魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

64 / 124
イノセント化しつつあるプレシアとアリシア。そしてついに1話から伏線を張ってた“先輩”が登場します。


第60話 今後の予定 前編

 アリシアとの対面とプレシアさんの処遇を巡る話し合いから昼食を経て、さらに3時間後。

 アースラ内の談話室に俺たちはいた。

 

 

「私がフェイトの妹ってどういうこと?」

 

 クッキーのかすを顔に付けたまま、アリシアは不満そうに尋ねてくる。

 

「私の方が大きくて、周りの人から見るとアリシアの方が妹に見えるからかな……ごめん」

 

 と謝りながらアリシアの顔を拭くフェイト。身長だけでなくその仕草をとっても、フェイトが姉でアリシアが妹にしか見えない。

 しかし、アリシアの怒りは収まらず。

 

「納得できないー! 私の方がお姉ちゃんなのにーー!!」

 

 と、両手を振り上げながら駄々をこねるアリシアに、彼女を何とかしてなだめようとするフェイト。やはりフェイトが姉でアリシアが――以下略。

 

 そう思っているところでアリシアはピタリと動きを止めて言った。

 

「そうだ! フェイトが私のことをアリシアって呼ぶからいけないんだよ! 『お姉ちゃん』って呼んでくれればみんなわかってくれるはず! フェイト、今すぐ私のことを『お姉ちゃん』って呼んでみて!!」

 

「えええっ――!」

 

 いきなりの要求にフェイトは戸惑いながらまわりを見る。それに対して、皆は興味津々に成り行きを見守っていた。俺もその一人だ。

 アリシアから期待の、皆から好奇の眼差しを注がれる中、フェイトは恥ずかしそうにもじもじしながら口を開き、それを口にする。

 

「お……おねえ……さん」

 

「ちがーう!! お姉さんじゃなくて『お姉ちゃん』! ほらもう一度!」

 

「おねえ……ちゃ

 

「声が小さい!! そんなんじゃ誰にも聞こえないよ。もう一度!」

 

「お、おねえ…………」

 

 恥ずかしさをこらえながらフェイトはなんとかお姉ちゃんと言おうとするが、アリシア監督はお気に召さず何度もダメ出しを入れる。

 それを眺める俺の隣では……。

 

「アリシアがあんなに楽しそうに……恥ずかしそうにしてるフェイトもいいわ」

 

 カメラ付きの端末を二人に向けながら恍惚の笑みを浮かべるプレシアさんを見て、思わず椅子ごと彼女から距離を取る。

 皆があえて知らないふりをする中、俺は恐る恐る彼女に向かって尋ねた。

 

「何やってるんですかプレシアさん?」

 

「見てわからない? 仲睦まじい愛娘たちの姿を記録してるのよ」

 

「そんなもん見りゃわかる! わからないのは、なんであんたがそんな真似をしているかだ! フェイトたちはともかく、あんたは仮にも護送中なんだぞ!」

 

「だからこそよ。愛娘たちと一緒にいられるうちに、一枚でも多くあの子たちの記録を残しておかなきゃ。今の映像だけで三日は耐えられそうだわ」

 

 そう言って二人の姿を映し続けるプレシアさんから、監視役であるトゥウェーさんに視線を向けるが、トゥウェーさんは笑いながら首を横に振る。止めるつもりはないようだ。

 

 丁度その頃に、フェイトは深呼吸してついにそれを言った。

 

「お…………お姉ちゃん!」

 

「おおっ。やったー! はじめて妹に『お姉ちゃん』って呼んでもらえたー!! 10年前からの夢がついに叶ったよーー!!」

 

 フェイトの手をぶんぶん振りながらアリシアは大喜びして、プレシアさんはアリシアたちに拍手を送る。

 一区切りついたところを見計らって俺は彼女に声をかけた。

 

「アリシア、喜んでいるところ悪いが、そろそろ本題に戻っていいか?」

 

「ん? 本題ってなんだっけ?」

 

 アリシアはフェイトの手を握ったまま小首をかしげる。歓喜の瞬間を邪魔されてプレシアさんが抗議の声を上げているが、そっちはしばらく無視しておく。

 

