魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第35話 新たな魔法少女(?)そして吸血鬼

「どうぞ」

 

 テーブルの上に湯気の立った熱そうな緑茶が置かれる。

 そのお茶をエイミィさんはぎこちない様子で手に持った。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

 彼女とは対照的に、クロノは落ち着いた様子で緑茶を口に運ぶ。

 片やちびちびと湯呑みを舐めるように飲むエイミィさんを見て、母さんは眉をしかめながら……

 

「お口に合いませんでしたか?」

 

「い、いえいえ、すごく美味しいです! 美味しすぎてすぐに飲んじゃうのももったいないなと思って」

 

「……そうですか」

 

 母さんは不安そうな顔をしながら、それ以上の言葉を飲み込んだ。

 思った通りになってしまったか。

 

 優しくて子供好きな母親と聞いて、桃子さんやリンディさんみたいな人を想像したに違いない。

 しかし、うちの母親は表情の変化が少なく、一見するとかなり気難しそうに見える。エイミィさんもすっかりたじたじだ。母さんからすれば、まずいものを飲ませて相手の機嫌を損ねていないか不安なだけなんだろうけど。

 母さんはなおも心配そうな顔でエイミィさんに尋ねる。

 

「息子が厄介になっているとのことですが、そちらにご迷惑をかけたりはしていませんか?」

 

「い、いえいえ! 迷惑だなんて。むしろ――」

 

「迷惑どころか予想以上に役に立ってくれていますよ。彼がいなかったら今の半分ほども進展していなかったでしょう。お母さんがよろしければ、あと何日か息子さんをお借りして構いませんか? それまでの間、責任を持ってお預かりすると約束します」

 

 エイミィに割り込んでそう頼んできたクロノに、母さんはぱちくりと目をしばたかせる。

 

「ずいぶんしっかりしているな。いいご両親に育てられたと見える」

 

「いえ、まだまだ未熟です」

 

「クロノ君だったね。健斗とはうまくやれているかい?」

 

 その問いにクロノは首を縦にも横にも振らずに答えた。

 

「実を言うと何度も喧嘩をしてしまいました。僕も彼も意地が強いから互いに引き際を見失っちゃって。でも、それが楽しいと思う時もあります。故郷にもう一人友人がいますが、彼を叱ることはあっても喧嘩なんてしたことはありませんから」

 

 クロノの口から出た言葉に俺は唖然とする。

 クロノの奴、そんなことを思っていたのか。いつもマジギレしていて楽しそうには全然見えなかったんだが。

 エイミィさんは知っていたのか、俺にウインクしてきた。俺は目をそらして湯呑みに口をつけることでごまかす。

 

「そうか。不愉快な思いをさせてしまうかもしれないが、クロノ君さえよければこれからも健斗と仲良くしてやってくれ」

 

「はい。一緒にいられる限りそうしたいと思います」

 

 そんな言葉を交わしてから母さんは茶を勧め、クロノはそれを受ける。

 それを見計らって俺は口を開いた。

 

「あさってまではこっちにいられるんだけど、明日は高町さんの家に泊まろうと思っている……姉さんと話したいことがあるから」

 

 そう言うと、母さんはあっさりと首を縦に振った。

 

「ああ、じっくり話し合っておいで。今のような関係ではお互い息苦しいだけだろう。クロノ君とエイミィさんはどうします? うちでよければ遠慮せずに泊まっていってくれて構いませんが」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて夕食だけでもご馳走になります。ご迷惑をかけると思いますが」

 

「別に迷惑なんて思ってない。ゆっくりしていってくれ」

 

 母さんとクロノは互いに笑みを浮かべてそんなやり取りを交わす。それを見て……

 

《エイミィさん。うちの母とクロノって……》

 

《うん、似てるよね。親子って言われたら信じちゃうくらい》

 

 

 

 その後、エイミィさんが作った料理をごちそうになり、それを通してエイミィさんも母さんと打ち解けることができた。クロノの年齢を聞いた時は、さすがに母さんも驚かずにはいられなかったが。

 

 

 

 

 

