魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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閑話2 プレシア

 【Keep out(立入禁止)】のフラッグが掛けられたロープをまたいで寮の一室に入って来たプレシアが見たのは、全身を覆う防護服を着た何人かの救急スタッフと、寝そべっているように床に横たわっている飼い猫、そして愛娘の姿だった。

 スタッフの制止も振り切り、プレシアは部屋に駆け込んで娘を抱き起こし何度も呼び掛ける。しかし、娘は長い金髪を床に垂れ落としたまま、二度と目を覚ますことはなかった。

 呆然としている間にスタッフたちはプレシアから娘を取り上げてどこかへと連れ去り、室内にはプレシアだけが取り残された。彼女の様子からこれ以上の危険はないと判断したのだろう。

 プレシアは呆然としたまま娘も飼い猫もいない部屋を見回す。そして床に落ちていたそれを見た。

 それは画用紙だった。そこには飼い猫を抱えた娘と娘の手を繋いでいる母親(プレシア)の姿が書かれていた。それを見た瞬間、プレシアの口から、喉から、声にもならない声が上がる。

 

 それが彼女にとっての新たな始まりだった。幸せだった日々を取り戻すための、『不可能』に抗い続ける日々の……。

 

 

 

 

 

 

「はあっ、はあっ」

 

 荒い息をつきながらプレシアは身を起こす。机には点けっぱなしの魔力モニターと大量の本と資料。床にもそれらの一部が散乱していた。どうやら机に突っ伏した際に落ちてしまったらしい。

 プレシアはそれらをすぐに拾おうとはしなかった。ここにあるものは一通り目を通した。しかし、そのどれにも自分が求めているものは載っておらず、そんな紙屑を背中を丸めて拾う気になどなれなかった。

 

 ――あのリニス()()()に片付けさせておくか。

 

 そう思ったところで喉の奥から異物感がこみ上げ、口元を手で覆い何度か咳をこぼした。

 手に生暖かいものがこびりつくものの構わず机の上を見回す。だが、机の上には空のコップが何杯か置かれているだけだった。薬どころか水の一滴もこの部屋にない。

 ちっと舌打ちをこぼしながらプレシアは椅子から立ち上がり、部屋を出る。保管室にある薬と水を取ってくるためだ。いつもなら使い魔に持ってこさせるのだが、研究の行き詰まりと吐血による不快感を紛らわすため外の空気が吸いたい気分だった。

 

 しばらく歩いて保管室に辿り着き、薬と水をあおるように飲みながらプレシアは考える。

 自分は一体どこで道を間違えたのだろうか。

 

 

 

 

 

 プレシア・テスタロッサ 40歳。

 第1世界ミッドチルダの北西にあるアンクレス地方で生まれ育ち、10を越える頃に首都に移り住み、優秀な成績を認められて上の学校へ飛び学し、年上の学生たちに混じって魔導工学を学び、最年少で修士号を取得して、『アレクトロ社』というエネルギー企業に研究者として就職した。

 その時、プレシアとともに同じ会社に就職した人物がティミル。学院で共に学んだ同期であり友人だった。彼女も数年ほど飛び級しており、他の学生よりもプレシアと年が近く優れた才覚を持っていた。特に《傀儡(ゴーレム)》に関してはプレシアさえ及ばないほどの知識と技術を持っている。

 

 ティミルとともに会社で働き続けて成果を上げて、ほどなくプレシアは主任となりティミルはその補佐となった。それでも二人は年齢や役職とは関係なくくだけた付き合いを続けて、お互いに無二の友人だと思っていた。

 入社から数年後、ティミルは同じ職場の男性と結婚し、彼女に遅れる形でプレシアも21歳で結婚。さらに1年後、ティミルは男の子を、プレシアは女の子を出産した。

 まさか将来はこの子たちが結婚することになるのではとプレシアは思い、ティミルからは「そうなったら面白いわね」とからかわれた。今思えばそんなことを考えている時が一番幸せだったかもしれない。

 

 その後、娘が2歳になる頃に生活のすれ違いによる喧嘩がもとで夫と離婚。夫を恨みティミルに散々愚痴をこぼしたが、幸いにも給料面の不安はなく、上司やティミルを始めとする同僚たちの助けもあって、娘を育てながら仕事を続けることができた。

 