「お前をフェイトの妹“という事にする”理由だ。まだ話してないだろう。言おうとした途端お前が駄々こねたんだから」

 

「私がフェイトより小さいからそう思われるだけでしょう! フェイトがいつも私を『お姉ちゃん』って呼んでくれればすむ話だよ! フェイトが喋るたび最初に『お姉ちゃん』と言ってくれれば間違える人なんてすぐにいなくなるはずだよ!」

 

 アリシアがそう言うと、フェイトは助けを求めるように俺を見ながら、ぶんぶんと首を横に振る。

 フェイトにうなずいてから俺はアリシアに言った。

 

「勘弁してやれ。逆に無口になりかねない。人前で自分より小さい子をお姉ちゃんと呼ぶなんて、フェイトでなくてもお断りしたいところだ。それに問題はお前の見た目だけじゃない。お前が正真正銘5歳の女の子という事が最大の問題なんだ」

 

「……?」

 

 俺の指摘にアリシアはまた首をかしげる。『それのどこが問題?』と言いたげな顔だ。

 

 もはや言うまでもないと思うが、アリシアは約十年間、仮死という状態でまったく年を取らないまま眠り続けていた。対してフェイトは――本当の歳はともかく――俺たちと同じ歳まで成長している。つまり……

 

「フェイトは現在9歳で、アリシアはまだ5歳のまま。だから戸籍上はフェイトの方が姉で、お前は妹という事になる。それにフェイトより年上ということにしてしまうと、お前は学校に入っていきなり三年以上の学年になってしまうぞ」

 

「……? 何か問題あるの?」

 

「大ありだ! お前、足し算や引き算も満足にできないだろう! それでいきなり俺たちより上の学年に入れると思うか!!」

 

 学年の意味さえわからず聞き返してくるアリシアに思わず怒鳴り声を上げた。それを聞いてフェイトとリニスがアリシアをかばい、リインとはやてが俺をなだめようとしてくるが、彼女たちも他のみんなも俺の気持ちは察してくれていると思う。

 

 アリシアの学力ではフェイト以上の学年になることはおろか、聖祥に入学する事すら難しいことがわかったからだ。

 

 

 

 

 

 一家の家長であり事件の主犯格の一人でもあるプレシアさんは、判決が出るまでの間、本局へ身柄を移されることとなり、共犯のリニス、フェイト、アルフは事件解決の協力とクロノの働きかけによって、監視を受けながらではあるがある程度自由の身となった。もちろん本局からの要請があれば、ただちにそこへ出頭しなければならないが。

 そして、彼女らと違いただ一人事件に関わりがないアリシアは、プレシアさんが戻るまでの間、ハラオウン家のお世話になることになった。

 

 だが、そこで様々な問題が浮上した。

 フェイトたちはその出生上戸籍が登録されておらず、アリシアも公には十数年前に死亡したことになっている。ミッドチルダでは彼女たちは存在しないことになっているのだ。

 もっともフェイトの場合、事情を知っている管理局によって戸籍を発行してもらうことができるし、リニスとアルフは使い魔だから登録する必要はない。

 問題はアリシアだ。

 

 アリシアのことは本局にも報告していない。もし報告すれば夜天の書を使ったことがバレてしまう。そうなってしまったら、局の上層部から『闇の書を封印するべきだ』と言い出す者が出てくるだろう。それに“死者蘇生”の秘密を知ろうとする者によって、アリシアの身に危険が迫る恐れも出てくる。

 それを考えると、管理局の助けを借りてアリシアの戸籍を作ることはできない。

 

 そこへリンディさんはテスタロッサ一家に『家族みんなで地球に住む』ことを提案した。

 管理外世界への渡航や潜入にあたって、証明書の類を偽装したりするのはよくある事らしい。その気になれば戸籍を作ることもできるとのこと。

 フェイトたち――特にアリシアの居場所を作るために、リンディさんは地球への移住とそこで戸籍を作ることを提案したのだ。

 なおリンディさんの言う“家族”とは、テスタロッサ家だけでなく、彼女たちを保護するハラオウン家も含まれている。

 

