魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第18話 フェイト

 電球が消され光源が部屋に差し込んでくる月の光のみとなった寝室にて、他の子たちの()()()()が寝入っている中で八神はやては目を開いた。

 ファリンが読んでいたグリム童話は何度も読んだことがあり、話の流れを知っているはやてにとって眠気を催すほど退屈なもので、ある意味寝る前に聞かせる話としてはうってつけだった。だがその眠気も、昼間に起こったことを考えた途端どこかへ行ってしまう。

 

 

 はやては布団に包まれた体をよじって隣の布団を見る。

 

(……やっぱり行ってしもたか)

 

 隣の布団にはヴィータが横になっているはずだった。だが、今そこには誰もいない。おそらく自分たちと離れた所に敷かれた布団で寝ているはずの健斗も。

 おそらく、いや十中八九、昼間に出会った長い赤毛の女が絡んでいるのだろう。あの時の健斗やヴィータの様子からして、彼女がリニスの仲間だということくらいははやてにもわかった。

 今頃は、健斗たちとあの女性が魔法による戦いを繰り広げている最中だろうか。

 

 そんなことを考えていた時だった。

 

「ユーノ君、起きてる?」

 

 ふいになのはは、右端で寝ているアリサに抱かれているペット(フェレット)に向かってそんな声をかける。

 ペットを飼っている人間にはよくあるらしい行動だ。しかし、フェレットなんかに話しかけても何の反応も帰ってくるはずがない。

 はやてはそう思っていたが……

 

「う、うん……はぁ」

 

 アリサがいる方から声とため息がしてはやては目を見張りそうになり、懸命にそれをこらえる。

 アリサじゃない。明らかにアリサの声ではないし、彼女にしては反応が妙だ。

 なのはと誰かの声はそこで途切れ、再び部屋に静寂が戻る。だがそれで会話が止まったとは限らない。それはここ数日の間の守護騎士と健斗の様子を見て知った。《思念通話》という魔法によるものらしいが。

 しかし、それを使っているということは……

 

(もしかしてなのはちゃんも……まさか……でも)

 

 はやてが今考えていることはあまりに突飛すぎる話だ。だがそう思わずにはいられないほど、はやてのまわりで色々なことがありすぎた。

 はやては目を閉じながら体を動かし、さりげなくなのはの方に体を向ける。

 それから徐々にゆっくりと瞼を持ち上げる。

 なのははむくりと起き上がって何かを見下ろしている。はやてはそれを見ようと焦る気持ちを抑えながら、細めた目を動かし、なのはの視線の先を見る。

 そこではやてが見たものは――

 

 

 

 

 

 

 旅館の外にある、先ほどまでジュエルシードがあった場所の近くにかかっていた桟橋(さんばし)の上には、案の定、昼間に会った赤毛の女と、彼女の相方らしき長い金髪を二つに分けた髪型の少女がいた。

 赤毛の女は白いタンクトップに短いデニムパンツの上に黒いマントを羽織り、金髪の少女は黒いワンピースを着ている。

 赤毛の女の頭の上についている犬のような耳と腰のあたりから生えている尻尾を見て俺たちは眉をひそめるも、女の方は俺たちの視線など気にせずに問いを投げた。

 

「あんたたちがどうしてジュエルシードを? まさか、私たちより先に見つけていたのか?」

 

 その問いに、俺は内心で気を取り直しながら首を縦に振る。

 

「あっ……ああ。リニスやジュエルシードと闇の書のことを知ってる怪しい女がいたからもしやと思ってな。それでこの付近を探してみたら、案の定これを見つけたというわけだ。昼間俺たちに声をかけたのは失敗だったな」

 

「ぐっ――」

 

「……アルフ」

 

 うなり声を上げる相方に金髪の少女は目を向ける。女はうろたえながら少女の方を振り返った

 

「ご、ごめんフェイト。フェイトの邪魔をしたりリニスを傷つけた奴がいたからつい――」

 

「いい。それを許したのは私だから。それに取られたのなら……あの人たちから奪い取ればいいだけ!」

 

 迷いの残る仕草でフェイトという女の子は答える。それを聞いて、アルフというらしい赤毛の女は気を取り直したように俺たちに言った。

 

「そ、そうだよ! フェイトの言う通りだ。おいあんたら! 痛い目にあいたくなかったら大人しくそのジュエルシードを渡しな! あんたらが持っているもう一つのジュエルシードと闇の書って本も含めてね!」

