魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第55話 闇の書の闇

「夜天の魔導書を“呪われた闇の書”と呼ばせたプログラム……《闇の書の闇》」

 

 ゴォォォォォォォ!

 

 はやてのつぶやきに、獣の頭から上半身のみを生やした女は声にもならない雄たけびで応じる。主に対して彼女が何を言おうとしているのかは、元主である俺にもわからない。

 わかるのは……あいつも“闇の書の呪い”に捕らわれた犠牲者で、あいつを眠らせてやるしか呪いを解く方法はないという事だ!

 

「チェーンバインド!」

「ストラグルバインド!」

 

 ユーノとアルフが伸ばしたバインドが、防衛プログラムのまわりに生えている尾や触手を縛り、切り刻んでいく。さらに――

 

「縛れ、鋼の(くびき)――せいあ!」

 

 続いてザフィーラの攻撃が、切り裂かれた残骸やまだ残っている尾と触手を薙ぎ払っていく。

 

「ちゃんと合わせろよ、高町なのは!」

 

「ヴィータちゃんもね!」

 

 初めて名前を呼ばれたことを喜びながらも、なのはもヴィータに釘をさし返す。

 

「《鉄槌の騎士》ヴィータと《(くろがね)の伯爵》グラーフアイゼン」

Gigantform(ギガントフォーム)

 

 2発の薬莢を排出させながら、ヴィータがグラーフアイゼンを振り上げると、グラーフアイゼンの柄はしなやかなに伸び、それと同時に先端が巨大化していく。

 

「ギガントシュラーーク!!」

 

 ヴィータは巨大化したグラーフアイゼンを勢いよく振り下ろす。

 防衛プログラムを包むバリアが彼女を守るが、巨大な槌を叩きつけられた衝撃によってバリアはひび割れ、砕け落ちていく。

 その間になのははレイジングハートを防衛プログラムに向け――

 

「高町なのはとレイジングハート・エクセリオン、行きます!」

『Load cartridge』

 

 4発の薬莢を吐き出しながらレイジングハートは桃色の翼を2対生やす。なのははそれを握りながら、

 

「エクセリオンバスター!」

『Barrel shot』

 

 レイジングハートから突風のような初撃が放たれ、なのはに向かって伸びてきた触手を蹴散らし2層目のバリアまで届く。無論、この程度で壊れるほど脆いはずはない。

 だが、なのはの砲撃がこれで終わるはずがない。

 

「ブレイク――シュート!!」

 

 なのはが握るレイジングハートから、さらに何本もの桃色の光線が放たれ、2層目のバリアを砕いた。

 

 オオオオォォォ!

 

「次、シグナムとフェイトちゃん!」

 

 半分ものバリアを砕かれ雄たけびを上げる防衛プログラムを見下ろしながら、シャマルは二人に指示を出す。

 鞘から剣を抜き、それに応じたのは……

 

「《剣の騎士》シグナムが魂 《炎の魔剣》レヴァンティン、刃と連結刃に続くもう一つの姿」

 

 詠うように言葉を吐き出しながら、シグナムは剣と鞘を繋ぎ合わせる。

 二発のカートリッジと引き換えに、レヴァンティンは弓の形に変化し、弦彈の間に赤い弦を出現させる。

 

Bogenform(ボーゲンフォルム)

 

 魔力で生成した矢をつがえながら、シグナムは弦を引く。

 

「翔けよ、隼!」

Sturmfalken!(シュツルムファルケン!)

 

 防衛プログラムの前に触手が伸びてくるが、彼女とレヴァンティンが放った矢は妨げられることなくまっすぐに跳び、プログラムを守る3層目のバリアを貫いた――あと1つ!

 

「フェイト・テスタロッサとバルディッシュ・ザンバー、行きます!」

 

 3発の薬莢を排出させながら、フェイトは(ザンバー)型のバルディッシュを振りかぶる。

 フェイトが飛ばした衝撃波は防衛プログラムのまわりの触手を切り刻み、プログラム本体をも揺らす。

 フェイトは続けて、紫色の魔力光を帯びたバルディッシュを振り上げ――

 

「撃ち抜け、雷迅!」

Jet Zamber!(ジェットザンバー!)

 

 フェイトがバルディッシュを振り下ろすと、バルディッシュの刃は真下に向かって大きく伸び、最後のバリアを貫いて、上半身のみの女を乗せた獣を切り裂く。

 

 オオオォォォォ!