 それを聞いて、フェイトやリニスは遠慮していたものの、アリシアの事を考えるとリンディさんの提案をはねつけるわけにもいかず困った様子を見せていたが、当のリンディさんはグレアムさんの影響で以前から日本に住んでみたいと思っており、艦長職からの引退とテスタロッサ家の保護を機に海鳴への移住を決意したらしい。クロノもエイミィさん――ハラオウン家と同居予定――も特に異はないそうだ。

 

 もっとも、ハラオウン家が地球に移住する理由は他にもあり、彼女らの他にもアースラスタッフを中心に数十人以上の管理局員が地球に“単身赴任”する予定だが、それを俺たちが知るのは事件解決後からしばらく経っての事だ。

 

 

 

 

 

 そして、話はフェイトとアリシアの通う学校のことになる。

 

 フェイトに関しては日本語の読み書きができないこと以外は問題ない。むしろ理数系は首位を狙えるくらいだ。外国人ということを考慮して、文系の科目を免除してもらえば難なく編入できるだろう。

 そこでも問題は姉の方……。

 

「あらためて聞くが、アリシアはどうなんだ? 足し算か引き算のどちらかくらいは覚えたか?」

 

「……お菓子や果物を使えばなんとか……」

 

 そう言って、フェイトはなのはたちやリニスともども乾いた笑みを浮かべる。

 それを使っても厳しいか……。

 

 聖祥学園は海鳴屈指の名門校で、入学試験も相当厳しい。フェイト同様文系を免除してもらうにしろ、その分理数が秀でていないと合格は難しい。今の時点で指算すらできないようでは話にならないだろう。

 

「アリシア、ひとまず戸籍上お前はフェイトの妹ということにしておけ。その方が色々問題が起こらずにすむし、お前も楽だろう」

 

「ええー! やだやだ!! 私がお姉ちゃんなのに! がくねんだって、お姉ちゃんが妹より下なんておかしいよ!」

 

 そう言ってアリシアはまた手を振り上げて駄々をこねる。

 それを見てクロノは大きなため息をついてから、アリシアに向かって言った。

 

「……じゃあこれから課題を出すから、その課題を半年以内にクリアしたら君の戸籍をフェイトの姉にする。学年も好きな所でいい」

 

「ほんとっ!?」

 

 クロノの言葉にアリシアは目を輝かせる。そんな彼女の前でクロノはモニターを浮かべ、軽快な手つきで画面を叩いた。

 

 すると談話室の中央に置かれているテーブルの上に、数十冊の教科書と問題集が現れた。透けているところを見るに、本物ではなくホログラムだろう。

 それを目にした瞬間アリシアは笑顔のまま固まる。そこへクロノが説明を始めた。

 

「これが聖祥という学校で三年生までの間に学習する範囲だ。これだけじゃ間に合わない生徒のために販売されてる参考書も合わせると……」

 

 クロノが続けて画面を押すと、さらに何十冊の参考書がテーブルの上に追加される。もちろんホログラムだが。

 アリシアは目を点にして……

 

「……これを全部……半年以内に……」

 

 呆然とつぶやく彼女に、クロノはコクリとうなずいてから口を開く。

 

「そうだ。半年以内にこれらの教科書や参考書の内容を理解できたら、フェイトたちと同じ学年に入ることができるだろう。それ以上の学年になるにはあと十冊ぐらい読み込む必要があるが――」

 

「ちょ――ちょっと待って!」

 

 さらに本を積みあげようとするクロノに、アリシアは手を突き出しながら声を張り上げた。

 途端に動きを止めるクロノにアリシアは……

 

「がくねんはフェイトが上でいいかな……お姉ちゃんだもん、それくらい我慢するよ……」

 

「そうか。その気があるなら用意するつもりだったんだが」

 

 そう言ってクロノは残念そうに肩をすくめる。まさかこいつ、本気でアリシアを小四以上に仕立てる気だったんじゃないだろうな。絶対教師になってほしくないタイプだ。

 

 ともあれ俺は咳払いをして……

 

「まだ課題はあるぞ。フェイトが通う予定の学校に入るには、やはりそれなりの勉強をしなければならない。参考書の量でいうと……」

 