 

「闇の書まで! てめえら、やっぱりリニスの仲間か! 闇の書とジュエルシードって石ころを集めて何をしようってんだ?」

 

 鋭い口調と視線でヴィータは凄むものの、アルフはひるむ様子も見せず、馬鹿にするような笑みを浮かべながら言った。

 

「さあね、答える理由が見当たらないよ。それにさ、昼間に言ったよね。これ以上あたしらを怒らせないうちにジュエルシードと闇の書を渡せって。あたしもフェイトも大事な仲間を傷つけられて腹が立ってるんだ。――特にあいつに傷をつけたオッドアイのガキは今すぐ食い殺してやりたいくらいにね!」

 

 そう言うとともにアルフの青い目は細くなり、髪も異様なほどに逆立ち、たちまちのうちにアルフは赤い狼へと姿を変えた。その額には人間の姿をしていた時と同じく赤い宝石のようなものが埋め込まれている。

 その姿はを見てヴィータはつぶやいた。

 

「赤い狼……やっぱりあいつも」

 

「うむ、あの女も守護の獣だったらしい。しかも私とほとんど同じ姿をしている。実に興味深いな」

 

 自身と同じ姿になったアルフを眺めながらザフィーラも初めて声を発する。それを聞いて、アルフの口から人間が発するものと変わらない言葉が出てきた。

 

「へえ、あんたも《使い魔》だったのか。あたしと同じ種族なんて確かに妙な偶然だね。そう、そいつが言ったとおり、あたしはフェイトに作ってもらった魔法生命。製作者の魔力で生きる代わり、命と力のすべてをかけて守ってあげるんだ」

 

「使い魔……あの子が作った魔法生命だと?」

 

 俺はアルフが言った言葉の一部を自身の口から漏らす。じゃあまさか、リニスもアルフって奴と同じ使い魔なのか?

 

 驚愕する俺の前でフェイト右手を上げる。その手の中には三角形の黄色い金属が握られていた。

 

「《バルディッシュ》、起きて」

『Yes,sir!』

 

 その瞬間フェイトが持っていた金属が黄色く発光し、フェイトの体はその光に包まれる。

 魔導着か魔導鎧を装着する気か!

 そう思って、光に包まれているフェイトを見ながら構えたところで――

 

「なにぼっとしてんだ!」

 

 その一声が届くと同時に、アルフが大きな口を開いて俺に向かってくる。その口からのぞくするどい牙を見た瞬間俺は思わず――

 

 フライングムーヴ!

 

 技能を発動させた瞬間、俺以外のものの動きは止まっているかのように急激に緩やかになる。

 俺に食らいつこうとしている狼も宙に浮いたままだ。

 その隙に俺は狼の進行方向から離れつつ彼女たちの姿を見据え、そして見てしまった!

 

 フェイトの体は白くて綺麗な肌をしており、胸は年相応に未発達ではあるがすでに膨らみ始めている。少なくともなのはやはやてよりは大きい。彼女たちと変わらない歳であの大きさだと将来は結構大きくなるのではないだろうか。それでもアリサやすずかには負けると思うが……。

 

 フェイトを見ながらそんなことを考えている間に技能が解けて再び時間は動き出し、フェイトは瞬く間に黒ずくめの魔導着を装着し鎌のような魔具を手にする。

 袖のない上下一体型の黒い服、その腰回りに付けた桃色の短いスカート、黒い靴下とブーツ、その上に羽織った黒マント……結構露出が多い恰好だ。

 リニスといい狼になる前のアルフといい、なんでこの一味は揃いも揃って露出度が高い服を着ているんだ? 彼女らの主とやらも露出過多な恰好をしているのだろうか? ……若くて美人な女だといいな。

 

 一方、アルフは俺が一瞬前までいた方に向かって鋭い勢いで跳んでいくものの、手ごたえがないと気付いた瞬間に四つの足で地面を削りながら動きを止めて、不思議そうに辺りをきょろきょろと見渡しながら再び俺の方を向いた。

 

「――いつの間にあんなところまで? リニスが言っていた通り妙な動きをしやがるガキだ……あん?」

 

 そう毒を吐きながら再び俺に向かってこようと、前足の片方を踏み出すアルフの前に、ある者が立ちはだかった。そいつは俺たちを襲う赤い狼とは色違いの青き狼、守護獣ザフィーラだった。

 