 

 ――っ。

 衝撃にひるみながら悲しげに叫ぶ女とリインがダブり、胸に痛みを感じた。

 やっぱり辛いな。リインと同じ姿の女が苦しむ姿を見るのは。

 そんな事を考えていると、穴だらけの床から新たに生えてきた尾がフェイトを狙っているのが見えた。

 

「フェイト!」

「――!」

 

 俺が叫ぶと同時にフェイトに向けて砲撃が放たれる。だが――

 

「《風の守護獣》ザフィーラ、砲撃なんぞ撃たせん!」

 

 その言葉とともにザフィーラは白い魔法陣を出現させながら構える。

 ザフィーラが発動させた魔法によって、床から白い杭が伸び、フェイトを攻撃しようとした尾を貫いていった。

 だが、奴の本当の狙いはフェイトへの反撃ではなく――

 

「しまった!」

 

 防衛プログラムを見ながらユーノが叫ぶ。

 防衛プログラムは高度を上げながら新しいバリアを展開させていた。

 

 5つ目のバリアだと!? リインが言っていた事と違うぞ! ――いや、再生機能があるなら新たにバリアを張り直すことぐらいは可能か。なら、これ以上バリアを修復される前に!

 

「だあああああっ!」

 

 思うやいなや、俺はすぐにバスタードモードのデュランダルを何度もバリアに叩きつける。三度目でバリアにひびが入り、さらに力を込めてデュランダルを二度叩きつけると、バリアはガラスのように砕けていった。

 バリアを砕き、荒い息をついていると獣の上にいる女と目が合った。咆えようとしたのか女の口から声が漏れる。

 そこへ……

 

「すまない。“ナハトヴァール”」

 

 ――!

 

 その名を聞いた瞬間、女も獣もピタリと動きを止めた。

 

「俺の力ではお前を救う事ができなかった。俺にできるのは、お前を“闇の書”から解放して眠らせてやるだけだ」

 

 ……。

 

「俺もいつかは再び生を全うして、お前のいる場所へ向かうことになるだろう。その時はいくらでも謝る……だから、もう眠ってくれ!」

 

 相手に向かってそう告げる。だがもちろん、獣もその上にいる女も返事を返すことはない。

 そこへ――

 

「健斗君、そこから離れて!」

 

 頭上からシャマルの声が降り注ぎ、俺はすぐに防衛プログラムから離れる。

 上空ではすでにはやてが石化魔法を使用する準備を終え、防衛プログラムの動きを止める魔法を発動させようとしていた。

 

『彼方より来たれ、宿り木の枝』

《銀月の槍となりて撃ち貫け》

 

 はやてと彼女の中にいるリインは、声を重ねながら詠唱を唱える。

 

「《石化の槍 ミストルティン!》」

 

 詠唱を終え、はやてが防衛プログラムに杖を向けると、彼女のまわりに数本の光の槍が出現し、それがプログラムに打ち込まれた。 

 断末魔を上げながら防衛プログラムは石化していき、獣の頭に乗っていた女も固まりながら、自重によって崩れていった。

 

 ――そろそろ頃合いか。

 そう思いながら、石化したプログラムを見る。

 しかし、奴の背中から新たな獣が浮かび上がり、防衛プログラムはより奇怪な姿となって再生を始めた。

 こんなにあっさり石化を破るとは。これじゃあ脱出する暇なんてないぞ。

 俺たちは思わず口を噛む。だが……。

 

「――?」

 

 ふと、冷たい冷気が俺たちに降りかかる。

 まさかと思ってそちらを見る俺たちの前で、クロノは静かに銀色の杖を構えていた。

 彼の足元にはドライアイスのように真っ白な冷気を吹き出している青い魔法陣が浮かんでいる。

 そんな彼に向けて――。

 

『クロノ君、やっちゃえー!』

 

 エイミィさんのするどい声とともに、クロノは白い息を吐き出しながら、デュランダルを振り上げた。

 それを受けて、防衛プログラムは新たに無数の触手を生やし、クロノに向けて伸ばそうとするが――その真上に四機のリフレクターが現れた。

 それを一瞥するやクロノは迷わず――

 

「凍てつけ!!」

Eternal Coffin!(エターナルコフィン!)

