『Transfer reaction.Many intruders in the garden(転送反応。庭園内に侵入者多数)』
辺りに警告音声が響き、プレシアとリニスは顔を上げる。
「来たわね」
「……はい」
プレシアの言葉にリニスは顔を引き締める。彼女に向けてプレシアは言った。
「行きなさい。使い魔として主である私と“あの子”をあいつらから守るのよ。そしてあのオッドアイの子供を捕まえてきて。闇の書の主の友達だというあの子供を」
「はい。しばしお待ちを、我が主」
冷たい表情のまま一礼し、リニスは玉座の間を後にする。
彼女の姿が見えなくなった瞬間、プレシアは激しく咳き込み、紫色の口から赤黒い血があふれ出てきた。
口元を押さえ最期の訪れを感じながらもプレシアは強く思う。
「まだ終われない。もう一度……もう一度“あの子”に会うまでは。――クレッサ、あなたと一緒に造った人形たちをここで使わせてもらうわ!」
プレシアが念じると彼女の足元に魔法陣が浮かび、庭園のあちこちから何かが浮かび上がる音が響き渡った。
◇
アースラの転移ポートから移動した先は、雷が鳴り響く次元空間に浮かぶ巨大な島だった。
辺りに生えている地面から突き出たような尖った岩、舗装された床の先にある巨大な扉。
それらを見回しながら俺はまさかと思った。
――『移動庭園』! まさかここって、サニーが拠点として使っていた移動庭園なのか?
「な、なんだこいつらは!?」
その声に俺は気を改めて前を見る。
すると床から金属でできた巨大な異形が飛び出てくる。
それと同時に頭上からアースラのオペレーターの声が聞こえてきた。
『庭園敷地内に魔力反応多数! いずれもAクラス。総数60……80――まだ増えています!』
現れた異形を見て、俺はまた前世で遭遇したものを思い出し、ヴィータとシグナムも声を漏らした。
「こいつら、リヴォルタで現れた――」
「フッケバインたちが使役していた異形……こんなところで目にするとは」
「《
クロノが言い終わる前に、傀儡兵たちは武器を持って俺たちの方へ向かってくる。それを見て俺たちは武器を構えるが、クロノは手で制する。
「この程度の数、君たちが出るまでもない」
そう言ってクロノは杖を構え――
『
クロノのデバイス、《S2U》から伸びた光の鞭が複数の傀儡兵を弾き飛ばす。続けてクロノは杖を突き出し――
「スナイプショット!」
二撃目の鞭が棒立ちしている傀儡兵たちを貫く。だが一番奥にいる銀色のゴーレムは斧で鞭を防いだ。
クロノは一瞬で銀色の傀儡兵の前まで迫る。傀儡兵はクロノめがけて斧を振り下ろすが、クロノは跳躍して斧をかわし、傀儡兵の頭に杖を突き立てる。
『
次の瞬間、傀儡兵から光が立ち昇り、激しい爆発を起こした。
クロノはそこで降りながら、俺たちに声を飛ばした。
「さっさと行くよ! ここはまだ入り口だ」
「ああ!」
閉ざされている扉を無理やりこじ開け、俺たちは屋敷内を駆け抜ける。
奥まで広がる廊下は宮殿のようで、俺が知っている頃より豪華な造りになっている。だが大まかな経路は昔から変わっていないはずだ。
ところどころに伸びている左右への通路に構わずひたすら奥へと突っ走る。
クロノや武装局員、300年前は移動庭園に入ったことのない守護騎士たちも訝しげな目を向けながら俺に続いた。
何個目かの扉を蹴破って室内へ踏み込むと、中にはさっきよりはるかに多くの傀儡兵たちが俺たちを待ち受けていた。
俺たちやクロノに続いて、ギャレットさんも武器を構えながら部下たちに指示を出す。
「俺たちもかかるぞ! 相手は決められた行動しか取れない機械だ。Aクラスの魔力を持つ傀儡兵だろうと十分対処できる!」
「「「応!!」」」
それに従い武装局員たちも格上の魔力を持つ傀儡兵に攻め入る。
「紫電一閃!」
「ギガントハンマー!」
「シュバルツ・ヴァイス!」
武器を振るい、砲撃を打ち込みながら、次々に傀儡兵の数を減らしていく。
その最中、皆から少し離れた場所で傀儡兵を破壊した時だった。
「はああっ!」
頭上から猛烈な勢いで蹴りつけようとする者の気配を感じ、俺は寸前でシールドを張る。
