遠見市、フェイトたちが住んでいるマンションにて。
「君から預かっていたバルディッシュだ。約束通りお返ししよう。それと、これがデバイスの威力を高めるのに必要な《カートリッジ》だ。出かける前に装填しておいてくれ」
「……あ、ありがとうございます」
仮面の男が差し出した待機状態のバルディッシュと小さな箱を、フェイトはおずおずと受け取り再び口を開いた。
「あの、リニスのデバイスも預かっていたって聞いてますけど……」
「ああ、先ほど《時の庭園》へ寄った際に渡したところだ。昨日入手したジュエルシードと母君の薬と一緒にな」
「ふん、あの鬼ババにジュエルシードを1個や2個届けても逆ギレするだけだっただろう。ひどい事されたんじゃない?」
腕を組みながら尋ねてくるアルフに男は肩をすくめながら……
「心配してくれてありがとう。女史に渡したのは1個だけだが、特に何もされなかったよ。まあ、私の役目は向こう側にある闇の書とジュエルシードを手に入れてくる事だから、怒るわけにもいかないんだろう」
「あっそ、そりゃよかったね」
男の返事にアルフは不愉快そうにそっぽを向く。リニスやフェイトなら平手打ちが飛んでくるのに、男は何もされないのが不満なのだ。
そんなアルフに苦笑するような声を漏らしながら、男はフェイトに視線を移して尋ねた。
「私のようなよそ者が、君たち家族の中に入り込んできたことがまだ不満かな?」
男からの問いにフェイトは首を横に振りながら答える。
「……いえ、母が決めたことですから。私が反対するつもりはありません」
「まっ、あたしも
「それは気にしなくていい。私としても無用ないざこざで戦力を減らされては困るからな。では用事も済んだし私は失礼する。これから寄る所があるのでな」
そう言って踵を返そうとする男にアルフは尋ねる。
「寄る所ね。これから闇の書を奪いに行くわけでもなさそうだけど、何しに行くんだい?」
アルフの問いに男は振り返りながら……
「ある雑用を頼まれていてな。これからそちらに行かなくてはならないんだ」
「ふーん、ロストロギアを狙っているほどの奴がそんなことしてるとはね。それとも、管理局って奴らの動きをあんたが
アルフの探るような問いに男は首を横に振った。
「何を言っているのかわからないな。そろそろ本当にお暇させてもらうぞ。君たちも早く準備を済ませてジュエルシード探しに行くんだな」
そう言うと男はカードを取り出し、魔法陣を出現させることもなく一瞬で部屋から消える。それをぽかんと眺めてしばらく経ってから、フェイトはふとアルフに声をかけた。
「そういえばアルフ、あの人と結構話してたね。アルフはあの人の事嫌いなんだと思ってたけど」
「ああ、大嫌いさ。フェイトやリニスが失敗したのをいいことに、鬼ババに取り入るような奴なんてね。……ただ、なんとなくだけど、あいつってあたしたち……ううん、リニスと同じ感じがするんだよね。何でだろう? 全然似てないはずなのに……」
アルフは腕組みしながら考えこむも、結局彼女が男に対して抱いた違和感の正体はわからなかった。
◇
その頃、海鳴市近郊の森では。
「ラケーテンハンマー!」
ラケーテンフォルムによる噴射を利用してヴィータは巨鳥の上まで飛び、巨鳥の頭にアイゼングラーフを叩きこむ。
その衝撃で巨鳥は真下に落ちる。ヴィータはすかさず相方に向かって叫んだ。
「高町――なんとか、今だ!」
「なのはだってば! いい加減覚えてよ!!」
『Divine Buster!』
文句とともに放たれたなのはの砲撃魔法によって地面に倒れている巨鳥は跡形もなく消し飛び、巨鳥がいた場所からジュエルシードが浮かび上がる。ジュエルシードに向かってなのはがレイジングハートを構えると、ジュエルシードは吸い込まれるようにレイジングハートの先端に収まった。
