魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第38話 正体

 夜中、アースラでは。

 

 

「アンロック」

 

 少年が手をかざすと彼の手の先に魔法陣が浮かび、ドアが開く。

 その部屋にはいくつもの小箱が置かれてあった。その半分以上に“あのロストロギア”があるはず。

 

 ここは保管室。艦が本局に到着するまで、回収したロストロギアを保管しておく部屋だ。

 保管されているロストロギアには封印処理が施されており、その上、この部屋の中は《アンチ・マギリング・フィールド(AMF)》という結界が張られているため、ロストロギアといえども魔力で動くものなら暴走する危険は少ない。

 

 少年は適当な箱を手に取っては開錠魔法で開いて、中に入っているジュエルシードをくすねていく。

 そして5個のジュエルシードを懐に入れると、それ以外の箱には見向きもせずに保管室を後にした。

 闇の書を完成させるのに必要なのは5個。それ以上をあの女に与える必要はない。

 

 

 

 

 

 

 病室の明かりはすでに落とされており、はやてはただ一人そこで就寝していた。

 しかし不意に響いた声と、部屋に入ってくる誰かの気配が彼女を眠りから覚まさせた。

 

「アンロック」

 

 聞き覚えのある声とともに扉が開き、扉の向こうから一人の少年が医務室に入ってくる。

 廊下から漏れる照明に映し出されたのは、短めの黒髪に緑色の右眼と黒い左眼のオッドアイの少年。彼を見てはやては思わず起き上がった。

 

「――健斗君!?」

 

「おっと悪い。起こしちまったか」

 

 医務室に足を踏み入れながら健斗は張った目ではやてを見る。

 

「どうして健斗君がここに? 明日まであっちにいるんじゃ――」

 

 はやての問いに健斗は笑みを向けながら、

 

「早めにアースラに戻って来たんだよ。はやてがこんな状態なのに俺が家でのうのうと過ごしているわけにはいかないだろう」

 

「……?」

 

 健斗の口から出たある言葉にはやては違和感を覚える。

 

(そういえば健斗君のあれって……まさかこの人)

 

 疑念を浮かべながらもははやてはおくびにも出さず、健斗に声をかけた。

 

「そうやったんか。“あの人”とお話はできた?」

 

 そう問いかけると健斗はうなずきながら、

 

「ああ。母さんもはやての事を心配してたよ。実はあの人に言われてきたんだ。家にいる暇があったらはやてちゃんのそばにいてあげなさいってね」

 

「……」

 

 その言葉で違和感は確信に変わった。はやては表情を消して尋ねる。

 

「それで、こんな時間に何の用? さっきまでぐっすり寝てたところやったんやけど」

 

 不満そうに問いかけるはやてに健斗は片手を立てて謝る。

 

「悪い悪い。でも、ここはもうプレシアたちにバレてるだろう。今のうちにはやてだけでも安全な場所に移った方がいいってことになったんだ。お前と闇の書を狙って、いつあいつらがやってくるか。そうなる前に――」

 

 そう言って健斗ははやてのベッドまで歩み寄り、足を動かせない彼女を抱えようと手を伸ばそうとしてくる。そこで不意にはやては言った。

 

「あんたがこんな風に私をさらおうとしているみたいに?」

 

 そこで健斗はピタリと動きを止め、はやてに顔を向ける。

 

「何のことだ?」

 

 素知らぬ様子でとぼけようとする健斗に対して、はやては呆れたように顔を振りながら言った。

 

「しらばくれても無駄や。あんた健斗君やないやろ。結構似てるけど、色々おかしなところだらけや」

 

「おいおい、冗談にしてもきついぞ。俺が健斗じゃなかったら何だっていうんだ? お前を守るために家を飛び出してアースラまで戻って来たっていうのに」

 

 心外そうに健斗は詰め寄る。そんな彼にはやては尋ねた。

 

「その家やけどな、どっちの家や? 聞いとらんかったわ」

 

「……? そりゃあ俺の家に決まってるだろう。俺と母さんが二人で暮らしてる……」

 

 そう言う健斗にはやては首を横に振って、

 

「ううん。実は今日、健斗君はなのはちゃんの家に泊まってるはずなんや。その理由は知ってます?」

 

 その問いに健斗は答えられず黙り込む。それに質問した本人が答えた。

 

「なのはちゃんの家には美由希さんって人がいてな、健斗君を引き取った美沙斗さんの本当の娘さん。少し複雑やけど、健斗君の義理のお姉さんって言えばわかるかな。その人と一度話してきた方がいいって私の方から勧めたんや」

 

「……まさか、お前がさっき言ってた“あの人”っていうのは」

 

 健斗が漏らした言葉にはやてはこくりとうなずき、

 

「うん、その美由希さんの事や。ちょっとうっかりしてたな。うっかりと言えば目も違うよ。本物の健斗君の目は右が黒、左の目が緑色やねん。あんたは見事に真逆やな」

 

 それを聞いて健斗らしき者はしまったという顔で右手で目を押さえようとする。だが、健斗(?)は目元まで伸ばしかけた手で頭を抱えながらフフと笑った。

 

