魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第31話 グレアム

 300年ぶりに愛剣ティルフィングを手にしてから一時間くらいが経過した頃。

 ユーノから例の本を見つけたと聞いて、彼を迎えに俺たちは『本局』という時空管理局の本部に来ていた。

 本局の中は想像通りアースラのような未来的な場所だったが、窓の外には大きな街と青空が広がっており、次元空間の中に浮かんでいるようには思えない。

 

 色々な意味で想像以上な本局内を見回しながら歩いていると、ある部屋の前に着いた。

 俺たちを先導していたクロノが扉の向こうに声をかける。

 

「グレアム提督、クロノです。ユーノ・スクライアを引き取りに来ました」

 

「クロノか、入りなさい」

 

 中から壮年の男の声が返ってくると、クロノは数歩進み「失礼します」と言いながら部屋に入っていった。多分俺たちも入って構わないだろう。

 なのはは戸惑いながら、向こうから呼ばれたんだからとはやては堂々と部屋に入り、俺もその後に続く。

 すると突然、部屋の中にいた女性がクロノに飛びかかってきた。

 

「クロスケー! お久しぶりぶり―!」

「ロッテ、ちょ、離せこら!」

「何だとこら、久しぶりに会った師匠に冷たいじゃんかよー! うりうりー!」

 

 そこまで言って女性はクロノを自分の胸の中に抱き込む。クロノはたまらず部屋の奥にいた男に向かって、

 

「提督、これを何とかしてください!」

 

 しかし、男は彼を助けようとせず。

 

「はははっ、久しぶりの再会なんだ。ロッテの好きにさせてやってくれ。それに……クロノもまんざらではないんじゃないか?」

 

「そんなわけないでしょう――うわあっ!」

「うにゃー♡」

 

 許可が下りた途端、女性はとうとうクロノを床に押し倒し、あれやこれやと過激なスキンシップを取る。はやてとなのはは手で顔を覆いながらも二人を眺め、シグナムも赤面しながらそっぽを向き、ソファに座っていたユーノも一瞬目を奪われそうになりながらも目をつぶってこらえている。

 ……えーと、まさかこんなものを見せるために呼ばれたわけじゃないよな? 

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、俺となのはとはやては並んでソファに座り、一人用のソファに腰を沈めている壮年の男と対面した。

 髪と同じ灰色の髭を口元とあごに蓄えた貫禄のありそうな人だ。リンディさんが着ているものと同じ制服だが、肩に付けた肩章が彼女より高い地位に就いていることを示している。だが先ほど見せた様子から意外と気安い人なのかもしれない。

 

「恥ずかしいところを見せてしまったね。初めまして、私はギル・グレアム。時空管理局の顧問官を務めている。まあ、顧問官と言っても隠居目前にお情けでもらった肩書きだよ。固くならなくていい」

 

「恥ずかしかったのは僕ですよ……」

 

 自己紹介するグレアム提督に対し、クロノはそんな呟きを返す。ちなみに彼の顔にはまだキスマークがいくつも残っていた。

 キスマークを付けた当の本人はグレアム提督の後ろに立ちながら――

 

「あたしはリーゼロッテ。グレアム提督の使い魔でクロスケの師匠だよ。ちなみにアースラにいるアリアはあたしの姉。わけあって、あたしはそっちに行けないけどよろしくね!」

 

 そう言いながらウインクを投げるリーゼロッテに俺たちは「よろしく」と返す。

 この人忍さんと声が似てるな。アリアさんの方もファリンさんに声が似てるし、どういう偶然だ?

 そんな事を思っている俺の隣で……

 

「ギル・グレアム……」

 

「……? いかにも。私はギル・グレアムだが、なにか気になることでも?」

 

 はやてのつぶやきにグレアムさんは怪訝そうに問いかける。するとはやては両手を振って――

 

「い、いえいえ! どこかで見たような名前やと思いまして。テレビかなにかで見たんやと思います」

 

「そうか。きっと番組のインタビューか何かだろう。欧米では珍しくない名前だからね」

 

 グレアムさんは気を悪くした様子もなく笑い飛ばす。それを見てはやてはほっと息をついた。

 だが、もしかしてこの人……

 