一方、その様子をブリッジから見ていたランディはジュエルシードを回収した二人を労い、彼女たちをアースラの中まで転送する準備を始める。
その様子を見て――
「うーん、二人ともなかなか優秀だわ。なんだかんだ言いながら息もぴったりだし、あの二人だけでもこのままうちにいてくれないかしら」
リンディは顎に手を当てながら感嘆の笑みと声をこぼす。その下からアレックスの声が上がってきた。
「艦長、補給班から通信です。本局から物資が届いたとのことですが」
「すぐに繋いで……私です。何が届いたの? …………」
一方、通信室ではクロノとエイミィがジュエルシードとリニス一味の捜索をしていたが……。
「あー、ダメだ。やっぱり見つからない。あの子たち、よっぽど高性能なジャマー結界を使いながら行動しているみたい」
リニスたち三人が表示されているモニターを睨みながら、エイミィがそう愚痴をこぼす。クロノもモニターを眺めながら、エイミィの説明に補足を加えた。
「多分、フェイトって子と一緒にいる使い魔のどちらかがサポートしているんだろう。もしかしたらあの仮面の男も彼女たちに協力しているのかもしれない」
「だろうね。おかげでもう3個もこっちが発見したジュエルシードを奪われちゃってる」
「しっかり探して補足してくれ。頼りにしてるんだから」
『クロノ!』
弱音を吐いてる部下を叱咤しているところでモニターの一部にリンディが映り、彼女に向かってクロノは「はい」と言って応じる。リンディは通信越しに、
『例のデバイスとバリアジャケットが届いたらしいわ。健斗君のもとまで届けてくれる?』
「ええ、構いませんよ。彼は今も……」
クロノの問いにリンディは固い声で答えた。
『まだ続けているでしょうね。芳しくないみたいだけど』
◇
『ERROR︰問題が発生したためプログラムを終了します』
くそっ、またか!
魔力モニターに出現したメッセージを見て内心で毒をつく。そんな俺の胸中を察したように、
「気にしたらあかんよ健斗君。朝からずっと作業しっぱなしやしそろそろ休憩したらどうかな。焦らんでも時間ならまだまだたっぷりあるよ」
「……ああ」
読書を中断して部屋の隅から声をかけてくれるはやてに、俺はどうにかそれだけを返す。しかし、彼女の言葉に甘えて本当に休憩していいのかと考えると、それは躊躇われるものがあった。
アースラに乗ってからの数日間、なのはや守護騎士たちがジュエルシードを取りに行っている間、俺はマリエルという技術スタッフが作った『コピー・ザ・ナイトスカイ』というソフトを使って、プログラムを修正している。
夜天の魔導書のシステムにアクセスするには、全頁の蒐集と管制プログラムの認証が必要だ。今の時点では主であるはやてにすら管理者権限がなく、プログラムを改変することはできない。
そのためマリエルさんに夜天の魔導書のプログラムだけを再現したソフトを作ってもらい、プログラムを修正するための練習をしているのだが……まったくうまくいかない。
魔導書の機能のほとんどは元の形がわからないほど改変されており、ちょっとソースを書き換えただけだとこの通りエラーが起きてしまい、自動蒐集など一部の機能を停止しようとしてもたちまちのうちに防衛プログラムによって阻まれてしまう。もしこれが本番だったら、アースラもろとも魔導書に喰われていたところだろう。
まったく、魔法を記録するだけの書物を考えもなしによくここまで弄ってくれたものだ。
そんな風にひたすら闇の書もどきのプログラムをいじっている俺(とユーノ)の部屋で、なぜはやてが電子書籍を読んでいるのかというと、さっきまではやてに頼まれて例の施術を施していたからだ。
今はヴィータもいないし施術をするには都合のいいタイミングだが、少し引っ掛かる。まだ一週間経ってないし、何よりはやての方から施術を頼んできたことなんて今までなかったのに。
……本当に時間なんてあるのか?
