魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第32話 愚王の生まれ変わり

 翌日。アースラに戻って来たユーノを含めた俺たちは、アースラの食堂で賄いのクッキーを摘まんでいた。

 俺と守護騎士たち、特にヴィータとの間には相変わらず気まずい空気が流れており、はやてを介して同じ場所にいるものの会話を交わすことはなかった。

 そんな俺と守護騎士たちを心配そうに眺めつつも、何か話題を出そうとなのはは口を開いた。

 

「きょ、今日も空振りだったね」

 

「リニスたちや変な仮面に先を越されてるみたいだからな。しばらくかかるかもって愚痴ってる奴も結構いるみたいだ」

 

 ヴィータの相槌になのはは「そっか」と返す。

 

 ヴィータの言う通り、あれからリニス一味や仮面の男が3個もジュエルシードを手にしているのに対し、こちらは2個。もし一味と仮面の男が手を組んでいるとしたら完全に後手に回っている状態だ。

 向こうもアースラなみの組織を抱えているのか? それとも……。

 

 ふいにユーノは申し訳なさそうな顔で、なのはに向かって言った。

 

「ごめん。すっかりなのはたちを巻き込んじゃって。一週間近くも家族と離れて寂しくない?」

 

 それを聞いて、なのははユーノの方を向きながら首をぶんぶん振る。

 

「ううん、ちっともさみしくないよ。ユーノ君やはやてちゃんたちも一緒だし、ヴィータちゃんともすっかり仲良しになったから!」

 

「あたしは仲良くなったつもりはねえけどな。けど本当に大丈夫かよ? そろそろ家族に会いたくなってくる頃じゃねえの?」

 

 ヴィータの問いになのはは首を横に振り。

 

「平気……昔は一人で家でいることもあったから」

 

 陰のある顔でつぶやくなのはに、ヴィータは目をパチクリさせ、俺とはやてもあっと眉をひそめる。

 一方、なのはは明るそうな笑い声を上げながらその時の事を話し始めた。

 

 

 

 

 なのはが幼稚園に通ってた頃の事だ。

 当時、士郎さんはまだ要人警護の仕事を続けていて、桃子さんも念願の夢だった喫茶店を開業したばかりだった。

 

 そんな一家にある不幸が襲い掛かった。

 士郎さんが仕事先で大怪我を負って、意識不明の状態で病院に担ぎ込まれたのだ。

 桃子さんたちは士郎さんが一命をとりとめたことに胸をなでおろしながらも、これからの事に頭を悩ませた。

 当時の翠屋は開店したばかりでほとんど固定客がおらず、休業している余裕はなかった。それに幼いなのはをはじめとした子供たちもいる。かといって士郎さんを放っておくわけにもいかない。

 悩んだ末に桃子さんは店を畳む決意まで固めていたという。それを止めたのが恭也さんと美由希姉さんだった。

 恭也さんは桃子さんの反対を押し切って学校を休んでまで店を手伝い、姉さんは学校から帰ったら士郎さんの様子を見るために夜遅くまで病院に詰めていた。

 

 そんな中、なのはは家族から取り残される形となり、幼稚園から帰ったら後はほとんど一人で過ごしていたという。

 あの日もなのははただ一人公園で(たたず)んでいた。

 そんな彼女の前に二人の悪ガキが現れた。

 

 

 

 

 

「……それがはやてちゃんと健斗君?」

 

 シャマルの問いに、はやてがこくこくと首を振った。

 

「そうそう、健斗君ってば一方的になのはちゃんに声かけて『新しい遊びがしたくなったけどはやてと二人だけじゃできない。暇ならお前も付き合え』なんて言いながら、無理やりなのはちゃんを引っ張って来たんや」

 

「おいおい、一人でブランコを漕いでるなのはを見つけて『あの子さっきからずっとブランコ乗ってるな。健斗君、ちょっとあの子連れてきて。二人だけで遊ぶのも飽きてきたところやし』と言ったのはお前だろう」

 

 人聞きの悪い言い方に俺はたまらず口を挟む。

 あれはほとんど、はやてが指示したことで俺はそれに従っただけだ。まあ俺も、家に帰らずずっとブランコに乗ったままの女の子の事が気になってはいたが。

 

「それで次の日も公園に行ったら、健斗君とはやてちゃんに声をかけられて一緒に遊んで、気が付いたら毎日三人で遊ぶようになったんだ」

 

 なのはがそう締めくくると、ユーノは感心したような顔で、守護騎士たちはぽかんと俺の方を見た。

 

《昔から変わらないわね。その時の様子が目に浮かぶようだわ》

 

《ああ、あの頃も理由を付けてはヴィータなどを連れて回っていたな》

 