 

 翌日、スクールバスに乗って久しぶりに学校に行ったが、教室に入った途端クラスメイトたちが一斉に俺を取り囲んだ。

 

「御神、この一週間どこに行ってたんだよ?」

「八神がお前んちの養子になって、外国に引っ越す準備をしているって聞いたけど本当か?」

「御神君だけ? はやてちゃんは帰ってきてないの?」

「もしかして一緒に外国行ってる間にデキちゃった? 二人きりの解放感にあてられちゃった?」

「ええ!? 赤ちゃんって結婚する前にできるの?」

「当たり前じゃん。結婚なんて役所に書類届けるだけなんだから。そんなことしなくたって子作りくらいできるでしょう」

「そういえばパパも他の女の人との間にできてたな。それがママにバレて大騒ぎになってるとこで」

「そんな家庭の事情聞いてないよ。それより子供は男の子? 女の子? 生まれたらすぐに教えて!」

「俺たちが勉強なんかしている間に、御神と八神は子供ができるようなことしてたのかよ!」

「別のクラスの高町も一緒に行ってたらしいけど、二人とも手込めにしたのか!?」

「それ本当かよ! あんな美少女二人をどうやってたらしこんだんだ?」

「まさかアリサちゃんとすずかちゃんも毒牙にかける気じゃねえだろうな?」

 

 雄一を押しのけて、クラスメイトたちは矢継ぎ早に質問を浴びせてくる。その質問はどんどん過激になっていき、小学生にあるまじき単語が溢れるように出てくる。

 彼ら彼女らから繰り出される質問は担任の教師が来るまでやむことはなく、教師も内心気になっている様子でHR前後に廊下の隅でこっそり聞き耳を立てていた。

 もうやだこのクラス。

 

 今までろくに話さなかったクラスメイトとの距離が縮まった半面、最近の子供の恐ろしさを思い知った時間だった。成熟が早すぎるにもほどがあるだろう。もしやと思うが、こいつらも俺や先輩みたいに前世の記憶をそのまま持っていたりしないだろうな。

 

 

 

 

 

 

 放課後、アリサとすずかの二人は学校のすぐ近くで迎えの車を待っていた。一週間ぶりになのはが登校してきたにもかかわらず、二人ともなのはと話をすることができていない。

 

 アリサはまだなのはと仲直りができておらず、それに加えてバスの時から同級生たちがなのはを取り囲んであれこれ質問していたため、すずかも彼女に話しかけることができずにいた。

 

 休んでいたのがなのはだけならここまでの騒ぎにはならなかっただろう。しかし、なのはとまったく同じ期間に学校を休んでいた生徒が他のクラスに二人いる。それが御神健斗と八神はやてだった。

 三人は幼少を一緒に遊んで過ごした幼なじみであり、しかも健斗となのはは戸籍上では従兄妹にあたる。

 噂は噂を呼び、思春期を目前にした子供たちが彼らを放っておくはずがなく、なのはと健斗は登校してすぐ同級生たちから質問攻めにあった。

 

 

 

 そして今に至る。

 

「まったく、みんな子供なんだから。なのはがはやてや健斗と仲いいなんて入学前からじゃない。ちょっと三人一緒に休んだぐらいで変な事ばかり考えるんだから」

 

「し、仕方ないよ。まったく同じ日に休んで同じ日に登校してきたんだから、みんな事情を聞きたくなっちゃうよ。私だって気になるし。特にはやてちゃんと健斗君の事とか」

 

 アリサをなだめようとするすずかだったが、途中から顔を赤くしながら両手の人差し指をくっつける。それを見てアリサも顔を赤くしながら、

 

「あ、あんたまで何言ってんのよ? 健斗みたいなヘタレにそんな度胸あるわけないでしょう! でも、はやてだけ学校に来なかったみたいだけど、どうしたのかしら?」

 

「う、うん。さすがにみんなが言ってるようなことはないよね……多分

 

 顔に赤みを残しながら、すずかは顔をうつむかせる。

 すると暗がりで青く光っているものが目に入った。

 

