魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第36話 最後のジュエルシード

 海鳴市内にある最後のジュエルシードの発動を知って、ブリッジに集められたアースラのスタッフたちが見たのは異様な光景だった。

 ブリッジのモニターには、炎をまとった剣を振るう金髪の少女と、人間離れした身体能力と長く伸びた爪で彼女と戦っている紫がかった髪の少女が大きく映し出されていた。

 

 ランディは困惑しながら状況を報告する。

 

「発動地点で二人の少女が交戦中。赤い服の少女からはジュエルシードの反応が確認されています。しかしあれは……」

 

「取り込んだ人間を魔導師に変えただと? こんなこと今までになかったぞ!」

 

「もしかしてあの子もなのはちゃんたちみたいに魔導師の才能を持ってて、ジュエルシードがその力を引き出しちゃったってことかな?」

 

 驚愕しているクロノに続き、エイミィは私見を述べる。それを裏付けるようにアレックスが追加の報告を上げた。

 

「赤い服の少女の魔力値は約300万。ジュエルシードの力を借りているとしてもかなり高い数値です!」

 

 その報告にクロノはさんびゃくと口に出しかけた。この前計測したなのはたちの魔力値の倍近くはある。しかも彼女はまだ武器を振るっているだけだ。魔法を使ったらどれだけ魔力値が増えることか。

 うろたえている部下たちの頭上で、リンディは席にもつかずに問いかけた。

 

「もう一人の少女は? あちらはジュエルシードによる影響ではないみたいだけど」

 

「わかりません! あの少女からは魔力反応が一切感知できません。おそらく持ち前の身体能力だけで戦っているのではないかと。あの世界の住人は自分の意思で爪を伸ばしたり、魔法なしで高く跳べたりできるのでしょうか?」

 

「馬鹿な事を言うな! なのはもはやても健斗にも、あんな体質や能力はなかったはずだ!」

 

 ランディの推測をクロノは怒声を張り上げて否定する。しかし、だとすればますますもってわからない。魔法も使わず、ジュエルシードに取り憑かれた少女と自前の能力だけで戦っている女の子は一体何者なのか。

 

「武装局員を送り込んで結界だけでも張ることはできないのか? あんなところを現地の人間に目撃されたら厄介なことになる!」

 

「人員の選出と準備に最短でも10分はかかります。現地にいる二人が到着する方が早いかと」

 

 ランディの報告にクロノは舌打ちを鳴らす。

 現場は見るからに危険な状況だ。物理的にも情報漏洩的にも。目撃者が出た場合、記憶操作系の魔法をかける必要が出てくるかもしれない。

 もどかしく思いながらクロノたちは健斗たちの到着を待った。

 

 それから一分ほどで彼らは到着した。爪の少女は危ないところだったが、健斗に助けられて大きな傷は負っていない。

 しかし、その直後にアースラスタッフたちが見たのはさらに信じがたい光景だった。

 

 

 

 

 

 

「……何やってんの、あの子?」

 

 眼下を見下ろしながらアルフは思わずつぶやいた。

 すでに来ていた健斗やなのはを見て疎ましいと思ったのもほんのわずか、健斗の隣にいた少女の行動を見て彼女は思い切り怪訝な表情を浮かべる。

 

 

 

 

 

 

「ちゅる……んっ、あむ……じゅる」

 

 すずかが突然俺の腕に嚙みついた途端、腕の中からなにかが抜けていくような感覚がする。まさか俺の血を飲んでいるのか?

 

(熱くてとろとろしてて甘い。輸血用の冷たい血とは全然違う……とっても美味しい)

 

 思い切り歯を突き立てられているにもかかわらず、痛みはまったくない。強いて言えばアリサを注意しながら、こっちをちらちら見てるなのはの視線の方が痛い。

 一方、すずかはわき目もふらずに何かを吸い続ける。そして……

 

「ふう、ちょっと飲みすぎちゃった……んっ」

 

 満足したのか、そう言いながらすずかは俺の腕から口を離すが、その直後に名残惜しそうに腕を一舐めした。

 そして、すずかは手の甲で口元を拭いながら前を見る。その姿は小学生とは思えないほど妖しい色気があった。

 すずかの視線の先には、俺たちなど気に留めずなのはをじっと見るアリサがいた。

 

