魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第34話 一時帰宅

「指示や命令を守るのは、個人のみならず集団を守るためのルールです。勝手な判断や行動があなたたちだけでなく、周囲の人たちをも危険に巻き込んだかもしれないということ。それはわかりますね?」

 

 会議室にリンディさんの声が響く。その声を俺となのはとユーノは真正面から受けていた。

 なのはとユーノは力なく「はい」と言う。

 そしてリンディさんは俺に顔を向けて言った。

 

「健斗君、私たちの許可を取ってから出たことは評価します。ですが、あの時の物言いは仮にも上官に対して使っていいものではありませんでした。以後気を付けるように!」

 

「はい、肝に銘じます」

 

 謝るとリンディさんはこくりとうなずき、再びなのはたちを視界に捉えた。

 

「本来なら厳罰に処すところですが、結果としていくつか()るところがありました。よって今回のことについては不問とします」

 

 その言葉になのはとユーノは顔を見合わせる。それに水を差すようにリンディさんは「ただし」と続け――

 

「二度目はありませんよ! いいですね?」

 

「はい」

「すみませんでした」

 

 なのはとユーノはそう言って、俺は黙って頭を下げる。

 リンディさんはふっと息を吐き出して、

 

「では、お叱りタイムはここまでにしましょう。あなたたちにとっては正直それどころではないでしょうしね」

 

 それを聞いて俺たちは顔を曇らせる。

 

 海上にいた俺たち同様、アースラも何者かによる攻撃を受けていた。

 まず、別の次元から船に向けて雷撃が降り注ぎ、それがやんだ頃に逃亡したフェイトたちと何者かを追跡しようとしたところで、船のシステムがクラッキングを受けて航行がやっとの状態に追い込まれたらしい。

 だが、俺たちにとって一番大きな問題はその後に起こった事……はやての足が完全に動かなくなってしまったことだ。

 

 現在、はやては医務室で精密検査を受けており、守護騎士たちもそれに付き添っている。アースラの医療スタッフなら麻痺の原因も特定できるかもしれない。だが、おそらく彼らにもはやての足を治すことはできないだろう。

 

 リンディさんはリーゼアリアさんと一緒にいるクロノの方を見て言った。

 

「クロノ、あなたたちや船を攻撃した人物について心当たりがあるって言ってたけど、そちらの方は?」

 

「はい。エイミィ、モニターに」

 

「はいはーい!」

 

 クロノに命じられてエイミィさんはいそいそと空間モニターの準備を始める。

 それからすぐに長机の上に白衣を着た女性の姿が浮かびあがった。長い黒髪を下ろした、フェイトによく似た整った顔立ちの女性だ。

 

「僕らと同じミッドチルダ出身の魔導師、プレシア・テスタロッサ。研究者としても優れた人物で、最年少で修士課程を修め、幹部候補として民間企業に就職したそうです。彼女の部下の中には、後に傀儡(ゴーレム)研究で功績を収めたティミル博士もいたらしいと」

 

「ティミル博士を部下に抱えていたほどの人が!? 私たちを攻撃したのはそのテスタロッサ女史で間違いないの?」

 

 リンディさんの問いにクロノはうなずきを返す。

 

「はい。登録データもさっきの攻撃の魔力波動と一致しています。そしてあの少女、フェイトはおそらく……」

 

「フェイトちゃん、あの時母さんって……」

 

 雷撃が降る直前の事を思い出しながらなのははつぶやく。俺もうなずきながら、

 

「ああ。以前俺と戦った時も、母親のためにジュエルシードを集めていると言っていた。プレシアって人がフェイトの母親と見ていいだろう。そして彼女たちに指示を出しているのも……」

 

「フェイト・テスタロッサという少女の事を聞いた時からプレシアの関与が疑われていましたが、確証がなかったので伏せていました。ですが、()()()()()()()彼女が黒幕と考えてもう間違いないでしょう」

 

 クロノの推察にリンディさんは納得した様子を見せる。だが、そこでユーノが声を上げた。

 

「あの、プレシアからの攻撃とは別に、アースラのシステムがクラッキングされたって聞きましたけど、そちらの方は?」

 

 クロノは首を横に振って――

 

「それについてはまだわからない。魔力攻撃と違って、そちらの方は痕跡が何一つ残ってないんだ」

 

「そのクラッキングもプレシアさんじゃないの? 優秀な研究者だって言ってたし」

 

