魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第39話 時の庭園 突入前

 翌日、家を出る前に俺となのはとユーノは、俺の部屋でクロノたちとそれぞれの状況を確認していた。

 そこで俺たちは、俺に化けたリーゼアリアさんが艦内に保管していたジュエルシードを盗み、はやてをさらおうとして捕まったことを知る。そして……

 

「じゃあ、おとといのクラッキングもアリアさんの仕業だったんだな」

 

『ああ。外部から管理局やアースラのシステムに入るのは限りなく困難だが、内部からなら簡単に入り込める。そして、それらの行為を指示したのが……』

 

「アリアさんの主――ギル・グレアムさんか」

 

 俺の言葉にクロノは首を縦に振る。

 一方、俺の隣では、

 

「あのアリアさんが。それにグレアム提督まで……」

 

 あの二人、特にアリアさんがはやてを連れ去ろうとしていた事を知って、なのはは顔を曇らせる。

 アリアさんとはアースラの中で何度も会話を交わし、一緒に食事をとったこともある。その彼女とグレアム提督が闇の書を狙ってプレシア一味と内通し、はやてを彼女らのもとまで連れて行こうとしたという。ショックがないわけがない。

 しかも彼女は理亜(りあ)というヘルパーに化けて、何年もの間はやての家に通っていたらしい。俺もなのはも理亜さんとは何度も顔を合わせている。普通なら混乱をきたすところだろう。

 

「彼らが闇の書を狙っていた理由は、闇の書の力を手に入れるためか? それとも……」

 

 違っていることを承知で尋ねる俺に、クロノは首を横に振り……

 

『闇の書を永遠に封印するため、だそうだ。グレアム提督は11年前から闇の書を探し、同時に闇の書を“永久封印”する方法を考えていたらしい』

 

 やはりか。

 以前、グレアムさんは闇の書を封印する方法がどうと口走っていた。クラッキングを仕掛けたのがアリアさんではないかと疑っていた時から、もしやとは思っていたが。

 

「でも、どうやって闇の書を封印するつもりだったんだ? 11年前も失敗したんだろう?」

 

 ユーノはクロノにそう問いかける。それを聞いて俺は思わず顔をしかめた。そういえばユーノやなのはとかはクロノの父親、クライドさんの事をまだ知らなかったな。

 しかし俺の懸念に反して、クロノは平静を保ちながら答えた。

 

「完成したばかりの闇の書を主ごと凍結させる。そうすることで闇の書は転生することなく、()永久的に活動を停止するらしい……主とともにな」

 

「主とともにって、もしそれが実行されたらはやてちゃんは……」

 

 グレアムさんたちが行おうとしたことを知って、なのはは言葉を詰まらせる。

 永久封印か、300年前にそれを思いついててジュエルシードみたいなものがあれば、俺もそれを実行していたかもしれないな。魔導書と俺自身を封印するために。

 しかし言葉通り凍結させるだけだとすれば、その方法には穴がある。

 

 まあ、今はそれは置いておこう。

 

「リーゼロッテさんはどうしてる? ロッテさんもグルだったんだろう。彼女も捕まったのか?」

 

 そう問いかけるとクロノは首を横に振り、重い口調で答えた。

 

『昨日から行方をくらましている。アリアとグレアム提督も通信で彼女に呼びかけているんだが応答がないままだ』

 

 それを聞いて部屋に沈黙が訪れる。やはりそう簡単に捕まるタマではないか。主の呼びかけにも応じない辺り、意志も固いようだ。

 

「グレアムさんとアリアさんはどうしてる?」

 

『アリアはアースラの護送室、提督は本局の留置室に勾留している。次元犯罪者と共謀した上に捜査妨害を行った犯罪者だからね。ただ、それほど大きな罪には問われないだろう。次元犯罪と比べれば軽いものだし、彼らの企ても未遂に終わっているから……健斗は不服に思うだろうが』

 

 こちらに視線を向けながらクロノをそう付け足す。俺の表情は穏やかとは言えないものだろう。何も知らない少女、それも俺たちの友達を魔導書もろとも封じ込めようとしておいて、重い沙汰は下されないというのだから。

 しかし、それをクロノ一人に言ってもどうにもならない。詰め寄りたい気持ちを殺しながら俺は問いを続ける。

 

「一通りの区切りがついた後で彼らと話すことは可能か? できればアースラに呼び出して」

 