「なのは……」

 

「アリサちゃん、ひとまず落ち着こう。まずすずかちゃんに謝って、それからみんなで話を――」

 

「うン……なのは、お話しシヨウ」

 

 なのはの訴えにアリサはいつもと違う抑揚で応えながら、炎をまとわせた剣を構えた。

 明らかにいつものアリサじゃない。おそらくなのはに謝りたいとか話がしたいという願いを、ジュエルシードが曲解して叶えた事によるものだろう。怪物化せず人型を保っているのもそのためかもしれない。

 そして、いつも通りじゃないのはアリサだけではなく……

 

「だから――お話しするのに剣なんていらないでしょう!」

 

 すずかが腕を振るうと、彼女の両手の指から身の丈ほどの長い爪が飛び出てくる。それを見て俺もなのはも思わず目を向けてしまった。まさか、この子も魔導師だったりするのか?

 

「はあっ!」

 

 俺たちが止めようとする暇もなく、すずかは目にもとまらぬ速さでアリサに肉薄し、二本の長爪でアリサに斬りかかる。

 アリサは炎の剣と籠手で長爪を防ぎ、剣を大きく振るって二本の爪を弾いた。

 たまらずすずかは後退するものの、さっきと違って爪にはヒビ一つ入る様子はない。まさか、俺の血を飲んだためか?いや、それより――

 

「すずか、あまり切り込みすぎるな! 勢い余ってアリサを傷つけたらシャレにならんぞ」

 

「うん。私か健斗君のデバイスでジュエルシードを封印すれば、アリサちゃんは元に戻るはず」

 

「邪魔を――しないデ!」

 

 そう言いながらアリサは躊躇なく剣を振り下ろす。

 

「シュヴァルツ・ヴァイス」

 

 魔力を込めた剣でアリサの剣を弾き、その衝撃でアリサはのけぞる。その隙に俺は後ろに跳んで――

 

「なのは!」

 

「うん。ディバインバスター!」

 

 すずかや俺が戦っている間にチャージを済ませていたなのはが、レイジングハートから桃色の砲撃を打ち出す。それはまっすぐアリサに向かって行ったが……

 

「タイラントレイヴ!」

 

 アリサが地面に剣を突き刺すと、彼女の周囲から炎でできた壁がせり上がって砲撃を防ぐ。

 それを見て俺となのはは唖然とした。

 

 

 

 

 

 

「な、なんなの? あの子たち」

 

 アルフはそう呟かずにいられなかった。

 何なんだこの町は? 何なんだこの世界は? ここは魔法が発達していない一介の管理外世界のはずじゃなかったのか!? ――あんな化け物がいるなんて聞いていない!

 正直さっさと退散したい。何のために使うかわからないロストロギアなんかのためにあんな化け物たちとかかわっていられるか。

 ……と思うのだが、

 

(管理局に渡っていないジュエルシードはもうあれ一つしかない。ここであたしが逃げたらあいつらに取られるか、フェイトがあの女たちと戦うことに……こうなったらもう一か八か!)

 

 

 

 

 

 

 アリサの剣を防ぎながら俺は考えていた。

 なのはの放った砲撃はアリサの魔法で出現した炎の壁によって阻まれてしまった。なのはの大技を防ぐことのできる壁だ。並大抵の攻撃で壊すことはできないだろう。とはいえ、ジュエルシードによって増幅した魔力がすぐに切れるとは思えない。

 壁を出す前にアリサ本人かジュエルシードを叩くしかないんだが、

 

「はぁっ!」

 

 俺の一撃を剣で防ぎアリサは自ら後ろに跳ぶ。その瞬間に――

 

「ディバインバスター!」

 

 再びなのはが砲撃を撃つ。しかしアリサは素早く剣を床に突き刺し、

 

「タイラントレイヴ」

 

 再び地面から炎の壁がせり上がり砲撃をかき消す。

 隙が無い。剣戟がやんだ瞬間に、アリサは最小限の動きでなのはの攻撃を防ぐ壁を作り出してしまう。とてもジュエルシードに操られているだけとは思えない動きだ。

 