 

 彼が振り下ろしたデュランダルからおびただしい氷気が放たれ、防衛プログラムの頭上に浮かぶ四機のリフレクターの反射によって、その威力は何倍にも膨れ上がる。

 防衛プログラムは分厚い氷に包まれ、今度こそ動きを止めた。

 これがグレアムさんがリーゼたちとともに作り上げた切り札……。

 

「今だ!!」

 

 最大級の氷結魔法を使った反動で自らも氷を被りながら、クロノは俺たちを見上げて叫んだ。

 それを待っていたかのように――。

 

『Starlight Breaker』

 

 レイジングハートの声とともに周囲の魔力が杖に集まる。その横でフェイトと俺もチャージを始めた。

 

「全力全開……スターライト」

 

「雷光一閃……プラズマランサー」

 

「魔力収束……フレースキャノン」

 

 そして、はやても杖に魔力を溜めながら、

 

「ごめんな。それとありがとう……あなたの応援を無駄にせんから」

 

 はやては悲しげな顔で目を閉じる。だが、彼女はすぐに凛とした視線を眼下に向けて、

 

「響け終焉の笛、ラグナロク――」

 

「「「「ブレイカーーーー!!!!」」」」

 

 ありったけの魔力を注ぎ込み、俺たちは一斉に防衛プログラム《ナハトヴァール》に向けて砲撃を撃ち込んだ。

 エース級四人の攻撃に耐えられず、広間とともに防衛プログラムは崩壊していく。

 その残骸から黒いコアが浮き上がるのを見つけた瞬間に、シャマルは叫んだ。

 

「今よ! 急いでアースラに戻って! 防衛プログラムが再生しちゃう前に!!」

 

 その言葉を聞いた瞬間に、俺たちは返事を返しながら崩壊した大広間を抜けて入口まで飛ぶ。転送ポートは屋敷の外にしかない。

 急いでそこに向かわないと!

 

 

 

 

 

 

「執務官たちは転送ポートに向かって移動中!」

 

「防衛プログラムの方は生体部品を修復している途中で――は、速い!」

 

 アレックスとともにランディも防衛プログラムの状態を報告するも、早すぎる再生速度に戸惑いの声を上げる。しかし、それを注意している場合ではない。

 

「アルカンシェル、バレル展開!」

 

 エイミィは素早くキーボードを叩きながらアルカンシェルを発射するためのバレルを開く。

 アースラの先端に3つの環状魔法陣が浮かび、中心の魔法陣にまばゆい魔力光が溜まる。

 それを確認して……

 

「ファイアロックシステム、オープン」

 

 リンディが告げると、彼女の前に3つの環状魔法陣とともに正方形のブロックが出現した。その中には鍵穴付きの物体が埋まっている。

 それを前にリンディは指示を告げる。

 

「彼らが《時の庭園》から脱出すると同時に発射します――準備を!」

 

「「了解!!」」

 

 アレックスとランディは同時に応える。

 彼らが準備を進めている間も、健斗たちは庭園の入り口に向かっており、護るべき主を手元に戻すために防衛プログラムも急激な速度で再生していた。

 

 

 

 

 

 

 床を突き抜けて現れる触手を避けたり切り裂いたりしていきながら、俺たちは猛速度で屋敷の廊下を飛び続ける。防衛プログラムが復活する前にここから脱出しないと。

 この時ほど《時の庭園》の大きさを恨めしく思ったことはない。

 

「見えた! あそこだ!」

 

 クロノが声を上げたと同時に、俺たちの視界にも屋敷の出入口が見えてきた。扉はあらかじめ開けたままにしてある。あれを潜り抜ければ――

 

「あっ――!」

 

 そう思ったところで巨大な尾が床を突き抜けて出口をふさぎ、なのはは思わず声を上げる。だが――

 

「邪魔だああああ!!」

 

 俺はデュランダルは振り上げて入り口をふさぐ尾をひとつ残らず薙ぎ払い、再び顔を見せた出口のそばで叫んだ。

 

「転送ポートはすぐそこだ! 早く通れ!」

 

 戦闘能力がないユーノを先頭に、皆は続々と出口を通っていく。だが……

 

「フェイト!」

 

 しんがりを務めるように最後尾を飛んでいたフェイトは、突然動きを止めて後ろを振り返った。

 

「フェイトちゃん!」

 

 アルフに続き、なのはも動きを止めて彼女の名を叫ぶ。

 そこで廊下を破壊しながら、再び《闇の書の闇》が現れた。無数の生物が絡み合ったようなその姿は先ほどとは似ても似つかない。

 だが、フェイトが見ているのは奴ではなく……

 

(さようなら《時の庭園》。今まで母さんを守ってくれてありがとう。これからは私たちがあの人を支えるよ)

 

 崩壊していく屋敷を一通り眺めてから、フェイトは出口の方を向き、

 

「行こう、アルフ、なのは!」

 

 アルフとなのはの手を掴んで、自慢の高速移動でフェイトは屋敷を飛び出した。

 

「健斗君、早く!」

 