「あれ? ……なんだろう。あそこ、何か落ちてる」

 

 アリサもすずかの視線を追ってそれを見た。

 

「あっ、本当。何か光ってるわね。誰か宝石でも落としたのかしら?」

 

 そう言いながらアリサはそれが落ちている方へと歩いていく。もし時間があったら学校に届けようと。

 しかし、アリサが触れた瞬間それは急にまばゆい光を放った。すずかはたまらず――

 

「アリサちゃん! そこから離れて!」

 

 だがそれは間に合わず、アリサは光に包まれる。そして……

 

 

 

 

 

 

「――! この反応は」

 

「もしかして……」

 

 大きな魔力を感じて俺となのはは足を止めてそちらを振り返る。

 その直後――

 

《なのはちゃん! 健斗君!》

 

 エイミィさんの声が脳裏に届いてきた。おそらくなのはにもエイミィさんの声が聞こえているだろう。

 俺は声に出さずに返事を返す。

 

《エイミィさん、どうしました? まさか……》

 

 尋ねると向こう側からうなずくような気配とともに、

 

《うん。最後のジュエルシードが発動した。すぐに回収しに向かって。民間人が巻き込まれているみたいだから急いで!》

 

「《はい!》――なのは、聞いたか?」

 

「うん! すぐに行かなくちゃ!」

 

 そう言うやいなや、訝しげな顔で俺たちを見る生徒たちに構わず俺となのはは反応があった場所へと向かう。ここからでも気配が伝わってくる。かなり近いぞ!

 

 そして、駆け付けた俺たちが見たのは思わぬ光景だった。

 

 

 

 

 

 

「見つけた!」

 

 発動したジュエルシードの反応を見つけてアルフは立ち上がる。

 フェイトやリニスと違って、アルフには発動前のジュエルシードを探知する能力はない。故に今まではほとんどフェイトとともに行動してきた。しかし今、フェイトは昨日の怪我の治療と来たる戦いに備えて休んでいる。そのためアルフは今朝から一人だけで屋外に出て、ジュエルシードが発動するのをじっと待つしかなかった。

 そして夕方になって、ようやく目的のブツが活動を始めたらしい。

 

 

 

 彼女が最後のジュエルシードを探しているのはリニスに頼まれたからだ。とはいえ、リニスにそれを命じたのはプレシアであることに疑いようはない。仮面の男の入れ知恵かもしれないが、それはどうでもいい事だ。

 問題なのは、もし自分が断れば疲弊したフェイトにこの役目が回ってくるだろうという事だ。

 

 アルフとしては管理局を敵に回してまでロストロギアを集めることに乗り気ではない。むしろプレシアなど放って、フェイトとリニスと自分の三人で逃げた方がいいと思っている。

 しかし、どんなに粗雑に扱われようとフェイトは頑なに母を裏切ろうとはしない。リニスも同様だ。

 その上リニスはプレシアの使い魔という身だ。もしプレシアに逆らえば、あるいはプレシアに見限られたら、リニスは主との契約を解消されてこの世から消滅してしまうだろう。

 そのため、もしフェイトを説得してプレシアから逃げるという道を選べたとしても、それはリニスを見捨てるのも同然の選択だった。

 

 

 

「あの鬼ババなんかのためにあたしが動くことになるとはね。忌々しいったらないよ」

 

 わざと声に出しながらそう毒づき、アルフは拳を手のひらにぶつける。

 フェイトの前ではできなかった行為で乗らない気を奮い立たせ、アルフはジュエルシードのもとへ飛んだ。

 

 それからすぐにアルフは現場に到着するが、彼女が見たのは思いもよらない光景だった。

 

 

 

 

 

 

 炎をまとった刃が振り下ろされる。

 すずかはそれを空高く跳躍してかわした。

 刃はそのまま空を切り、すずかが立っていた地面をあぶり焼いた。

 すずかは後方の地面に着地し、長すぎて動くのに邪魔なスカートを自らの手で引き千切る。白い素足が露わになるがそれどころではない。

 

「そこをどいテ。私はなのはに謝らなくちゃいけないノ」

 