「健斗君、ちょっと昔のことで聞きたいことがあるんやけどええかな?」
「ん? 何だ急に?」
考え事をしている最中にはやてに声をかけられて思わず聞き返す。するとはやては言いづらそうにしながらもおそるおそる口を開いた。
「あのな、健斗君にとって思い出したくないことかもしれないんやけど……健斗君は施設にいた頃の事って覚えてる?」
「ああ……あの頃か」
久しぶりにあの頃について聞かれ、ついそんなつぶやきを漏らす。
母さんに引き取られる前、あの施設にいた頃の事は覚えてはいるがあまり気分のいいものではない。このオッドアイが原因で他の子供からからかわれたり一部の職員からも奇異の目で見られたり、はっきり言って嫌な事ばかりだった。
「物心がついた後ならある程度は覚えてはいるが、どうしてあの頃の話なんか?」
「うん。健斗君って美沙斗さんに引き取られる前にも一度だけ養子になる話があったって言ってたやんか。その時のことも覚えてる? 健斗君を引き取りたいって言ってた人たちと会ったこととか」
「ああ、確かにその人たちと一度だけ話したことはあるな。優しそうな夫婦だったよ。そういえば二人ともはやてにそっくりだったな。関西弁に似た話し方をしてたし、特に奥さんなんかはやてがそのまま大人になったような――」
「それほんまか!?」
あの夫婦について口にした途端はやては突然食いついたように顔を近づけてきて、あまりの迫力に俺は思わず椅子を引いてしまう。それを見てはやては我を取り戻して椅子に座り直した。
しかし彼女は落ち着かない様子で再び何か言おうとして躊躇い、やがて大きく息を吸ってから意を決したように声を発した。
「その夫婦なんやけどな…………実は――」
「健斗、少しいいか?」
はやてが何か言いかけたところで部屋にクロノが入って来て、俺たちは慌ててそちらの方を見る。そんな俺たちを見てクロノは呆れた顔をしながら、
「……お邪魔だったか?」
「じゃ、邪魔やない! 普通に話してただけや!」
「ああ、ちょっと昔の事を話してただけだ。それよりどうしたんだ? なのはたちの方で何かあったのか? それとも……」
俺が尋ねるとクロノは真面目な顔に戻って言った。
「いや、そっちじゃない。君に頼まれたデバイスとバリアジャケットが届いたから、それらを渡しに来たんだ」
「本当か! ありがとうクロノ――さん」
そこで俺はクロノさんが年上だったことを思い出し慌てて彼に敬称を付ける。するとクロノさんは首を横に振って、
「いい。君たちは艦長が預かっている民間協力者で僕の部下じゃないんだ。無理に敬語や敬称を使う必要はない。年がわかった途端急に敬語を使われても不愉快だしな」
「そうか。じゃあ遠慮なく今まで通りの話し方にさせてもらうよ」
「私もその方がええわ。クロノ君とは先輩後輩とか抜きの友達として付き合いたいし」
俺とはやての返事にクロノは拗ねているようなまんざらでもないような顔でそっぽを向く。
アースラに乗ってから知ったのだが、クロノはこう見えても14歳で、俺たちより年上だったらしい。それを知っててもついタメ口になってしまい、とうとうこうして本人からお許しが出た形になった。
「で、“あれ”とバリアジャケットは? 持ってきたんだろう」
「ああ、これだが……そんなに楽しみだったのか? こんな物をもらうのが」
そう言いながらクロノは剣の形をした小さなアクセサリーを差し出してくる。俺は興奮を隠しきれないまま意気揚々とそれを受け取った。形が変わったとはいえ、こうして触れるのはずいぶん久しぶりだ。
「へー、シグナムのレヴァンティンみたいやな。その中にバリアジャケットって服もあるん?」
はやての問いに俺――ではなくクロノが首を縦に振った。
「ああ。デザインも健斗に注文された通りのはずだ。ちょうどいい、ここで装着してくれないか。着心地とか問題がないか聞いておきたい」
「あっ、それええな! 私も健斗君の新しい武器と服が見たいと思ってたんや」
そう言って二人はじっとこっちを見る。確かに一度はじっくり見ておきたいところだが……。
「……どうした? 早くバリアジャケットを着てくれ」
「そうそう、バリアジャケットって一瞬で着れるんやろ? ここで脱げって言ってるわけやないんやし、はよ見せてな」
いや、この前フェイトが装着しているところを見た限り、現代でも一瞬だけ裸になるみたいだが。もちろんフライングムーヴでも使わない限り、普通は体を見ることなどできないが。
俺の気も知らずはやてとクロノは早く着ろと催促してくる。
ええい、うじうじしても仕方ない。ここは一つ腹を決めるか!