「彼女の相手は私に任せてくれ。名と在り方は違えど、彼女も私も主を守護する獣。一対一で勝負がしてみたい」

 

「……」

 

 そう言いながらザフィーラはアルフをまっすぐに見据える。それに対してアルフもザフィーラを見返しながらフェイトを横目で見た。

 そんな使い魔に向かってフェイトは首を縦に振り、

 

「いいよ。アルフは彼の相手をお願い」

 

「フェイト!? でも――」

 

「大丈夫、あの二人くらい私だけで充分。私は強いから」

 

「……わかった。でも、何かあったらあたしを呼びな。すぐに駆け付けてやる」

 

「うん。アルフこそ無茶しないでね」

 

「オッケー!」

 

 主を心配しながらもアルフは吼えるような声でそう言い残し、ザフィーラに向かって飛びかかった。ザフィーラはそれを真正面から受け止め、二匹の獣は激しくぶつかり合いながら、互いに全力が出せる森へと移っていった。

 

 

 

 

 

 ザフィーラとアルフがいなくなって、俺とヴィータは橋の上でフェイトと対峙する。ヴィータもフェイトと同時に着替えていたらしく、彼女も今ははやてが考えた赤いドレス状の騎士甲冑を装着し、アイゼングラーフという槌を手にしている。

 フェイトも鎌のような形をした魔具を俺たちに向け、俺は腰に提げた刀の柄に手をかけた。

 フェイトが持っている魔具は見た所リニスのバルバロッサと互角、いやそれ以上……この刀で渡り合えるか?

 

 フェイトは彼方で自身の使い魔と戦っているザフィーラに目をやりながら言う。

 

「いい使い魔だね。私の力を分けたアルフと互角に渡り合うなんて」

 

「ザフィーラを使い魔なんてもんと一緒にすんな。……で、相棒にはああ言ってたけどやっぱりやる気か?」

 

 ヴィータの問いにフェイトはこくりとうなずいた。

 

「もちろん。私はロストロギアの欠片、ジュエルシードを集めないといけない。そしてあなたたちも同じ目的なら、私たちはジュエルシードをかけて戦う敵同士ってことになる……だから」

 

 不意にフェイトの体は俺たちの前からかき消えた。そしてほぼ同時に、すぐそばから敵意と気配が感じて俺は叫ぶ。

 

「後ろだ! 避けろ!」

 

 俺とヴィータは空中に飛ぶ。その直後にフェイトの鎌が俺たちがいた場所に振るわれた。

 それからフェイトもまた宙を飛び、俺たちを追いながら先ほどの言葉の続きを言った。

 

「賭けて。それぞれのジュエルシードをひとつずつ」

 

 その間にもフェイトは瞬く間に俺たちに追いつき、ジュエルシードを持つ俺を狙って鎌を振るう。それに対して俺は瞬時に刀を鞘から抜いて、彼女の攻撃を受け止めた。

 速い。リニス同様、彼女の最大の武器はやはりスピードのようだ。だが――

 

「――甘い!」

 

 俺は両腕に力を込めてフェイトの鎌を弾き返す。

 やはりまだ幼いためか、リニスに比べたらスピードも腕力もかなり劣る。武器ならあちらに分があるが。

 

「テートリヒ・シュラーク!」

 

 ヴィータが上から大きく槌を振り下ろし、フェイトは即座に鎌を前に突き出す。

 だが衝撃を受け止めることはできず、フェイトはうめき声を漏らしながらヴィータから距離を取ってすぐさま左手を突き出し、円状の魔法陣を手の先と足元に展開する。

 それを見て俺も右手を突き出し、三角形の魔法陣を自身の手の先と足元に展開した。

 

Thunder Smasher(サンダースマッシャー)

「ラグナロク!」

 

 フェイトの魔法陣から金色の光線が、俺の魔法陣から紺色の光が、互いに向けて放たれる。

 二種の光線は空中で衝突する。だがフェイトが放った金色の光は俺が撃った紺色の光よりやや勢いが弱く、紺色の光は金色の光を飲み込んでそのままフェイトに向かっていく。

 それを見て俺は右手を下ろした。

 そこへ――!

