魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第20話 二人目の魔法少女

 同日の夕方、フェイトたちが住むマンションでは。

 

 

「うーん、こっちの世界の食事もなかなか悪くないよね!」

 

 そう言いながらリビングでドッグフードをたいらげるアルフ。そこにリニスが通りがかるのを見つけて、アルフは食べかすを口に付けたまま顔を上げた。

 

「あっ、リニス。またお姫様のところにいくの?」

 

「ええ。そろそろ食器を下げないと……ちょっとでも食べていればいいんですけど」

 

 リニスが小さく付け足した言葉にアルフも顔を曇らせる。

 リニスはそれ以上何も言わず、アルフも黙って彼女について行った。

 

 

 

 

 装飾もなく、生活に必要な家具だけがある無味乾燥な部屋。

 その部屋の隅に置かれたベッドにフェイトは横たわっていた。眠ってはいない。ただ横になって数日前の事を思い返していた。

 思い出すのはオッドアイの少年との戦い、そして敗北。

 負けた瞬間を思い出すたびに、フェイトは強くシーツを握りしめる。

 

 なぜ私は負けた? なぜ私が見つけたジュエルシードが彼らに奪われた?

 いや、その理由はわかってる!

 

 ――甘い!

 

 少年に言われたその一言がこれ以上ないほど明確な敗因だった。もっと必死にジュエルシードを手に入れようとはしなかったからああなったのだ。

 そう悔いているところで――。

 

「フェイト、食器を下げに来ました」

 

 部屋の主に声をかけながら、リニスと彼女に続いてアルフが部屋に入って来た。

 

「……また食べてませんね」

 

 机に残されたままの食事を見ながら、リニスはため息を漏らす。そんなリニスを見上げながら、フェイトは顔を上げる。

 

「食べたよ……少しだけど」

 

 明らかに無理をしている様子でそう言いきる彼女に、リニスとアルフは心配そうな眼差しを向ける。

 アルフの方を見ながらフェイトは言った。

 

「アルフ、そろそろ行こうか。次のジュエルシードの大まかな位置特定は済んでいるし、あんまり母さんを待たせたくない……それ、食べ終わってからでいいから」

 

 フェイトの言葉にアルフは慌てて自分の左手を見る。無意識のうちにドッグフードの箱を持って来てしまっていたみたいだ。

 アルフはドッグフードを背中に隠しながら言った。

 

「あたしはいいよ! 食べた方がいいのはフェイトの方! あんた、この前からろくに食べてないし寝てもいないじゃないか! あのオッドアイと三つ編みに負けた時から――あっ!」

 

 そこまで言ってアルフは慌てて自分の口を押さえた。

 しかしフェイトはそれを咎めずに、

 

「大丈夫……あの時のことは気にしてないから。それより今はジュエルシードを集めないと。あんな人たちに構っている暇なんかない」

 

「フェイト……」

 

 そう言いながら懸命に笑みを向ける主にアルフは言葉を飲み込む。

 そんなアルフの隣で、リニスは顎に手を載せて思案していた。

 

(いえ、フェイトの報告通りなら御神健斗と守護騎士もジュエルシードを集めているはず。その目的はわかりませんが、フェイトたちが再び彼らと遭遇する可能性は高い。白い服の魔導師とやらも気になります。……このままだとジュエルシードが手に入らないどころか、フェイトが手に入れたたった一つのジュエルシードさえ奪われてしまうかも)

 

 リニスが考えている間にも、フェイトはベッドから立ち上がり黒い《防護服(バリアジャケット)》に身を包んでいく。

 フェイトは部屋の中央まで歩を進めながら言った。

 

「私はアルフと一緒にジュエルシードを手に入れてくる。リニスも傷が治ったのなら、そろそろ闇の書を取りに行って。母さんの願いを叶えるためには、ジュエルシードと闇の書の両方が必要だから」

 

 そう言ってフェイトは部屋を出ようとする。アルフもそれに続こうとした。

 しかし……

 

「待ちなさい!」

 

「……?」

「……リニス?」

 

 突然の制止にフェイトとアルフは後ろを振り返り、怪訝そうな顔をリニスに向ける。

 そんな二人にリニスは言った。

 

「フェイトの言う通り、私たちの責務はあの方が求める二種のロストロギアを手に入れることです。……ですが今まで通りのやり方だと、彼らの妨害によってジュエルシードも闇の書も手に入らないままに終わるかもしれません」

 

「それは……」

 

「まあ、あいつらが邪魔しに来るのは十分あり得るけどさ」

 

 リニスの言葉にフェイトとアルフはばつが悪そうになる。特にフェイトはやはり数日前の敗北がこたえているのだろう、悔しそうに顔を歪める。

 そんな二人を見回しながらリニスは告げた。

 

「ですから、今回はジュエルシードを確実に手に入れるために……私たち全員で行きましょう!」

 