俺は剣型のアクセサリーを前に掲げ――
「《ティルフィング》――
『Ja Meister!(御意!)』
次の瞬間、俺の体は紺色の光に包まれ、瞬く間に紺色のコートと服が身を包み、手の中に収まるほど小さなアクセサリーはグランダム王国の国章を刻んだ柄が付いた、手頃な長さの剣に変わる。
そうして、あっと言うほどの間もなくバリアジャケットとデバイスの装備は完了した。
それを見てはやてはぱあっと目を輝かせた。
「はー! やっぱり間近で見るとかっこええな。アニメの変身シーンみたいや。でも服のデザインはS○Oのパクリみたいやな。キリ○が着てるのにそっくりやん」
「仕方ないだろう。デザインセンスなんてないからアニメやゲームから借りてくるしかなかったんだ。でも色は違うぞ。あっちは黒で俺のは紺色だ」
一方、クロノはバリアジャケットについてあれこれ言い合う俺たちに呆れた目を向けていた。
「君たちが何を言ってるのか僕にはまったくわからないが、バリアジャケットについては文句なさそうだな……でもデバイスの方は、
クロノが放った問いに俺もはやても口を閉ざす。
俺が今持っている剣は、ベルカ史上最悪の王と言われた《愚王ケント》がかつて愛用していた剣だ。ケント亡き後、この剣は一度も使われることなく、“ある一族”によって代々受け継がれてきたという。その一族の名は……
「《セヴィル家》から借り受けたものだが、とても縁起がいいものじゃない。ベルカ制覇を果たせなかった愚王の怨念が宿っていると言われるくらい不吉なもので、一族内で何度も破棄の声が上がっていたほどだ。剣の貸与を頼んだ時に向こうは相当驚いていたみたいだな」
……怨念どころか生まれ変わりがここにいるんですけど。剣とか関係なしに。つーか俺って死んでからずっと悪霊みたいな扱いされてたのか。
「でも愚王さんの剣を代々受け継いでたってことは、セヴィル家ってもしかして……」
物怖じする様子も見せずティルフィングを眺めながらつぶやくはやてに、クロノは首を縦に振って言った。
「ああ。愚王ケントの異母妹『ティッタ・セヴィル』を始祖とする一族だ。ベルカ自治領で最も大きな力を持つ家のひとつで、ダールグリュン家やエレミア家と並んで《ベルカ三家》と呼ばれている」
ベルカ三家か……ティッタの子孫がそんなに偉くなっているとはな。後世で散々扱き下ろされている兄とはえらい違いだ。
他の二つの家も聞き覚えがある名前だ。元々大帝国の皇族だったダールグリュンは納得できるが、エレミアの子孫まで名家になっているとは。
「へぇ、愚王の妹なのにえらい出世やな。普通なら迫害とか受けてそうなもんやけど」
はやての口からそんな疑問が出てくる。そこは俺も心配していたところだ。それがどうして?