《けっ、あたしは騙されねえぞ。散々あたしらに優しくしておいて、最後の最後であいつは……》

 

 そこでふいに、なのははユーノの方を見て言った。

 

「そういえば、この中でユーノ君の事だけあんまり知らないね。ユーノ君の家族は?」

 

「ああ、僕は元々一人だったから」

 

 ユーノの言葉に、なのはをはじめ俺たちはえっ、と思いながら彼に目を向ける。ユーノは何でもない事のように口を開いた。

 

「生まれた時から両親がいなくてね。まあ、部族のみんなに育ててもらったから、スクライアの一族みんなが家族と言えるけど」

 

「じゃあ、ご先祖様のこととかもわからないのか? お前みたいにあちこちの世界で遺跡の調査をしていたとか、そんな先祖がいるような気がしたんだが」

 

「あっ! そうだ。それについて君に聞きたいことがあるんだけど――」

 

『民間協力者の御神健斗君、ハラオウン提督と執務官がお呼びです。至急艦長室まで来てください。繰り返します。民間協力者の――』

 

 問いを返そうとするユーノの声をさえぎって、女性局員によるアナウンスが響いてくる。

 民間協力者の御神健斗、間違いなく俺の事だ。

 

「悪い。リンディさんたちに呼ばれてるみたいだから、ちょっと艦長室まで言ってくる」

 

 そう言って俺はみんなと別れ艦長室へと向かう。ユーノは不満げな顔で俺を見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 アナウンスどおり、艦長室にはリンディさんとクロノが俺を待っていた。

 壁にはいくつもの提灯がかけられ、あちこちに火鉢や盆栽などが置いてあったりと、この前の応接室ほどではないが和風チックに飾りつけがされている部屋だった。

 俺はリンディさんに勧められて、デスクの前にあるソファの片方に座る。

 もう片方のソファにはクロノが座っており、間にある机の上に置かれた書物に目を落としながら彼は口を開いた。

 

「この本、昨夜の間に全部読ませてもらったよ。興味深い内容だった」

 

「闇の書……いえ、夜天の魔導書を改変するには、魔導書の頁をすべて集める必要があるなんてね……あなたの言った通りだったわ」

 

 デスクに座ったままリンディさんはそう言った。

 

「君がジュエルシードを集めようとした理由と、魔導書の頁を増やそうとした(わけ)はよくわかった。しかし、やはり危険すぎる! 頁を集めて魔導書を完成させたりなんかしたら――」

 

「わかってる! 俺もどうしようか考えているところだ」

 

 俺はそう言い放ってクロノの言葉をさえぎった。

 色々解決しなければならないことがあるが、一番の問題はそこだ。

 夜天の魔導書を完成させた途端、書の主は管制プログラム《システムN-H》に乗っ取られ、世界を丸々一つ消滅させてしまう。主や管制プログラム……“彼女”の意志とは無関係に。

 

 そこでリンディさんは咳払いをして自身に注目を向けさせた。

 

「まだジュエルシードも集まっていないのに、あれこれ言い合っても意味がないわ。それより、今はあなたについて聞きたいのよ……御神健斗君」

 

 そこでリンディさんは両手を組みながら厳しい目を向けてくる。クロノも同じような目で俺を見ていた。こういうところは親子そっくりだな。

 

「この本はユーノ君が昨日無限書庫で発見したばかりのもので、ここに書かれていることは私たちも初めて知る事ばかりだったの。闇の書が元々は《夜天の魔導書》と呼ばれていたことも、管理者権限の取得にすべての頁を集める必要がある事もね。それらをどうして地球で暮らしていた健斗君が知っていたのかしら?」

 

「最初は君の事を守護騎士の一人だと思っていた。君が使っている魔法も現在では廃れたベルカ式だしな。でも調査した結果、出生に引っ掛かるところはあるけど、君が9年間地球で育ったのはまぎれもない事実だったんだ。主が十分成長した頃に現れる守護騎士とは明らかに異なる」

 

「それにあなた、無限書庫やその本の著者についても知っていたみたいね。ユーノ君から聞いたわ。“サニー・スクライア”が書いた本を探すように、あなたから指示を受けたと。おかげで思ったよりも早く魔導書について知ることができたけれど。でも、その反対にあなたに関してはわからないことが増えてしまったのよ。

 健斗君、あなたは一体何者なのかしら? どうして夜天の魔導書ばかりか無限書庫のことまで知っているの?」

 

 リンディさんたちからの追及に俺は口をつぐむ。

 とうとう突っ込まれる時が来たか。

 

 

 

