リニスたちの魔法によって強制的に発動したジュエルシードのそばに現れたのは、俺の幼なじみにして従姉妹でもある少女高町なのはと、ユーノというなのはが飼っているフェレット(?)だった。
「なのは……なんでお前がここに?」
なのはは俺の問いに答えず、逆に聞き返してきた。
「健斗君こそどうやって結界の中に? それになんで健斗君が空を飛んでいるの?」
……?
なのはが発した疑問の片方に俺は眉をひそめる。
なぜなのはの口から結界なんて言葉が? その言い方だと、この結界はリニスたちではなく、なのはたちが張ったような言い方じゃないか。
「なのは、伏せて!」
俺となのはが固まっているところで、ユーノはそう叫んでなのはの前に飛び出す。同時に彼女らの真上から赤い狼が飛びかかってきた。フェイトが従える使い魔、アルフだ。
アルフとぶつかる寸前にユーノの前に緑色の障壁が現れ、アルフはそれに弾かれる。
しかしアルフは空中で巧みに体をひねることで、難なく地面に着地した。
「はああっ!」
アルフに呼応するように、リニスもまた雷刃が付いたステッキを振るってくる。
俺は刀を取り出し、リニスの杖――バルバロッサを受け止めた。
◇
健斗とリニスが空中で戦いを繰り広げている真下で、なのははフェイトと対峙したまま戸惑っていた。
なぜ健斗が結界の中に入ってこられたのか、なぜ空を飛んでいられるのか、なぜ白い帽子とコートを身に着けた女性と戦っているのか、色々と疑問は尽きないもののひとつだけ確かなことがある。
健斗もまた自分と同じ魔法を使う魔導師だ。その事をなのはは初めて知ることになった。
(健斗君がなんでここに来れて、何のために女の人と戦っているのかはまだ分からない。でも今は――)
なのはは頭上で戦う彼らから視線を落とす。
そこには数週間前にすずかの家の庭で出会った黒い服の少女がいた。
なのはは足を一歩だけ前に踏み出しながら、目の前の彼女に向けて口を開いた。
「この間は自己紹介できなかったけど、私なのは――高町なのは! 私立清祥大付属小学校三年生! ……あなたの名前は?」
なのはの自己紹介に対して、目の前の少女も口を開いた。
「私はフェイト――フェイト・テスタロッサ……でも覚える必要はない」
フェイトは黒い杖をなのはに向けて構えながら――
「私はそのジュエルシードを手に入れたいだけだから!」
そう口にするやフェイトの杖から『Scythe Form』という声とともに雷の刃が飛び出し、フェイトの手にした杖は鎌のような形に変わる。それを手にフェイトはなのはに向かってくる。
なのはは両足に魔力でできた桃色の翼を生やして頭上に跳び、フェイトの一撃を躱す。
空高く浮かび眼下にいるフェイトを見ながらなのはは思った。
(フェイトちゃんどうして……どうしてそんなに寂しい眼をしているの?)
◇
「サンダースマッシャー!」
リニスがそう口にした直後に彼女の杖から黄色い光線が放たれ、俺はそれを避ける。
光線を避けた俺の前にリニスが迫って来たのはまさにその時だ。こちらに向かってくる動作さえ見せないほど速い動きだった。リニスはすでに杖を振り上げていて、俺にまっすぐ得物を打ち下ろしてくる。
俺は相手が現れると同時に刀を前に突き出す。
俺の刀とリニスの杖は真正面から衝突し、火花を散らしながら空中でぶつかり合った。
何度か剣戟を繰り返してから、俺とリニスは得物をぶつけた反動を利用して後ろへ跳び、互いに距離を取って睨み合う。
(相変わらず速いな。動作がまったく見えない。一瞬でも気を抜いたらすぐに叩きのめされてしまう……恐ろしい奴だ)
(この前と比べて身体能力が劇的に上がったわけでもない。それなのに技能なしでも私の攻撃を受け止められるようになっている。得物が変わって調子が出ているのもあるのでしょうが、私との再戦に備えて修練もしていたようですね。これでこの子がデバイスを手にしたりしたら……)
リニスは俺に向けて武器を向け、それに合わせて俺も刀を構える。
(……でも)
「――!」
その直後に、リニスは一瞬にして俺の眼前まで距離を杖を振るってきた。
俺はわずかに狼狽しながらも、かろうじて刀を前に突き出しリニスの杖を受け止める。
その衝撃からはリニスの強い闘志とともに殺気までもが伝わって来る。
負けるわけにはいかない。主のためにも、フェイトのためにも――。
「私はまだ負けるわけにはいかない!」
そう叫んで勢いを付けながらリニスは杖を振り下ろしてきた。かろうじて刀でそれを受け止めながら俺もまた叫ぶ。
「負けるわけにいかないのはこっちの方だ!」
力を振り絞り勢いのままに刀を振り上げ、その衝撃でリニスの杖は弾かれる。
俺はそのままリニスを斬らん勢いで彼女に向かっていくが、リニスは刃を避け一瞬にして俺から距離を離す。
そんな相手に俺は再び刀を向けた。
こんなところで負けたら、二度と夜天の魔導書を止めることができなくなってしまう。“彼女”に会うこともできなくなってしまう。だから――。
「俺は負けるわけにはいかない!」
どれだけ優秀な魔導師やその使い魔が相手だろうと、負けるわけにいくものか!