その疑問にクロノは笑いながら答えを返した。
「兄と違って立派な人物だったからな。10万もの敵軍に単身で立ち向かったほど勇敢な騎士で、ベルカ全土が荒廃していく中懸命に領地の運営に取り組んだと言われている。不当に王宮から追放されたこともあるぐらい兄とは不仲だったし、そんな境遇もあって愚王の妹だからと冷遇されることはほとんどなかったみたいだ」
ティッタについての説明を聞いてはやては「はぁー」と感嘆の声を上げる。そんな中俺はティッタの一族が弾圧されなかった理由に納得する反面、ベルカの荒廃という言葉を聞いて気分が沈んでいくのを感じた。
しかし、日の光が常にさえぎられているほどの天候不順や《
そんな中、聖王連合の主導によってベルカの住民たちは他の世界へ移住していった。
とりわけ最も多くの人々が向かって行った世界こそ『ミッドチルダ』。聖王連合はベルカに並ぶほどの魔法技術を持つミッドチルダへの侵略を目論んだのだ。
しかし、ミッドチルダの魔法は戦いにおいても優れていて、個人戦ではベルカ側が優勢だったものの、距離や範囲は完全にミッドチルダ側が勝っており、それに加え開発されたばかりの《質量兵器》の投入が決め手となって、次第にベルカは追いつめられるようになった。
そんな中で双方の仲裁に動いたのが聖王を崇める宗教団体《聖王教会》、そしてダールグリュン・エレミア・セヴィルの家々からなる《ベルカ三家》だという。
彼らの奮闘のかいあって両軍は武器を収め、ベルカ人は荒れ地だった北部の開拓を条件に、そこでの定住が認められた。
それから百年ほどは、よほどの理由がなければ北部から出られないなどほとんど流刑人扱いだったが、聖王教会の信徒拡大、他の世界との戦への参加、各世界での人権意識の高まりによってベルカ人の地位は徐々に回復し、そして聖王教会とベルカ三家が時空管理局の創設に寄与したことで、北部の一部分を『ベルカ自治領』とすることが認められた。
ケントが死んだ300年前から現代までの間にこれほどの事が起きていたらしい。あの戦乱がもう少し違う形で終わっていれば、その歴史も違うものになっていたのだろうか?
だとすれば、多くのベルカ人に苦難を強いた歴史の元凶であるケントは、やはり愚王と呼ばれても仕方がないのかもしれない。
俺が落ち込んでいる間にベルカ三家についての解説は終わっていたようで、クロノは俺に声をかけティルフィングについての話を再開した。
「それで、そろそろ話を戻すが、本当にそんな剣を使うつもりなのか? さすがに怨念なんて信じていないが、心理的な影響は否定できない。僕としては剣を返して他のデバイスを使うことを勧める。君ならストレージデバイスでも十分力を発揮できるだろう」
純粋な親切心からそう忠告してくれるクロノに俺は首を横に振って言う。
「いや、これがいい。俺にはやっぱり剣がしっくりくるし、持ち主がどんな馬鹿でも剣に罪はない――そうだろうティルフィング?」
『Ich kann diese Frage nicht beantworten, aber ich folge einfach dem Meister(その問いにはお答えいたしかねますが、私はただマイスターに従うだけです)』
俺が問いかけるとティルフィングはそう答えてくれた。
騎士や臣下みたいな受け答えをする奴だな。それにところどころ言い方に含みがあるし、もしかしてこいつ俺の正体に気が付いているんじゃあ……。
クロノは呆気にとられた顔になってから再び口を開いた。
「そうか。そこまで言うなら僕からはこれ以上何も言わない。返却はいつでも可能だから気が変わったら言ってくれ。それじゃあティルフィングについての説明に入らせてもらう。
ティルフィングは300年前に持ち主が死んでから一度も使われてなかったが、セヴィル家が抱える技師によって定期的に補修が施されていた。だから武器として使用する分には問題ないんだが、そのままだと古すぎて現代の魔法戦にはとても対応できない状態だったんだ。
そこでセヴィル家は数十年前、ティルフィングにAIを組み込んでアームドデバイスとして改良しなおした。でなければさっきみたいに会話もできなかっただろう。ちなみに“例のシステム”も組み込まれてあるが、今のところ使用者に大きな負担がかかって安全とは言えないから多用しない方がいい。まあ、そっちも君に任せるよ。
……だいたいこんな所だが何か質問は?」
「いや、今ので大体わかった。ようは守護騎士たちのと同じ武器になったということだろう。あとは使いながら覚えていく。よろしくなティルフィング!」