「すみませんグレアムさん、もしかしてあなたは……」

 

 俺の言いたいことを察したのだろう。最後まで言い終わらないうちにグレアムさんは首を縦に振って言った。

 

「ああ。君が思っている通り、私も君たちと同じ世界の出身だよ。イギリス人だ」

 

「えぇ、そうなんですか!?」

 

 片や、なのはは気付かなかったようで驚きの声を上げる。するとユーノは苦笑しながらこちらを向いて言った。

 

「僕もそれを聞いて驚いたよ。管理局の偉い人がなのはたちと同じ世界の出身だったなんて」

 

 ユーノの言葉にグレアムさんは温和な笑みを浮かべ、ユーノを含め俺たちに向かって口を開いた。

 

「私たちが生まれた世界――地球に住む人間のほとんどは魔力を持たないが、稀にいるんだよ。君たちや私のように高い魔力資質を持つ者が。……私が魔法の存在を知ったのは50年以上前になる。自宅の近くにあった林の中で黒いコートのような服を着た人が倒れているのを見つけてね。彼を助けたのがきっかけで私も魔導師となり、その後も色々あって彼が勤めている時空管理局に入ることになった。……魔導師になるところまではなのは君とそっくりだな。ユーノ君から聞いた時は私も驚いたよ」

 

 そう言ってグレアムさんはおかしそうに笑い、なのはは「はぁー」と声を漏らす。

 

 それから俺たちはグレアムさんと雑談を交わし、しばらくしてグレアムさんはふいに表情を引き締めて俺たちに向き直った。

 

「ユーノ君、なのは君、はやて君、健斗君。君たちはリンディ提督のもとで我々に協力してくれているそうだが、それに当たって一つだけ約束してほしいことがある」

 

「……何でしょうか?」

 

 突然の要求に俺は問いを返す。それに対しグレアムさんは厳しい口調で続けた。

 

「君たちは魔法やロストロギアの存在とその恐ろしさを知り、それでも何らかの思いや考えがあってリンディたちに力を貸してくれているのだろう。それは立派な事だ。ただ、君たちを心配してくれる人たちや送り出してくれた人たちのことも考えながら行動してほしい。それができるなら、私は君たちに何も制限しないと約束するよ……できるかね?」

 

「――はい!」

 

 母さんや高町家の人たち、石田先生などそれぞれの保護者を頭に浮かべながら、俺たちはグレアムさんに深いうなずきと返事を返す。それを見てグレアムさんは満足そうな笑みを浮かべた。

 

「うむ、いい返事だ。君たちをここに呼んだのは、久しぶりに同じ世界の人間と話がしてみたかったのもあるが、何よりもそのことを伝えたかったからだ。世のため人のために動くのはいい事だが、自分をおろそかにしてはいけない……」

 

 そこでグレアムさんは顔を上げながら……

 

「長くなってしまったな。そろそろお開きとしようか。リンディにもよろしく伝えておいてくれ」

 

「はい。大事なお話を聞かせていただいてありがとうございました!」

 

 なのはが礼を言うと、彼女と一緒に俺たちもグレアムさんに深く頭を下げる。

 そしてソファから立ち上がり、他のみんなとともに部屋を出ようとしたところで――

 

「ああ、待ってくれ健斗君。君はもう少しここに残ってくれないか」

 

「……?」

 

 いきなりグレアムさんに引き留められて、俺は立ち止まりながら首をかしげる。他のみんなも意外そうな顔でこちらを振り返っていた。

 

「クロノ、もう少し彼を借りても構わないか? 話しておきたいことがある」

 

「……? ええ、僕は構いませんが」

 

 怪訝そうな顔を見せながらもクロノは首を縦に振り、他のみんなを連れて部屋を出た。それからグレアムさんはロッテさんにまで出て行くように告げる。

 ロッテさんは一瞬考える素振りを見せてからそれに従った。

 そして俺は再びソファに腰を下ろし、グレアムさんと一対一で対面する。

 明らかにさっきより空気が重い。俺は緊張を解くために口火を切った。

 

「クロノと仲がいいんですね。ただの上官と部下には見えませんでしたが」

 

