「なんでお前が生きてんだケント!? お前は死んだはずだ! ゆりかごの魔力砲に飲み込まれて!」
俺の胸倉をつかみそう繰り返すヴィータ。はやてはヴィータに駆け寄る。
「な、何言ってるのヴィータ? 健斗君は生きてるよ。ほら、このとおりピンピンしてるやんか」
「うるせえはやて! お前は黙ってろ! あたしはこいつに聞いてんだ!」
突き飛ばさん勢いでヴィータは
その時、俺達の頭上に魔法陣が現れた。
『クロノ、お疲れ様。ちょっといいかしら……これは何の騒ぎ?』
魔法陣に映し出された緑髪の女性は俺たちを見て困惑の色を浮かべる。しかしクロノは姿勢を正しながら――
「いえ、何でもありません。他愛のない
『まあ、あの状況じゃ仕方ないわ……でね、ちょっと彼らと話をしたいんだけど』
そう言って緑髪の女性はクロノの返事も待たず、俺たちの方に顔を向けた。
『初めまして、時空管理局所属艦『アースラ』の艦長リンディ・ハラオウンです。部下たちの非礼は私からお詫びします。魔法を使うことができる人間がまさか管理外世界にいるとは知らず。そのお詫びも兼ねて、あなたたちを私たちがいる船に招待したいと思うのですが……いかがでしょうか?』
リンディと名乗る女性の言葉に、俺たちは懐疑的な表情になる。
絶対お詫びがしたいだけではないだろう。俺たちから色々と聞き出したいという顔をしている。
とはいえ聞きたいことがあるのはこちらも同じだ。それに相手はかなりの組織。ここで拒否しても連中にとって俺たちを取り押さえるなんて造作もないことだ。
俺はリンディに向かって一歩進み出てから言った。
「条件があります」
『何でしょう?』
条件という言葉にリンディは眉をひそめることもなく聞き返してくる。そんな彼女に――
「艦長さんがいる所まで俺たちを案内するのは誰か一人だけ……そこのクロノって人にやらせてください」
「――なにっ!?」
俺から指を差されてクロノは思わず声を上げる。リンディは『構いませんよ』と首を縦に振り、憤るクロノに構わず俺は話を続けた。
「それと、あなたがたの船とやらへ行く前に俺たちの保護者に連絡をさせてください。帰りは遅くなるでしょうからそう伝えておかないと」
二つ目の条件に保護者たちへの事前連絡を加えた。
その連絡によって、俺たちの帰りが遅くなっても彼らが心配するようなことはなくなるが、俺たちがいつまで経っても帰って来なければ間違いなくリンディたちが怪しまれる。
異世界の人間にとっては現地の警察に怪しまれても痛くもかゆくもないことかもしれないが、この間の地震を始め、魔法がらみの怪現象がこの町で多々起きている。万が一俺たちの失踪がそれに関連付けられたら彼女たちにとってまずいことになる……かもしれない。
『ええ、もちろんです。お父様やお母様に心配をさせてはいけませんからね。どうぞ連絡してあげてください。もちろん、遅くなった場合はこちらに泊まっていただいても構いませんから』
俺の意図を承知の上で、リンディは保護者への連絡を許可してくれる。さすがに今の時点で彼女たちの船に泊まっていくつもりは毛頭ないが。
「それとこれはお願いですが、そこにいるはやてはもちろん、なのはも魔法が使えるものの、異世界についてはほとんど何も知らないただの民間人です。それを踏まえたうえで対応していただけませんか」
魔法陣によるモニターをぽかんと眺めているはやてとなのはの方を示しながらそう求めると、リンディは固い表情で答えた。
『……わかりました。彼女たちの処遇については慎重に考慮すると約束しましょう。決して悪いようにはしません』
「絶対ですよ……」
そう念を押すと、リンディは固い表情のまま首を縦に振って通信を終える。
俺は連れの方を振り返り――
「そういうわけで、これからリンディさんって人たちがいる船にお邪魔することになった。いざとなったら俺が命を張ってでもお前たちをここに帰してやる。ただ、万が一のためになのはは桃子さんに、はやては石田先生に連絡を入れておいてくれ」
「う、うん!」
「わかった」
指示通り、なのはとはやてはスマホを取り出して保護者またはそれに近い人に連絡を入れ始める。それを眺めながら俺はクロノに顔を向け、
「じゃあ連絡をすませたら行こうか、クロノ・
「……君、性格悪いだろう」
苦虫を噛み潰したような顔で俺を睨む彼に、俺はニヤリという笑みを向けた。
◇
「頭の回る子ね。子供とは思えないくらい駆け引きがうまいわ。さりげなく人質まで取ってるし……本当に小学生かしら?」
◇
リンディという艦長に告げた通り、それぞれ親などに連絡を入れてから、俺たちは魔法陣を通って時空管理局の船、アースラに足を踏み入れた。
クロノに先導されながら、俺たちはリンディがいる場所まで進む。
「ここって一体……?」
船の中だという実感がわかないのだろう、通路を見回しながらなのはは口を開く。
無理もない。次元空間の中を飛んでいるためか飛行機や水上船と違って、この船には窓というものがないらしい。一面壁だらけでとても船の中とは思えない。
そんななのはの気も知らずユーノは型通りの説明をする。