 俺が目配せするとクロノはまたモニターを操作し、テーブルの上に五、六冊の参考書と問題集が残る。あくまで小学校の受験用なのでそれほど厚さはない。

 しかし、勉強が苦手――というよりまったくしたことがないアリシアは、緊張した様子で参考書を見る。

 そんな彼女に俺は助け舟を出した。

 

「まあ、無理に聖祥に行く必要もないけどな。風芽丘小(かぜがおかしょう)ならそこまで詰め込まなくても入れるし、カリキュラムもしっかりしてるって聞いてる」

 

「ああ、確かお兄ちゃんとお姉ちゃんの母校だったね。あそこなら住宅街から近いし、徒歩でも通えるかも」

 

 俺に続いて、なのはもそう言ってくる。

 それを聞きながらアリシアは真剣な表情でしばらく考え込むが……

 

「ううん、やる! がくねんはあきらめるけど、私もフェイトと同じ学校に入りたいもん!」

 

「アリシア……」

 

 意気込んで参考書がある机に向かっていくアリシアに、フェイトはじーんとし、その後ろでプレシアさんも鼻をすすりながらカメラを回していた。

 

 せっかく勉強する気になったのに、簡単に諦めさせることもないか。

 ダメだったら風芽丘小に通わせればいいし、受かったらそのまま聖祥へ行かせればいい。いずれにせよ、受験勉強で得るものはあっても損することはないはずだ。

 それに、これは“あの人”を奮起させるチャンスかもしれない。

 

 

 

 アリシアはホログラムの参考書を掴もうとして、手をすり抜かせてよろめく。そんな彼女に向かって俺は口を開いた。

 

「わかった。プレシアさんも反対する気はないみたいだし、やれるだけやってみるといい。……だがやはり参考書を読むだけで受かるほど聖祥は甘くない。家庭教師をつけた方がいいんだが、リニスもフェイトもいつ裁判で呼び出されるかわからないし、俺たちも勉強を見てやれるほど暇じゃない……そこでお前に紹介したい人がいるんだが」

 

「……紹介したい人? 誰それ?」

 

 俺の言葉にアリシアも他のみんなも首をかしげる。アリシアの家庭教師ができそうな者など他にいただろうか、と。

 そんな視線を受けながら俺はスマホを取り出し……

 

「ちょっと“先輩”に連絡してみる。多分もう家に帰っているはずだ」

 

 そう言い残して俺は部屋の隅へと移動した。

 

 

 

 移動している健斗を見ながら、なのはは口を開く。

 

「先輩? 健斗君、上級生の友達なんていたっけ?」

 

 そんななのはに対して、はやてとすずかは納得したような顔で――

 

「ああ、あの子か! あの子も来年聖祥受けるんやったな」

 

「うん。でも、いつも叔母さんと一緒に遊びに行ったりして、勉強してるところを一度も見たことないけど」

 

「??」

 

 あの子? 先輩なのに聖祥に受験? すずかちゃんの叔母さんとも知り合い?

 どういうことなのかさっぱりわからない。

 

 

 

 なのはが首をひねっている頃、俺はスマホを耳に当てて相手が出るのを待っていた。

 相手はなかなか出てこず、コール音が10回を越えたところでついにコール音が途切れた。

 

「もしもし先輩。俺だけど――」

 

『――健斗君! うわぁ、久しぶり! 旅行に行ったきりメールもしてこないから心配してたよ! もうハーレム旅行は終わった? いつこっちに帰ってくんの? 最近さくらを誘っても、受験生は勉強しろって断られて退屈しててさぁ。今更()()()()()()なんか落ちるわけないのに――』

 

 俺が話そうとするのを遮って先輩は矢継ぎ早にまくし立ててくる。押し返すように俺は声を張り上げた。

 

「待て! 一度に言われても困る。まず俺の方から話をさせてくれ――“七瀬先輩”!」

 

 

 

 七瀬(ななせ)。海鳴幼稚園の年長生で、来年聖祥大付属小学校に受験する予定。訳あって名字は明かせない。

 前世の記憶を持ったまま新たな人生を歩んでいる、『転生者の先輩』である。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。