「やれやれ、()()()()()勘が鋭いな。御神健斗に化けたのは失敗か。無理やり連れて行くようなことはしたくなかったんだが」

 

「……やっぱり、目的は私と闇の書ですか?」

 

 はやての問いに健斗そっくりの少年はうなずいて答えた。

 

「ああ。闇の書だけ奪ってもすぐに君のもとに転移してしまうのでね。それを防ぐには君も一緒に来てもらうしかないというわけだ。まったく、こんな誘拐のような真似をしなくてはならなくなるとは。私も堕ちるところまで堕ちたものだな」

 

 自虐的な笑みを浮かべる少年をはやては鋭い目で見る。少年は笑みを消して言った。

 

「安心してくれ。君に危害を加えるつもりはないし、加えさせるつもりもない。ほんの少しあっちで過ごして、その後は少し長い眠りについてもらうだけだ。御神健斗にも()()()()()()()()手を出すつもりはない」

 

「……ひとつだけ質問してもいいですか?」

 

 そう尋ねるはやてに少年はうなずいて促す。はやてはそのまま口を切った。

 

「さっき、私を抱こうとした時にあなたはかなりの角度まで背中を丸めてましたよね。一年前、初めて足が麻痺した時に、ある人に抱きかかえられて救急車に乗せてもらったんですけど、あなたの姿勢はその人とまったく同じものだったんです」

 

「……」

 

 少年は無表情で耳を傾ける。はやてはさらに続けた。

 

「その人は双子の妹さんと一緒にヘルパーとしてうちに来てくれて、両親のいない私のお世話をしてくれた人でした。私や健斗君についてかなり詳しいみたいやし、まさかとは思いますけど…………理亜(りあ)さん……なんですか?」

 

 理亜というヘルパーの名で呼ばれ、少年は唖然とした表情をする。そして少年は中年の女性のような声で、

 

「……本当に勘が鋭いわね、はやてちゃん。こればかりは知ってほしくなかったけど」

 

 信じたくなかったという顔ではやては唇をかむ。そして……

 

「そうだったんですか……じゃあ、やっぱり“グリムおじさん”が」

 

「……すまない。本当なら君は何も知らないまま友達や騎士たちと日常を過ごし、幸福のまま永い眠りについてもらう予定だったのだが。恨むのなら私かプレシア、あるいは私たちを散々引っ掻き回しこのような方法を取らせる原因となった御神健斗を恨んでくれ」

 

 健斗と同じ声でそう詫びて、少年ははやてに手を伸ばす。理亜とまったく同じ姿勢で。

 そんな彼のまわりに青い粒子が浮かび上がった。

 

「……?」

 

 少年は思わず辺りを見回す。

 その瞬間、粒子は紐になって少年を縛り上げた。

 体を締め付けられ、うめき声を上げる彼の後ろから声が響いてきた。

 

「ストラグルバインド……相手を拘束して強化魔法や変身魔法を無効化する。戦い以外にこういう時にも役に立つ魔法だ」

 

 その声に反応して少年は後ろを振り向く。同時に少年の体は青い光に包まれ、その光は捕らえた者の偽りの姿をはぎ取り、()()の真の姿をさらけ出した。

 少年の代わりに現れたのは、臨時局員としてクロノたちと行動を共にしていたリーゼアリアだった。

 アリアは身悶えながら扉の向こうにいる人物を睨む。

 

「くっ……こんな魔法教えてなかったのに」

 

「一人でも精進しろと教えたのは、君とロッテだろう」

 

 そこにいたのは悲しげな顔で師の顔を見るクロノだった。さらに――

 

「はやて、大丈夫か!?」

 

「はやてちゃん!」

 

「この女が主を……」

 

 ふいに病室の明かりが付き、クロノの後ろから守護騎士たちが次々に部屋へと入ってくる。

 彼女たちを前にアリアは観念したように目を伏せた。

 

 

 

 

 

 

 同時刻、本局。

 

 ノックの音に、部屋の中にいた老人が顔を上げる。

 

「グレアム顧問官、よろしいでしょうか?」

 

「……入ってくれ」

 

 グレアムがそう告げると、失礼しますという一声もなくドアが開き、十人近くの武装局員が部屋に踏み込んできて、戦闘用の杖を向けながらグレアムを囲む。

 グレアムは動じる様子もなく、彼らの指揮者を見上げる。

 指揮者はグレアムを見返しながら厳かな声で告げた。

 

「ギル・グレアム顧問官。次元犯罪者プレシア・テスタロッサとの共謀、および捜査攪乱の容疑で逮捕します。ご同行を願えますか」

 

 有無を言わさない響きが込められた通達にグレアムは首を縦に振り、彼らとともに部屋を後にした。

 

 

 

 こうして、リーゼアリアと、彼女たちを通してプレシア一味に手を貸していたもう一人の黒幕、ギル・グレアムは逮捕された。

 しかし、仮面の男ことリーゼロッテは未だプレシア一味のもとにいたまま。この事件の解決にはあと幾ばくかの時間を要する。

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