「えっ?」

 

「あたしら全員で……?」

 

 リニスの提案にフェイトとアルフは驚いて顔を上げる。

 そんな二人に向かってリニスはこくりと首を縦に振り、笑みを向けながら言った。

 

「ええ。うまくいけばジュエルシードが手に入る上に、邪魔者が二人くらい減るかもしれません」

 

 

 

 

 

 

 下校してからすぐに家に戻り、傘立ての中から刀を取り出す。母さんが俺用に用意した子供用の真剣で殺傷力もある。

 リニスやフェイトが持っている魔具に比べたらやや心許ないが、短剣(ブラッディダガー)よりはこちらの方がまだいい。

 問題はこれを持って外に出れば思い切り銃刀法違反になることだな。特に街中だといつ警官にしょっ引かれるかわからない。だが、フェイトやアルフはともかく、リニスが現れたら素手や短剣ではとても太刀打ちできない。警官とかに見つかったら結界とかを使って逃げるしかないか。

 刀袋に入っている得物を握りながらそんなことを考えていると、懐にあるスマホから着信音が鳴った。相手はシャマルだ。俺はすぐに通話ボタンを押す。

 シャマルは名を告げてからすぐに言った。

 

『ジュエルシードがある場所がわかったわ』

 

 やっと見つかったか。思わずそう言いかけるもののそれを抑えて。

 

「そうか、ありがとう……で、それはどこにある?」

 

『……街中よ、市街地の真ん中にあるみたい。そんなところにあってよく今まで発動しなかったものだわ』

 

 シャマルはため息混じりに呆れた声をこぼす。

 確かに持っている者の感情に反応して暴走するような魔法石が市街地なんかにあって、何も起こらなかったのは奇跡だ。

 いや、もしかしたら……

 

「もしかしたら街の地下に埋まっているのかもしれない。元々この世界にあったものとは思えないし、次元転移で道路をすり抜けて地下に埋まっていたのかも」

 

『――あっ! 確かに、考えてみればその可能性は高いわね。それなら今まで発動も暴走もしなかったのもうなずけるわ。……っていうか健斗君、よくそんなことに気付けるわね。管理世界の人間でもないのに』

 

「そ、それは……い、今までの話からそう考えたんだよ! ワープとか次元間の移動ってそんなことが起こりそうなイメージがするだろう?」

 

 俺の言い訳にシャマルは怪訝そうにうなる。

 彼女が頭を悩ませている間に俺は話を戻すことにした。

 

「と、とにかく、俺は今からジュエルシードを取りに行く! できればお前たちにも手を貸してほしいんだが」

 

『あ……ああ、リニスやフェイトって子たちもそのジュエルシードを取りに来るかもしれないものね。わかったわ! はやてちゃんが帰ってきたらシグナムたちもそこに向かわせる』

 

「頼む!」

 

 はやてはまだ戻ってきていないのか。だとしたら守護騎士たちはしばらく動けそうにないな。彼女たちにとって優先するべきなのは俺やジュエルシードではなく、闇の書とその主の安全なのだから。

 

 俺は舌打ちをこぼしながらスマホをしまい、刀を手に家を飛び出して市街地へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 フェイトたちと健斗がそれぞれの家から出て数時間後。

 夏に入る前のこの時期はまだ日が暮れるのが早く、18時を過ぎるころには空はどっぷりと暗くなる。それでも月明かりと星々のきらめき、そして街中の建物から灯る明かりのおかげで視界には不自由しないのだが。

 

 光を放ち街を照らす建物のひとつ、その屋上に彼女たちはいた。

 フェイトは人々であふれる街を見下ろしながら口を開く。

 

「大体このあたりだと思うけど、大まかな位置しかわからないんだ」

 

「確かに。これだけごみごみしてると探すのも一苦労だぁね」

 

 アルフはそう言って、狼の姿のまま大きなため息を吐いた。

 そんな彼女たちの後ろからリニスはフェイトに向かって問いかける。

 

「フェイト……本当にやるんですね?」

 

 その言葉にフェイトは重々しい表情で首を縦に振った。

 

「うん。ぐずぐずしているとあの人たちが来ちゃうかもしれない。ちょっと乱暴だけど周辺に魔力流を打ち込んでジュエルシードを強制発動させて、場所を探り当てるよ」

 

 もう手段は選ばない。何が何でもジュエルシードを手に入れないと。

 そう心に決めながら、フェイトは眼下の街に向かってバルディッシュを構える。

 そんな主を見て、アルフも覚悟を決めたように表情を引き締めて言った。

 

「待った! それくらいあたしがやるよ」

 

 そう言い出したアルフにフェイトは見開いた目を向ける。

 

「アルフ! でも……」

 

 そんな主にアルフは笑みを見せながら言った。

 

「主がそこまでやろうとしてんのに使い魔がじっと見ていられるもんか。ここはあたしに任せときな」

 