「いや、いくら優秀でも魔法を撃ちながらクラッキングなんてできるもんじゃない。次元跳躍魔法なんて大掛かりなことをしている時ならなおさらな。それだけでも正直信じられないくらいだ。人間(わざ)じゃない」

 

 なのはの推測を俺はそう言って否定する。次元レベルの攻撃なんて、《聖王のゆりかご》でも条件が揃わないとできないくらいだ。それをたった一人の人間が行ったなんてとても信じられない。

 その疑問にクロノが答えた。

 

「おそらくロストロギア級の媒介を利用したんだと思う。プレシアは自身の魔力こそ低いものの、外からエネルギーを取り込んで自身の魔力に変える《希少技能(レアスキル)》を持っているそうだ。それを踏まえるとSSランクの魔導師でも勝てるかどうか」

 

 《希少技能》……ベルカ王族が持っていた固有技能のようなものか。固有技能と違って一代限りの能力ではあるが、その力は勝るとも劣らない。本質的には同じものだろう。

 

「もっとも次元魔法は精神的に相当負荷がかかる。とてもクラッキングの片手間に出来るものじゃない。クラッキングを行った者は別にいるとみていいだろう。でも、おかしなところがあるんだ」

 

「アースラを含めて、管理局のシステムは極めて高いセキュリティで守られているのよ。それを外部からクラッキングできる人間なんてそうそういるものなのかしら?」 

 

「――そうなんですよ!」

 

 疑問をもらすリンディさんの前で、エイミィさんは机をたたきながら声を張り上げる。

 

「防壁も警報も全部素通りして、いきなりシステムに攻撃するなんて――《スカリエッティ》じゃあるまいし!」

 

 その名前が出た瞬間、リンディさんとクロノ、アリアさんまで顔をしかめる。おそらくそいつも管理局が追っている犯罪者なんだろうな。それもかなりたちが悪そうな感じだ。

 

「その人くらいすごい技術を持った人の仕業ってことかな?」

 

「あるいはある程度の組織なのかもね」

 

 なのはに続いてアリアさんもそんな推測を立てる。

 その可能性もあるが、もしかしたら……

 

「いずれにしろ、クラッキングを行った者の正体はまだつかめていない。それより今はプレシアについてだ。エイミィ!」

 

 クロノが呼びかけると、エイミィさんは手元の端末を見ながらプレシアの経歴を話し始めた。

 

「プレシアは10年ほど前まで民間エネルギー企業で設計主任として勤めていましたが、《ヒュウドラ》という魔力駆動炉の開発を担当した際に安全を無視した開発を強引に進めて、その結果事故を起こして解雇されました。本人の希望による退職という形にはなっていますが。

 それまでの間ずいぶん揉めたみたいです。危険な開発を指示したのは会社側で、自分は何度もそれに反対したと。でも、結局自分から告訴を取り下げて会社を去ったそうです。

 それからは地方に移って職を転々としていましたが、しばらく後行方不明になって……それっきりですね」

 

「家族と行方不明になるまでの行動は?」

 

「それは――」

 

 リンディさんの問いに答えようとしたエイミィさんをクロノがさえぎって――

 

「それはまだわかっていません。いま本局に問い合わせて調べてもらっているところです」

 

 ……?

 クロノの報告に俺は眉を吊り上げる。

 ここまで調べておいて家族のことはわかっていないだと? ……こいつら何か隠しているな。

 一方、リンディさんは気にすることなくクロノに尋ねた。

 

「時間はどのくらい?」

 

「一両日中には」

 

 それを聞いてリンディさんはふむと唸り。

 

「プレシア女史もフェイトさんも、あれだけの魔力を放出した直後ではそうそう動きは取れないでしょう。その間に最後の1個を手に入れておきたいところね」

 

 その言葉に俺たちは表情を引き締める。

 俺たちのもとにあるジュエルシードは11個、リニス一味改め《プレシア一味》のもとには9個。

 どちらの手に渡っていない“最後のジュエルシード”がどこかにあるはずだ。

 もっとも、夜天の魔導書の頁をすべて埋めるには11個や12個じゃ足りない。最低でも2個以上はプレシアたちから奪う必要がある。それに……

 

「なのはさん、健斗君」

 

 ふいにリンディさんに名前を呼ばれて、俺たち――呼ばれていないユーノまで――は顔を上げる。

 そんな俺たちにリンディさんは思わぬことを告げた。

 