 それに対してクロノは少し考えてから、

 

『……まだ事件は解決していないから、捜査の一環として話を聞くことは可能だ。そちらは僕が手配しておく。これも執務官の職務の内だ』

 

「頼む。じゃあそれまでにロッテさんも捕まえた方がいいな。プレシアたちの所にいるとみて間違いないんだろう?」

 

 俺の言葉にクロノはうなずきを返す。

 そこへなのはが一歩進みながら口を開いた。

 

「クロノ君、レイジングハートは?」

 

『ああ。もう改修は済ませてある。受け取ってくれ』

 

 クロノがそう言うとなのはの手元にレイジングハートが転送されてくる。見た目は変わっているようには見えない。

 レイジングハートを手に取るなのはに、クロノは念を押すように言った。

 

『くれぐれもみだりに乱用しないでくれ。まだ実用化が進んでいないため、使用者への負担が大きく危険な技術であることに変わりはないんだ』

 

「うん、わかってる。絶対にフェイトちゃんに勝って話を聞いてもらうよ!」

 

 そう息巻くなのはを見て俺たちは不安げな顔になった。どんな無理をしてもフェイトをねじ伏せるという意思がありありと伝わってくる。

 

《ユーノ、なのはを頼む。無茶しないか見てやってくれ》

 

《うん。君の方こそ気を付けて》

 

 それからなのははクロノからある物も一緒に受け取る。

 そうして俺たちは高町家を後にして決戦の場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 同時刻、《時の庭園》の玉座の間で、リニスと仮面の男を左右に置きながらプレシアはフェイトと相対していた。

 プレシアが宙に手をかざすと、彼女のまわりを浮かんでいた9つのジュエルシードはフェイトのもとに集まった。

 フェイトは不思議そうな顔でジュエルシード、そしてプレシアを見る。

 そんなフェイトにプレシアは告げる。

 

「このジュエルシードを賭けてあの子と戦いなさい。そしてあの子が持つジュエルシードを手に入れてきて。闇の書を手に入れるのに失敗した今、すべてはあなたにかかっているわ」

 

 母の命令にフェイトは固い表情で答えた。

 

「はい。必ずジュエルシードを手に入れてここに帰ってきます」

 

 そう言い残してフェイトはこの場を後にする。

 それを見届けてから仮面の男はプレシアの方を向いて言った。

 

「いいのか? 集めたジュエルシードをすべて預けたりして。もしフェイトが負けたら……」

 

「その時は私の手元に戻せばいいだけよ。転送くらいいつでもできるわ。もっとも、その時は腹をくくるしかないけれど」

 

 プレシアの言った言葉の意味を察し、男は息を飲む。

 それはたった9個のジュエルシードだけで“あそこ”へ旅立つということだ。地球だけでなく複数の平行世界を巻き込む災害――《次元断層》を起こして。

 プレシアは意地悪い笑みを浮かべながら男に問いかける。

 

「それで、あなたはどうするつもりかしら? ここを出ても捕まるだけだと思うけど」

 

 それに対して、男は居住まいを正しながら……

 

「このまま君たちに協力させてもらおう。私もまだ諦めるつもりはないのでな。その代わり万が一にも闇の書を手に入れることができたら……」

 

「ええ、私の願いが叶ったら闇の書と主はあなたにあげるわ。永久封印するなりご主人様を助けるのに使うなり好きになさい、リーゼロッテさん」

 

 それを聞いてバレていたかと思いながら男は仮面を外す。

 途端にがっしりした体格を持つ男の輪郭は崩れ、黒衣の局員制服を着た女の姿に変わった。

 

(ごめん父様、アリア。闇の書を封印するために今まで頑張って来たんだ。ここまで来て諦めることなんてできないよ。あなたたちの分まであたしは最後まで戦い抜く。……切り札もまだあたしの手にあるしね!)

