で、シグナムからしたら弱すぎると思うけど」
「い、いえ、最初は誰でもそのようなものです。……では主はやて、家に帰って落ち着いたらお相手をお願いできますか?」
シグナムの言葉にはやては「うん! もちろんや!」と大きくうなずいて顔をほころばせた。
その間にも対局は進み、四十手を越えたあたりですずかはおたおたしながらアリサに聞いた。
「ど、どっちが勝ってるの? 駒がごちゃごちゃしてもうわからない!」
「今のところややノエルが優勢ね。でも健斗も負けてない。ノエルが相手だと私でも勝てないくらいなのに」
「あははっ、さすがのアリサちゃんでもノエルには勝てないか……というより、チェスでノエルに勝てる人なんてもういないと思うけど」
盤面を見ながら冷静に解説するアリサに、忍さんは乾いた笑いを浮かべながらそんな言葉を漏らす。
忍さんの言う通り、ノエルさんは強い。
チェスでも将棋でも囲碁でも、常に最適と思われる手を即座に打ってくる。しかも何十手打ってもまったく疲労する様子を見せない。まるでコンピュータを相手にしているようだ。
将棋や囲碁なら持ち駒や石の置き方次第で勝てる見込みはあるが、チェスではもう俺も恭也さんもノエルさんに勝てなくなってしまった。あと数年すれば将棋や囲碁でも彼女に勝つことはできなくなるかもしれないと恭也さんは言っていた。
ちなみにノエルさんの隣でぽかんと見ているファリンさんは、姉と違ってめちゃくちゃ弱い。チェスも将棋も、いまだにルールブックを見ながらでないと駒も動かせないし、特殊ルールや禁じ手は何一つ知らない。二歩ぐらいなら見逃してやるのが暗黙の了解になっているほどだ。
ただ、それについて忍さんが一度だけ「人間に似ているという点ではある意味ノエルより優秀ね」とつぶやいたことがあるが、その言葉の意味は未だに分からない。
もしかしたらと思うが……まさかな。
とにかくまともにやったら、チェスでノエルさんに勝つのはかなり困難だ。そのためいくつか対策も立てている。なるべくキャスリングやアンパッサンといった特殊ルールを使うようにしたり、お互いに一手数十秒の持ち時間を課したりなど。
特に重要なのは後者の持ち時間。
身内同士の遊びに制限時間なんてシビアすぎる、制限時間が短すぎるとよく言われるが、持ち時間を無制限にしたり何分も取っていたりしたら、それこそノエルさんには絶対に勝てない。彼女なら一分もしないうちにすべての駒の動きを読み取って、俺がどの駒を動かしてもそれに合わせた手を瞬時に考えつけるだろう。
それを阻止するための方法が、わずか30秒の持ち時間だった。
さすがのノエルさんも30秒の間にすべてのパターンを予測することはできない。どこかで何らかの隙が生まれるはず。
それにこのような早指しは、リニスとの戦いの予行演習としても役に立つはずだ。
実は今回ノエルさんに勝算が最も薄いチェスを挑んだ理由もそれだったりする。
この前リニスに負けたのは魔具や魔導着がなかったせいもあるが、最大の敗因はやはり固有技能に頼り切っていたことだろう。技能を使っている間は動けない奴が相手だからと油断しきっていた。
あいつに勝つには、こちらも高速で体と頭を動かすのに慣れる必要がある。
その練習がこのチェスだった。
対局はクライマックスを迎え、互いの駒は敵陣やその付近で相手のキングを巡って激しい攻防を繰り広げるようになった。
その攻防のさなか、こちらのキングを守っていたルークが取られてしまう。
「チェックです。これでルークを二つとも失ってしまいましたね」
ルークを掴んでチェックを宣言しながら、ノエルさんはフフッと笑う。
彼女の言う通り、これで俺はクイーンに続いてルークを二つも失ってしまった。大駒と呼ばれるこの二種を失ってしまったことは大きな痛手だ。対して向こう側はクイーンこそ失ってはいるもののルークが一つ残っていて、そのルークも今はこちらの陣地に入り込んで俺のキングを討ち取る機会を虎視眈々と狙っている。
このままではどんなに守りを固めても、俺のキングが取られてしまうのは時間の問題だ。これを打開するにはこちらが相手のキングを取るしかない。その要となりそうなのが……。
俺は攻防をかいくぐって敵陣に潜入したポーンを見る。あと1マス進めれば盤の端に至りクイーンに成ることができる。それが成功すれば俺は再び大駒を手にすることができる。何より相手のキングを取るための大きな武器になるだろう。
しかし、そんなことは
(ここはやはりナイトを使うべきか……)
ルークを使えば敵のポーンを取りつつ、相手側のキングにも手が届く。だが、そうなると今度は自分のキングを守る手段がなくなってくる。それにこちらから攻めるにしても、先ほどまでのように一気に詰め寄るようなことはできない。ルークは敵陣に足を踏み入れてしまえばほとんど動かせなくなるからだ。
それならいっそビショップを使ってみるか? いや、それも駄目だ。さっきはクイーンを取ったポーンがそのまま敵陣に入ったことで相手に有利な展開を許してしまったが、もしここでナイトを使ったらまた相手のキングに手を届かせることができる。ただ、そうすると今度は俺の方の手番になるのだが、ルークはまだ自陣にいるので動くことができない。
つまりルークを動かすためには、先に敵陣に侵入させたポーンをどうにかしなければならないわけなのだが、それをしようと思ったら今度はポーンの動きを邪魔するナイトを取らなければならないし、そもそもポーンの後ろはもう敵陣なので動けない。結局ルークを敵陣に入れるにはナイトでポーンを取ることが一番確実なのだ。ただ、これも難しい。なぜならナイトで取ったポーンはすでに敵陣に入っているのだから、今さらナイトでポーンを取っても敵陣に入ることはない。そのままポーンだけを相手にすることになるだけだ。
つまり、俺は次の一手でポーンを捨てなくてはならないことになる。
「……」
20秒ほど考えた末に俺はポーンを進める。
対して、彼女はビショップを動かす。その次の手番で俺はビショップを進めた。
これでいいのか? 本当にこれが正しい選択なのか?