「あなたたち、一度家に帰る気はない?」

 

「えっ、でも……」

 

 突然そう言われて、なのはは戸惑いの声を漏らし、俺も目を見張る。

 まさか不問にすると言っておきながら、結局俺たちを追い出すつもりじゃないだろうな。

 睨むようにリンディさんを見ると、彼女は弁解するように言った。

 

「あまり長く学校を休みっぱなしでもよくないでしょう。ご家族と学校に少し顔を見せておいた方がいいわ。それに最後のジュエルシードなんだけど、あなたたちが住んでいる場所のすぐ近くにあるみたいなのよ」

 

「「ええっ!?」」

 

 思わぬ事実に、俺となのはの声がハモる。そこをつくようにリンディさんは告げた。

 

「そういうわけだから一時帰宅を許可します。ジュエルシードを見つけたらすぐに連絡するから、いつでも動けるようにしておいて」

 

「はっ、はい!」

 

 リンディさんの指示になのはは素直に返事を返す。

 俺は……

 

「……あの、はやてのことは」

 

「心配しなくていいわ。はやてさんの事は私たちが責任を持ってお預かりします。守護騎士さんたちが彼女のそばを離れるとは思えないし、その点も含めて信用してくれていいと思うけど」

 

「わかりました。どうか、はやての事をお願いします」

 

 苦笑するリンディさんに対して、俺はそう答えながら頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 同時刻、《時の庭園・玉座の間》にて。

 

「プレシア! どういうつもりですか!? フェイトや管理局の船を攻撃するなんて!」

 

「あれだけの好機を前にぼうっとしている子が悪いのよ。それに管理局を放っておいたらあの子が捕まっていたかもしれないわ。結果的にうまく行ってよかったじゃない」

 

 怒りを隠さずに詰め寄るリニスに、プレシアは悪びれもせずに言い放つ。

 そんな彼女の正面で、仮面の男は呆れたように首を横に振った。

 

「フェイトはともかく管理局の船を攻撃したのはやりすぎだ。あそこには八神はやてと管理局が回収したジュエルシードがあったんだぞ。攻撃元を辿られてこの場所を突き止められる恐れも高かった。監視システムをダウンさせてなければどうなっていたことか」

 

「それに関してはあなたのおかげで助かったわ……いえ、あなたのお仲間のおかげで、かしら?」

 

 意地の悪い笑みを浮かべるプレシアに男は両手を広げながら言った。

 

「何のことやら。とにかく、あんな真似はこれっきりにしてくれ。万が一八神はやてに死なれたら、闇の書は別の世界に転移してしまう。次元空間に投げ出されたら闇の書でも守り切れる保証はない」

 

「そうね、確かに少々迂闊だったかもしれない。……わかったわ、もう私からあの船には手出しはしない。これでいい?」

 

「ああ、わかってくれて何よりだ」

 

 男は首を縦に振る。もう少し強くこの女を見張っておこうと心に決めながら。

 

「それで、管理局も我々も入手していないジュエルシードが1つだけ残っているんだが、あれに関してはどうする? フェイトはしばらく動けないようだが」

 

「そうね、あなたかリニスに行ってもらいたいところなんだけど……」

 

 プレシアはあごに手をやって考える。

 男を仲間にして以来、リニスは常に自分のそばにつくようになった。理由はもちろん、プレシアを謎の男から守るためだ。

 男がいつ現れるかわからない状況でリニスが自分の手元を離れるとは思えないし、離すべきではない。

 では、肝心の男はというと……

 

「悪いが私は行けない。闇の書を手に入れる絶好の好機が訪れたからな。そろそろ私が動かなくては。それについてはあなたの攻撃のおかげかもしれない」

 

「皮肉は結構よ。でも、確かにあちらにある闇の書を逃すわけにはいかないわね。じゃあ最後のジュエルシードはまたフェイトに取りに行ってもらおうかしら」

 

「待ってください。フェイトは魔力をすり減らしていて、とてもジュエルシードを取りに行ける状態じゃ――」

 

 リニスはまたいきり立ってプレシアに抗議しようとする。そこで男は思い出したように言った。

 

「いや、もう一人いるじゃないか。フェイトと違って余力を残している者が」

 

 その一言にプレシアは首をかしげかけるも、すぐにああと気付く。

 