 

 決意を固めるロッテの手には銀色に光るカードがあった。

 

 

 

 

 

 

 海鳴臨海公園、健斗は魔法陣に乗ってアースラに戻り、なのはとユーノだけが残る。

 健斗を見送った向きのまま、なのはは口を開いた。

 

「もう健斗君はいないよ。出てきて、フェイトちゃん」

 

 返事も足音もない。あたりに響くのは風に吹かれた木々のざわめきの音だけだ。

 ユーノは左右をきょろきょろを見回す。

 一方、なのはは新たに加わった気配を感じ取って後ろを振り返った。

 そこにはバルディッシュを構えながら電灯の上に立つフェイトの姿があった。

 神妙な顔で自分を見下ろすフェイトを見て、なのはも彼女の決意を悟る。

 

「私からジュエルシードを取っても、闇の書を持って行っても、フェイトちゃんのお母さんの願い事は叶わない。多分そんなことはもう気付いてるよね。それでもフェイトちゃんは立ち止まれないんだね?」

 

 フェイトは答えず、じっとなのはたちを見下ろす。

 なのははそのまま続けた。

 

「ただ捨てればいいってわけじゃないよね。逃げればいいってわけじゃもっとない。私たちにとってのきっかけはジュエルシード。だから賭けよう――お互いが持ってる全部のジュエルシードを!」

 

 そう言ってなのはが球体型のレイジングハートを掲げると、そこから12個のジュエルシードが浮かび上がる。

 母が言った通りの流れとなったことにわずかに戸惑いながら、フェイトもバルディッシュから9個のジュエルシードを出した。

 それを確認してなのはは口にする。相方の新たなる名前を。

 

「《レイジングハート・エクセリオン》、セートアップ!」

『Drive ignition(駆動開始)』

 

 なのはとデバイスの言葉を聞いてフェイトは目を剥き、その間にもなのははバリアジャケットに身を包み、レイジングハートも杖に形を変える。

 

『Accel mode, standby, ready(アクセルモード、準備完了)』

 

「カートリッジシステム、君のデバイスにも……」

 

 以前と違う形状のレイジングハートを見て、フェイトは思わずつぶやきを漏らす。

 なのははフェイトに杖を向けながら言った。

 

「私たちのすべてはまだ始まってもいない。だから、本当の自分を始めるために……始めよう、最初で最後の本気の勝負を」

 

 

 

 

 

 

 アースラに戻ってからクロノやリンディさんのもとにも向かわず、俺はバリアジャケットに装着しながら転送ポートへと向かう。

 アルフの自供によって、すでに《時の庭園》の次元座標は特定されている。

 フェイトがなのはと戦っている間にアースラに配備されている《武装隊》と一部の魔道師が庭園に踏み込んで、リニスとプレシア、そしておそらく彼女たちと一緒にいるリーゼロッテを捕まえることになっている。

 でも多分彼らだけじゃ、あの三人にかなわない。

 

 転送ポートにはすでに何十人もの武装局員がいて、俺が駆け付けてきたことに気付いた瞬間、ぎょろりと視線を向けてきた。そのほとんどが初めて遭遇した時に俺たちを取り囲んだ人たちばかりだ。

 

「何の用だ? ここは子供が入ってくる場所じゃないぞ」

 

 白のメッシュを入れた黒髪の男が人波をかき分けてながらこちらに向かってくる。リンディさんとは違った、軍人ならではの貫禄がある人だ。

 

「民間協力者の御神健斗です。敵の本拠地に踏み込むと聞いてきました。俺もお供させてください!」

 

「お供だと? そういえば提督から民間の協力者が同行するかもしれないと言っていたな。武装隊には組み込まず協力という形で」

 

「じゃあ――」

 

 リンディさんが彼らに出したという指示を聞いて、俺は踏み込むように声を張り上げる。しかし男は睨むような目で俺を見下ろし――

 

「待て待て! そう簡単に同行を許すわけにはいかん。これから俺たちが向かうのは、世界のひとつやふたつは滅ぼせる危険なロストロギアを集めている次元犯罪者の拠点だ。君の身に危険が降りかかっても誰も守ってはやれないぞ。それをわかって言っているのか?」

 

「はい。守るつもりはあっても守られるつもりはありません。だから俺も一緒に行かせてください! あそこには決着をつけたい奴とこの手で捕まえたい奴がいるんです!」

 

 訴えるようにまくし立てると男は俺をじっと見る。

 

「お前は確か、提督と執務官の反対を押し切って、半ば強引に艦を飛び出したことがあったそうだな」

 

「……はい」

 

 この前の命令違反を思い出しながらそう口にすると、男は神妙な顔で口を開いた。

 

「そうか……それだけの胆力があれば大丈夫か」

 

「待ってください。あれは友達を助けるために――えっ?」

 

 必死に何か言おうとした途中で相手の言葉の意味に気付き、俺は思わず口を止める。

 