 アルフがそこまで言うとフェイトは薄く笑って。

 

「じゃあお願い」

 

「ああ――そんじゃ!!」

 

 アルフが気炎を上げると同時に、彼女の足元に円状の魔法陣が浮かび、そこから瞬く間に茜色の光柱が空へと伸びる。

 その様子を、リニスは教え子たちの後ろでただじっと見守っていた。

 

(いよいよですか……さて、誰が来るのやら)

 

 

 

 

 

 

 俺が市街地に着いた頃には空はすっかり暗くなっていた。それにもかかわらず街は明るく、人々は昼と変わらずに街中を闊歩している。

 守護騎士たちの姿は見えない。まだ俺一人だけらしい。

 

 そう思っていると突然雷が鳴り、それと同時に街の明かりが一斉に消えていき、人々は雷から逃れるべく慌てて屋内へと逃げ込む。そんな中、俺は空を見ながら状況を分析していた。

 魔力反応を伴う稲妻、明らかにただの自然現象じゃない。間違いなくあいつらの仕業だろうな。

 

 そう察したところで街の真ん中に雷が落ち、そこから青い柱が立ち昇る。

 ジュエルシードの反応だ。

 そう気付いた瞬間、俺はすぐそちらに向かって駆けた。

 

 

 

 

 

 

「見つけた!」

 

 雷が落ちた場所から昇った青い柱を見つけてフェイトは思わず声を上げる。

 一方、彼女の隣にいるアルフは眼下の街を見下ろして……

 

「……でも、あの子も近くにいるみたいだね」

 

「そのようですね。そしてやはり彼も……」

 

 リニスもある一点を向きながらつぶやく。

 そんな中、フェイトはバルディッシュを構えながら言った。

 

「早く片付けよう。バルディッシュ!」

『Sealing form set up』

 

 バルディッシュはそう告げると自らの形を砲撃用に変える。

 フェイトは射撃砲に形を変えたバルディッシュの先端を青い柱に向けた。

 リニスはそれを見届けながら、

 

「では、そちらは二人に任せます。私はあちらの方を」

 

「うん」

「おう!」

 

 そう返事を返す二人に背を向けて、リニスは屋上から飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 青い光を目指して駆けだすと同時に周囲が紫色に染まり、街中にいた人々が姿を消していく。

 リニスかアルフあたりが張った結界魔法だろうな。だがこちらにとっても好都合だ。

 人目を気にする必要がなくなったことで、俺は宙を飛び空からジュエルシードがある場所を目指す。

 ビルの屋上で金色の光が瞬いたのはまさにその時だ。

 まさか、あんな遠くからジュエルシードを狙い撃つ気か?

 

 俺は急いで件の場所まで飛ぼうとする。だが――

 

『Scythe Slash』

 

 頭上から無機質な声がして俺は反射的に真後ろへ跳ぶ。その直後俺がいた場所に黄色い刃が付いた杖が振るい下ろされた。

 

 それを振るってきたのは女だった。

 胸元が開いた黒いインナー、その上に羽織った白いコート、青みがかった瞳、薄茶色の短い髪、耳を隠すために付けた白い帽子、そして9歳の子供に対しても容赦なく大人げない攻撃……忘れるわけがない。

 

「リニス……」

 

「久しぶりですね御神健斗。やはりここに来たのはあなたでしたか」

 

 ジュエルシードがある場所へと急ぐ俺の行く手を塞いだのは、高位の魔導師によって作られた猫型の使い魔にして、現状において最も厄介な敵でもあるリニスだった。

 俺は自然と彼女を睨む。彼女も目を細めて俺を見据えた。

 

 その時ビルから金色の光がジュエルシードに向けて放たれ、その反対側からも桃色の光が放たれた。

 二つの魔力がジュエルシードと衝突し、あたり一帯がまばゆい光に包まれる。俺もリニスもたまらず腕で顔を覆いながらそちらを見た。

 

 ほどなく光は収まり、表面にXIXの文字を浮かべながら宙を漂うジュエルシードが現れる。

 そこに向かって一人の少女が歩いて来た。

 聖祥の女子制服によく似た白い服を着ていて、赤い宝石が付いた杖を左手に持っている。

 その少女は俺がよく知っている人物で――

 

「……なのは?」

 

 その声に反応したのか、空に浮かんでいる俺たちに気付いたのか、なのはもこちらを見上げてつぶやく。

 

「健斗君……?」

 

 さらに、なのはの後ろにはユーノというフェレットもいて、なのはとともに俺たちを見上げていた。

 

(やっぱりあの人は……)

 

 なのはたちがいる反対側にはリニスの仲間の少女フェイトもいる。

 

(あの人も来たのか……)

 

 

 

 こうして俺はとうとう、なのはまでもがジュエルシードに関わっていたことを知った。ジュエルシードを求める二人目の魔法少女の存在を知ったのである。

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