「もしかして、フェイトが飼ってるあの使い魔の事を言ってるの? 反抗的で私の言うこともろくに聞こうとしないわよ。役に立つのかしら?」

 

「主の傷を舐めさせているよりはましだ。それに私が動く際の目くらましにはなってくれるかもしれん。最後の1個は総力を挙げて奪い合うもの、というセオリー(お約束)をあえて破ってみるのも手だと思うぞ」

 

「……わかったわ。その代わり必ず手に入れてきて。闇の書もだけどジュエルシードもよ。最低でも5つ、出来ればそれ以上、取れるだけ取ってきてちょうだい」

 

「ああ。闇の書を完成させるには9個だけでは足りないからな。期待して待っているといい」

 

 男の大口に対し、プレシアはそっけなく「お願いね」とだけ言った。

 そして玉座のすぐそばにある台に立てかけられた写真立てに視線を移す。

 

(もう少し、もう少しで私たちは幸せを取り戻せるわ。幸せに過ごしていたあの頃を……)

 

 その写真には若い頃のプレシアと、幼いフェイト()()()()()少女が仲睦まじく並んでいる様子が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ?」

 

「…………うーん、ダメみたいやな。足に力が入らん」

 

 施術を施してしばらくの間、はやては足を動かそうとするもののピクリとも動く気配はない。明らかに今までとは違う傾向だ。

 魔力を注いだだけでは治せないほど進行しているのか。

 

「悪い、はやてを守ると言っておきながら。でも、あの足揉みにそんな意味があったとはな」

 

 俺に謝りながらヴィータはそう漏らす。

 ヴィータには、旅行に出かける時など、はやてに施術を施しているところを見られて追い回される事もあったが、施術の意味を知った今はもう怒るどころではなくなったようだ。

 はやてに布団をかけながら彼女に告げる。

 

「じゃあさっき言った通り、少し家に戻るよ。ジュエルシードは俺たちが住んでいる場所のすぐ近くにあるみたいだから。二日後くらいには戻れると思う」

 

「わかってるわかってる。私の事は気にせんでええから、久しぶりに美沙斗さんや学校のみんなに顔見せてき。そう言えばエイミィさんとクロノ君も一緒に行くんやって?」

 

 はやてが尋ねると隅の方からエイミィさんがやって来た。

 

「うん。私たちもご家族にご挨拶くらいした方がいいからって。なのはちゃんの家には艦長が、健斗君の家には私とクロノ君が行くことになったの。それで一つ聞きたいんだけど、健斗君のお母さんってどんな人? 一応聞いておきたいな」

 

 その問いに対して、はやては満面の笑みを浮かべながら答えた。

 

「すごく優しい人ですよ。子供好きで私にも良くしてくれましたし。私にとって、もう一人のお母さんって感じです」

 

「そうなんだー。会うのがとっても楽しみ!」

 

「……」

 

 確かに優しくて子供好きではある。でも多分、エイミィさんの想像とはだいぶかけ離れているんだろうな。教えなくていいんだろうか?

 そこで、はやては俺を呼んで別の話を切り出した。

 

「ところで健斗君、美由希さんと……お姉さんとはどうなん? お話とかしてる?」

 

「姉さんに? そりゃまあ、高町家にお邪魔してる時はちょくちょく世間話とかしてるが」

 

 思わぬ名前に首をひねりながら答える。すると、はやては呆れた顔になって、

 

「そんなん挨拶だけしてるのと変わらへんやん。そんなんじゃずっとぎくしゃくしたままになってまう。これもええ機会や、明日辺りなのはちゃんのおうちに行って、お姉さんとじっくり話してきた方がええ。決戦前に心残りは残さんもんや」

 

 そう言われて俺はしばらく悩むものの、やがて頭を掻きながら答えた。

 

「……わかったよ。正直、俺も姉さんとはこのままじゃいけないとは思っていたしな。姉弟同士ぶつかってみるのもたまにはいいかもしれない」

 

「いや、何も喧嘩しろとは言ってないんやけど……まあそれぐらいがちょうどええか」

 

 はやてはそう言って俺の肩を叩く。

 そんな俺たちを見てエイミィさんはくすくす笑う。

 それから少しして俺は守護騎士の方を向いた。

 

「そういうわけだから俺はしばらくここを離れる。それまでの間、はやての事をお願いします」

 

 そう言って頭を下げると、シグナムは何か言いたげな顔をしながらも無言で首を縦に振った。

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