 グレアムさんは俺と違って緊張する素振りもなく答えを返す。

 

「ああ。現場を退いてからしばらく士官学校で教鞭をとっていた事があってな。クロノはその頃の教え子だ。もっとも彼の両親とは家族ぐるみの交流をしていたから付き合い自体はもっと長いがね」

 

「そうなんですか! そういえばアリアさんとロッテさんがクロノに体術や魔法を教えていたって聞きましたけど、彼女たちも士官学校で?」

 

 そう尋ねるとグレアムさんは首を横に振って、

 

「いや。リーゼたちはしばしば教導隊の手伝いをすることもあったが、クロノの指導は彼に頼まれて個人的に行っていたものだ……彼がまだほんの5歳だった頃からな」

 

「5歳!? そんな頃から?」

 

 思わずそんな言葉が口から出る。ユーノやクロノがもう仕事をしているように、管理世界は就業可能になる年齢が早いとは聞いているが、さすがに5歳は早すぎる気がする。

 グレアムさんもそう思っているようで苦笑を浮かべながら話を続けた。

 

「ああ。色々な力を身に着けて一日でも早く管理局に入りたいと言ってな。私としてはもう少し考えた上で進路を決めてほしかったが、彼の熱意に押され母親(リンディ)からの許しを得たこともあって、リーゼたちに彼の指導を任せることにしたよ」

 

「なんでまた。ミッドチルダは就労年齢が低いと聞いてますけど、いくら何でも早すぎ――いや焦りすぎでしょう。一体何があいつをそこまで駆り立ててるんです?」

 

 答えが返ってくるかわからないまま発した問いだったが、グレアムはあごに手を乗せ、考えるそぶりを見せてからゆっくりと口を開いた。

 

「……ふむ、そうだな。君のように闇の書と関わっている者なら、今後に備える意味で知っておいたほうがいいかもしれん。ただ、あまり軽々しく話すことではない。それを肝に銘じてくれるのなら教えてもいいだろう」

 

 グレアムさんの声色が一層重たいものになる。俺は深いうなずきと返事を返した。

 

「……はい。絶対軽い気持ちで言いふらしたりはしません。だから、どうかお願いします!」

 

 頭を下げるような勢いで頼み込むとグレアムさんは「わかった」と言って、重々しい口調で話を始めた。

 

 

 

「あれは11年前の事だ。

 ある世界で闇の書の出現とそれによる被害が確認され、私は艦隊を率いて現地に向かい事態の収拾にあたった。

 守護騎士を退け、さらに闇の書を持っていた魔導師をねじ伏せ、結果として我々は闇の書が完成する前に闇の書とその所有者を押さえることができた。それ以前は《アルカンシェル》によって、主ごと闇の書を破壊してきたことを思えば初の快挙だった。闇の書には転移再生……《転生機能》と呼ばれるものがあるからな。主を葬ろうと闇の書を破壊しようと一時しのぎにしかならない。

 だから闇の書の確保に成功した時は歓喜に震えたよ。我々の手で数百年の悲劇に終止符を打つことができたと……正直浮かれていた」

 

 そう言ってグレアムさんは話を切り、重いため息をつく。対して、俺はまったく同じ話を聞いたことがある事に気付いた。

 初めてアースラに乗った時、リンディさんとクロノから聞いた話とまったく同じだ。あの二人もその話をした時に重苦しそうな反応を見せていた。だからあの人たちを信用してみることにしたのだが、そうなると……

 

「ともあれ、我々は確保した闇の書とその主を本局まで護送するべく、艦船に彼らを乗せた。無論別々の艦にな。その時、闇の書を乗せた船の指揮を執っていた者こそが……」

 

「クロノのお父さん……ですか?」

 

 俺の問いにグレアムさんは首を縦に振る。やはりクロノの父親が絡んでいたか。

 

「クライド・ハラオウン。

 私の部下の中でも最も優秀な男だった。いずれ私に代わって執務官長に、もしくはそれ以上の地位に就くことを期待されていたほどの者だ。そんな男だからこそ私は彼に闇の書を預けた……その決断が彼の命を奪うことになるとは思わずにな。