『Ja, mein Gebieter!(御意!)』
俺とティルフィングのやり取りを見て、クロノはため息をつきながら呆れたように言った。
「本当に気に入ったみたいだな。変わった奴だ。愚王の遺品なんて泥棒でも盗まないと言われてるくらいなのに」
「でも健斗君にはぴったりの武器やと思うよ。もう仲良くなってるみたいやし」
はやてはほほえましそうな笑みで俺たちを見守り、ふいに視線を宙に向けて……
(そう言えばあの事まだ言ってないままやけど、とても言い出せる雰囲気やないな。また今度にしとくか。でもやっぱり気になるな。
赤ちゃんやった頃の私のそばに
◇
時空管理局の本部、本局の中に『無限書庫』と呼ばれる巨大な空間がある。
そこには管理世界、管理外世界問わずあらゆる世界の書籍とデータが集められており、『世界の記憶を収めた場所』と呼ぶ者さえいる。
本局が建設されるはるか以前から存在する場所であり、アルハザードの遺物という説もあるが正体は未だに謎。
管理局が巨額の費用を投じて、無限書庫を飲み込むよう次元空間内に本局を建設したのも、無限書庫を押さえるためだと言われている。無論、内外にはミッドチルダを始めとする特定の世界を過度に重視しないためと回答しているが。
書庫という名の通り無数の本と本棚が置かれているにもかかわらず、内部は無重力で、そこに足を踏み入れた者は飛行魔法を使っていないにもかかわらず宙を浮遊する羽目になる。
彼らも宙を漂いながら闇の書の手掛かりを求めて、ひたすら書庫にある本を漁っていた。
「ユーノ、新しい本持って来たよ!」
猫の耳と尻尾がついた薄紫色の短い髪の女性が、何十冊もの本を両手に抱えてユーノのもとまで飛んできた。それを見てユーノは内心、姉妹揃って器用だなと思いながら礼を述べる。
リーゼロッテ。
リーゼアリアの双子の妹で、彼女もアリア同様ある人物が作った猫の使い魔である。
体術に優れ、10年近く前からクロノに格闘を教えていた。
ユーノはロッテから受け取った本に検索魔法をかけて中身を調べる。そして……
「――あった!」
「えっ、本当!?」
ユーノが上げた声に反応して、ロッテは思わず彼に声をかける。
ユーノは彼女の方を向いて興奮を隠せない声のまま返事をした。
「はい! 多分これに間違いないと思います。まさか本当にあったなんて」
「そりゃ無限書庫だもん。その気になりゃ闇の書に関する資料だって見つかるよ。あたしとしてはこんなだだっ広い書庫からたった一冊の本を見つけ出せたのが驚き。……クロノが目を付けるわけだ」
「クロノ? 彼がどうかしたんですか?」
ユーノの問いにロッテはしまったと言いたげな様子で首を振って――
「いやいや、何でもない何でもない。それよりこれからどうする? このままアースラに戻るつもりなの?」
「はい、そのつもりです。早くリンディさんたちに伝えないと。あいつにも聞かなきゃいけないことがあるし……」
ユーノがそう答えるとロッテは考えるように目を閉じてから言った。
「それなら君の友達に本局まで来てもらってもいいかな? 実は父様がその人たちに会いたいって言ってるんだ」
「グレアムさんが?」
眉を寄せて尋ねるユーノに、ロッテはこくりとうなずいて答える。
「うん。実は父様とあたしたちは君の友達と同じ第97管理外世界、地球の出身でね。父様も久しぶりに地球の人たちと話がしたいんじゃないかな」
「そうだったんですか! そういうことならなのはたちにもここに来てもらおうかな。じゃあそれでお願いします」
「あいよ。じゃあ片付けしてから戻ろうか。女の子が多いみたいだし、友達に会う前にシャワーでも浴びた方がいいんじゃない……何ならあたしの部屋のを貸すけど」
ロッテのニヤリとした笑みに、ユーノは身の危険を感じてぶんぶんと首を振る。リーゼ姉妹、特にロッテに関しては本能的に恐怖を感じてしまう。
ユーノに振られたロッテは愚痴を言いながら片づけを始める。ユーノはほっと胸をなでおろしながら問題の本を掴み取り、ページを開いた。
(……著者名は『サニー・スクライア』。中身も闇の書――いや、《夜天の魔導書》について詳しく書かれている。健斗って人が言った通りだ。でもなんであの人がこんなことを……健斗……ケント……)
ユーノはまさかと思いながら頭を振ってその考えを追い出す。
とにかく今はこのことをリンディさんやなのはたちに伝えないと。
そう思いながらこの場を後にする準備を始めた。