 俺たちの前にある本は、サニー・スクライアという考古学者がガレア王国の地層から発見した古文書――いや、正確に言えば古文書の内容を書き写した写本だ。

 300年前、俺はサニーが見つけたあの古文書を読むことで、闇の書の正体を知った。

 その時、サニーから次元空間に浮かぶ巨大な書庫についても聞いた。現在は無限書庫と呼ばれ、本局内の施設として組み込まれているあの書庫を。

 

 つまり、俺がベルカ式の魔法を使えるのも、夜天の魔導書や無限書庫について知っているのも――。

 

 

「どうした、答えられないのか? 場合によっては取り調べという形で聞き出さなくてはならなくなるんだが」

 

「もちろん、健斗君が管理外世界の人間であることを踏まえた上で慎重に対処します。でも、少なくともこれ以上あなたに協力することはできなくなるわ。あなたが何者なのかわからない限りは」

 

 二人は冷たい声色で問いを重ねる。

 俺はしばらくの間沈黙を守り、躊躇いながら口を開いた。

 

「……ケント」

 

「えっ?」

 

 二人のうち、どちらかからそんな声が漏れる。俺自身、緊張のあまり判別している余裕はない。

 

「ケント・α・F・プリムス。闇の書の持ち主の一人だ。以前あなたたちも話していただろう」

 

「以前って……もしかして“愚王ケント”のことを言ってるの?」

 

 リンディさんの問いに俺は首を縦に振る。

 

「グランダムという国を治め、自国の民を犠牲にして闇の書を完成させようとした暗君……人呼んで《グランダムの愚王》だ」

 

「それぐらい知ってる! 聖王の前に立ちふさがった最初の敵として有名だからな。だが、それが君と何の関係がある?」

 

 もったいつけた言い方に業を煮やし、クロノは声を荒げる。

 いいだろう。ここまで来たら俺としても最後まで言った方がすっきりする。

 

「俺がその愚王の生まれ変わり……だと言ったら」

 

「何?」

 

 唖然とするクロノに向かって俺は繰り返す。

 

「俺が愚王ケントの生まれ変わりか何かだとしたらどうだ。そして前世の記憶をすべて持っていると言ったら。それならベルカ式と呼ばれている魔法が使えるのも説明がつくだろう。魔法は自らの中にある魔力と蓄えた知識によって行使するものだからな」

 

「ちょ、ちょっと待って、本気で言ってるの? いえ、もしそうだとしても、この本の著者と無限書庫のことはどう説明するの? 愚王ケントとは何の関係も――」

 

「この本を書いた、サニー・スクライアとは知り合いだったんですよ。ガレアを制圧した時から。愚王について書かれた本とかに若い女の学者が出てきませんでしたか?」

 

「そ、そういえば愚王伝に、愚王に目を付けられるほど容姿端麗な学者がいたとか。まさかその人が……」

 

 リンディさんは頭を抱えながら記憶を呼び覚ます。

 愚王伝なんてものがあるのか……ろくなことが書かれてないんだろうな。

 

「無限書庫についても彼女から聞きました。そこにこの本を保管しておくともね。だからユーノに頼んだんですよ、“サニー・スクライア”という著者名で探してみてくれと。思った通り、彼女は無限書庫にこの本を残していたってわけです」

 

 そう言って俺は本を掲げる。

 リンディさんは信じられない面持ちで俺を見ていた。だが――

 

「ふざけるな!」

 

 その声に俺もリンディさんも思わずそちらを見る。クロノは椅子から立ち上がり歪んだ顔で俺を睨みつけていた。

 

「お前が愚王の生まれ変わりだと? いい加減な事を言って誤魔化そうするんじゃない! あんな暴君が生まれ変わって再びこの世に現れるなんてことがあっていいものか! そんなものの生まれ変わりを騙ってまでなぜ正体を隠そうとする? お前は一体何者なんだ? 御神健斗!」

 

「さっきから言っているだろう。その暴君の生まれ変わりだ。多分な」

 

「貴様! まだ言うか」

 

「クロノ、落ち着きなさい! 健斗君も挑発しないで!」

 

 クロノは俺に迫り胸倉をつかもうと手を伸ばす。それを見て、リンディさんはデスクから立ち上がりながら声を張り上げる。

 その時――

 

『エマージェンシー! エマージェンシー!』

 

「――?」

「……?」

 

 室内に響いた声に俺たちは動きを止め、モニターの方を見上げた。

 

『捜査区域の海上にて、大型の魔力反応を感知。待機中の局員はただちに持ち場に急行せよ。繰り返す。――』

 

 捜査区域、魔力反応、まさか――

 

「すぐにブリッジに向かいます! あなたたちも来て。さっきの話はまた後にしましょう」

 

「はい!」

「わかりました!」

 

 リンディさんの後に続いて俺とクロノもブリッジへと向かう。それまでの間、俺たちが会話を交わすことはなかった。

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