だが、そのおかげでポーンで取れる範囲が大きく広がった。そして相手のキングに手が届いた以上、これ以上こちら側が不利になることはまずないだろう。ならば無理をしてでも攻め込むべきなのではないか?
いや、待てよ……。
俺は考え直す。
確かにポーンで相手のキングに届くようになったということは、それだけこちら側に有利になったとも言える。しかし、それはあくまでポーンが敵陣に入り込んでいる間だけの話だ。もしも相手がその隙を狙ってこちらのキングに直接攻撃を仕掛けてきたらどうなる? ナイトがあるとはいえ、こちら側から攻撃できるのはせいぜい一か所かそこらだろう。それに対して向こう側は複数箇所を同時に狙うことができる。こちらのキングに届くまでにいくらでもこちらのキングを攻撃するチャンスはあるはずだ。そうなったらこっちとしては防ぎようがない。
俺はキングの前にビショップを移動させる。
とりあえずこれで大丈夫だろうか……。
いや、まだ足りない。もっと安全策をとっておくべきだ。
そこで俺はポーンを前進させて相手のビショップを取り、それをさらにナイトで取りに行くという戦法をとった。こうすれば少なくとも二方向からの同時攻撃を受ける心配はない。
しかし、これだとせっかく敵陣に踏み入れたポーンが再びこちら側に戻ってきてしまう。それにルークもすでにこちらのキングの近くまで来てしまっているので、ルークとビショップで同時に攻められると防ぎきれないかもしれない。やはりここはポーンを捨ててナイトで相手のクイーンを狙うしかないか。
ここはポーンを後退させて……いや駄目だ。
ナイトでクイーンを狙ったところでこちらの攻撃が成功する保証などどこにもない。むしろ失敗して逆にこちらのキングが狙われるようなことになれば目も当てられない。
どうすると自問しながら俺は盤上を見渡す。
(……そうだ!)
俺の中で一つの答えが出た。
俺はナイトを動かす。
(どうして?)
俺の行動を見てノエルさんは心底驚いた様子を見せる。
「――まさか!」
そう、そのまさかだ。
ノエルさんがルークでこちらのキングを狙いに来る。それを予想していた俺はビショップでそれを迎撃した。
(そんな……)
ルークが取られるのを見て彼女は愕然とする。
俺はすかさずナイトを動かして、相手のキングを取りにいった。
(くっ……)
ノエルさんは必死に抵抗を試みるが、これ以上打つ手がなく……
「チェックメイト。俺の勝ちだ」
俺がそう告げるとノエルさんは盤面に目を走らせるも、ほどなく打開策がない事を悟り、自らの手でキングを倒しながら言った。
「参りました……リザインします」
悔しさをにじませた声でノエルさんが
「すごい! 健斗君、ノエルに勝っちゃった!」
「な、なかなかやるじゃない。まあ私だってあれくらいはすぐに思いついたけど」
すずかとアリサが口々にそう称える。その横ではファリンさんと忍さんがノエルさんの肩を叩きながら慰めていた。
「惜しかったね、お姉様」
「いえ、私の完敗です。勝負を急ぎすぎました」
「うーん、確かに終盤は指すのが少し早すぎたわね(演算能力の高さがかえって裏目に出ちゃったか。持ち時間がもう少し長ければ確認を怠ることもなかったんでしょうけど。まさかあの子、そこまで読んで……)」
その一方で、恭也さんは誇らしげに俺の頭を撫でながら言った。
「よくやった健斗! まさかチェスでノエルに勝つとは。二人の対局を見ていたら俺も打ちたくなったな。どうだ? 次は俺と囲碁でも」
「気持ちは嬉しいけどさすがにちょっと疲れたよ。一時間は休憩させてほしい」
俺がそう言うと恭也さんは納得した様子で肩をすくめながら、
「そうか……じゃあノエル、今度は俺と一局やらないか? さっきの雪辱を晴らすためにも」
「ええ! このままではすっきりしませんし、喜んでお相手させていただきます」
俺と違い、ノエルさんは威勢よく応じて道具がしまってある荷物の方へ向かう。……この人疲れを知らないのか?
そんな中――
《健斗君、ジュエルシードを見つけたわ。君が推測した通りこの近くの川の方にあるみたいだけど、どうする?》
不意に脳裏にシャマルの声が響く。俺は彼女に顔を向けながら思念で答えた。
《やっぱりか。わかった、頃合いを見計らって回収しに行ってくれ。念のためにシグナムかザフィーラも一緒に連れて。くれぐれもみんなに見つからないようにな》
《わかったわ!》
俺の指示に、シャマルは思念による返事とうなずきを返す。やはりこの手にかけて彼女ほど優秀な奴はいないな。おかげで今夜の戦いでも先手を取ることができそうだ。
俺は部屋の中央に視線を戻す。
すでに囲碁の準備が整い、恭也さんとノエルさんが対局を始めていた。その対局は先ほどのチェスに劣らない熱い戦いだったがこれ以上は控えておこう。
そうして今回の旅行の定例行事にして、今夜の戦いの前哨戦は幕を閉じた。