「時空管理局の次元航行船の中だね。えっと……簡単に言うと、いくつもある次元世界を自由に移動する……そのための船」
「あ、あんま簡単じゃないかも」
なのはの言葉にユーノは困ったように「えっとね」と説明しようとした。その慣れない説明ぶりを聞いて俺はたまらず口を挟む。
「宇宙船みたいなものだ」
「宇宙船……」
相槌を打つなのはに俺はうなずいて話を続けた。
「俺たちが暮らしている地球の他にもさまざまな世界や次元があって、この船はそれらの世界や次元を行き来するための船らしい……ようするに宇宙空間に浮かぶ惑星とそこへ行くための宇宙船だと考えればいい。次元が宇宙のようなもので、この船はその中を飛んでいる宇宙船もどき」
「ああ! そういうことか!」
宇宙に例えた途端、なのははストンと胸に落ちたような声を上げる。
なのはは機械に詳しく、それらが出てくるSFが大の好みという一面がある。こういう例えの方が彼女には伝わりやすい。
「クロノやリンディって艦長が言う時空管理局というのは、察するにその別の世界や次元の中で起きる犯罪を取り締まっている組織といったところだろう……違うか?」
「いや、それで合ってる」
前を歩くクロノに確認すると彼は前を向いたままそれだけを告げた。そして……
「ふーん、詳しいな。他の次元世界に行ったこともないのに。さすが異世界で王様やってただけはある」
その声に反応して顔を向けると、後ろの方でヴィータが拗ねたように両手を首の後ろに回しむすっとしながら歩いていた。
明らかに俺に対して不満がある顔だな。無理もないが。
一方、ヴィータが言ってたことの意味がわからず、なのはとはやては顔を見合わせながら首をかしげていた。
そんなことを話している間に電子式のドアを潜り抜けて次の通路に入る。
そこでクロノはこちらを振り向いて――
「いつまでもその格好というのも窮屈だろう。《バリアジャケット》と《デバイス》は解除して平気だよ」
そう言われてはやてともども戸惑っていると、なのはと守護騎士たちは魔導着を元の服に戻し、魔具を元の状態に戻していく。
そういえば現代では魔導着は《バリアジャケット》、魔具は《デバイス》と呼ぶんだったな。ユーノから一度聞いたことはあるんだが、まだ慣れない。
なのはたちの除装を見届けた後もクロノは先に進まず俺の方を見て……
「その剣――いや刀か。そのデバイスも待機モードにしてくれないか。その状態のままだと不安なんだが」
「いや、これは魔――デバイスじゃないんだ。魔法の力を持たないただの武器」
「魔法の力を持たない……そんなもので今まで戦っていたのか?」
驚きに目を剥くクロノに俺はうなずいて見せる。
「もちろん魔力を付与したり、別の魔法を駆使したりもしたけどな。さすがにそうでもしないとリニスとかには勝てない」
「そうか。それを預けてもらうことは……」
その言葉に俺は首を横に振る。
「まだお前たちを信用できない。そこに大勢の局員が待ち構えているとか罠が仕掛けられていないとも限らないし、鞘に収めたまま持っていくぐらいはさせてもらう」
「……いいだろう。でも僕も艦長もそんな卑劣なことはしない。……じゃあ、君も元の姿に戻ってもいいんじゃないか」
クロノは俺から視線を落としユーノにそんな言葉をかける。するとユーノは、
「ああ、そういえばそうですね。ずっとこの姿でいたから忘れてました」
その言葉にほとんどの者たちは首をひねる。もしかして……。
そんな俺たちの前でユーノは緑色の光に包まれ人の姿になった。
文様が入った上着に短パンを着た、二本のアホ毛が跳ねあがってる金髪に緑がかった瞳の少年だ。
彼を見てザフィーラ以外の騎士たちとはやては驚きの声を上げ、なのははカタカタとユーノを指差しながら――
「ふえええええええええっ!!」
アースラ中に響いたのではないかと思われる絶叫に俺たちはたまらず耳をふさぎ、ところどころにある部屋から青いスーツを着た局員がわらわらと出てくる。
それにかかわらずなのははユーノを見ながらあたふたとパニックっていた。
呆れた顔で尋ねてくるクロノの問いにも答えず、なのはとユーノは言い合いを続ける。
どうやらジュエルシードの暴走体の攻撃を受けてユーノは無意識の間にフェレットのような小動物に変身したまま気を失って、そこへなのはが傷ついた彼を拾って動物病院に預けたらしい。ユーノが人間だと知らないまま。
それだけならそこまで驚かなくてもと言いたいところだが、ユーノは今までの間ずっとペットとしてなのはの部屋で暮らしていて、旅行の時に至っては彼女たちと一緒に女湯に……俺も少し腹が立ってきたな。こいつの正体を士郎さんや恭也さんにバラしてやろうか。
そこでクロノは咳払いをしながらなのはたちに声をかけ、艦長が待っている応接室へと急ぐように促す。
応接室へ向かう彼の後に続いて俺たちは再び通路を進んだ。
しかしやはり似てるな。サニー・スクライアにそっくり……いや瓜二つだ。
スクライアという部族姓だけでは判断できなかったが……もしかしてこいつ、サニーの子孫か?