 どうする? なのはのデバイスにカートリッジシステムがあれば強引に壁を破壊することもできるんだが。もういっそ俺が壁を破壊するか。明日の戦いを考えたらできるだけカートリッジを消費したくないが、クロノたちの応援を待っている余裕もない。

 

 俺は剣を構える。それだけで俺の意図を察したのか、ティルフィングの中から弾倉(マガジン)が動き出す音がする。

 その瞬間――

 

「であああああっ!」

 

 雄たけびのような声とともに頭上から赤い狼がアリサに突進してくる。

 ――アルフ! あいつも来てたのか。

 アリサは声の方を見上げ。

 

「フレイムウィップ」

 

 アリサが剣を振るうと、剣の刀身が鞭のように伸びてアルフに襲い掛かる。アルフは前足で炎の鞭を蹴り飛ばし、落下によってさらに勢いをつけてアリサに迫る。

 だが、アルフの足が自身の胸元まで伸びたところで、アリサは空いている左手でアルフの足を掴み、彼女を地面に叩きつけた。

 

「ぐあっ!」

 

 アリサは刃の形を戻し、それでアルフを斬らんと剣を振り上げる。

 

「――っ」

 

 そこでアリサは顔を歪め一瞬動きを止めた。それを見抜いたのか。

 

「はあっ!」

 

 その声に反応してアリサが視線を移す。その直後に剣のように長い爪が振り下ろされた。そんなものを振るっているのはもちろん――

 

「アリサちゃん! 目を覚まして!」

 

「すず……か」

 

 つぶやきとともにアリサの目に光が灯る。その瞬間彼女の持つ剣の先端にⅢの数字が浮かんだ。これは――

 

「なのは!」

 

「うん! 私にも見えた!」

 

 答えながらなのははチャージを始める。

 その間は俺が――

 

「シュヴァルツ・ヴァイス!」

 

 魔力をまとわせた刀身を思い切り振るい上げ、アリサの手から剣を払い上げる。剣はなおも炎をまとわせながら宙に舞い上がった。

 なのははそれにレイジングハートを向けて――

 

「スターライト――ブレイカー!!」

 

 レイジングハートから打ち出された桃色の光は炎の剣を包み込みながら空へと打ち上げられる。

 炎の剣は粒子状になって霧散し、そこから青い光が漏れた。あれが……。

 なのははジュエルシードに向かってレイジングハートを構える。

 だが――

 

「させるか!」

 

 その瞬間を待っていたように、アルフが起き上がって人型になりながら上空へ飛び上がろうとした。

 だが、なのはは即座にレイジングハートをアルフに向ける。

 その直後、、アルフのまわりに桃色の輪が現れ、彼女の体を縛りあげた。

 

「ぐうっ――」

 

「ごめんなさいアルフさん。でも私、フェイトちゃんとちゃんとお話しして、フェイトちゃんの悩みを解決してあげたいから。だから話していただけませんか。フェイトちゃんとフェイトちゃんのお母さんとの間に何があったのか。どうしてジュエルシードと闇の書を手に入れようとしているのかも」

 

 アルフに鋭い視線で睨まれながらも、なのはは毅然とそう言ってのける。そんななのはにアルフはたじろいだ顔を見せた

 そこに――

 

「アリサお嬢様!」

 

 結界が解けた瞬間、口ひげを生やし眼鏡をかけた老紳士が駆け込んできた。バニングス家に仕える執事、鮫島さんだ。

 彼は俺たちのそばまでやって来て、アリサを始めとする女の子たちを見る。

 ジュエルシードから解放されて気を失っているアリサ、なぜかスカートが大きく破れ生足をさらしているすずか、輪で縛られているアルフ。そんな彼女たちを見回してから、

 

「……健斗様、どういうことか説明していただけますかな?」

 

 鮫島さんは低い声で俺にそう尋ねてくる。その声と眼光に殺意が込められているように感じたのは気のせいではないだろう。

 執事からあふれる威圧感に身を震わせる俺を見て、アルフは「ざまあ」と笑った。

 

 どう説明すればいいんだこれ?

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