 闇の書と主を護送している最中の事だ。

 彼が指揮する艦『エスティア』に封じていた闇の書が、突然暴走を起こすという事態が起きたのだ。中には多数の武装局員が詰めていたが彼らには為すすべもなく、エスティアのコントロールは見る見るうちに主なき闇の書によって奪われてしまった。後に生き残った者から聞いた話では、どこからか生えてきた頑強な(つる)のようなものが艦内のあらゆる場所まで伸びてきたらしい」

 

 《防衛プログラム》の仕業か。

 前世で管理者権限がないまま魔導書のプログラムにアクセスしようとした時に、書の中から伸びてきた蔓が脳裏をよぎる。“彼女”によれば、あれも防衛プログラムが引き起こした過剰反応によるものだったそうだ。エスティアという船を乗っ取ったのもそれに間違いなさそうだな。

 

「多くのクルーが逃げ惑うしかできなかった状況の中で、クライドはただ一人艦に残り他のクルーを避難させつつ、闇の書と艦の暴走を止めようとしていた。しかしそれはかなわず、闇の書に管制システムを奪われたエスティアは他の艦に向けてアルカンシェルを撃とうとしたのだ。それを止めるにはエスティアを撃墜するしかなかった――他ならぬアルカンシェルでな」

 

 そこまで言ってクライドさんを偲ぶようにグレアムさんは目を瞑り、しばらくの間沈黙する。

 やがて彼は深い息をついて言った。

 

「その後、私は艦隊司令の役職から下りることにした。あの一件で上層部から責められることはなかったが、部下の命を奪った私が大勢の命を預かる地位にしがみついていていいのかと思ってな」

 

「そんな、あれは闇の書の暴走によるものです! グレアムさんがクロノのお父さんを殺したわけじゃあ――」

 

 自分を責めるグレアムさんを見ていられずつい慰めのような言葉をかけようとするものの、彼は首を横に振り……

 

「……いや、私の責任だ。主の手を離れてもなお闇の書があれほど危険なものだとわかっていたら、持ち帰ろうなどとはせず、転生してしまうことを承知で破壊していた。そもそもあの時点で闇の書を封印する方法を思いつけていたら――」

 

「えっ……?」

 

 興奮のあまりグレアムさんの口から漏れた言葉に思わず聞き返してしまう。するとグレアムさんは我に返ったように片手を振りながら返事を返した。

 

「ああいや、何でもない! 口が過ぎたようだ。……ともかく、ここまで話せばわかっただろう。クライドの息子クロノが管理局に入りたがっていた理由が。そのために幼い頃から必死に力を身につけようとしたわけも。君たちは闇の書に関与してしまった人間だ。なのは君やはやて君、それ以外の人にも今の話を伝えなくてはならない時もあるかもしれない。だが……」

 

「わかっています。さっきも言ったようにクロノを茶化したり、言いふらしたりなんか絶対しません!」

 

 肝に銘じながら強く返事をするとグレアムさんは満足そうにうなずいた。

 

「そうか。君を信じているよ。……では暗い話はここまでにしてそろそろ本題に入ろう。健斗君、イギリスに興味はあるかね?」

 

「えっ……それはまあ。イギリスに母の友達がいるらしくて、よくその国の話を聞かされてますから興味がないこともありませんけど……」

 

 突然の問いに困惑しながらなんとかそう答える。そう言えばグレアムさんはイギリス人だって言ってたな。

 一方、グレアムさんはほうっと笑みを浮かべて……

 

「そうか。ではイギリスに行ける機会があれば挑戦してみたいと思うかね?」

 

「イギリスに? それってまさか――」

 

 俺の問いにグレアムさんはこくりとうなずいた。

 

「ああ。もし君にその気があるなら、健斗君がイギリスに留学できるように私が手配してもいい……そして留学するのならばだが、その間は私の家に下宿しないか?」

 

「グレアムさんの家に? しかし、あなたは本局に勤めていて――」

 

 そう言うとグレアムさんは声を低くして……

 

「これはまだリンディやクロノにも言ってないんだが……私は近いうちに管理局を辞めようと思っている。その後はイギリスに帰って、そこで余生を過ごすつもりだ」

 

「それは……」

 