 3年後、プレシアは5歳になった娘と娘が拾って来た山猫と生活しながら魔導研究の仕事を続けていた。

 そんな彼女にある仕事が舞い込んできた。

 周囲の酸素を魔力に変換する新型魔力駆動炉《ヒュウドラ》。その開発のプロジェクトリーダーにプレシアが抜擢されたのだ。

 依頼元は業界屈指の企業グループ『ヴァンデイン・コーポレーション』に連なる工業会社で、アレクトロ社にとって創設以来の大きな仕事だった。それを30足らずの女性研究者に任せるなどよほどの事ではない。しかもこの仕事を成功させた暁にはプレシアとティミルに管理部への栄転が約束されるという。それを知って二人とも喜んだ。

 しかし、このプロジェクトがプレシアとティミルの運命を大きく変えることになる。

 

 駆動炉の開発は他社が製作していたものの引継ぎで、完成までに指定された納期もかなり厳しい。それでもプロジェクトを成功させようとプレシアたちは開発に力を注いだ。

 しかしそれをあざ笑うように、本社からは再三にわたって不要なシステムや機能の追加案が届けられ、ついに嫌気がさした何人ものスタッフが異動願いを出してプレシアたちのもとを離れた。

 そして、彼らと入れ替わる形で本社から新たなスタッフが送り込まれた。そのスタッフたちの中に『主任補佐』として送られた男がいた。

 主任補佐はチェックやテストのほとんどを省略した“効率化”を提案し、それは責任者であるはずのプレシアを通り越し上層部によって採用された。

 プレシアを始めとする元のスタッフたちはこれに強く反対したが、何人ものスタッフがいわれのない理由によって解雇、左遷され、それをまざまざと見せられた他のスタッフたちは一斉に口をつぐんでしまった。

 そして異動したスタッフに代わって補佐の子飼いたちがその後に就き、プレシアたちは開発から遠ざけられた。

 名ばかりの責任者となりながらも、プレシアは数少ない仲間とともに安全チェックを続けていた。

 それからしばらく経って、プレシアの訴えと取り組みに上層部もついに心を動かされたのか、プレシアに対し主任職の他に『安全基準責任者』という肩書とそれに伴う報酬の増額を提示した。しかし、それを受けるのに強く反対したのがティミルだった。今すぐに会社を辞めるべきだ、そうしないと一生悔やむことになると。

 苦楽を共にした親友の裏切りにプレシアは激怒し、それ以上の会話を拒否した。そしてほどなくティミルは会社を辞めて二度とプレシアの前に現れることはなかった。彼女が言い残した言葉の意味にプレシアが気付くのはずいぶん後になってからだ。

 

 そして10日後に“あの事故”が起き、安全基準()()()だったプレシアは事故の責任を被る形でアレクトロ社を退職し、首都から姿を消す。

 片やティミルはスポンサーからの援助でゴーレムの研究を続け、数年後、多くの次元世界にその名を轟かせる。

 こうして、将来を嘱望された二人の魔導師は真逆の道をたどることになってしまった。

 

 

 

 

 

 後悔してもしきれない過去と元親友への妬みを噛みしめながらプレシアは研究室へと戻る。

 その途中で彼女たちの声が耳に届いて来た。

 

 

 

 

 

 

「『聖王さまの魔法によって愚王ケントはこらしめられ、闇の書もベルカからしょうめつしました。めでたしめでたし』……これでおしまいです。さあ、そろそろお休みの時間ですよ。二人とももう横になって」

 

「えー、まだ眠くなーい!」

 

「駄目だよアルフ、リニスには母さんのお手伝いもあるんだから。そろそろ解放してあげないと」

 

 大きな図体とは裏腹に子供のように不平をこぼすアルフと、それを注意するフェイト。しかしフェイトもまだ眠くはなさそうだ。絵本のチョイスを間違えただろうかとリニスは考える。

 そんなリニスに向かってアルフは尋ねた。

 

「ところでさ、聖王さまに倒された愚王ケントって一体何やったの? 今読んでた本には書かれてないみたいだけど」

 

「ベルカという世界を支配するために他の国を攻撃したり滅ぼしたりしたんです。聖王さまはそれをやめさせようとしたんですが、愚王はそれに聞く耳を持たずに侵略を続け、聖王さまは仕方なく愚王を倒すことにしたんです」

 

 突然の問いに困った様子も見せず、リニスは教科書通りの答えを返す。しかし、そこでフェイトは首をかしげながら新たに問いを発した。

 