 

Scythe slash(サイズスラッシュ)

 

 上から降り注ぐ無機質な声を耳にして、俺は頭上を見上げる。

 そこには金色の魔力刃が飛び出た鎌を振るい上げるフェイトの姿があった。

 だが、俺はあえて彼女に向かって飛翔し、振るい下ろされる鎌を躱してフェイトに肉薄し、彼女の首元に向けて刀を振り上げた。

 

「――っ!」

 

 自身の首筋に向けられた刃を見て、フェイトはこわばった表情で息を飲む。

 

「俺の勝ちだな。約束だ、お前が持っているジュエルシードを渡してもらおうか」

 

「私の、負け……?」

 

 恐怖に歪んだ口からそんなつぶやきを漏らすフェイトに、俺は首を縦に振った。

 

 

 

 彼女は強い。

 今の時点で並の魔導師では足元にも及ばないほどの魔力を持っており、それをうまく行使するための応用力と判断力も兼ね備えている。

 一言で言えば天才だ。ベルカの戦乱を戦い抜いた猛者でさえ、これほどの資質を持つ魔導師は数えるほどしかいなかっただろう。この先の経験次第では俺や守護騎士どころか、クラウスやオリヴィエに並ぶ魔導師にもなれるかもしれない。

 

 だが、やはりまだまだ未熟だ。

 実戦でのやり取りや駆け引きもまるでなっていない上に、体が発達していないため身体能力が低く肉弾戦には不向きだ。

 そして、何より覚悟が足りていない。この期に及んでジュエルシードをひとつずつ賭けることを持ち出したのがその証拠だ。

 本当に俺やはやてからジュエルシードと闇の書を根こそぎ奪うつもりなら、有無も言わさず俺たちを倒し、それからシードと書を奪い取るべきだった。

 この子は、フェイトは人から何かを奪うにはあまりにも純真すぎる。

 

 

 

「もう一度言う。お前が持っているジュエルシードを渡せ。そしてもうジュエルシードや闇の書から手を引くんだ」

 

「で、でもそんなことしたら母さんが……」

 

 悲痛な声でそう漏らすフェイトに、俺は情を捨てて告げる。

 

「お前の母親がどんな目的でジュエルシードと闇の書を欲しているのかは知らないが、これらは安易に手を出していいものじゃない。何より俺にとってもジュエルシードと闇の書は必要な物なんだ。悪いが諦めるように母親に伝えてくれ。納得できないならそちらから来てほしいともな。交渉くらいはするつもりだ」

 

「交渉……あの人にそんなこと――」

 

「健斗、後ろだ!」

 

 フェイトが何か言いかけたところで眼下から声が上がり、俺は反射的に後ろを振り返る。そこにはいつの間にかザフィーラと戦っていたはずのアルフが迫って来ていた。

 

「ぐああっ!」

 

 アルフはすさまじい勢いで俺を跳ね飛ばし、たまらず俺の体は横へと弾き飛ばされる。

 アルフは俺に構わずフェイトの方に向かい、人間の形態に戻りながら彼女に寄り添った。

 

「大丈夫かいフェイト!? ――!」

 

 アルフはフェイトに声をかけてからぎろりと俺を睨む。

 殺気に染まったその目を見て、思わず身がすくんでしまった。

 アルフはそのまま俺に襲い掛かろうとするものの、後ろにいるヴィータやザフィーラを見て動きを止め、舌打ちしながらフェイトに言った。

 

「……退くよフェイト。状況が悪い。退散した方がよさそうだ」

 

「でもアルフ、この人たちはジュエルシードを。それにリニスの代わりに闇の書も手に入れなきゃ――」

 

「このままやったらフェイトが持ってるジュエルシードを奪われかねない。もしジュエルシードをひとつも手に入れられなかったなんてことになったら、さすがにどうなるか」

 

「それは……うん、そうだね」

 

 アルフの説得にフェイトはまだ何か言おうとするも、アルフの硬い表情を見て渋々うなずく。二人の表情と顔に浮かぶ汗を見て、彼女らの主がどういう人物なのかうすうす察しが付いた。

 

「聞いての通り、今回はここで引き上げさせてもらうよ。でも、今度会ったら必ずあんたらを殺して、ロストロギアをひとつ残らず奪い取ってやる。命が惜しかったら四の五の言わずにジュエルシードと闇の書を渡すことだ――いいね!」

 

 そう言い捨てるとアルフとフェイトは俺たちに背を向けてどこかへ飛んでいく。

 それを見て――

 

「あっ、おい待て! くそっ、すぐに後を――」

「待てヴィータ! 追わない方がいい!」

 

 急いで彼女らを追おうとするヴィータを手で制して止めた。ヴィータは不満もあらわに、

 