「そうですか……」
リニスはつぶやきを漏らしながら固い表情で杖を構え、俺たちは睨み合いながら対峙する。
そんな時だった。
「フェイトちゃん!」
俺たちよりやや高いところから響いて来た声に、何があったのかと俺もリニスも思わずそちらに顔を向ける。そこにはフェイトという少女に対して、桃色の杖を向けているなのはの姿があった。
「ぶつかり合ったり競い合うことになるのはそれは仕方のないかもしれないけど……だけど、何もわからないままぶつかり合うのはわたし嫌だ!」
フェイトに杖を向けたまま、なのはは必死に訴え続ける。
「私がジュエルシードを集めるのはそれがユーノ君の探し物だから。ジュエルシードを見つけたのはユーノ君で、ユーノ君はそれを元通りに集め直さないといけないから。私はそのお手伝いをするだけのつもりだった。だけど……
ユーノ君のお手伝いをするようになったのは偶然だけど、今は自分の意志でジュエルシードを集めてる。自分が暮らしている町や自分のまわりの人たちに危険が振りかかったら嫌だから。
――それが私の理由!」
なのはの言葉に響くものがあったのか、フェイトはおずおずと口を開こうとする。
「私は……」
「フェイト! 答えなくていい!」
だが、フェイトの言葉は眼下からの声にかき消される。そこには赤い狼の姿でユーノを追っていたアルフがいた。
「優しくしてくれる人たちのトコでぬくぬく甘ったれて暮らしているようなガキンチョになんか、何も教えなくていい! あたしたちの最優先事項はジュエルシードと闇の書を手に入れることだよ!」
主に向かってアルフがそう吼えると、フェイトは口から出かけていた言葉を飲み込んで鎌をなのはに向け、なのはは息を飲んだ表情でフェイトを見る。それが隙になってしまった。
フェイトは瞬時に向きを変えてジュエルシードの方へと向かい、なのはは慌ててフェイトを追う。そこに俺とリニスが割り込む余裕はなかった。
真下に向かって滑空しながら、フェイトはジュエルシードを掴み取ろうとするようにまっすぐ鎌を伸ばす。
なのはは自身の中にある魔力を振り絞り速度を上げながら、フェイトと同様にジュエルシードに向けて桃色の杖を伸ばす。
その結果……
「えっ……?」
そんな声が何人かの口から漏れた。
なのはの杖とフェイトの鎌は同時にジュエルシードを捕まえていて、ジュエルシードは二つの魔具に挟まれる形となっていた。
その瞬間、ジュエルシードを捕えていた二つの魔具の先端にひびが走り、ジュエルシードから大量の光があふれ出した。
「きゃあああああ!」
光はそのまま二人や街を包み込み、俺たちの視界は瞬く間に真っ白に塗りつぶされた。
「しまった!」
真っ白な視界の中から聞こえてきた男の声は幻聴に違いない。結界に閉ざされているこんな場所に俺たち以外の人間なんているわけないからだ。
その時の俺はそう思っていた。