「他の国を攻撃したから愚王は倒されたの? でも、それなら聖王さまも同じことをしているよね。なんで聖王さまはみんなから尊敬されて愚王は悪く言われているの?」

 

「えっと、それは……」

 

 リニスはフェイトの問いに舌を巻きながら、どう説明するか思案する。

 

 実のところ歴史の教本のようなものに書かれているようなことで、聖王と愚王がやったことに大差はない。どちらも敵対する国に攻め込んで支配下に置いたことに変わりはないのだから。

 そして古代ベルカでは他の国々も同じことをしていた。そうしなければ自国を守れなかったからだ。《シュトゥラの覇王》、《ガレアの冥王》、《雷帝ダールグリュン》も例外ではない。

 

 しかし愚王ケントは他の王たちとは違い、自国や占領地で様々な悪行を犯していた。

 グランダム復興債と称して内外の王侯貴族から金を巻き上げたり、《禁忌兵器(フェアレーター)》と呼ばれる兵器を何のためらいなく使用したり、中立を保っていた都市を闇の書の力で脅迫して併合したりなど。

 それらに加えて、無類の好色ぶりが彼を《愚王》と呼ぶにたらしめている。常に複数の美女を侍らせて各地を回り、打ち負かした冥王イクスヴェリアに結婚を迫り、占領した都市から美女をさらって王宮に軟禁したりと、その手の話が異様に多い。

 間違ってもそんな話をフェイトたちには教えるわけにはいかないなと思いながらリニスは思案する。

 愚王ケントが行った擁護しようもない悪行と言えば……。

 

 そこでリニスは愚王が犯した最大の悪事を思い出してポンと手を打った。

 そして咳払いをして再び話を始める。

 

「愚王ケントが《闇の書》という魔導書を持っていたのはさっき話しましたね。愚王は闇の書を完成させるために他の国を攻撃して、その国の兵隊たちから魔力を奪っていきました。そして最後は、自分が治めている国の都に住んでいる人々を犠牲にして闇の書を完成させようとしたんです」

 

「ええっ!?」

「自分の国の人たちを?」

 

 ほぼ同時に声を上げるアルフとフェイトに、リニスはこくりとうなずく。

 そして二人は納得したように……

 

「確かにそれは悪い事だね。愚王って奴が悪く言われてるわけがわかったよ」

 

「うん。でも、そこまでして完成させようとした《闇の書》ってどんな魔導書だったんだろう?」

 

 腕を組んで考えるフェイトにリニスは答えた。

 

「詳しくはわかりませんが、完成させればどんな願いでも叶う本と言われていますね。愚王ケントはそれを使ってベルカを支配しようとしていたそうです。愚かにも自分の国の民と引き換えにしようとして。――さあ、お話はここまでです。そろそろ寝ましょう。明日はとっておきのイベントがあるんですから。寝坊したら後悔しますよ」

 

 わずかに寂しそうな顔をしながらリニスはフェイトに毛布を掛ける。フェイトもアルフもそれ以上は言わずに毛布に身を包んだ。

 

 

 

 

 

 

「闇の書……」

 

 眠りにつくフェイトたちや灯りを消しているリニスを横目に、プレシアはそうつぶやきながらその場を後にする。

 

 プレシアも愚王ケントや闇の書ぐらいは知っている。授業で愚王の話を聞いた時はなんて愚かな王様だろうと軽蔑したものだ。闇の書についても、愚王の所持品に変な尾ひれがついただけのものと思っていた。

 しかし《アルハザード》よりはまだ現実味があるのでは。何より実在している可能性が0でない以上、調べてみる価値はあるかもしれない。

 

 

 

 それからプレシアは研究室に戻り、次元ネットで闇の書に関する情報を読みあさった。

 信憑性がまるでない情報に辟易し、何度やめようかと思いながらもプレシアはネットを漁り続け、そしてようやく信用できそうなサイトを見つけた。

 

 そのサイトによれば、《闇の書》は数百年前から多くの主を渡りながら存在してきた魔導書で、愚王ケントは数多いた持ち主の一人に過ぎないという。

 闇の書は最初は白紙の状態で、魔導師の《リンカーコア》、もしくはその中にある魔力を吸収して頁を増やして膨大な数の魔法を記録していき、666もの頁を埋めて闇の書は完成する。

 完成した闇の書は、記録しているかどうか関係なく、その膨大な魔力で魔法式を作り上げ、あらゆることを可能にするという。

 ただし、闇の書を使える者は書に選ばれた主のみで、どんなに魔力があっても、『死者の蘇生』や『時間への干渉』はできない。

 