 外にいるはやてに呼ばれ、俺も屋敷から出ようとしたところで、異形化した防衛プログラムからリイン似の女が飛び出し、口をパクパクと開く。

 

 …………。………………。

 

「……ああ。その時まで待っていろ」

 

 さっきの返事を告げてきた女に対し、俺はそう応えてから出口を抜ける。

 俺の背中を見送る女の表情は、やはりリインによく似ていた。

 

 

 

 

 

 

「し、執務官たちがアースラに到着! 次々に艦内に戻ってきます! 後は御神君だけ――い、今、御神君が戻ってきました! これで全員です!」

 

 アレックスの報告にリンディは安堵の吐息をつきかけ、それを飲み込みながら眼前を見据える。

 屋敷を破壊しながら現れた防衛プログラムは、周囲の岩肌をも侵食し、今や《時の庭園》そのものと一体化しているようだった。

 リンディはクリスタルのついた赤い鍵をブロックに差し込む。それと同時にブロックは持ち主に警告するように赤く染まる。

 しかし、リンディは躊躇なく――

 

「アルカンシェル――発射!」

 

 リンディが鍵を回した瞬間、アースラの前に巨大なレンズが現れ、魔法陣に込められていた魔力光はレンズを通りながら拡大し、《闇の書の闇》と時の庭園に向かって放たれていった。

 

 光は《闇の書の闇》に命中し、次元空間に巨大な穴を空けながら、《闇の書の闇》と時の庭園を飲み込むように消滅した。

 その光景に圧倒されかけながら、エイミィは慎重に向こうの反応を確認する。

 

「効果空間内の物体、完全消滅……再生反応…………ありません!!」

 

 エイミィの報告にリンディは重々しく相槌を打ち……。

 

『準警戒態勢を維持。もうしばらく反応空域を観測します』

 

「了解!」

 

 そう答えながらも、返事を返した瞬間にエイミィは大きく息をつき、背中から椅子にもたれかかった。

 しかし、艦内に戻ってきた彼らのことを思い出し、体に鞭を打って通信機に手を伸ばす。

 お喋り好きな性格が今ばかりは幸いだった。

 

 

 

 

 

 

『というわけで――みんな、お疲れ様でした! 状況、無事に終了しました!』

 

 艦内に響いたエイミィさんの報告に、俺たちの中の何人かは笑みを浮かべ、何人かは大きなため息をつき、なのはたちは片手を上げてハイタッチを交わす。

 俺とリインも……

 

「ケント、お疲れ様です」

 

「ああ、リインフォースもな。よく頑張ってくれた」

 

 俺とリインは笑みを浮かべながらねぎらいの言葉をかけあう。

 そして改めて再会を喜ぼうと互いに一歩踏み出した、その時だった――

 

「なのはちゃん!」

 

 突然すずかの声が届いて、俺たちは彼女の方に顔を向けた。

 すずかとアリサは俺たちの方に駆け付けてきて、荒い呼吸をしながらフェイトの方を見る。ねぎらいに来てくれたにしては様子が変だ。

 

「フェイト、今すぐあたしたちと来て!」

 

「えっ……?」

 

 アリサの言葉にフェイトは思わず聞き返す。そこへすずかが言った。

 

「プレシアさん……フェイトちゃんのお母さんがモニターを見てる途中で意識を失って……急いでフェイトちゃんを連れてきてってリニスちゃんから」

 

 その言葉にフェイトは目を見開き、俺たちの方を見る。

 

「僕たちなら大丈夫だ。行って来てやれ。もしかすれば、これがあの人との……」

 

 言い淀むあまりクロノは言葉を詰まらせる。そんな彼となのはたち、最後に俺の方を向き、フェイトは軽くうなずいてからプレシアさんがいる医務室の方へ駆けだした。アルフも彼女の後を追う。

 それを見て俺も、

 

「リインフォース、シャマル、俺たちも行くぞ! 疲れてるところ悪いがはやても付いてきてほしい!」

 

「えっ?」

「――」

 

 シャマルは戸惑いながらはやてとリインを見回す。

 それに対して、リインは乞うような目ではやてを見た。

 はやては神妙な顔でうなずき。

 

「行こ、シャマル、リインフォース! 今の夜天の書ならプレシアさんを助けられるかもしれん。もしかしたら、あの人の娘さんも」

 

「は、はい!」

「わかりました。我が主」

 

 俺は、自力で歩けるようになったはやてとリイン、シャマルを連れて、その後に他のみんなも揃ってフェイトたちの後を追う。

 

 

 まだ死なせないぞ、プレシアさん。

 あんたには夜天の書の修復を手伝ってくれた礼と、言いたいことがあるからな。

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