 確かに、見た限りグレアムさんはかなりの高齢だ。管理局に定年があるのかは知らないが、そろそろ退職を考えてもいい年齢だろう。だが今の話を聞いた後だと……。

 グレアムさんは俺の考えなど見透かしているようで。

 

「確かに君が考えている通り、クライドの死に対して責任を取りたいと思っていたのが大きな理由だ。だが、闇の書が今もどこかの世界に存在していると思うと、管理局から離れることができなくてな。教官の真似事や顧問官をしながらずっとここに居座り続けていた。しかし、今回闇の書が見つかったと聞いて決心がついたよ。今回の事件がどのような形で終わっても、私はここを去ろうと考えている」

 

「そうでしたか……」

 

 グレアムさんに対して俺はそれしか言えなかった。

 彼は魔導書が起こす悲劇を防ぐために時空管理局に居続けていた。だが、次に魔導書が活動する時には、グレアムさんは年齢的に戦うことも指揮を取ることもできない。

 彼が闇の書事件に携われる機会は今回で最後なのだ。

 

「ただ、今まで仕事に熱を入れ過ぎたせいか老境を迎えても独り身のままでな。リーゼたち以外に家族はいない。とりわけ息子や孫と呼べるものができなかったことに未練を感じてな。教え子や部下といった関係もあって、クライドやクロノともくだけた付き合いはできなかった」

 

「すぎるがつくぐらい真面目ですからね、クロノは。多分彼のお父さんも」

 

 俺が苦笑するとグレアムさんもまったくだと笑いを返し、真顔に戻って話を続けた。

 

「それで、もし君がよければ下宿という形で一緒に住んでみないか。もちろん生活費や学費は私が出すし、勉学や友達との付き合いを優先して構わない。私を利用するつもりで頼ってくれていいんだ」

 

「…………」

 

 グレアムさんからの申し出に俺はどう答えていいか迷った。正直そこまでイギリスに興味があるわけじゃない。しかし“彼女”を救った後はその先の生活についても考えなければいけない。今とは違う生活で得たことはきっと将来の役に立つはずだ。

 だが、今はそんなことを考えている余裕はない。

 

「……少し時間を頂けませんか。落ち着いて考えてみたいので」

 

「もちろんだ、じっくり考えなさい。答えが決まったらリーゼに伝えるかここを訪ねて来るといい。待っているよ」

 

「ありがとうございます」

 

 時間がほしいという頼みに対し、嫌な顔せず肩を叩いて励ましてくれるグレアムさんに俺は深く頭を下げながら礼を述べた。

 

 

 

 

 

 

 グレアムからの厚意に対しすぐに返答できなかったためか、入って来た時よりかしこまった様子で部屋を辞する健斗と入れ違いにリーゼロッテが戻ってくる。

 彼女を迎えながらグレアムはソファにどっしりと腰を下ろした。

 そんな主の対面に座りながらロッテは問いかける。

 

「どうだった? あの子は」

 

 その問いにグレアムは首を振りながら……

 

「さあ、どうかな。今のところどちらとも言えない。もし事が終わっても彼が存在し続けるようなら、またお前たちに一仕事頼むかもしれん。それよりそちらの様子はどうだ? テスタロッサたちがまたいくつかのジュエルシードを手にしたそうだが……」

 

「前に手に入れたのと合わせると合計6個ってところだね。あれだけならまだ次元断層を起こすことはできない。もちろん万が一のことがないように、あたしが目を光らせとくよ」

 

 ソファの背もたれに腕を乗せながらロッテはそう豪語する。そんな彼女に反して、グレアムは視線を落とし……

 

「そうか。すまんな、お前に危険な役目を押し付けてしまって」

 

 そう詫びる父に、ロッテは慰めるように手を振ってみせた。

 

「何言ってんの父様。元々あたしがミスしちゃったせいだし。それに今のプレシアならあたしとアリアでねじ伏せられるよ。闇の書だって《デュランダル》があれば……」

 

「ああ。今度こそ闇の書を封印し、長年の悲劇に幕を下ろさなければ。そのためなら……」

 

 グレアムはそう言って虚空を睨む。罪悪感をにじませながらもその目には強い決意が灯っていた。

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