 最後の文を読んで、プレシアは思わずブラウザを閉じかけた。

 『死者の蘇生』と『時間への干渉』。プレシアの目的はその二つのどちらかを介さない限り達成しえない。

 死者を蘇生させることが直接叶えば言うことはない。直接蘇らせることが叶わなくても、過去を改変することさえできれば“あの子”を救う方法などいくらでも思いつく。

 しかし闇の書の力を扱えるのは主のみで、その力をもってしてもプレシアの望みは叶えられないという。その上、闇の書を完成させるためには多数の魔導師から魔力を集める必要がある。余命が間近に迫っている今、とてもそんなことをしている余裕はない。

 

(私には無用の物かしら? でもこれに書かれていることが確かなら、闇の書は私が知るどのロストロギアよりも強い力を持っている。ジュエルシードやレリックよりも……)

 

 あっさり見切るのは惜しい。何か有効的に使える方法があるのではないか。例えば他のロストロギアと組み合わせて使うとか……。

 

(魔力さえ吸収させればページは増えるのよね。リンカーコアからでなくても、魔力を持つ結晶体などから移すことができるんじゃないかしら。ジュエルシードみたいものから……)

 

 ジュエルシードのようなロストロギアを使えば短時間で頁を増やせるかもしれない。しかし主しか使えず、死者や時間に干渉することのできない魔導書など本当に役に立つのだろうか?

 

(もし主にしか使えないものだったとしても、主を味方に付ければいいだけの話。娘一人を甦らせてもらう事を条件に、闇の書を完成させる手伝いをするというのよ。向こうにとっても悪くない話のはず。残る問題は、闇の書の力では直接死者を甦らせたり時間に干渉したりはできないことだけど……いや、逆に言えば()()()()()()()()()()()()()()ということじゃないかしら……ジュエルシードの代わりに闇の書の力で次元断層を起こすことだって――)

 

 そこでプレシアは確信した。闇の書は自分の望みを達成するために役に立つと。

 闇の書の力で“あの子”を取り戻せればそれでよし。それが叶わなければ闇の書や余ったジュエルシードを使って次元断層を起こし、“アルハザード”へ行けばいい。

 問題はこのサイトに書かれたことのどこまでが本当なのか、闇の書は今どこにあるのか。

 

 そこまで考えてプレシアは通信端末を手に取った。関わり合いになりたくない男だが、管理局から情報を盗み出せる者などプレシアが知っている限り、“彼”しかいなかった。

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、プレシアは苛立たしげに端末を机に放り捨てた。

 

(――相変わらず腹が立つ男ね!)

 

 プレシアが連絡を取った男はすぐに闇の書について調べてくれ、その情報を余すことなく教えてくれた。どうやらあの男は闇の書にはまったく興味がないようだ。相変わらず、自身の研究とそれによって造り出したものにしか興味がないのだろう。

 現に闇の書に関する情報と引き換えに、あの男が立てた理論をもとにして作った“人形”の出来具合などを詳しく尋ねられた。それだけならまだしも、“あの子”のことを茶化すような――。

 それを思い出しプレシアは机を叩く。

 

 しかし必要な情報は手に入った。

 “彼”によれば、管理局の顧問官ギル・グレアムがすでに闇の書を探し当てていて、現在の主を監視しているらしい。

 現在、闇の書は第97管理外世界にあり、八神はやてという少女が主となっているとのこと。両親は事故で亡くなっており、通いのヘルパーに補助してもらいながら一人で生活している。

 それを知ってプレシアは都合がいいと思った。

 このような少女なら連れ去るなり言いくるめるなりどうとでもできる。先に闇の書を奪ってから考えてもいいだろう。

 

 闇の書の入手や八神はやての略取もフェイトにやらせるか。いや、どの道ジュエルシードが必要なことに変わりはない。フェイトにはそちらに専念させるべきだ。それにフェイトと八神はやての身体年齢はほぼ同じ。万が一親しくなって変な影響を受けたら面倒なことになる。

 あの犬は当てにならない。むしろ今すぐ排除したいくらいだ。もっとも、いまさらそんなことをしてもフェイトに離反される恐れを生むだけだろうが。

 

 となると、残る手駒は一つだけ……。

 

《リニス、私よ。すぐに来てちょうだい》

 

 

 

