魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

4 / 124
第4話 久しぶりの魔法

 夕食が終わって風呂に向かって行くなのはを見送りながら、俺は部屋に戻りプログラミングを再開する。

 ちなみに高町家の男子は一人で風呂に入れるようになるのが早く、逆になぜか女子は風呂の独り立ちが遅いらしい。そのため前世(ケント)の記憶を思い出す前も、()()()()()なのはや他の女性陣と一緒に風呂に入ったことはない。その反対になのはは小学一年まで士郎さんと一緒に入っていたそうだ。今でも時折一緒に入ることがあるらしい。

 小学三年くらいの娘と一緒に風呂に入ることができる父親が世間でどれくらいいるのか知らないが、つくづく士郎さんも親馬鹿だなと思う。それとも娘を持つ父親というものはみんなこういうものなんだろうか?

   

 ソースを一通り打ち込み、頭を休めるついでににそんなことを考えている時だった。

 

《……ますか? ……の……えま……》

 

 ――!

 

 突然頭の中に響いてくる声に、思わず顔を上げる。

 この頭の中に直接語りかけてくる感覚、これはまさか――

 

 俺はパソコンを放ってカーテンを開けて外を見る。しかし家のまわりには誰もいない。

 ……幻聴か、そうだよな。魔法技術がないこの世界に“思念通話”なんて飛ばしてくる者など……――!

 

 カーテンに手をかけながらふと下を見ると、私服を着直したなのはが家の外へと飛び出していくのを見かけた。

 なのはの奴、まさかさっきの声を聞いて? じゃあやっぱりさっきのは幻聴ではなく――いや、そうだったとしてもなぜなのはが?

 

 

 

 

 

 色々な思考が頭の中を駆け巡り、俺はいてもたってもいられず部屋を飛び出し玄関へと向かう。しかし……

 

「健斗、お前までこんな夜遅くにどこへ行くつもりだ?」

 

 玄関を出たところで声をかけられ、俺は思わずそちらの方を振り向く。

 

「恭也さん……姉さんまで」

 

 俺の後ろには無表情で俺を見下ろす恭也さんと、丸い目で俺を見る美由希姉さんがいた。

 姉さんは柔らかい笑みを浮かべながら諭すように言ってくる。

 

「外はもう暗いよ。気になるものがあるなら、また明日学校帰りに行けばいいじゃない」

 

「いや、そうじゃない! こんな時間になのはが外に出て行ったんだ! すぐに追いかけないと!」

 

 俺がそう叫んでも恭也さんは驚いた様子もなく、腕を組んだまま言った。

 

「なんだ、お前も気付いたのか」

 

「お前もって……まさか恭也さん、なのはが出て行ったことに気付いて……」

 

 俺の問いかけに恭也さんはかすかに首を縦に振る。そういえばこの人、俺に声をかけた時に『お前まで』と言っていたな。最初から気付いていたというわけか。多分姉さんも。

 

「おそらく、さっき夕食の時に話していたフェレットの様子を見に動物病院まで向かったんだろう。あのなのはにしては珍しいけどな」

 

 ……言われて見ればその可能性もあるか。恭也さんの言う通り、聞き分けのいいなのはにしては(はや)りすぎる気もするが、なのはが何者かからの思念を受け取ったなんて事に比べたらそちらの方が現実味のある話だろう。……我ながら未練がましいな。ここはベルカじゃないというのに。

 

「恭也さんと姉さんは追いかけないの? もう暗いし女の子一人じゃ危ないと思うけど」

 

 俺がそう言うと恭也さんも姉さんも難しい顔でうなった。

 

「確かにお前の言う通りだ……だが」

 

「健斗君も知ってると思うけど、あの子があんな勝手な真似をするなんて、ずいぶん久しぶりのことなんだよね」

 

 ……ああ、そういうことか。

 姉さんの言葉に俺も、二人がなのはを追いかけようとしない理由に思い至る。

 なのはは9歳にしてはしっかり()()()()子で、家族に対してもわがままなどを言ったことはないそうだ。少なくとも俺はなのはがわがままを言うところを一度も聞いたことがない。

 なのはがそんな風になったのは十中八九幼少時代の経験によるもので、この二人も士郎さんと桃子さんも思うところがあるのだろう。

 そのなのはが誰かの了承も得ずに外へ飛び出した。おそらくフェレットがいるという動物病院に向かって行ったとみて間違いないと思うが……。

 

「あの動物病院の近くには交番もあるから、滅多なことは起こらないと思うが」

 

「……30分だけ待ってみるのはどうかな? もちろんそれ以上過ぎたらすぐに探しに行くよ」

 

