魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第57話 謝罪

 翌日。

 

 昨日の戦闘と治療による疲れが取れないまま、鉛のように重い体を起こし身支度を整えてユーノとともに食堂に向かうと、そこにはなのはたちとシャマルを除いた八神家の面々が席についていた。

 ユーノはあいさつの後開口一番に、

 

「……シャマルさんは?」

 

 察しながら尋ねるユーノにはやては彼を見上げながら、

 

「まだぐっすり寝てる。プレシアさんたちの治療で死ぬほど疲れたみたいやから昼まで起きてこんと思うよ」

 

 昔のアクション映画の台詞をもじった返事に、ユーノは「そう」と言いながらなのはの斜め前の席に座り、俺はみんなから少し離れた席についた。平然と食事をしているはやてとは対象的に疲れた様子を見せているリインに俺は首を傾げる。昨日、はやてとリインは治療を終えてからはすぐにシャワーを済ませて、二人揃って床についただけのはずだが何があったのだろうか?

 

 それからしばらくして、雑談がやんだ頃を見計らって俺は皆に向かって口を開いた。

 

「みんな、ちょっといいか。話しておきたいことがある。特に守護騎士たちには……」

 

 いつもより重い口ぶりに、皆、特に守護騎士たちは神妙な顔でこちらを振り向いた。

 主に何も知らないアリサとすずかに向けて、自分が“愚王ケント”の生まれ変わりであることと、転生前と転生後の簡単ないきさつ、それから俺が“ケント”だった頃に不当な理由でヴォルケンリッターを自身の前から遠ざけたことを語った。

 そして俺は……

 

「すまなかった」

 

 守護騎士たちに向かって頭を下げながら、ずっと言えなかった謝罪を口にする。そんな俺をシグナムとヴィータ、ザフィーラは返事をすることも表情を変えることもなく、ただじっと見続けていた。

 そんな中、はやても立ち上がりながら――

 

「私もみんなには謝らんといかん。過去の主みたいにひどいことしたり捨てたりしないって約束したのに――本当にごめん。せやからもう一度だけチャンスが欲しい。お願い! 今まで通り私と一緒にいてください! もうみんながいない生活なんて考えられへん!」

 

 俺と同様に、はやても守護騎士たちに謝りながら深く頭を下げる。

 過去の主に続き今の主にも頭を下げられて、シグナムもヴィータも戸惑ったように顔を見合わせる。

 それから少ししてヴィータは俺に向かって尋ねてきた。

 

「……シャマルにも謝ったのかよ? 当時はあいつもかなり怒ってたぜ」

 

 そう聞いてくるヴィータに俺は「ああ」と答える。昨日の様子からして朝食には来られないだろうと思って、シャマルには昨日のうちに謝っておいたのだ。

 シャマルは一瞬疲れも忘れたようにじっと目を細めて俺を見ていたが、何も答えずにそっぽを向いて部屋へ戻って行った。ヴィータが言うように、あの時のことで一番怒っているのは彼女かもしれない。

 

 はやてにまで頭を下げられたからか、ヴィータはまだ釈然としない様子を見せながらも片手を振って――

 

「わかったわかった! 元々はやてを責めるつもりはねえし、ケントがあんなことした理由もわかった。それにこんなこと続けてもメシがまずくなるだけだ。そこまでにしてやろうぜシグナム」

 

「……そうだな。二人とも頭を上げてください。今までの事は水に流しましょう。いずれも私たちの力量が足らなかったことに一因があります。……ただ、健斗、あなたにはひとつだけ言っておかなければならないことがある」

 

「……何だ?」

 

 俺が聞き返すとシグナムは一度目を閉じて、再び目を開いてから言った。

 

「あなたも知っている通り、我々がお仕えする今の主は、あなたのご友人でもある八神はやて様だけだ。故に昔のように臣下としてあなたに接することはできない。無論、あなたが主はやてと敵対することがあれば我々もあなたの敵となる。それだけは覚えておいてくれ」

 

 その言葉に俺は首を縦に振り。

 

「ああ、はやての事は頼んだ。その上で“仲間”としてお前たちを頼りたい。今後ともよろしく頼む」

 

 そう言って頭を下げると、シグナムとヴィータは答えず一回だけうなずく。そこで今まで沈黙していたザフィーラが口を開いた。

 

「それで、夜天の書は無事に修復できたのか? もし再び防衛プログラムを生み出すような暴走を起こす恐れがあるのなら、何としてもそれを防がなければならない。例え夜天の書本体を破壊してでも……」

 

 それを聞いてシグナムとヴィータ、はやても暗い表情になる。

 夜天の書の破壊。それはただ魔導書を破壊するだけでは済まない。魔導書の管制人格であるリインも、同じくプログラムの一部である守護騎士たちもともに消滅させることを意味していた。

 だが……

 

「いいや、書を破壊する必要はない。ケントたちが作った修正プログラムによって夜天の書は元に近い形を取り戻した。それに魔導書本体から防衛プログラムを切り離した時に、お前たち守護騎士も本体から分離した。魔導書を破壊してもお前たちが消滅することはないだろう」

 

「それは……」

「本当か!?」

 

 聞き返してくるシグナムとヴィータにリインは首を縦に振り、続けて言った。

 