 念話で呼び出してからしばらくして、ノックの音ともにリニスが研究室に入って来た。

 彼女は憤慨した様子で口火を切ってくる。

 

「プレシア、まだ起きていたんですか! あれほど食事と睡眠を摂るように言ってるのに」

 

 就寝の邪魔をされたことに怒っているのかと思いきや、そんなことに腹を立てていたのか、とプレシアは思った。

 詰め寄るようにリニスは問いかけてくる。

 

「まさか忘れてませんよね? フェイトが一人前の魔導師になったお祝いに、あの子と一緒に食事を取るって約束」

 

「それくらい覚えてるわ。ちょっと夜更かししたくらいでこなせなくなるものじゃないでしょう。それより覚えているかしら? あなたとの契約の事」

 

 そう言った瞬間、リニスは辛さと不安さが入り混じったような顔になった。

 

「はい、もちろん覚えています。あなたとの契約はフェイトを一人前の魔導師に育て上げること。それが遂げられた今、私はもう……」

 

 そこまで言ってリニスは暗い床に顔を落とす。そんな彼女にプレシアが声を浴びせてきた。

 

「それなんだけど事情が変わったわ。あなたにやってほしいことができたのよ」

 

「えっ……?」

 

 プレシアの言葉にリニスは顔を上げる。

 そこでプレシアは闇の書とその在り処、持ち主についてリニスに話す。リニスは驚愕しながらもそれを聞き、やがて口を開いた。

 

「……つまり私に、第97管理外世界にある闇の書を手に入れてきてほしいと」

 

「ええ。わざわざ新しい使い魔を作るのも面倒だし、あなたにはもう一仕事してもらうわ」

 

「しかし、私のような使い魔を維持するためには常に魔力を消費し続ける必要が……プレシアの体調を考えるとその負担は決して軽いものでは――」

 

「元々残り僅かな命よ。あなた一匹使役する程度で大差はないわ。それとも、私やあの人形のもとで働くのがもう嫌なのかしら? それなら無理にとは言わないけど」

 

 その問いにリニスは片手を振って――

 

「い、いえ、わかりました。ではご命令通り、もうしばらくの間あなたにお仕えさせていただきます。ですが、闇の書はすでに八神はやてという少女が所有しているんですよね? それを奪ってこいと……」

 

「やり方はあなたに任せるわ。ただし、必ず闇の書を持って帰ること。邪魔する者がいれば躊躇わずに排除して構わないわ、八神はやて以外はね」

 

 その命令にリニスは躊躇いを覚えながらも主に問いかける。

 

「……フェイトには他のロストロギアを?」

 

「ええ。本命はまだ別にあるから。あの子にはそれを集めてきてもらうわ。あなたは闇の書を、あの子には他のロストロギアを手に入れてきてもらう……問題あるかしら?」

 

「いえ、わかりました。ご命令通り闇の書を手に入れて参ります。……ただ、いくつかお願いしてもいいでしょうか?」

 

 プレシアは眉を吊り上げながらも「何かしら?」と続きを促した。

 

「まず現地での活動に備えて、私が使うデバイスを作らせてください。デバイスなしでは私も力を十全に発揮できませんから。バルディッシュほど高性能でなくて構いません」

 

「それくらい好きになさい。デバイス一つ大したことはないわ」

 

「ありがとうございます。次に、可能な限りフェイトとアルフのサポートをさせてください。あの子たちでもいきなりロストロギアを相手にするのは危険すぎます。せめて私に補助をさせていただければと」

 

「……わかったわ。その代わり闇の書は確実に手に入れてくるのよ」

 

 リニスはこくりとうなずいて再び口を開く。

 

「そして最後に、もし……もしもあなたの願いが叶ったら、その時はフェイトとの関係を見直していただけませんか。フェイトも“あの子”同様、血を分けたあなたの娘です。ですから――」

 

 それを聞いてプレシアはしばらく押し黙り、リニスはじっと主の様子を窺う。

 やがてプレシアはぽつりと言った。

 

「考えておくわ。“あの子”がフェイトの存在を認めるようなことがあればね。じゃあ、そこにひざまずきなさい。新しい契約を結ぶ儀式を行うわ」

 

「はい」

 

 リニスは床に片膝をつき、プレシアは杖を出現させそれをリニスに向ける。

 こうしてプレシアとリニスの間に『闇の書を主のもとに届ける』という契約が結ばれた。この契約が彼女らの今後の運命を大きく変えることになる。

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