「ロストロギアが暴走している現場に入っていくような奴なら行かせてやっても構わない。そう言ったんだよ。聞こえなかったか?」

 

 男はそう言って二ッと笑う。それにつられるように、

 

「大嵐の中を突っ切っていくなんて普通あんなことできねえ。しかも提督や執務官に逆らってよ」

「そんでロストロギアを押さえて金髪美少女を助けちまうんだからな。俺もあんな活躍がしてえぜ。何を隠そう、凶悪な次元犯罪者から女の子を助けてモテるために武装局員になったんだ」

「じゃあもう少し活躍しろよ。いつも危なくなったらすぐ逃げちまうじゃねえか」

「AAA以上が加わってくれるなら願ってもないぜ。俺たちから頼みたいくらいだ」

 

 笑い合いどつき合いながらそんなことを言い合う武装局員たちを俺は唖然と見る。黒髪の男は笑いながら言った。

 

「とまあ、実はみんな最初から君が加わってくれるのを期待していたんだ。AA以上の魔導師は貴重だからな。ただ一応意思は測っておきたかったし、この前の意趣返しをしてやりたい奴も多くてな。俺なんかあの時お前に殴られて海に叩き落とされたんだ。これくらいの仕返しは許してくれ」

 

「えっ……」

 

 そう言われて俺はもう一度男を見上げる。そういえば、なのはとフェイトを助けるために海に突き落とした奴がこんな髪型だったような。

 記憶を呼び起こしている俺に向かって、男は右手を差し出した。

 

「第一小隊及び武装隊全体の指揮を取っているギャレットだ。短い間だがよろしく御神君」

 

「こちらこそよろしくお願いします。ギャレットさん」

 

 ギャレットさんの手を握り返しながら俺もそう返す。

 ギャレットさんは握手を続けながら、

 

「ついて来てくれるのはお前だけか? 二つ編みの女の子はともかく、他にも何人かいただろう。確かなんとか騎士っていう……」

 

「ああ。守護騎士たちならアースラに残ると思います。あいつらにははやてを守るという役目がありますから」

 

「――勝手に決めんな。誰が残るって?」

 

 その声に俺とギャレットさんは手を離しながら後ろを振り返る。

 そこには騎士甲冑を装着しているシグナムとヴィータがいた。

 

「主はやての頼みだ。管理局と健斗に力を貸してやってくれとな」

 

「はやてのそばにはザフィーラとシャマルがついてる。連中は本拠地にいるみたいだし、あの二人だけでも大丈夫だろう」

 

 それだけ言ってヴィータは俺たちや武装局員から離れた場所へ行き、ギャレットさんも部下の所に戻って、俺とシグナムだけが残される。

 居心地の悪い沈黙の中、シグナムはぽつりと言った。

 

「健斗、お前には関係のないことかもしれんが、一つだけ言わせてくれ」

 

「えっ……?」

 

 突然そう言われ、俺は思わずシグナムを見上げる。

 

「他の者はともかく、私はかつての主、ケントの事を恨んでなどいない。あの方が我らを御前(おんまえ)から除いたのは、我らに対し不満に思われるところがあったからだろう。主の不興を買った己の未熟を呪いはすれど大恩ある主を恨みなどしない」

 

「……」

 

「だが、まっとうな説明もなく我らを突き放した主()()()()()を信用できるかと言われれば、正直難しいものがある」

 

 剣呑な雰囲気をまとわせながらそう告げるシグナムに俺は押し黙ることしかできない。それだけのことをあの時の俺はしたのだから。

 そんな俺にシグナムは言葉を付け足した。

 

「だから、この戦いを通してもう一度我らの信用を得てみせろ御神健斗。……私からはそれだけだ」

 

 その言葉に俺は思わず顔を上げる。

 だがシグナムは俺の返事も待たず、皆から離れた場所に立った。

 ちょうどそこにクロノが現れ、大きく張り上げた声で俺たちと武装隊に告げた。

 

「これより《時の庭園》に突入する。任務はプレシア一味の逮捕。特に首謀者のプレシア・テスタロッサは絶対に逃がすな!」

 

「はっ!!」

 

 その号令とともに俺たちは魔法陣を踏んで《時の庭園》へと転移する。

 なのはとフェイトの戦いと並行して、『時の庭園攻略作戦』が今始められた。

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