「だが、防衛プログラムによる転生機能や再生機能が失われた以上、魔導書も我々も一度消滅すれば二度と復活することはできなくなる。おそらく個々の修復能力も大幅に低下していくだろう」

 

 その言葉にシグナムたちは複雑な顔を見せるが、シグナムは振り切るように首を大きく横に振った。

 

「ならばそのような事態に遭わぬように気を張っていればいいだけの事だ。再生機能などなくても、我々が主より先に逝くことなどありえん」

 

「ああ、これからもあたしらではやてを守っていくことに変わりはねえよ。……でもな、夜天の書は管理局の奴らにとって世界を滅ぼす力を持つ危険なロストロギアだ。分離したとはいえあたしらやリインは夜天の書の一部なわけで。夜天の書本体はともかく、連中があたしらを封印しようとするかもしれねえ。その時は……」

 

 そう言ってからヴィータは敵意のこもった目で食堂内を見回す。その視線を受けて遠くで食事していた何人かの局員がびくりと肩を震わせた。

 だがそこで――

 

「多分それは大丈夫だと思う」

 

「あんっ?」

 

 俺がそう言うとヴィータは怪訝な声を上げて聞き返してくる。続いてシグナムも、

 

「なぜ健斗がそう言い切れる? 管理局は何十年もの間、夜天の書を“最悪のロストロギア”として追い続けていたんだぞ。転生機能を司っていた防衛プログラムが消滅した以上、彼らはこれを好機と見なして、夜天の書を破壊するか封印しようとする恐れが高いが」

 

 その指摘に俺は多少の不安を残しながらも、それをおくびに出さないように努めながら答えた。

 

「お前たちも知ってるだろうが、プレシアさんの治療とアリシアの蘇生に夜天の書の力を使ってな。その時に夜天の書が蓄えた力のほとんどを使い切っちまったんだよ。特に人一人を蘇生させるなんて夜天の書でも不可能に近いことだったから、どんなに魔力があっても簡単な事じゃなかった。シャマルの腕がなければ魔導書の頁は完全に尽きていただろう」

 

「つまり、夜天の書にはもうほとんど力が残されてないと? だが蒐集機能があれば、また元の力を取り戻すことも――」

 

 ザフィーラの言葉に俺は首を横に振る。

 

「いや、リンカーコアからの蒐集は本来の記録方法じゃない。さっきリインが言ってただろう、『修正プログラムによって夜天の書は本来に近い形を取り戻した』と。修復がうまくいったのなら蒐集機能も停止しているはずだ。夜天の書に新しい魔法を記録させるには、はやて自身が学習して地道に書き加えていくしかない。一生かけてもすべての頁を埋めることができるかどうか」

 

 多分無理だな。心の中でそう加えながら締めくくる。『あらゆる魔法を後世に残す』という高尚な目的を持ってた初代主ならともかく、はやてが書を完成させるためなんかに一生を費やすとは思えない。

 あとはそれをいかに管理局の上層部に伝えるかだが、それはクロノやリンディさんに任せるしかないだろう。

 それに俺だって、ここまできて守護騎士とリインフォースが封印されることなんて望まない。もしもの時は徹底的に管理局とやり合うつもりだ。さすがに直接戦う気はないが、プランはいくつか考えてある。

 

「ところで、プレシアさんとアリシアちゃんはどうなったの? さっきの言い方だと二人の治療は成功したみたいだけど……」

 

 なのはの問いに俺は顔を険しくしながら、

 

「昨日シャマルが告げた通り、プレシアさんの治療は成功だ。栄養をつけていけばすぐ元気になるだろう。……アリシアの方は生命活動を再開したんだが、まだ目を覚ましていない」

 

「そっか……」

 

 そう答えるとなのはは顔を曇らせたまま下を向く。そうなると予想はしていたんだろう。

 人間を蘇生させることは、古代ベルカでも現代のミッドチルダでも不可能な所業だと言われている。生命活動を再開しただけでも奇跡といえるもので、その後はどうなるのか皆目見当がつかない。

 おそらくアリシアが目を覚ますのは何年後か何十年後、あるいは一生あのままという事も――

 

「みんなー! 大変大変!!」

 

 食堂中に大声が響き渡り、俺たちもまわりの局員も一斉に出入り口の方を見る。

 声の主であるエイミィさんは俺たちに手を振りながら駆け寄ってきて、周りの局員に気付くと気まずそうな顔にしながらも俺たちの方に向かってきた。

 

「エイミィさん、おはようございます。どうしたんですか、こんな朝っぱらから」

 

 律儀にあいさつしながら尋ねてくるなのはに、エイミィさんも「ああなのはちゃん、おはよう」と言ってから、気を取り直したように俺たちに顔を向けて言った。

 

「アリシアちゃんが目を覚ましたみたいなの! プレシアさんはアリシアちゃんにすがりついていて、フェイトちゃんたちもどうしていいかわからないみたいで、食事中に申し訳ないんだけどすぐに来てくれない!」

 

「えっ……」

 

 あまりの出来事に何人かの口からそんな言葉が漏れる。

 蘇生してから半日も経たずに目を覚ますなんて、いくらなんでも早すぎる。アニメやラノベだってもう少し時間をかけるところだろう。

 

 テスタロッサ家にとって最大の問題があっけなく解決した瞬間だった。

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