 言葉とは裏腹に、殺意をみなぎらせながらアリサは口を開く。

 すずかはきっと顔を上げて、

 

「どかない。今のアリサちゃんをなのはちゃんに会わせるわけにはいかない。なのはちゃんに会いたいのならまずその剣を捨てて。それに私服だと学校に入れないから、ちゃんと制服に着替え直して」

 

 そう言葉をかけられるもアリサは気に留める様子もない。

 今のアリサはピンクの上着に短くて赤いコート、赤いミニスカートにそこからはみ出たスパッツを着ている。

 今まで何もつけていなかったはずの手には金属でできた籠手が装着されており、その手には炎をまとった剣が握られている。

 この姿を見て誰かに謝りに行くなどと言われても到底信じられないだろう。

 

 対してすずかはスカートこそ自らの手で破いて短くしているが、一応聖祥初等部の制服のままだ。

 しかし、彼女の人差し指からは剣のように長く鋭利な爪が飛び出ている。

 そんな姿で対峙する二人の姿は明らかに異常で、さっきから五分も経っていないとはいえ誰の目にも止まらなかったのは奇跡と言っていい。見つかったら学校中大騒ぎになっている。

 

 事の発端はアリサが地面に落ちている青い石を拾ったことだ。

 アリサはまばゆい光に包まれ、光が収まる頃にはあのような格好になっていた。

 そしてアリサは「なのはに謝りに行く」と言って学校の敷地内に向かおうとしたのだ。

 当然すずかはそれを見過ごせるはずもなく、アリサを止めようと立ちはだかった。しかしアリサは手に持っていた炎の剣を躊躇なくすずかに振るった。

 それに対抗するためすずかも“秘めていた力”を解放し、アリサに立ち向かった。

 

 顔色一つ変えず剣を振るうアリサに対し、すずかの顔色はさえない。突発的な事態で混乱しているのもある。だがそれ以上に……

 

(最近飲んでないから調子が出ない。このままだとアリサちゃんが敷地の中に……)

 

「ファイアストーム!」

 

 その一声とともに炎の刃が振り下ろされ、すずかは長爪を前に突き出す。

 その瞬間――

 

(しまった!)

 

 爪は半ばから折れ、炎をまとった剣がすずかに向かって振り下ろされる。

 得物を失い、避けることもできず、その一撃を覚悟してすずかは目を閉じる。

 

「はあっ!」

 

 そこに黒髪の少年が乱入しアリサの剣を受け止める。

 彼の後ろには茶髪を短いツインテールに結んだ少女がいた。

 

「ディバイン、シュート!」

 

 少女は躊躇いながらも杖のようなものから桃色の光線を撃ち出す。

 アリサは後ろに跳んでそれを難なく避けた。

 すずかは少年と少女に目を向ける。

 

「健斗君! なのはちゃん!」

 

「すずか、下がっていろ!」

 

「アリサちゃんは私たちが止めるから!」

 

 アリサの攻撃からすずかを守ったのは健斗となのはだった。

 いつの間にか周りは紫がかり、周囲から人の気配が一切なくなっている。そして健斗となのはも制服とは違う服を着ていた。

 それを目にしてすずかは頭に疑問符を浮かべる。これは夢なのか? はたまた狐にでも化かされているのか?

 すずかがそんなことを考えている間に、アリサは態勢を整え、

 

「なのは……」

 

 なのはを見つけるとアリサは彼女に向きを変えて剣を構える。

 それを見てすずかも気を改めた。今はアリサちゃんを止めないと!

 

「健斗君!」

 

「ああ。ここは俺たちに任せて、お前は校舎まで逃げるんだ」

 

 そう言いながら健斗は剣を構える。その彼に向かって――

 

「ちょっとだけ血を飲ませて!」

 

「おう――えっ?」

 

 いきなりの事に健斗は思わずすずかの方を振り返る。

 すずかは返事も待たずに強い力で健斗の腕を掴み、素早く袖をまくりながら彼の腕に、自らの鋭い犬歯を突き立てた。

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