しかし勢いを完全に殺しきれず、うめき声をこぼしながら後ろへ跳ばされてしまった。
俺に蹴りを入れてきたのは……
「リーゼロッテ!」
「あれ、健斗君? ごめんごめん間違えちゃった。そこらじゅうで敵と味方が入り混じっているからついうっかり」
ロッテは頭を掻きながらわざとらしく舌を出して謝る。
彼女を睨みながら剣を向けると、彼女は慌てたように両手を前に出して、
「わわっ! そんなに怒らないでよ。わざとじゃないんだって。あたしも君たちと一緒に戦うよ。一緒にプレシアを捕まえよう!」
拳を上げながらそんなことをのたまうロッテに俺は剣を向け続けながら、
「しらじらしい演技はよせ。お前が闇の書を狙って暗躍していた仮面の男だということはもうわかっているんだ。さっきの蹴りも以前あいつから食らったものとまったく同じだったしな」
そう指摘してやるとロッテはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「やっぱり騙されてくれないか。健斗君は小学校に上がった時ぐらいから急にお利口さんになったもんね。やっぱりそれも闇の書に触ったせい?」
「さあね。あんたなら聞かなくてもわかるんじゃないか。ヘルパーとしてずっとはやてや俺を監視してたんだからな――
「確かに、父様やあたしたちはあんたの正体に関して大体の見当は付けてる。闇の書に飲み込まれたはずの主が今頃になって復活したせいで面倒なことになっちゃったよ。本当ならプレシアなんかと手を組まなくても、守護騎士たちが頁を集めるのを待つだけでよかったのに」
そこまで言ってロッテは憎々しげな目を俺に向ける。それに対して俺は笑みを向けた。
「そりゃ何よりだ。
「ぬけぬけと。とっ捕まえる前に、邪魔された恨みも込めて少し痛い思いをしてもらおうか!」
俺たちは睨み合いながら互いに剣と拳を向ける。そこへ――
「スティンガーブレイド!」
ロッテに向けて何十枚の刃が降り注いで、ロッテは後ろへ跳んで刃をかわす。それを放ったのは、
「クロノ!」
「健斗、先に行け! こんな奴にかまっている暇はないはずだ」
クロノは立ちふさがるように俺の前に立ち、そうまくしたてる。
俺は躊躇なく――
「わかった。ここは頼む!」
そう言い残してロッテを横切ろうとする。当然彼女が許すはずもなく――
「させるか!」
ロッテは俺に飛びかかる。だが――
――フライングムーヴ!
技能を発し、動きが止まっている間に俺は飛びかかろうとする彼女の横をすり抜けて広間を抜ける。
その間に傀儡兵は一掃されて武装局員たちもこの場を去り、広間にはクロノとロッテだけが残された。
◇
健斗に襲い掛かろうとしたロッテだったが、突然彼の姿は消え、ロッテの体は空を切る。ロッテは地面に足を伸ばし、ミミズ状に床をえぐりながら大きく位置をずらして着地した。
「ちっ、希少――いや固有技能か。やっぱりあのガキ……」
舌打ちしながら忌々しそうに零すロッテにクロノは杖を向けながら口を開く。
「ロッテ、大人しく《デュランダル》を渡せ。お前が持っていることは提督から聞いているんだぞ!」
クロノが言うとロッテは銀色のカードを取り出し、見せびらかすように指に挟んだ。
「ああ、もちろんこの通りあたしが持っているよ。闇の書の永久封印には絶対に必要な物だからね。どうしてもっていうならクロスケに
「条件だと?」
眉をひそめるクロノに、ロッテはデュランダルと呼ばれるカードを指に挟んだまま言った。
「今すぐ闇の書と八神はやてをあたしに差し出して。それと父様とアリアの解放もね。デュランダルを扱えるのはあたしが知る限り父様とあの子だけだから。身内としての情ももちろんあるけど」
「民間人ごとロストロギアを凍結させるような行いに加担しろと言うのか?」
ロッテの言わんとすることを悟り、クロノは声を荒げる。しかしロッテも激情に染まった表情で言葉を返した。
「そんな綺麗事にこだわってたら、また闇の書を封印できる機会をなくしちゃうよ! それでクライド君みたいな……あんたのお父さんみたいな犠牲者が大勢出るんだ! クロノはそれでいいの!?」
父の名を出されてクロノも思わず顔をしかめる。だが彼は首を横に振って――