「なんでだよ!? あいつらを捕まえてリニスや親玉の居場所を聞き出さねえと!」

 

「いや、健斗の言う通り、ここは逃がしてやる方がいいかもしれん。追いつめられた者ほど恐ろしいものはない。特にあのアルフという女なら健斗の首を食いちぎるくらいのことはやりかねん」

 

 ザフィーラの言葉を聞いて、俺もヴィータも背筋が冷たくなるのを感じた。

 

「……確かにあいつならそれくらいはやりそうだな。わかったよ。そんなところ見たらメシがまずくなるし健斗に何かあったらはやてが悲しむ。今日の所はあれくらいで勘弁してやるか」

 

「ああ、俺もそれがいいと思う。ジュエルシードもまたひとつ手に入ったしな」

 

 両手を首の後ろに回しながら吐き捨てるヴィータに、俺は手に入れたばかりのジュエルシードを見せながらそう告げる。これの使い方を知らないヴィータは「そんなものが一体何の役に」と言いたげな目を件の物に向けた。

 

 それに収穫はもう一つある。彼女らが言ったことからすると、リニスやフェイトたちの主はフェイトの……。

 

 

 

 

 

 

 健斗と守護騎士二人の姿が見えなくなってからアルフとともにフェイトは地上に降り、この場を後にすることもなく地面に膝をつけて愕然とした。

 

(負けた……私が、同じ年くらいの男の子にあっさりと……)

 

 フェイトはこの二年間、リニスの指導の下でひたすら魔法の修練に打ち込んできた。大魔導師たる母に恥じぬ娘であろうと、家族や自分自身すら顧みずにひたすら研究に打ち込んでいる母の悲願を叶える手助けをするため、ただ一心不乱に。

 自分が天才だという自覚などない。自身に優れた力が備わっているというのなら、それは母から受け継いだ資質とリニスの指導によるものだろう。

 

 だからこそ悔しかった。

 大魔導師と呼ばれる母の資質を受け継ぎ優秀な教師の指導を受けてきた自分が、同じ年くらいの子供にあっけなく負かされたということが。

 何よりも――

 

『――甘い!』

 

 バルディッシュを弾いた時に少年が言った言葉が、フェイトの頭にこだまする。

 

 甘かった。戦い方もジュエルシードにかける意気込みも。

 だからジュエルシードを横から取られ、敗北を喫することになる。

 アルフのせいじゃない。すべて自分の甘さが招いたことだ。

 

「私は甘かったの? 本気でジュエルシードを手に入れようとしなかったからこうなったの? 私は母さんのためにジュエルシードを集めようとしたのに。その思いは確かだったはずなのに……」

 

「フェイト……」

 

 ひざまずきながらフェイトはぶつぶつとつぶやき続ける。それをアルフは黙って見ているしかできなかった。

 

 

 

 

 

 そんなフェイトたちを、なのはと彼女の肩に乗っているユーノは遠くから眺めていた。

 

「あの子たちはこの間の……なのは」

 

「う、うん。ジュエルシードがかかわっているかもしれないし、何があったのか事情を聴きたいところだけど……」

 

 なのははユーノに言われた通り少女に声をかけようとするものの、何かに取り憑かれたようにぶつぶつとつぶやきを漏らす少女の様子にただならぬものを感じて、それ以上動くことができないでいた。

 

 なのはとフェイトは、数日前に月村邸の庭で暴走したジュエルシードを巡って戦ったことがある。結果は実力を十分に発揮できなかったなのはの敗北に終わったが。

 

 今の少女の様子は明らかに前とは違う。あの時よりはるかに危うい気配を漂わせている。

 ユーノもそれを感じ取ったのだろう。なのはに対して、

 

「……いや、話ができる状態じゃなさそうだ。何があったのかは気になるけど刺激しない方がいい。ジュエルシードの反応もないし、見つかる前にここを離れよう」

 

「……う、うん。そうした方がいいかもしれないね」

 

 ユーノに言われるがまま、なのはは何度か少女たちの方を振り返りながら渋々その場を後にする。

 

 

 

 

 少女のただならぬ様子にやむなく彼女たちに背を向けるなのは。

 自分の甘さと弱さを思い知らされたフェイト。

 そしてなのはが抱える秘密の一部を知ったはやて。

 

 この三人の少女が抱えるわだかまりがきっかけとなって、海鳴どころかこの世界そのものを()()()()揺るがす事態が起きることになるとは、この時点では誰にも予想しえなかっただろう。

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