 ……それまではなのはの好きにさせてやりたいということか。

 恭也さんと姉さんの言葉に俺はため息をつく。なんだかんだ言ってこの二人も妹馬鹿だな。元妹持ちとして気持ちはわからなくもないが。

 

「わかった。じゃあなのはが帰ってきたらもう一度顔を出すよ。なのはがこんな真似してまで入れ込んでいるフェレットっていうのがどんなのか、俺も気になるから」

 

「うん。わかった」

 

「あいつが帰ってきたらお前からもきつく言ってやってくれ」

 

 二人の返事に手を振って応じながら、俺は踵を返して自分の部屋へ戻る。

 

 

 

 

 

 部屋に入った途端、俺は扉を閉め右手を突き出して手のひらを上に向ける。そして……

 

「ベラィヒ・ズーヘ」

 

 そう唱えた瞬間、俺の右の手のひらの上と足元に紺色の三角形の魔法陣が浮かび、それとともに脳裏にここら一帯の地理となのはがいる大まかな位置が頭の中に流れ込んできた。

 ……なのはは今この家から1キロほど先にまっすぐ向かっている。……とりあえず誘拐などはされてはいないみたいだな。

 

 探索魔法でなのはの位置を確かめて安堵の吐息をつく。あの辺りは大きな交番があるため閑静なわりに治安はよく、犯罪などが起こったことは一度もない。何かあったとしてもすぐにパトカーに乗った警官たちが駆け付けてくるだろう。

 ……しかし魔法を使うのは前世以来だが、思っていたよりもうまくいくものだな。

 

 

 

 

 

 

 それから魔法でなのはの反応を探りながら待つこと20分。なのはは目的地らしき場所へ立ち寄ってから、ようやくこの家に戻ってくるようだ。

 

 俺は魔法を解いて再び表に出る。そこにはすでに恭也さんと姉さんがいて、片手を上げたり一声かけてきたりして俺を迎えてくれた。

 それからすぐにこの家に近づいてくる者の気配を感じ、恭也さんの指示で俺たちは扉の左右でこの家に近づく人物を待った。

 その人物は抜き足差し足忍び足といった足取りでそろりと家の扉に近づいていく。その人物に対して恭也さんが――

 

「おかえり」

 

「――お、お兄ちゃん!?」

 

 恭也さんに声をかけられた途端、なのはは両手を後ろに隠しながらそちらの方を振り返る。なのはの後ろには俺と姉さんもいるのだが、今の恭也さんは額に皺を寄せた表情をしており俺から見てもかなり怖い。

 青い顔で後ずさるなのはに恭也さんは低い声で言葉を重ねる。

 

「こんな時間にどこにお出かけだ?」

 

「あの、その……えっと、えっと……」

 

「あら、かわいい!」

 

「お姉ちゃん! 健斗君まで!」

 

 姉さんの弾んだ声に反応して、なのははこちらの方を振り向き俺と姉さんに気付く。

 俺たちからは丸見えのなのはの両手には、黄色い毛並みと緑色の両目の小さな動物が乗せられており、姉さんの視線はその黄色い小動物に釘付けになっていた。

 その小動物を見て俺も思わずつぶやきを漏らす。

 

「それがフェレットか。なのはが好きそうな生き物だな。でも、さすがにこんな時間に飛び出して取りに行くのはどうかと思うぞ」

 

「健斗の言うとおりだ。俺たちが一体どれだけ心配したと思っている。それに、預かっていたフェレットが突然いなくなったりしたら病院の人も困るだろう」

 

「あっ、それは……」

 

 恭也さんがそう言うと、なのはは何故か顔を青くしながら明後日の方を向いた。まるでもっとまずいことがあるかのような……。

 

「おいなのは、一体何を――」

「まあまあ! 恭ちゃんに健斗君もそのくらいでいいじゃない。こうして無事に戻って来てるんだし。それになのははいい子だからもうそんなことしないもん……ね?」

 

 向こうで何が起こっていたのか問おうとする俺の言葉をさえぎって、姉さんはなのはの擁護をしつつ言い聞かせるような口調でそう尋ねる。なのはもそれは察したようで恭也さんに向き直って……

 

「その……お兄ちゃん、健斗君、内緒で出かけて、心配かけちゃってごめんなさい」

 

 そう言って頭を下げるなのはに恭也さんは「うん」とうなずいて応じ、俺も渋々首を縦に振る。

 それを見て、姉さんは嬉しそうな笑顔でぱんと両手を叩きながら口を開いた。

 

「はい、これで解決! いつまでも外にいたらこの子もこたえるだろうし、そろそろ家の中に戻りましょう! ……それにしてもかわいい動物。かーさんなんかこの子見たらかわい過ぎて悶絶しちゃうんじゃない」