「だからといって罪のない人間を犠牲にしていいわけがない。それじゃただの生贄だ。法に携わる者として到底見過ごすわけにいかない。君たちの主もそれに気付いていたからこそ大人しく捕まって、洗いざらいを白状したんだ。あの人の教えを受けた僕にはそれがわかる」
「あんたなんかに何がわかる!? はやてちゃんを犠牲にすると決めるまで父様がどれだけ苦しんだか、あたしたちがどんな思いであの子と接してきたかあんたにわかるか! 過去の主たちのような悪人だったら気が楽だったと何度思ったことか!」
感情のままにロッテは吼える。しかしクロノは冷静なまま返した。
「悪人だとしても法を犯していない限り、誰にも彼らを裁いたり殺める資格はない。それに凍結させただけでは闇の書を封印し続ける事はできない。凍結した闇の書をどこに隠そうとどんなに守ろうと、いつかは誰かが見つけて使おうとする。アルカンシェルで消滅させた時と同じ一時しのぎにしかならないんだ。そんな計画のために大切な友達を差し出せるものか!」
その指摘にロッテはたじろぐ。だが彼女はなおも退こうとしない。
「……それでも、少なくとも封印が解けるまでは闇の書が世に出ることはない。100年か200年、あるいはずっと……そのためにも――こんなところで引けるもんかぁぁぁ!!」
獣のように叫びながら、ロッテは猛然とクロノに向かってくる。
クロノはやっぱりこうなったかと思いながら彼女を迎える。
グレアムの理性的な部分を反映したようなアリアと違い、ロッテは若かりし頃のグレアムが持っていた直情的な部分が移ったような性格をしている。クロノの冷静沈着な所は彼女を反面教師とした部分もあるだろう。
「ちょうどいい。これを機に白黒つけさせてもらうか。いつまでも師匠を越えられないなんて情けないからね」
そう言いながらクロノはロッテにS2Uを向け――
「ブレイクキャノン!」
◇
リーゼロッテを振り切ってから、螺旋階段に囲まれた吹き抜けの中で、俺たちは今まで以上の数の傀儡兵と戦っていた。
入口の前でクロノと戦ったものと同型の銀色の傀儡兵が俺に斧を振り下ろす。それを受け止めるべく剣に魔力を込めようとした。
だが――
「はあああっ」
赤い狼が真上から傀儡兵に飛びかかり、首元の魔力線を食いちぎった。
「アルフ! なぜお前がここに?」
俺が問いかけるとアルフはこちらを向きながら言った。
「あんたらに加勢したいって言ったら一時的に釈放してくれたんだ。時の庭園なら逃げようがないしね。それより気を付けて。厄介な奴が近づいているよ」
その言葉が引き金になったように、突然壁を突き破られ、2問の大筒を背負った巨大な傀儡兵が現れた。
それを見て局員たちは様々な場所から砲撃を放つが厚いバリアにさえぎられ、傀儡兵に届かない。
「バリア付きの大型傀儡兵……まさかあれはティミル博士とプレシアが共同で造ったという――全員退避! あれを喰らったらひとたまりもないぞ」
ゴーレムが下に向けて大筒を向けるのを見てギャレットさんは叫ぶ。
しかし彼らが逃げる前に大筒から光を漏れる。
彼らを救おうと俺は二度目の技能を使おうとした。
だが――
「ギガントシュラーク!」
「シュツルムファルケン!」
巨大化したグラーフアイゼンがバリアを砕きながらゴーレムをよろめかせ、弓になったレヴァンティンから放たれる矢がゴーレムを貫く。
これは……
「シグナム、ヴィータ」
「健斗、アルフ、お前たちは先に行け!」
「こいつはあたしとシグナムで十分だ。お前らはとっととリニスとプレシアを捕まえてこい!」
俺たちを横目で見ながら二人はそう言い放つ。
俺とアルフは――
「わかった。ここはあんたらに任せるよ」
「ありがとう二人とも」
そう言って俺たちは二人に背を向けようとした。そこへ――
「健斗」
「えっ?」
ヴィータから声をかけられ、俺は思わず振り返る。
ヴィータは俺に背を向けたまま言った。
「もう一度だけお前を信じるからな。今度裏切ったら、こいつでお前の顔を平らになるまでぶんなぐってやる」
「ああっ! 肝に銘じる」
ヴィータとそんな言葉を交わしてから、俺はアルフとともに先へ急ぐ。
その後に続く20人ほどの局員たちを連れて。