 

「確かに、簡単に想像ができるな……んっ?」

 

 姉さんに抱き上げられるフェレットを見ながらそんなことをつぶやくと、姉さんに抱かれているフェレットと目が合って思わず怪訝な声を上げる。

 

「どうした健斗?」

 

「……いや、何でもないよ」

 

 恭也さんの問いかけに、首を横に振りながらそう告げる。

 恭也さんは釈然としない顔で「そうか」と言い、俺たちは士郎さんたちへの報告も兼ねて家の中に戻ることにした。

 そんな中で、フェレットという小動物はまだ俺の方をちらちらと見ていた。

 

(オッドアイにケントか……妙な偶然もあるものだな。さすがにあの“愚王”とは関係がないと思うけど……でも、僕が見たところこの人……)

 

 

 

 

 

 

 翌日の学校にて、教室に入ってすぐに俺の机の近くにいるはやてと雄一を見つけ、机にランドセルを置きがてら二人に声をかける。

 

「おはよう、はやて、雄一」

 

「おはよう、健斗君」

 

「おはようさん。今日は向こうから登校してきたのか。てっきり休みかと思って心配してたぜ、はやてが」

 

「な、何言うてるんや!? 健斗君は昨日からなのはちゃんのうちに泊まるって聞いてたやないか! 帰りのバスも一緒やなかったし。そりゃあ向こうで物騒なことがあったし、心配してなかったと言ったら嘘になるけど――」

 

 雄一の戯言に反応して色々と言い訳を並べるはやてだったが、はやてが口走った言葉の中に不穏なものが混じっていることに気付いて、俺は片眉を上げる。

 

「物騒な事?」

 

 思わずそうつぶやいた俺に、はやては「そうやそうや!」と言ってきた。

 

「実は夕べ、なのはちゃんの家の近くで大きな事故があったらしいんや。でもそれがおかしな事故でな。電柱が倒れたり、地面がえぐれたり、近くにあった動物病院なんて建物の中がボロボロになるくらいひどい状況やったそうや。まるでそこらだけ嵐が過ぎ去ったような」

 

「ああ、そういえばニュースでそんなこと言ってたな。あそこ高町の家の近くだったのか」

 

 ……動物病院って、なのはが昨夜向かった場所じゃないか。あいつそんなこと一言も……そういえば昨夜その動物病院のことが話に上がった途端、なのはの奴、言いづらそうに目を泳がせていたな。

 昨日の幻聴や妙なフェレットといい、まさかその不可解な現象って――

 

「健斗君?」

 

「えっ?」

 

 はやてに声をかけられ、俺は我に返り慌てて顔を上げる。

 

「どうしたんや健斗君? 怖い顔して」

 

 視線の先ではやては怪訝そうな顔で俺を見つめている。そんな彼女に――

 

「い、いや、何でもない! ちょっと考えごとをしていただけだ!」

 

 とっさに口から出た定型句に、はやては「ふーん」と言い、雄一は意地の悪い笑みを浮かべながら、

 

「はやて、聞いてやるなよ。女の子に向かって、自分がいる場所の近くでそんなことが起きて怖くてたまらない。なんて言えるわけないだろう」

 

「なんやそうやったんか。そんな意地張らんでも怖い時はそう言ってくれてええんやで。頭くらい撫でてあげるわ」

 

「いい、結構だ! こんな男のたわごとをいちいち真に受けるな!」

 

 俺の頭に手を伸ばす仕草をするはやてを片手で制しながらそう強く言う。そんな俺たちを眺めながら元凶はクククと笑っていた。

 まあいい、なのはのことも気にかかるが今は……

 

「ところではやて、今度の日曜はなのはのお父さんがコーチやってるサッカーチームの試合の日だけど、やっぱりお前も行くのか?」

 

「うん、なのはちゃんたちに誘われてるさかい。健斗君も行くやろ?」

 

俺の問いにはやてはうなずきながら問いを返してくる。その問いに俺もうなずいて。

 

「ああ。じゃあせっかくだから一緒に行かないか。俺がはやての家に寄るから、その後一緒に現地まで」

 

「うん、もちろんかまへんよ。じゃあ日曜日待ってるからな!」

 

 この場で交わした約束にはやては嬉しそうに顔をほころばせ、雄一は「若いっていいね」などとほざくが、そっちの方は無視して授業の準備をすることにした。

 

 ……今回もどうにか理由をつけてはやての家に行く口実を作れたか。今は何も起こってないとはいえ、あの“施術”を欠かすわけにはいかないからな。もっともその効き目もいつまで持つのかわからないが。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。